魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第十話 いざ、コーチング開始

 次の日の放課後、イザヤは生徒会の仕事を終えた後に雫と共に第二演習場を借りて、打倒司波兄妹に向けて話し合いをしていた。

「では、先輩の得意な魔法はなんですか?」

「私は、振動系の魔法が得意かな。『フォノン・メイザー』とか」

「去年、使ってましたね。まあ、それも良いか」

イザヤは雫を中心として、円を描くようにグルグルと回りながら話している。

「逆に不得意な事はありますか?」

「…細かい制御が苦手かな」

雫は自分の欠点を話す。

「細かい制御が苦手ね、それはいけませんね先輩、克服してください」

「……難しい」

ハハハと笑いながら、イザヤは立ち止まって雫を見つめた。

「貴方のことは大体理解しました。それでは先輩、僕たちがなんでここにきたのか分かりますか?」

「なんで?魔法の練習なんじゃないの?」

「いいえ、そんなこと後回しです」

イザヤは雫の方に向かって歩きながら話す。

「もっと大事なことです先輩」

「?」

「僕たちは、まだお互いを何も知らない。コミュニケーションを取って、仲を深めましょう」

「……なら、演習室じゃなくても良いんじゃないの?」

「いいえ、会話をしながら魔法の打ち合いをします」

「え?」

するとイザヤは拳銃型CADを取り出して、雫に銃口を向ける。雫はとっさに左腕の袖を捲り上げ、腕輪型CADが姿を見せる。

「さあ、先輩。防いでください」

するとイザヤは雫に向かって『エア・ブリット』を放つ。それを雫は『領域干渉』を広げる。その干渉エリア内に入った空気弾は雫に届かず分散していく。

「……先輩、ほのか先輩とは親しいようですけどいつから仲が良いんですか?」

魔法を放ちながら、イザヤは唐突に質問する。最初は彼女と親しい光井ほのかのことから話し始めた。

「小学校からだよ。クラスで横の席になったことがきっかけで仲良くなった」

「ふーん、ほのか先輩は達也先輩のことが好きなようですけど」

「……うん、ほのかは達也さんのことが好きなんだよ。人の恋路の邪魔したらダメだよ」

「それくらい僕もわきまえてますよ」

イザヤの魔法の発動速度は段々と速くなっていく。イザヤは懐からもう一つのCADを手に取り、雫に向けて魔法を放つ。

「くっ」

絶え間ない魔法の嵐に雫は、『情報強化』を行い、なんとか防いでいるようだ。

「先輩は気になる異性はいないんですか?」

「……まだ、いない」

「先輩はあの実業家、北山潮の娘さんでいらっしゃいます。お見合いなんか頻繁に来るんじゃないですか?」

「………お父さんは、自分で決めた人を連れてきなさいって……いつも言ってる」

イザヤの魔法を防ぐのに手一杯ながらも、なんとか会話を続けようとする。

「それは、良いお父様ですね」

そう言ってイザヤは魔法を中断し、銃を下ろした。次は先輩の番ですよ、そんな事を言ってるような顔であった。

「じゃあ、イザヤの両親はどんな人なの?」

今度は雫が魔法を放ち、イザヤがそれを防ぐ。

「僕に親はいませんよ」

「………ごめんなさい」

「ハハハ、謝らないで下さい。別にどうでも良い事なんで」

イザヤは笑っているが雫は顔を曇らせた。最初の質問で気まずくなってしまった。

「そんな顔しないでくださいよ。今はとても楽しいので僕は幸せですよ、他に聞きたいことはないですか?」

「…率直に聞くけど、イザヤは泉美のことが好きなの?」

雫は今まで疑問に思っていた事をイザヤに打ち明ける。

「何故そう思うのですか?」

「だって、いつも泉美のこと揶揄って遊んでるから。男の子は、好きな女の子にちょっかいかけるものだって親が言ってた」

それに対してイザヤは、

「それは間違っていますね。僕は、泉美ちゃんが揶揄いがいがあって楽しいから遊んでいるだけですよ。別に泉美ちゃんの事を異性として好きというわけではありませんよ」

「……そう」

その後も会話を続けていくが、そろそろ雫のサイオン量が限界を迎えたため、撃ち合いは終了した。

「お疲れ様です」

そう言ってイザヤは用意しておいたタオルを雫を渡した。

「ありがとう、イザヤは汗一つかいてないね」

