雫が床に倒れると、達也達は急いで彼女の元に駆けつける。
「雫!!、雫!!」
ほのかは大声で雫の耳元で叫ぶが、雫は起きない。
「ど、どうしよう、雫が起きない!」
ほのかが慌てていると、達也が雫の容体をみる。
「……大丈夫だ、ほのか。雫は気を失っているだけだ。」
「ほ、本当ですか!?達也さん」
ほのかはその言葉に安心したのか胸に手を当てて、ホッとした。
「とにかく、このまま医務室に行って、ベッドの上に寝かせよう」
そう言って達也は雫をお姫様抱っこして、医務室へと連れて行く。その様子を遠くから見ていた泉美は、
「大丈夫でしょうか?北山先輩」
横にいるイザヤに問う。
「少し頑張りすぎたみたいだね、だけど、彼女の勝利だ」
そう言うとイザヤは深雪のそばに近寄る。
「深雪先輩、お疲れ様です」
「……ええ、イザヤ君お疲れ」
深雪の顔には疲れが見えている、彼女もこんなに魔法を使用した事が久しぶりなのか、少し足元がおぼつかない。
「深雪先輩、大丈夫ですか?」
泉美が深雪の顔色が悪いのに気づいて、そばに近寄る。
「…大丈夫、ではないわね。少し座りたいわ」
そうして深雪は泉美に支えられて、背もたれのある椅子に座らされる。
「さて、あずさ会長。僕たちは後片付けしましょうか」
「そうですね、五十里くん、千代田さん、手伝って下さい」
「「はい」」
こうしてイザヤ達は後片付けにはいった。途中、達也が医務室から戻ってきた。
「深雪、大丈夫か?」
深雪が調子の悪いことに気がついたのか、そばに駆け寄り、心配する。
「ええ、お兄様、少し良くなりました」
達也の顔を見て、深雪は微笑む。その顔に達也もホッとする。
「達也くん、深雪さん」
あずさが二人のもとに近づいてくる。
「後片付けが終わったので、みんな撤収したいと思います」
「はい、ありがとうございます、中条先輩。深雪、立てるか?」
「はい、お兄様」
達也は深雪の手を引いて立たせた後、二人仲良く退室していく。
「…あれ?イザヤ君は?」
泉美が辺りを見渡す。いつのまにかイザヤが居なくなっているのだ。
「どこに行ったんでしょう、もしかして北山さんのところかもしれません」
あずさが泉美の言葉に返答する。
「さて、私達も帰りましょうか」
そういうと、みんなが実技棟から出るのだった。
イザヤは医務室に入ると、雫がベッドの上に眠っていた。イザヤは雫に近づき、置いてあった椅子に座り、雫を見つめていた。雫は規則正しく呼吸している。イザヤは『目』を見て、雫がオーバーヒートしていないか確かめる。幸い彼女の魔法師としての機能は失われていなかった。
(まったく、無茶をする)
そんな事を思っていると、医務室の扉が開いた。
「イザヤ」
その声に振り向くと、達也を含む二年生メンバーが入ってきた。
「先輩達」
イザヤが返事をする。ほのかが誰よりも早く雫に近づく。
「雫、寝ているんですか?」
「ええ、ぐっすりと。しばらくは起きないと思いますよ」
ほのかの言葉にイザヤが答える。
「雫のご両親に電話したほうがいいと思うのだが」
「そうですね、先輩お願いします」
「私がやります」
ほのかが医務室を出て、雫の家に電話を掛けにいった。
「イザヤ、勝負はお前の勝ちだな」
「ええ、達也先輩。びっくりしたでしょう?、雫先輩の成長に」
「ああ、心底驚いた。その事について後日、話したいと思う」
そんな達也にイザヤは、
「すみませんが、話せる事なんて無いですけどね」
何も言えないと返事する。二人はしばらく見つめあっていた。
「おじさまが向かいに来てくれるそうです」
電話が終わったほのかが、医務室に入って皆に言う。
「そうか、なら安心だ。もう遅いから、俺と深雪は帰ろうと思う」
「ああ、俺たちも帰るぜ達也」
