ウマ娘 星の入東風   作:ウマ侍

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第4話 北関東菊花賞

それからのイリコチの活躍は凄まじかった。勢いのまま北関東ダービーを制覇し、北関東三冠に王手をかける形となった。ここまで重ねてきた勝利数は10。無敗のまま、北関東三冠を制覇しそうな勢いであった。

「いよいよ北関東菊花賞ね」

「だな。今回もライバルは、ロマンスブライアになりそうだ」

「そうよね。北関東ダービーでも同着になるほどだったものね」

「なにか策を立てないとだな。いつも通りの逃げで勝てそうか?」

「分からないわ。ロマンスブライアさんはとっても強いもの」

「そうだよな…だとしたら……」

普段の逃げでは追い付かれる。だとすれば、普通では無い作戦を練らなければならない。トレーナーはうーんと唸りつつ、ロマンスブライアを出し抜ける作戦を考える。

「そうだ!こういうのはどうだ?」

ごにょごにょと作戦を伝える。

「なるほどね。悪くないと思うわ」

「だろ?この作戦、君なら完遂出来るはずだ」

「ええ。やり切ってみせるわ」

作戦を伝え終わり、いよいよパドックに出走する時間が訪れる。パドックでは一番人気を背負ったイリコチの登場に、観客席はワイワイと騒ぎ立てた。

「イリコチちゃーん!頑張れー!」

「三冠絶対取れるぞ〜!」

熱意の籠った応援に、イリコチは背中を押される。北関東三冠。まだ誰も到達した事の無い、北関東を代表するウマ娘。その栄光に手が届く訳でもあり、期待は最高潮に高まっていた。

「必ずなってみせるわ。三冠に」

三本の指を高く掲げる。それが意味するのは、簡単だ。三冠達成。それだけの自信を持って、彼女はパドックで準備運動を始めた。その行為は、周りのウマ娘達の視線を一挙に集めて、注目される形となった。

「三冠は渡さない……勝つのは私だ」

「無敗記録も終わらせてやるよ」

ピリピリとひりつくパドック。その熱い空間は、イリコチにとっても心地良い感触を感じていた。これから始まる大レース。その幕開けに相応しいスタートだと言えるだろう。

『さあ、パドックでの準備運動も終わりまして、ウマ娘達がゲート前に向かっていきます!』

準備も終わり、ウマ娘達は続々とゲートの中に収まっていく。イリコチも自分の番が来たらすんなりとゲートに入り、出走の時を待つ。

『最後に大外、フジノミリオンが入ります。……さあこれで態勢完了……』

 

────ガコン!

 

『スタートしました!まずは内からグイグイ押してイリコチ!今日は先頭を奪います!』

「(よし……作戦通り…!)」

まずはイリコチの得意な逃げの戦法で、先頭に見事に収まる。後ろのウマ娘達はそれを咎められず、彼女の単独逃げを許してしまう。それも仕方ない。無理をしてイリコチに着いていけば、バテて潰れてしまうからだ。

「(今日はここから……!)」

 

────ドバッ!

 

砂を蹴り上げ、加速する。なんと、彼女が仕掛けたのは第1コーナー。まだ勝負は序盤も良い所である。彼女の単独逃げを許した向背のウマ娘達は、彼女の大胆な作戦に思わず度肝を抜かれた。

「(まさか……今日のイリコチちゃんは大逃げ……!?)」

『なんと!イリコチ大逃げ!後ろをものともせず、グングンと距離を開けて行きます!』

後ろとの距離は、なんと8バ身。これだけの距離を空けながら、イリコチは落ち着いて大逃げを遂行している。その大逃げに、観客もどよめきとざわめきを起こしている。

「イリコチちゃんが大逃げ!?」

「逃げ切れるのか!?」

どよめくのも無理は無い。大逃げは勝ちの定石では無い。スタミナを先に使い果たし、最後はガス欠になってしまうのが関の山だからだ。

「(私ならやれる…!)」

だが、イリコチにそんな気配は感じられない。大逃げを以て、彼女は逃げ切るつもりだ。後ろに大差のリードをつけて、駆け抜けていく。

『さあ、あっという間に大差の距離をつけましたイリコチ!このまま逃げ切れるのでしょうか?』

「行ける……行けるぞイリコチ!君なら勝てる……!」

今回の作戦を思いついたのは大幸トレーナー。他のウマ娘達からのマークを避けつつ、自分のペースで走ることの出来る大逃げを選択した。

「(距離は2100m。十分に逃げ切れる距離のはず)」

高崎レース場、距離は2100m。イリコチのスタミナ的には、後ろを振り切って逃げ切る事が出来るだろう。ならば、普段通りの走りで安定して逃げれば良いだろうと思うだろうが、大逃げを選んだのには理由があった。

