魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第十九話 イザヤ「なんか空気重たいけど、アイスコーヒー美味しいね」雫&泉美「……………」香澄「もう帰りたい」

 九校戦が終わって数日が経つ。イザヤは雫からのデートに誘われて、大型ショッピングモールに来ていた。休日なのでカップルや子供連れが多く見られる。雫との集合場所は一階の高い広場で待ち合わせである。

(少し早く来てしまったな)

イザヤは、集合時間よりも二十分早く着いてしまった。しかし、その集合場所には、すでに雫が立って待っていたのだ。

「お待たせしました、先輩」

「ううん、私も今来たところ」

「嘘言わなくていいですよ、一体何分早く待っていたんですか?」

「……四十分」

なんと雫は、集合時間よりも四十分早く到着していたのだ。それを聞いたイザヤは笑い出す。

「ハハハ、先輩、どんだけ楽しみにしてたんですか」

「…………」

イザヤに茶化されてムッとなった雫は、イザヤを置いて歩き出した。イザヤは雫を追いかける。

「先輩、最初はどこに行くんですか?」

「………二階の洋服店」

少し間をおいて喋り出す雫。どうやら機嫌が悪いようだ。イザヤはそんな姿にニコッと笑い、

「雫先輩、先輩が着る服、僕がコーディネートしていいですか?」

「…イザヤが?」

「ええ、先輩は今から僕の着せ替え人形です」

「…わかった」

雫の口角が少し上がる。どうやら、機嫌が良くなったみたいだ。こうして二人は、横に並んで二階の洋服店を目指して歩き出した。

 

 

 

 洋服店についたイザヤは、早速、雫のコーディネートに取り掛かる。雫はイザヤが珍しく真剣に考えている姿を横から見ていた。イザヤは服を手に取ると、

「これじゃないな」

そう言ってすぐに元の位置に戻す。この行動を何度か繰り返した後、イザヤは、カゴに雫が来て欲しい服を上下で何着か入れていく。

「雫先輩、お待たせしました」

そうして雫は、イザヤがカゴに入れた服を持って、更衣室に入って着替える。イザヤは更衣室の外で足を組みながら、じっと待っていた。すると、更衣室のドアが開いて、雫が現れる。

「……どうかな?」

雫がイザヤに聞く。イザヤは指を鳴らして、

「さすが僕、素晴らしい」

上は黒のレザージャケット、その中には白の無印のシャツ、下は青色のデニムパンツである。

「私、こんな服着た事ないんだけど」

「ええ、僕の趣味全開ですからね。これにしましょう」

「イザヤの趣味……うん、分かった」

なんとなく、イザヤの女性の服装の趣味がわかった雫は、小さく頷く。

「さあ、先輩、次はこれを着て下さい」

雫はイザヤが持ってきた服を受け取り、また更衣室で着替え始めた。数十分はこの繰り返しであった。

 

 

 

 「こんなに買ってもらっていいの?」

雫はイザヤが両手に持っている紙袋を見て言う。

「良いの良いの、あれから厳選して買ったから、本当は倍以上かかるところだったよ」

イザヤは雫に着せた服全てを買うつもりでいたが、流石に雫も遠慮して、買ってもらう服を減らしたのだが、それでも多い。

「もうお昼の時間だから、何処かに入ろう」

「そうですね、このショッピングモールの三階にイタリアンの店があるのでそこにしましょう」

雫はイザヤの提案に賛成し、その店で食事をとる事となった。店内に入ると、お昼時だからなのか、そこそこお客さんが入っていた。

「いらっしゃいませ、二名様ですか?」

店員が二人に近づいてきて、人数を聞いてくる。

「ええ、そうです。テーブルは空いてますか?」

「はい、ご案内します」

店員に連れられ、イザヤと雫はテーブルを囲い、椅子に座る。

「さあ、先輩何食べますか?」

「私はパスタにする」

「じゃあ僕はリゾットにしましょう」

二人は注文した品が来るまでの間、会話をしていた。

「イザヤはどこに住んでるの?」

「ノーコメント」

「じゃあ、どうやって『限界の壁』を破壊できるの?」

「僕の魔法です」

「あなたの魔法って何?」

「ノーコメント」

「……つまらない」

雫はそう言って紅茶を飲む。

「魔法の詮索は御法度ですよ」

「少しくらい、いいじゃん」

「まあ、いつか教えましょう、いつかね」

イザヤそう言って窓の外を見ながらアイスコーヒーを飲む。

「今日、来る前にお母さんに止められた」

「なんて言われました?」

「あの男と関わるなって」

「懸命な判断です」

「………………」

雫はイザヤの秘密主義に呆れていた。しかも、自分の母親の言葉にも賛成している始末。じゃあ私と二度と口を聞かなくても良いのか、と言ってやりたい。だか、本当にそうなったら自分が嫌であるので絶対に言わない。そして、雫はある疑問をイザヤにぶつける。