「雫が心配だけどね」
レオやエリカ達も達也と一緒に帰るつもりである。
「イザヤ、お前はどうするんだ?」
「…雫先輩の親が来るまでここにいようと思います」
「私もいます」
「……そうか」
そうして二年生組はイザヤとほのかを残し、医務室を退室した。
イザヤとほのかは、達也達が帰った後、しばらく何も喋らず、雫の方を見ていた。そうしてほのかはゆっくりと口を開いた。
「雫が目を覚ましたら、褒めてあげて下さいね」
「ええ、そうしますよ」
「雫、きっと喜びますよ」
二人は少しずつ会話を続けて、雫が目を覚ますのを待っていた。すると、医務室の扉が勢いよく開けられた。
「すいません、ここに娘が居ると思うのですが」
北山潮が医務室の職員にそう尋ねると、
「おじさま、こちらです」
ほのかそう呼ぶと北山潮はベッドに眠る雫に駆け寄る。
「雫は眠っているのかい?」
「はい、疲れてしまったみたいです」
ほのかがそう伝えると、北山潮はイザヤの方を見る。
「イザヤ君、今回も君が関わっているのかい?」
北山潮はイザヤにそう質問する。
「関わっているというか、雫さんがこうなった原因は、僕にあるんです」
「………」
北山潮とイザヤは、しばらく見つめ合う。ほのかは慌てて二人の会話の間に入る。
「おじさま、雫もこうなる覚悟で深雪との試合に臨んでいたんです」
「試合?」
「え?おじさま、試合の事を知らなかったんですか?」
「まったくと言っていいほど知らないね」
何も知らない北山潮にほのかは1から説明し始める。九校戦でソロ出場を賭けて、深雪と試合をしたこと、その試合で雫が深雪に勝ったこと、北山潮はほのかの言葉を黙って聞いていた。
「なるほど、分かったよ」
北山潮は雫をゆっくりベッドから起こして、おんぶした。
「ほのかちゃん、もう遅いから送って行くよ。」
「あ、はい。イザヤ君は?」
「僕は歩いて帰るのでお構いなく」
こうしてほのかと北山潮は、車に乗って帰って行く。イザヤはグッと背伸びをして、
「さて、僕も帰るか」
学校を出て帰路に着くのだった。
車の中では、助手席に北山潮が後部座席にほのかと雫が座っている。車が走って少しした時、
「ん、ここは?」
雫が目を覚ました。
「雫、目が覚めたの?」
ほのかはその姿に安心した。
「ほのか、ここは?」
「車の中よ、雫、試合が終わった直後、意識を失ってしまったのよ」
「……そう、なの」
雫はまだ頭がはっきりしないようだ。
「雫、起きたかい?」
北山潮は後ろを向き、目が覚めた雫に声をかける。
「お父さん、迎えにきてくれたの?」
「ああ、私も心配していたんだよ。もうすぐ、ほのかちゃんの家に着くから、それまで二人で話ていなさい」
そう言うと、前を向いて座った。
「ねえ、ほのか、イザヤは?」
「イザヤ君は歩いて帰ったわ。おじさまが迎えに来るまで、ずっと私と一緒に雫を見守っていたのよ」
雫はほのかの言葉を聞くと、
「そうなんだ」
そう言って、とても嬉しそうな顔をする。
「ねえ、ほのか」
雫は、ほのかの名前を呼ぶ。
「何?雫」
「………私、イザヤの事が好きみたい」
「えっ!?」
ほのかはその言葉を聞いて、大声を上げる。
「ほのか、うるさい」
「なん、、、え、、、、雫、、今の私が悪いの?」
雫はそのまま、再び目を閉じる。ほのかはそんな雫に「起きてよ」と声をかけるが応答がない。そんな二人を見て助手席にいた北山潮は、
(雫、そうか、お前にも好きな人ができたのか、、)
ゆっくりと目を閉じるのだった。
次の日、イザヤは朝から学校に登校していた。そろそろ、朝から来ないと泉美が泣いてしまうのではないかと思い、廊下を歩いてクラスに向かう。
「おはよう、イザヤ君」
「おはようございます」
