魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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少ない


第十二話 雫「着いて早々何するの?」イザヤ「もちろん、泳ぐでしょ」

 媒島に着いたのは、正午を過ぎた頃だった。別荘に入った二人は、まず荷物を各自の部屋に置いてリビングに集合する。

「じゃあ、特訓を開始しよう」

先程まで眠たそうな顔をどこへやら、やる気が満ち満ちていた。しかし、

「何言ってるんですか?まず、やることがあるでしょう?」

「何?」

「もうお昼ですよ、昼食をとりましょう」

「そうだね、分かった」

雫もお腹が空いていたのか、すぐに返事した。雫は家から持ってきたクーラーボックスから食材を取り出す。その中には、二日分の食料が保存されていた。雫は肝心なことを伝え忘れていた。

「…私、料理出来ないよ」

「ええ、僕がやります。パスタでも作りましょうか」

そうしてイザヤはキッチンに移動し、フライパンを取り出して、火をつけ、油を引く。雫は何も出来ないのでその姿をジッと見つめている。

「…なんか、様になってるね。普段から料理するの?」

「ええ、自分で作るの楽しいですよ」

「……女子力高いね」

「今の時代、料理は男性も作るものですよ」

雫はパスタが出来上がるまでずっとイザヤの料理している姿を黙って見ていた。そして数十分後、出来上がったパスタを皿に盛り付けてテーブルに置く。雫も何かしなければと思い、フォークとスプーンを並べる。そして二人はテーブルを囲い、

「「いただきます」」

昼食を食べ始める。雫は小さな口を開けて、パスタを口に運ぶ。

「おいしい」

「それは良かった」

なんだか女として負けた感じがする。雫はイザヤをチラ見した後、黙々と食べ進める。

「食べながら聞いてほしいんですが」

雫が食べている最中にイザヤは喋り始める。

「今日は、サイオンを抑える特訓を長時間行う事にします。その後、明日の特訓について大事なお話があります。先輩は、まだまだ深雪先輩の足元にも及ばない。その深雪先輩に膝をつけさせる為に明日、先輩には少しばかり頑張ってもらいます」

珍しくイザヤの真剣な顔を見て、雫は手を止める。

「…それが、誰にも言っちゃいけない事なの?」

「ええ、墓場まで持っていって下さい。さあ、早く食べてしまいましょう」

そうして数分後、昼食を食べ終わると、雫は皿洗いを申し出た。その後、雫は部屋で動きやすい服に着替えてから、リビングの床に座る。時間を見ると時計の針は午後二時を指している。

「さて先輩、時間も限られているし、早速始めましょう」

「分かった」

雫は目を閉じてサイオンを抑える特訓を始めた。その姿を見てイザヤは、

(やはり成長速度が速いな、これ程までサイオンを抑えることができるとは)

実は以前、イザヤが雫に言っていた、日常から漏れ出るサイオンが1000から999にまで抑えられたという話は嘘である。雫のサイオンを抑える技術はとんでもないスピードで成長している。この訓練は年単位で行うものとイザヤは考えていたが、

(雫先輩がすごいのか?、もう少しサンプルが欲しいな)

イザヤは心の中でそう呟く。雫が特訓を開始してから一時間が経ったところで、小休憩を挟んだ。雫はタオルで汗を拭くが、以前よりも汗がかいていないことがわかる。慣れてきたのか、それとも自分が成長している証なのか。

「また少ししたら、再開します。それまでに水分補給を行なって下さいね」

「うん」

その後も繰り返し特訓を続けていると、いつの間にか当たりが暗くなってきた。時間はなんと午後五時半まで回っていたのだ。

「…もうこんな時間」

「ええ、それだけ集中していたという事ですね。今日のところはこれでおしまいです。先にシャワーを浴びてきて下さい。夕食の準備をしていますから」

雫はスタスタとリビングを出て、シャワー室に入っていった。イザヤは、

(和食にしようかな)

