虚ろの器は青の箱舟に   作:はんぐりーないと

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 結局のところ、不審者である旅人を単独放置はできない。それが、アビドスと先生の出した結論だった。

 だが、人数の少ないアビドスで監視する訳にもいかない。彼女らは彼女らでやる事があるのだから。

 という訳で、先生が預かる事になった。

 戦闘力のない大人だが、自衛手段はある。制限はあれども、防御に関してはほぼほぼ無敵だ。

 

「それじゃあ、メンちゃん。行こうか」

「…………」

「あ、逸れると困るから手を繋ごうね」

 

 対応が、幼児のソレ。

 柴関ラーメン食事を終えて、シャーレの部室へと戻る必要が出来た先生に連れられて旅人は列車へと足を踏み入れる。

 中は思ったよりも空いていた。椅子に座る事も難しくない。

 

「ここに座ろう」

「…………」

「あ、その剣?置けるかな?」

「…………ん」

 

 窓側の席に旅人が座り、床に立てるようにして下ろして両手で刃と思しき部分を支えて安定させる。

 通路側に腰掛けた先生は、そこで改めて旅人の得物を見やった。

 

「改めて見ても、大きいね。剣?で良いの?」

「…………くぎ」

「くぎ?くぎ…………ああ、もしかして工具の釘かな?」

「…………」

 

 先生の言葉に、旅人は頷く。

 釘、と称したがやはりその実態は大剣か或いは槍のソレ。使用用途も、主に突くよりも振り回して殴る、斬りつけるなどの方が正しい。

 

「ねぇ、少し触ってみても良いかな?」

「…………」

 

 先生の言葉を受けて、旅人は支える釘をほんの少しだけ斜めに傾けた。

 指先で触れてみれば、感じられるのは不思議な感触。

 鉄の様で、石の様で、木の様で。独特だが、一貫するのはその堅さ。

 

(あの巨体を殴り飛ばしてたけど、成程……それだけ頑丈なんだ。でも…………)

 

 触れる指をずらして、なぞるのは二等辺三角形の長い斜めの辺。

 切れ味は、無いに等しい。現になぞるように触れてもその指先には皮膚が凹んだ跡が付くだけで、傷の一つも無いのだから。

 一通り触れてから、先生は指を離した。

 

「ありがとう、メンちゃん。そういえば、それは重かったりしない?」

「…………ん」

 

 食事を共にしたお陰か、最初の完全無視と比べれば僅かに反応を返してくれるようになった旅人。

 会話とまでは言えないが、それでも確かな進歩を先生は感じていた。

 このまま目指せ、自発的な会話!と決意新たに口を開こうとして――――それは起きた。

 

「ッ、爆発!?」

 

 車両が大きく揺れる。同時に、外では複数の改造車両が列車と並走しているではないか。

 

「ヒャッハー!今からこの列車は、アタシらキラキラヘルメット団が頂くぜーー!」

「怪我したくなけりゃ、大人しくしてな!」

 

 乗り込んでくるのは、フルフェイスヘルメットに揃いの輝く星のステッカーを貼った一団だった。

 彼女らは揃ってその手には複数の携行火器が確認できる。何より、その数もかなりのモノだろう。

 その目的は、

 

「この列車に、大人が乗ってるだろ!?その先生を出しな!」

「捕まえれば、連邦生徒会からもガッポリせしめる事が出来るしな!」

「そしたら、装備新調してブラックマーケット占拠してアタシらの時代が始まるんだ!」

 

 中々にろくでもない。しかし、無視できない内容でもある。

 というのも、このキヴォトスという都市の治安は世紀末もかくやといわんばかりの悪さ。それも、ここ暫くは悪化の一途をたどっていた。

 この現状に一石を投じて、どうにかこうにか改善の兆しを見せ始めたのは偏に先生の尽力に因る所が大きい。

 そんな人物が誘拐されてしまえばどうなるか。想像に難くない。

 しかし、だからといって大人しく出来る人間でもないのが、先生の人柄というものだった。

 