声がする後ろを振り向くと、それには七草の双子がいた。
「やあ、二人ともおはよう」
「ようやく朝から来るようになったのですね」
泉美はようやくかと思いながら、そう口にする。
「泉美ちゃんがそろそろ泣いてしまうかと思ってね」
「……そんな事しません」
泉美がイザヤをジト目で見てくる。そんな二人に香澄は、
「はいはい、朝から廊下でイチャイチャするのはやめてね」
「な!?香澄ちゃん、私はイチャイチャなどしていません!」
「はいはい、わかった、わかった」
そう言って香澄は、自分のクラスに入っていった。そんな香澄を横目にイザヤは、
「さあ、僕たちも行こうか、泉美ちゃん」
「……わかりました」
泉美はイザヤの後ろをついていきながら、クラスに入って行くのだった。
放課後、すべての生徒の選手登録が終わり、これから九校戦に出場する生徒は本格的に練習に打ち込むのだった。しかし、一人だけやる気のない生徒がいた。
「折紙君、なに寝そべっているのですか?」
水波は運動場の地面で横になっているイザヤに質問した。
「イザヤでいいよ水波ちゃん。単純にやる気がないんだよ」
イザヤと水波は新人戦でシールド・ダウンに出る事になったのだ。
やる気のないイザヤに水波は、
「しっかりして下さい、達也お兄様が来る前に起きて下さい」
「まったく、君も深雪先輩もお兄様好きだよね」
「……深雪お姉様程ではありません」
「そう言えば、こうして君と話をするのは初めてだよね」
「…そうですね」
「君はいつも達也先輩と深雪先輩の一歩後ろに下がって会話に混ざろうとしないからね。もしかして、そうする様に達也先輩に言われているの?」
「違います」
「なら、それが君の性分なのかな?」
「………」
そんな会話をしていると、達也が二人に近寄ってきた。
「イザヤ、水波を困らせるな」
「あ、お兄様」
「お兄様と呼ぶな」
達也はため息をついて話を続ける。
「真面目に練習したらどうだ?」
「僕のことなんかよりも三年生の先輩達のことを見たほうが良いのでは?」
イザヤの指さす方には、三年の桐原武明と千倉朝子がレオとエリカと戦って、敗北していた。
「レオ先輩とエリカ先輩を出場させたほうが良かったんじゃないですか?」
「千倉先輩と桐原先輩はシールド・ダウンの戦い方に慣れていないだけだ。そのうち、順応するだろう。そんな事よりイザヤ、お前は今から水波と戦ってもらう」
「水波ちゃんと?」
「水波、準備しろ」
「はい」
達也に返事した水波は一足先にリングに上がる。
「イザヤ、お前もリングに上がれ」
「はいはい、お兄様」
「だからお兄様と呼ぶな」
イザヤはやれやれといった感じで達也の横を通り過ぎ、リングへ上がる。
「お願いします、折紙君」
「だからイザヤでいいって」
達也のホイッスルで試合は開始した。しかし、両者動かない。
「……どうしました?」
水波はイザヤになぜ来ないのかと質問する。
「君の顔を見ていたのさ、君が来ないなら、僕は近づこうかな」
そう言ってイザヤは、スタート位置からゆっくりと歩き始め、水波の方へ近づいて行く。水波は歩いてくるイザヤにCADを操作し、魔法を発動する。イザヤに対して、突風を発生させる。
「うわ!?」
イザヤは盾が飛んで行かないように、しっかりと握りしめる。そんなイザヤに対し水波は、
「手加減しているんですか?イザヤ君」
自分が舐められている事に腹が立ったのか、今度は下の名前で呼ぶ。
「おっ、やっと呼んでくれたね、水波ちゃん、手加減って言ったけど、君が僕をその気にさせないのが悪いんだよ」
イザヤは笑ってそう言い、水波を挑発する。
「ならば、これはどうですか?」
水波はイザヤに向かって走り出し、『対物障壁』を発動させて、突進してくる。そんな水波にイザヤは、