タオルをで汗を拭きながら、イザヤの方を見る。

「僕にとっては、先ほどの打ち合いは準備体操みたいなもんですから」

どうって事ないとイザヤは笑って答える。

「この打ち合いに何か意味はあったの?」

「いいえ、ただ会話するだけじゃつまらないから何かしながらの方がいいと思っただけです」

「まだ選手登録に時間があるといっても、私は一日でも無駄にしたくない」

「何焦っているんですか、焦っていても深雪先輩に勝てませんよ」

その言葉に雫はムッとする。

「今の戦いで、貴方の問題がいくつか見つかりました。それを明日直していきましょう」

「問題?」

「今話しても貴方はもう魔法を使える体力は残っていない。無理するとオーバーヒートしますよ」

「……わかった」

やや不満そうに雫は頷いた。そうして雫の特訓一日目は終了した。

 

 

 

 職員室に演習室の鍵を返した後、イザヤと雫は校門を出て、歩いて帰る。ほのかと泉美は先に帰っているので今日は二人で帰る。珍しい組み合わせである。

「雫先輩は第一高校を卒業したら、国立魔法大学に行くんですか?」

「うん、というか大半の人はそうなんじゃないかな。イザヤもそうでしょ?」

雫は歩きながらイザヤの方を見る。

「いいえ、僕はどこにも進学しませんよ」

「え?」

雫は驚く。イザヤの魔法師としての実力は先ほどの戦いで理解した。なのにだ、この男は進学をしないと言っている。

「なら、イザヤは何をするの、警察官?消防士?」

「そうですね………47都道府県巡りとかね」

「……私を揶揄ってる?」

雫はジトっとした目でイザヤを睨む。

「いやいや、本当ですよ。僕は進学に興味ないし」

「……そうなんだ。意外」

「まあ、卒業したらみんなやることが増えて忙しくなりますからね。今のうちに思いっきり楽しんだ方がいいですよ先輩」

「うん、そのつもり……じゃあ私はこっちだから」

そうして雫は指差した方向に歩いて行った。そして、雫と別れたイザヤは一人歩いて帰っているのだが、細い路地を入って行った。そのまま立ち止まり、

「出てきたらどうです?」

突然そんな言葉を、誰もいない暗闇に発する。

「……おや、気づかれていたか」

その暗闇から出てきたのは九重八雲であった。

「一体いつから気づいていたんだい?」

九重八雲はイザヤに尋ねる。

「さあ、いつでしょうか?貴方は九重八雲ですね」

「僕のこと知っているのかい?こんな若者に知ってもらえるとは嬉しいね」

九重八雲はそう言って自分の頭を撫でる。

「司波達也に頼まれて僕を尾行していたんですか?」

「……その事まで分かっているとは。さすが、達也くんを負かしただけのことはある」

九重八雲は細い目を少し開けてイザヤを見る。その顔はニコニコと笑顔を作っていた。

「それで、これからどうするんです?」

「そうだねー、君にもバレちゃったしここらで退散しようとするかな」

九重八雲はこの場からすぐに立ち去ろうとする。

「いやいや、少し遊んでいってください」

そう言うとイザヤは右手を九重八雲の前に出した。その瞬間、九重八雲の体はガクンと下がり、膝をついた。

(これは、重力魔法か!)

体が地面に引っ張られている。気を抜いたら、倒れそうになる。九重八雲はすぐさまイザヤに幻術を仕掛ける。

「おや、体が小さくなったような感覚だ」

イザヤの体はまるで蟻くらい小さくなったような感覚に陥った。

「なかなか面白いですねこれ、お返しします」

(!?)

九重八雲は重力魔法が中断されると、さらに自分がイザヤにかけた幻術と同じような現象が自分にも降りかかる。

「……君はさっき見た魔法をすぐに真似できるのかい?」

「真似るのは得意ですけど、それは僕の力の一端に過ぎません。さあ、次はどんな事をしてくれるんです?」

九重八雲の顔には汗が見える。

(久しぶりの強敵、いまだに隙が見えない。これは逃げるしかない)

九重八雲はイザヤに向かって魔法を放ったのち、煙玉を投げつけた。すると、あたり一面が煙に包まれた。煙が晴れると、そこには九重八雲の姿は無かった。

(煙に混じり、魔法で姿を隠して逃げたか)

そのままイザヤは細い路地から大通りに出て帰った。

 

 

 