「イザヤは、深雪のことが好きなの?」

「はい、美しい女性とお近づきになりたいと思うのは、全男性が望む事だと思いますよ」

イザヤはニコッと笑い、飲み物に手をかける。

「嘘だね」

雫のその言葉にイザヤは口に運ぼうとしていたアイスコーヒーを持っている手が止まる。

「嘘とは?」

イザヤが聞き返す。

「イザヤ、深雪のことあまり良く思っていないんじゃない?」

雫はイザヤの目をじっと見る。イザヤも雫の目を見つめ返す。そして数秒後、

「完璧すぎてつまらないんですよ彼女は」

「どういう事?」

「僕は完璧という言葉が嫌いですが、それでも深雪先輩は完璧に近しい魔法師です。けどね、僕はそんな魔法師にあまり興味が湧いて来ないんですよ」

「じゃあ、どうして深雪を好きだなんて言うの?」

雫の言葉にイザヤはフッと笑う。

「あれは、達也先輩の反応を見て楽しんでいるだけですよ」

「そうなんだ」

雫はイザヤが深雪の事を好きではないと知って、少しホッとした。

「僕が興味があるのは、僕を楽しませてくれる人間。そして、自分の身の丈を超え、さらに上を目指そうとする向上心のある人間です」

そう言ってイザヤは、ようやくアイスコーヒーを飲むのだった。するとそこへ、

「お待たせしました」

店員が注文した料理を持ってきた。

「さて先輩、食べましょう」

「うん」

こうして二人は仲良く昼食を食べるのだった。

 

 

 

 昼食を終えると、イザヤと雫は五階の映画館で映画を見ることになった。

「この夏おすすめの映画、ホラー映画なんてどうでしょう?」

「うん、ホラーは久しぶり、それにしよ」

二人は映画のチケットを購入するために、チケット販売機に歩いていく。しかしそこに、

「え?イザヤ君?」

「あれ?なんでここにいるの?」

七草の双子とばったりと出くわしたのだった。

「おっ、泉美ちゃんに香澄ちゃん、二人も映画見に来たの?」

「……イザヤ君、なんで隣に北山先輩がいるのですか?」

泉美は少しジト目になりながら、イザヤに質問する。

「僕は今、雫先輩とデート中なのさ」

イザヤは泉美に対してニコッと笑いかける。

「へぇー、そうですか、なるほど、そうですか」

泉美は周りの空気がどんどん冷たくなっているような気がした。決して、深雪の様な魔法を使っているわけじゃないのに。

「それは良かったですね、イザヤ君」

泉美はそう言いながら、イザヤの靴をグリグリと踏むのだった。

「まあ、僕がモテモテだからさ、それは仕方ないよね」

そんな事お構いなしに、イザヤは泉美に言葉を返す。泉美はイザヤの靴を踏む力を強めるのだった。そんな二人を置いといて、香澄は雫と話す。

「北山先輩、イザヤ君と本当にデートなんですか?今、光井先輩と別行動とか?」

香澄はそう聞いてくるが、雫はハッキリと言う。

「うん、デートだよ、私から誘ったの」

その言葉に香澄と泉美は驚いた表情を浮かべる。

「……そうですか」

泉美は下を向き、深く落ち込んだ声を漏らす。そんな泉美を見兼ねて、

「じゃあイザヤ君、今度の土曜日は泉美とデートしてよ」

「え!?香澄ちゃん」

香澄はイザヤに強い視線を向ける。絶対に断るな、そんな目をした香澄に、

「泉美ちゃんが良いなら、それでいいよ」

「え!?」

「じゃあ決まりだね、ほら泉美、もう行くよ」

香澄は泉美の手を引っ張り、映画館に入っていくのだった。

「まさか、こんな所で会うとはね」

「……そうだね」

雫は七草の双子の片割れ、香澄に手を引かれる泉美をしばらく見つめていた。

 

 

 