「おや、向かってくるか、なら僕は逃げるとするよ」
なんとイザヤは、突進してくる水波から逃げる。
「な!?待ちなさい!」
水波はイザヤが逃げる選択をする事に驚いたが、リングの端に追い込む。
「さあ、逃げ場はありませんよ」
「さあ、それはどうだろう。君が突進してくるから僕はジャンプして避けるかもしれないよ」
「……」
というか、もうそれしかないのでは?と水波は思う。水波はそのままイザヤに向かって突撃する。
「はい、残念」
「え!?」
なんとイザヤの体を水波はすり抜けたのだ。しかも、振り向けた途端、足場が突如消えてリング外に落ちてしまった。
「今のは一体?」
水波は自分に何が起こったのかわからない状態であった。すると水波のそばに達也が近づき、話し出す。
「今のは、対象の位置をずらして見せる魔法だな。イザヤの立っている位置とリングの足場が本来ある場所を誤認させたんだ」
達也はイザヤの魔法を解説すると、
「さすがお兄様、見事な解説です」
「だからお兄様と、、まあいい」
言い返すのもめんどくさいといった感じで達也は諦めた。
「水波、前にも言っただろう、イザヤを甘く見るなと」
「すみません」
水波は深く後悔した。あれはよく考えたら、自分を誘い込むための罠だと気付けたはずだ。しかし、イザヤの口に乗せられてしまった。
「じゃあ、僕はこの辺で失礼します」
そう言ってイザヤはリングから降りて、シールドを置き、歩いてアイス・ピラーズ・ブレイク練習場へ足を運ぶ。
「どこへ行くイザヤ、勝手に行くな」
達也が止めようとするが、
「水波ちゃんほどの魔法力を有している魔法師なら、ほぼ確実にこの競技は優勝するでしょう。もし負けるとすれば、先ほど僕がやったような搦手ですね。それに気を付けさえすれば、負けはない」
イザヤは達也の静止も聞かず、スタスタと歩いていってしまった。達也は深くため息をつく。
(水波に言うべき事は、全部言われてしまったな)
てアイス・ピラーズ・ブレイク練習場に着いたイザヤが最初に目にしたものは、二十四本の大きな氷柱であった。
「イザヤ君、そんなところにいたら危ないですよ」
泉美がイザヤに早く離れるように注意する。
「泉美ちゃんこの氷柱誰が作ったの?」
「もちろん、深雪先輩ですよ」
泉美は当然です、といった感じで話した。
(さすが、氷の女王だ)
イザヤがそんな事を思っていると、
「あれ?なんでイザヤがここにいるの?」
イザヤがいることに雫は疑問に思う。
「シールド・ダウンの練習は?」
「抜けてきました」
「まったく、、」
イザヤの言葉に泉美はやれやれとしている。そんな泉美を横目に、
「というか、もう九校戦行かないでいいかなって思っているんですよね」
「「は!?」」
泉美と雫は、何を言っているんだコイツ、といった目をしてイザヤを見る。
「だって、この前の深雪先輩と雫先輩の試合を見たらさ、これ以上の面白い試合を当日は見る事ができないと思ったんですよ」
「……まあ、そうかもしれませんけど。私たちはこの学校の代表で行くんですよ、その自覚を持ってください」
泉美もイザヤの言葉に少々同意したものの、学校の顔として出場するので真面目にやれと言う。
「はいはい、わかりましたよ。けどね、泉美ちゃん。深雪先輩や雫先輩のことは、きっと優勝するから心配してないけど、君はどうかな?、舐めてかかって足元を掬われないようにね」
「二人がすごいのは十分承知しています。それに、余計なお世話です。イザヤ君に言われなくても、ちゃんとわかってますから」
そんな軽口を叩き合う二人を見て雫は、少し面白くないといった顔をしている。
そうして、九校戦の日がやってくる。