「(後ろの威圧感が無い……大逃げって走りやすい……!)」

そう、彼女が感じるプレッシャーが薄れる点だ。大逃げはどこまでも自分との戦い。考え込みやすいイリコチにとっては、大逃げは自分の世界に入りやすいと言って良いだろう。となれば、後は自分のスタミナとの相談。どこまで行けるかプランを立てやすい。

『いよいよ勝負所の第四コーナーに差し掛かります!先頭は変わらずイリコチ!依然として10バ身ほどのリードを持っています!』

 

────ドバッ!

 

砂を蹴り上げ、ゴールへ向かって走っていく。後ろのウマ娘達も、大逃げを決めたイリコチを捕らえようと、一気に加速していく。

『二番手はロマンスブライア!しかしまだ6バ身くらいの差があるぞ!イリコチ!逃げる逃げる!』

大逃げをした影響で二の足はほぼ使えていないが、それでも生み出したリード差はなかなか詰まらない。イリコチのスタミナが持つ粘りが、後ろとの差を広げている。

「(あと200m……!抜かせはしない!)」

「(まだまだ……追いつけるはず!)」

『最後の直線!イリコチが逃げ粘る!このまま逃げ切れるか!?』

しかし、最後の最後でロマンスブライアが迫り来る。大逃げで作ったリードも残り2バ身。誰もがロマンスブライアの逆転を予感した。

「これはロマンスブライアか!?」

「頑張れ!イリコチちゃん!」

力を込めて、逃げ続ける。最後の最後まで。ロマンスブライアが横に並び、今にも追い抜きそうになったその瞬間、ゴール板を駆け抜けた。

「はぁ……はぁ……はぁっ……!」

ただ無我夢中で呼吸をする。最後の最後まで全身全霊をかけて逃げ続けたイリコチは、倒れ込んで必死に息を繰り返していた。

『最後まで逃げ続けたイリコチと、最後に飛び込んできたロマンスブライア!果たしてどちらが勝ったのでしょうか!?』

「はぁ……はぁ……」

イリコチはごろりと転がりながら、掲示板を見守る。やはり今回も写真判定となり、結果はまだ表示されていない。

「はぁ……はぁ……」

「はーっ……はーっ……二人とも強すぎだよ〜……」

息も絶え絶えのまま、声をかけてきたのは、負けたフジノミリオン。3着に入ってこそいたが、2着からは大きく離されてしまっていた。

「フジノミリオンさん……ふふ、そうね。私が強すぎたんだわ」

「私だって負けてないけど!今回こそ勝った自信あるから!」

「ロマンスブライアさん。確かに最後は追い詰められたみたいだけど……勝ったのは私よ」

二人とも、自分の勝利を信じて疑わない様子。果たして、勝ったのはどちらなのか。会場も緊張した様子で掲示板を見守っている。やがて、掲示板の表示がされる。

 

1着 10番 イリコチ

2着 7番 ロマンスブライア

3着 3番 フジノミリオン

 

北関東三冠、最後のレースの勝利を飾ったのは、イリコチ。これによって彼女は北関東三冠の栄光を掴み取った。初めての三冠達成に、観客達は大歓声を巻き上げた。

「勝った……勝ったのね、私!」

「そうだね…おめでとう、イリコチ」

「ええ。ありがとう、ロマンスブライアさん」

観客席の方へとかけていき、三本の指を空に掲げる。これにて三冠達成。栄光の王座に立った彼女を、万雷の拍手が讃えていく。誰もが憧れる三冠ウマ娘。地方のとはいえ、そう簡単には達成出来ない代物だ。レースを走るウマ娘として、これからが楽しみになる一戦であった。

「やったな!イリコチ!」

「トレーナー!ええ!やったわ!」

観客席から飛び込んできたトレーナーの手を取り、一緒に喜ぶイリコチ。二人で、北関東三冠を制覇したことを喜び合うのだった。これからのレースも、きっと素敵なものになるであろう。そう確信していた。

しかし、そんな彼女を待ち受けていたのは、栄光の道とは程遠い過酷な運命であった。

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