そんなことを考えながら、クーラーボックスから冷蔵庫に移動させた食材を取り出して、夕食を作り始める。雫が寝巻きに着替えてリビングに入って来ると、

「私も何か手伝いたい」

そう言うので、

「では、米を研いで炊飯器に入れて下さい。」

そう言われた雫はお米を研が始める。

「ねえ、イザヤ」

雫はイザヤに声をかける。

「なんですか?」

料理を続けながら、自分を呼ぶ雫の声に返事する。

「私の専属の執事にならない?」

イザヤの手が止まる。そして雫の方を見ると、彼女と目が合う。

「どうしてです?」

「だってイザヤは進学しないんでしょ。だったら、私の家の執事でもどうかなって。大丈夫、絶対給料は高いから」

その言葉にイザヤは、

「そうですね、もしお金に困ったら、それもいいですね」

「……分かった」

 

 

 

 夕食を食べ終えた二人は、リビングでソファに対面で座っている。

「さて先輩、明日のことについて大事なお話があります」

「……」

イザヤのその言葉に雫は黙って次の言葉を待っている。

「最悪の場合、先輩の命が途絶える事になってしまいます」

(!?)

雫は驚いた顔をした。自分が死ぬ、そんなことを言われて平然としている人間はいない。

「……そんなに危ないの?」

「危ないですよ。まあ、僕が補助に入りますから死ぬなんてことはあり得ないですけどね」

イザヤは笑って答える。しかし、雫の顔は不安な顔が晴れない。

「…先輩、こんな事を聞いたことはありませんか?人間の脳は全体の10%しか使っていないって」

「…知ってる。けど、それは嘘だって学者は言ってる」

「ええ、そうですね。しかし、僕たち魔法師はそうでもないんですよ」

「?」

その言葉に雫は首を傾げる。イザヤは話を続ける。

「僕たち魔法師はですね、無意識に限界を決めてしまっているんですよ。魔法の過剰行使によりオーバーヒートするのは、その限界を無理やり超えようとするからなんです。だからですね、今から、先輩の限界の壁を僕が壊します。そうすると先輩は、魔法師に必要な魔法力としての処理速度(処理能力)、キャパシティ、干渉力が大幅に上がり、本来の力を100%引き出すことができます」

「!?」

それは今までの魔法師の根幹を揺るがす事である。魔法師としての才能は、ほぼ遺伝で決まると言っても良い。突然変異として魔法師が生まれて来る事もあるがそれは滅多にない。親が優秀な魔法師ならばその子は優秀な魔法師となるのは必然である。

「それは、、」

雫は思う。彼が言ったことが本当ならば、その壁を破壊さえすれば、誰もが魔法師として大成することができるだろうと。

「ね、言ったでしょ?大事な話だと」

驚いた顔をしている雫を見て、イザヤはニコニコしている。

「でも、それは危険なことなんでしょう?」

雫はその壁を壊す際のリスクを尋ねた。

「ええ、限界の壁を壊すと、その人間からとんでもない量のサイオンが溢れ出すんですよ。日常や魔法に使っている時とは比にならないくらいに。体に激痛が走り、最悪の場合は、すべてのサイオンを体の中から出し尽くした後、その人間は息途絶えます」

「…サイオンが溢れ出す、、!?、だからサイオンを抑える特訓をしてたんだ!」

「その通りです、先輩」

今まで雫がしてきた行為は、この為のことだったのかと、衝撃を受ける。

「と言う事なんですよ先輩、理解してもらえましたか?」

イザヤの言葉に雫は、しばらく沈黙して、しばらく頭の中で整理していた。そして、数十秒後、ようやく口を開いた。

「ねえ、この事、本当に誰にも話しちゃダメ?」

「……何故です?」

「ほのかにもこの事を教えてあげたいの」

雫のそんな言葉にイザヤは、

「ダメですね、たとえ教えたとしても、ほのか先輩にはできませんよ」

「なんで?」

「その限界の壁を壊せる人間は、滅多にいないからですよ」

イザヤは雫の目を見て言葉を続ける。

「僕が見た中では、第一高校で限界の壁を壊せる人はほぼいませんでした」

「深雪や達也さんは?」

「ええ、二人も出来ませんよ。たとえ、素晴らしい才能を持っていたとしても限界の壁を壊せるとは限らないんですよ」

「…参考に、誰がその壁を壊せるの?」

「そうですね、僕が見た中では、三年生で五十里啓、二年生で英美明智、一年生で七草泉美くらいのものですね。探せば、もしかしたらいるかもですけど」

「……なるほど」

雫はイザヤがあった三人の関係性を考えたが思い浮かばなかった。

「分かりましたか先輩、限界の壁を越えるにしても、その素質がいるんですよ」

「……分かった」

「では、話も済んだことだし、今日はこれで終わりです。お疲れ様でした」

そう言うとイザヤは立ち上がる。

「ねえ」

雫はリビング出るイザヤを呼び止める。

「イザヤはなんでその事が分かるの?」

雫は純粋な疑問をぶつける。イザヤはフッと笑い、自分の目を指さし、

「僕のこの『目』で見たからですよ。では、明日は八時から始めましょう」

そういって自分の部屋に入っていった。

 