「そこまでにしてもらえるかな。ほら、私はここに居るからさ」

 

 柔和な笑みを浮かべて席を立ちあがった先生は、通路を突き進んでくるヘルメット団の道を塞ぐようにして立った。

 

「私を連れていくのなら、好きにしてくれて良いよ。その代わり、これ以上列車を壊すのは止めてくれるかな?」

「はっはー!しゅしょーな態度って奴だな!先生!でもさぁ………」

「アタシらとしちゃ、このまま列車ジャックした方が都合がいんだよね!」

「って訳で先生確――――」

 

 保、と言い切る前に一番前に居たヘルメット団が床に叩きつけられていた。

 悲鳴を上げる間もなく、ヘイローは消失。気絶してしまったらしい。

 叩きつけたのは、剣のような槍のような代物。それが、列車の屋根を引き裂いて180度の縦軌道を描いて振り下ろされていた。

 

「…………」

 

 席を立ち、旅人が振るった釘を引き戻しながら、ヘルメット団と先生の間にのっそりと割り込んだ。

 

「な、なんだよお前!」

「…………」

「いや、何か言えや!!」

「…………」

「耳聞こえてないのか?無視すんな!!」

「…………」

 

 釘を左手に、旅人は無言を貫く。

 膠着状態だ。

 ヘルメット団からすれば、相手の得体が知れない。旅人としては釘を振るうには、場所の広さが足りない。。

 

 故に、状況を動かすのは第三者に他ならない。

 

 爆発が起きて、列車の後部車両から衝撃と黒煙が舞う。

 ヘルメット団の数人を薙ぎ倒して、煙を突き破って現れるのは四人の生徒たちだ。

 

「もぉ~!何なのよ~~~!!」

「くっふふ♪ほらほらアルちゃん。速く逃げないと巻き込まれちゃうよ!」

「ムツキも弾幕絶やさないで。後ろから追って来てる」

「す、すみませんすみません!退いてください……!」

 

 白目をむく長い赤毛をなびかせ、ファー付きのワインレッドのコートを肩にかけた少女。小悪魔な笑みを浮かべながら、背後へと爆弾を投げその手にあるマシンガンをぶっ放す少女。辟易とした表情で、サイレンサー付きの拳銃を背後へと向ける少女。謝りながらも、その手にあるショットガンで逃げ道を切り開こうとする少女。

 彼女ら四人の登場に、先生は目を見開いていた。

 

「アル!」

「せ、先生!?どうしてここに居るの!?」

「私たちは、アビドスからの帰りだよ。アル達は?」

「仕事の帰り。ちょっと面倒な輩を相手にしてね。そっちのヘルメット団は、先生の相手?」

「まあね。そこでなんだけど、カヨコ。ビジネスの話、しない?」

「…………決定権は、社長にあるから」

 

 そう言って、鬼方カヨコはチラリと自分達の上司へと視線を向ける。

 四つの視線が集まり、陸八魔アルは一考を挟む間もなく頷いた。

 

「受けるわよ、先生!便利屋68に任せておけば、万事解決なんだから!」

「…………らしいよ」

「それじゃあ、よろしく!」

 

 列車の扉を背にして、先生を指揮官に据え戦力は五名。

 相手は、ヘルメット団+便利屋68を追ってきた傭兵集団。数は数倍では利かないだろう。

 しかし、生憎と先生は対多数戦は慣れたもの。そもそも最初の着任当日から多勢に無勢の状態でおよそ30キロの行軍を成し遂げたのだから。

 

「それじゃあ、カヨコとムツキはメンちゃんを遮蔽に牽制して!ハルカは私が指示を出したタイミングで切り崩しをお願い!」

「は~い!りょうかーい!」

「分かった」

「が、頑張ります!」

「アル!貴女は、私が示した相手の狙撃ね!」

「ええ!任せておいて!」

 

 各々が指示を受け、作戦開始。先生は、タブレット端末を取り出すの画面を起動。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

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