 次の日も雫の特訓は続く。

「今日は僕が昨日話した先輩の問題点について話しましょう」

「…その問題というのは?」

早速、雫はイザヤに質問する。

「いくつかありますが、一つずつ言ってきましょうか。一つ目は、サイオンを無駄にしている事です」

「サイオンを無駄にしている?」

「これは先輩だけじゃなく、魔法師全てに言える事ですけどね」

イザヤはそう言うと、話を続ける。

「すべての人間、魔法師・非魔法師に関わらず、一定のサイオンを保有しています。何もしていない状態でも微量のサイオンを放出していることは知っていますね」

「うん、それは知ってるけど、どうしようも無いんじゃないの?」

「いや、そんな事はありませんよ。頑張ればサイオンの放出は止める事は出来ます」

雫は驚く。もし、それが本当ならば発表したらノーベル賞ものだろう。

「先に言っておきますけど、これは誰にも言わないでくださいよ。もし言ったら、、」

「…言ったら?」

イザヤは雫の耳元でささやく。

「先輩を二度と魔法を使えないようにしますよ」

「…………分かった、言わない」

イザヤの脅しに雫はコクンと頷き答える。

「では、始めましょうか、床に座って下さい」

イザヤはそう言って床に座る。雫もこれに続いて対面で座る。

「言っておきますが、これはすぐにできるものではありません。日常からサイオンの放出を完全に止めるには、何年もその訓練を続けなければなりません」

「……なら、深雪との戦いまでに間に合わないの?」

「そうです。魔法式や起動式、CADの進歩により、サイオン保有量はもはや魔法師としての優劣を左右するものではなくなりました。ですが、もしサイオンが後少し余裕があれば勝てた、なんて事にならない為にもこの特訓は必要です。後少しを取りこぼさない為にね」

「……後少しを取りこぼさない為に、、、」

イザヤはその言葉にフッと笑う。

「早速始めましょうか、それでは先輩、目を閉じて下さい」

その言葉に雫はゆっくりと目を閉じる。そして、イザヤは雫の額に指を突く。そのまま、イザヤも目を閉じる。

「さあ、ゆっくり呼吸して下さい、そして僕の指に意識を集中して下さい先輩」

雫はそう言われてゆっくり深呼吸してイザヤの指に意識を集中する。

「先輩、何か見えますか?」

「何も」

「もっと集中して下さい、そして僕の指に意識を集めて」

雫はさっきよりももっと深く呼吸をした。すると、真っ暗な意識の中、何かが見えた。それは、

(オーラ?)

何かが溢れ出ていく。それはどこからだろう。雫は深い意識の奥深くへ入っていく。

「何が見えますか」

「オーラが見える。オーラがどこからか溢れてくる」

「それがサイオンです。今見えているのは先輩の体の中から溢れ出るサイオンです。では先輩、そのサイオンの放出を抑えて下さい」

「…わかんない。どうやってやるの?」

「深く息をして下さい。そして、水が出ている水道の蛇口を捻って閉めるようなイメージを浮かべて下さい」

「……蛇口を………閉める………蛇口を……」

雫は何かを掴んだのか、自分の中の溢れ出るサイオンの放出をほんの少しだが抑えることが出来たような気がした。

「目を開けて下さい、先輩」

イザヤのその声で雫は目を開けた。いつのまにか自分の体はすごい汗をかいていた。

「いつのまにこんな、、」

「貴方がそれほど集中していたからですよ。やはり、僕が思っていた通りだ。貴方は素晴らしい魔法の才をお持ちのようだ」

雫は立ちあがろうとするが、うまく立てないでいた。イザヤは雫の体を支えるとそのまま女子更衣室へ運んだ。雫の特訓二日目は、こうして終わった。

 

 

 

 「私の体は今どうなっているの?」

下校中、イザヤは横で歩いている雫に質問された。

「今の先輩のサイオンは、ほんの少しですが抑えられていますよ。大雑把な計算ですが、以前までの日常から溢れ出るサイオンが1000だったとして、今の先輩は999くらいですかね」

「……1しか違ってないよ」

雫はジト目でイザヤを見る。

「言ったでしょう?年単位で行うものだと。コツを掴んできたら、僕の補助なしで家で特訓するのもいいですよ」

「うん、ほんの少しだけど、私も自分がさっきまでと違う感じがする。気のせいかもしれないけど」

「気のせいじゃありませんよ。貴方は確実に成長している。自信を持って下さい」

「うん、わかった」

イザヤのその言葉に雫は少し笑った。雫は普段無表情なのでその珍しい顔を見て、ニコッと笑い返した。そうして二人は家に帰宅した。

 

 

 