 香澄は泉美の手を引いて、映画を見る座席に座るのだった。

「まさか、こんな所で二人がしてるなんてね」

香澄は椅子に座りながら、横にいる泉美に話しかける。

「…そうですね」

泉美の声には元気がなくなっていた。香澄はため息をつく。

「元気出してよ、泉美。北山先輩がイザヤ君のことが好きなのは、薄々気づいていたことじゃない」

「そうですけど、」

雫がイザヤのことが好きだと思った根拠は、雫の目である。誰かを想う目をしていた。それは、奇しくも自分も同じ相手を想っているからこそ、気づけたのかもしれない。

「それに泉美もイザヤ君とデートするんだから」

「香澄ちゃんが勝手に決めたんでしょ」

「泉美の姿が見ていられなかったからだよ。しかし、イザヤ君、泉美に飽き足らず北山先輩まで、女の敵だね」

「……イザヤ君は、そんなつもりはないと思いますが、」

泉美はイザヤをちゃっかり擁護する。

「あんなよくわからない男のどこがいいの?」

「それは………」

「いや、やっぱりなんでもない、今は忘れよ」

香澄は前を向いて映画の上映が始まるのを待つ。泉美もそれに倣い、前を向く。泉美は心の中で香澄に感謝した。今はあの二人のことは忘れて映画に集中しようと決めた。しかし、

「この席だね、イザヤ」

「あれ?まさか、」

香澄と泉美が横を振り向くと、雫とイザヤがいた。なんと、泉美の横の一個席を空けた隣の場所がイザヤが座る席だった。二人の登場に香澄は、頭に手を置いて天井を見る。泉美は、居心地が悪くなる。それは、雫も同じである。映画が終わるまでの間、とても気まずい雰囲気が流れた。ただ一人、この状況に笑いを堪えていた奴がいた。

 

 

 

 映画が終わると座席から立ちがあり、次々に人が退室していく。しかし、四人は一向に立ち上がるそぶりを見せない。ついに、イザヤ達だけになると、

「ほら泉美、行くよ」

「…はい、香澄ちゃん」

香澄が泉美に声をかけ、少し遅れて泉美が返事をして立ち上がる。

「泉美ちゃん」

イザヤが泉美を呼び止める。泉美はイザヤの方に顔を向ける。

「今日の夜、連絡するから忘れないでね」

「…はい」

イザヤにそう言って、泉美は香澄と共に退室した。雫とイザヤはしばらく座っていた。また泉美達と遭遇することを回避するため。そうして、

「さて、僕たちも行こうか」

「うん」

 

 

 

 ショッピングモールを出ると、辺りは夕暮れ時であった。雫とイザヤは、一緒にキャビネットに乗って、雫の家に向かっていた。

「ありがとう、イザヤ」

「いえいえ、こちらこそ。それに、あまり遅くなるとご両親が心配するでしょうから」

「…そうだね」

イザヤの事を雫の両親、特に母親の紅音はよく思っていないので、雫は少し気まずそうな顔をした。それを紛らわすために、

「少し眠たくなってきた、イザヤ、肩貸して」

「構いませんよ」

雫は目を瞑り、イザヤの肩に頭をのせる。そのまま、眠ってしまった雫を横目に見ながら、イザヤは星を眺めるのだった。

 

 

 

 泉美は家に帰った後、夕食やシャワーを済ませ、ベッドに横になっていた。顔をすぐ横にはスマホがあり、いつでもイザヤから連絡が取れる体勢になっていた。今の時間は午後九時。イザヤから連絡は来ていない。

(遅いですね、イザヤ君。もしかしてまだ、北山先輩と遊んでいるのでしょうか?)

よからぬ想像が頭の中に浮かぶが、顔に枕をくっつけて、足をバタバタとさせる。

(なんで連絡して来ないんですか、イザヤ君)

泉美は段々、イザヤに腹が立ってきた。あのいつもニヤニヤとした顔を作り、人を馬鹿にして遊ぶあの男が。泉美は枕をテンポよく殴っていた。そんな時、電話が鳴る。泉美はすぐに応答ボタンを押し、耳に当てる。

「もしもし」

「あっ、泉美ちゃん、まだ起きてた?」

「ちゃんと起きてましたよ。夜に連絡するとあなたが言ったんじゃありませんか」

「そうかい?僕からの連絡がなかなか来ないから、腹を立てて枕を殴っていたと思っていたよ」

「…そんなことありません」

泉美は否定したが本当はその通りであった。この男はどこかで私を見ているんじゃないかと、泉美はつい周りを確認してしまった。

「わかったよ、じゃあ今度の土曜日の事なんだけど、泉美ちゃんはどこか行きたいところとかある?」

「……………」

どこに行きたいか、泉美はどこも考えていなかった。

「……イザヤ君はどこか行きたい所、ありますか?」

「そうだね、暑いから涼しいところがいいね」

泉美はイザヤの言葉を聞いて、しばらく考える。

(ショッピングモールで買い物は北山先輩と既に行ってるし、他に行くとすれば、、、)