 

 

 次の日の朝、雫は六時起きる。まだ眠たいのか、目を擦りながら服を着替えてリビングに向かった。しかし、イザヤの姿はなかった。

(まだ、寝てるのかな?)

そう思った雫は外に出て、海辺を散歩しに行く。海はキラキラと太陽の光を反射している。雫は海をずっと眺めていると、

「ぷはっ」

「え?イザヤ?」

イザヤが突然、海から現れた。

「あれ?雫先輩、こんなところで何してるんですか?」

「それはこっちのセリフ、リビングにいないと思ったら、泳いでいたの?」

雫は呆れていた。

「だってこんな綺麗な海なんですよ、泳がない方がおかしいですよ」

そう言うとイザヤは浅瀬で仰向けになり、海の水に浸っていた。

「イザヤって、偶に子供っぽいところがあるよね」

「時には、童心に帰るのもいいですよ」

気持ちいいいなー、と言いながらイザヤは笑っている。そんな様子に雫もイザヤの顔近くに足を持っていき、海を感じてみる。

「うん、気持ちいいね」

そう言う雫をイザヤは下からジッと見つめる。その視線に気がついたのか、

「どうしたの?」

雫が尋ねる。

「…いや、もし先輩がスカートを履いていたならば、と思いましてね」

「………」

そんなイザヤの言葉に雫は、足でイザヤの顔を踏む。

「グェ」

「反省して」

その後二人は朝食を取り、特訓の準備に取り掛かる。

 

 

 

 「では先輩、準備はいいですか?」

イザヤの言葉に雫は、

「うん、いつでも良いよ」

彼女の心の準備はもう気持ち出来ているようだ。

「では、始めます。目を閉じて下さい」

イザヤはそう言うと、雫の額に人差し指、中指をくっつけて、目を閉じる。雫もそれに続いて目を閉じる。

「今から、僕があなたの限界の壁を破壊します。その時、あなたの体に激痛が走ります。その痛みと同時にサイオンが溢れ出すので抑えて下さい」

「………うん」

少し間を置いて、雫は返事する。

「大丈夫です、死にはしませんよ。僕がいますから」

「うん」

イザヤのその言葉に、次は間を置かずに返事する。

「ではいきます。大きく深呼吸してください」

その言葉に雫は大きく深呼吸する。するとその瞬間、体に稲妻が走る。

「ぐっ!?」

全身が痛みだす。咄嗟に雫は自分の体を抱きしめる。そんな時、体の奥深くから、何かが飛び出す感覚を覚えた。そんな事も束の間、体が急激に力が抜けていくのを感じる。

「サイオンの放出を抑えてください」

その言葉に雫は意識を集中して、溢れ出すオーラ(サイオン)を認識したのち、水が出ている水道の蛇口を止めるようなイメージを作りながら、ゆっくりと確実にサイオンの放出を抑えていく。イザヤの補助も加わり数分後、ようやく雫は、サイオン放出を今までと同じような状態に戻した。イザヤはフッと笑い、

「これで終了ですね。お疲れ様です」

そう言ってイザヤは目を開けて雫を見る。雫も目を開ける。体は初めての時と同じように汗をかいていた。

「どうですか先輩、今の気持ちは?」

「……分かんない。でも、私の中で何かが変わった。そんな気がするの」

雫は鏡に映る自分の姿を見る。一見、何も変わっていないが、雫には何かが違って見えたという。すると、雫は突然床に倒れ込んだ。

「おっと」

咄嗟にイザヤが雫の体を受け止める。雫は気を失っているようだ。

「さすがです、先輩」

イザヤは雫を『目』で見てそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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