 「イ、ザ、ヤ、君?ちょっといいですか?」

イザヤが学校に着いて早々、後ろから歩いてくる泉美に声を掛けられる。その後ろには香澄もいる。泉美のそのどことなく圧のある言葉に、

「………なんだい?泉美ちゃん」

すこし間を置いて、返事する。

「昨日もまた、北山先輩と演習室で何かしてらしたんですよね?」

「そうだね、それがどうしたの?」

イザヤはそう聞き返すが、

「いえ、ただですね。演習室から出てきたイザヤ君と北山先輩を見たと言う人がいたんですよ」

「…それで?」

「北山先輩の体を支えながら、一緒に女子更衣室へ入って行ったとか」

「………」

「イザヤ君?どう言うことかご説明願いますか?」

泉美はニコニコと笑いながもその目は笑っていない。そんな彼女にイザヤは、

「僕と雫先輩の間に何かあったして、それは泉美ちゃんに教える事は出来ないなー」

「え?」

「もし、僕と雫先輩が女子更衣室で何かをしていたとしても、泉美ちゃんにはまだ早いよ」

「え!?嘘!?マジ?」

香澄は驚いた声を上げる。

「……それは、、つまり、、」

泉美は、後ろに後退しながら顔を赤らめる。そんな泉美にイザヤは近づき、

「ふっ」

耳元に息を吹きかけた。その瞬間、泉美の顔は真っ赤に染まり、大声で叫ぶ。

「この変態!!クズ!!不埒者ーー!!」

そう言って泉美は香澄を置いて、全速力で走って行った。

「ちょっと泉美!置いてかないでよー!」

香澄も泉美の後を追いかけるように走っていく。そんな光景を少し後ろから見ていた司波兄妹がイザヤの方に向かって歩いてきた。

「朝からなにをやっているんだお前は」

「すみません先輩。お騒がせしました」

「イザヤ君、あんまり泉美ちゃんをいじめてはダメよ」

「ええ、自重します」

 

 

 

 「…先輩、帰ってすぐにサイオンを抑える特訓をしましたね?」

イザヤと雫は今日もまた演習室で特訓である。

「……なんで分かったの?」

「いや、分かりませんよ。カマをかけました。」

「………」

雫はイザヤからの視線をそらす。

「無理しても体がもたないですよ。昨日初めてやったばかりなのに、もうコツを掴むことが出来たんですか?」

「いや、自分でもまだわかんない。けど何かが閉じている感覚がした」

雫の言葉にイザヤは目を丸くする。彼女の成長は予想よりもずっと速いようだ。

「……どうしたの?もしかしてダメだった?」

「いや、ダメじゃないですよ。むしろ、そのまま続けて下さい。その方が先輩のためになる」

「分かった、そうする」

イザヤは雫の成長速度を見誤っていた。

(これなら、スケジュールを大幅に早めてもいいかもしれないな)

そんなことを考えていると、雫がイザヤを見つめていた。

「早く特訓しよ」

彼女はやる気満々のようだ。いい傾向である。

「そうですね、それでは先輩の問題点の2つ目をお話ししましょうか」

待ってましたと言わんばかりに雫は真っ直ぐイザヤを見つめていた。

「2つ目は、先輩も言っていた細かな制御ですね」

「……」

雫は自分の苦手なものが来た途端、肩を落とした。

「制御または作業と言い換えてもいいですね。先輩の一番の欠点はそれです」

「……難しいものは難しいんだよ」

「なんですか先輩?さっきまでのやる気はどこに行ったんですか?」

雫は嫌々オーラを醸し出しながら、イザヤの言葉に耳を傾ける。

「この欠点を克服すれば、これまでの先輩とは比べ物にならないくらいに強くなるでしょう。ですので、先輩にはこれからある作業をしてもらいます」

「何?」

「解体したCADを組み立てるんです」

「……え?」

思っても見なかった事を言われて、雫は少し反応が遅れた。

「私、組み立てた事ないし、何もわからないよ」

「僕が教えます」

「……イザヤはなんでも出来るね」

雫のその言葉にイザヤはハハハと笑う。

「なんでもは出来ませんよ。出来ることだけ出来るんですよ」

そう言うと、イザヤは用意したテーブルの上に解体されたCADの部品を並べた。

「いいですか先輩、優秀な魔法師ならば、自分が使うCADについてもよく知らなければなりません。ただ何も考えずCADを使っているだけではダメなんですよ」

「……分かった」

雫は渋々と言った感じで頷き、イザヤに教えてもらいながら、CADを組み立てるのだった。

(正直、魔法の授業を期待してたのに、、)

雫は完全に出鼻をくじかれた。

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