泉美は少し頬を赤く染めて、

「…なら、プールとかどうですか?」

なかなか思い切りのある泉美である。

「プール?いいね、じゃあ決まりだ、おやすみ」

イザヤはそう言って電話を切る。泉美はしばらくスマホを見つめ、

(何を着てけばいいんでしょうか)

その後、香澄と真由美に相談した。しかし、真由美はイザヤの事で泉美に質問攻めするのだった。

 

 

 

 イザヤは泉美との集合場所に三十分も早く到着していた。泉美の姿はまだ見られない。

(流石に今回は、僕の方が早かったね)

何故か勝ち誇った様子のイザヤである。イザヤが到着してから十分後、泉美が現れる。

「お待たせしました、イザヤ君」

「いや、今来たところだよ」

イザヤはニコッと笑い、泉美に言い返すが、

「…嘘ですよね、本当は集合時間より何分早く来ていたんですか?」

今回は自分が聞かれる番なのかとイザヤは思う。

「三十分前から来てるよ」

そんなイザヤの言葉に泉美は、フフフと笑い出す。

「イザヤ君、そんなに私とのプールを楽しみにしていたんですか?」

泉美はニヤニヤとしてイザヤを見たが、

「そうだよ、頭の中で泉美ちゃんがどんな水着を着て来るのか、妄想していたんだよ」

「な!?」

イザヤの言葉を聞いて、泉美は顔を真っ赤にする。口をパクパクと動かす泉美を見て、

「泉美ちゃん、こんな事で恥ずかしがってると、いつまでも僕に口で勝てないよ」

「………まったくもう」

顔を膨らませ、怒る泉美にイザヤは笑う。

「さあ、行きましょうイザヤ君」

「ああ、行こうか」

 

 

 

 土曜日ということで、プールには人が大勢いた。イザヤは泉美と着替える為に一度別れて、先に更衣室を出ていた。イザヤは近くのベンチに座って、泉美を待っていた。イザヤは、更衣室から子供達が出てきて、走り回るのを親が止めているのをジッと見つめていた。

「お待たせしました」

いつのまにか、泉美が女子更衣室から出てきていた。イザヤは泉美の方に顔を向けると、ヒューと口笛を吹く。

「へぇ可愛いじゃん、泉美ちゃん」

「…ありがとうございます」

泉美は恥じらいつつも、イザヤの言葉に頬を赤く染める。泉美の水着は、上下ピンク色であった。少女趣味のある泉美にはお似合いかもしれないとイザヤは思う。

「さあ、早速入ろうか」

「ええ、そうしましょう」

二人はプールに入り、楽しく泳ぐのだった。

 

 

 

 しばらく二人で泳いだのち、お昼時になったので泉美を適当なベンチに座らせ、イザヤは屋台に食べ物を買いに行った。泉美は、プールではしゃぐ子供達の姿を見ながら、イザヤを待っていた。するとそこへ、

「ねえ、君、もしかして一人?」

泉美よりも少し年上な男二人が、泉美に話しかけてきた。

「もし一人なら、俺たちと遊ばない?」

いわゆるナンパである。泉美は、容姿が優れているのでこのような事は初めてではない。

「いえ、友達と来ているので大丈夫です」

泉美は男達と目を合わせない。顔を見るのもイヤである。

「もしかして、男待ってるの?こんなに可愛いのに一人待たせているなんて酷いな。俺たちならそんな思いさせないのに」

「ねえねえ、もっとよく顔を見せてよ」

男二人に近づかれて、泉美は睨みつける。

「大丈夫だと言っているでしょう、早くどこかに行ってください」

「睨む顔も可愛いなー、ちょっと違うところで遊ばない?」

泉美はこの男達に吐き気がして来る。男達が泉美に向かって手を伸ばそうとした時、

「そうだよねー、僕たち三人でこの子、連れていかない?」

男達の後ろからさらに違う男が現れる。その姿を見て、泉美はホッととした。

「なんだお前?」

「だからさー、この子と今から遊ぶんでしょ、だったら僕も混ぜて欲しいなーと思ってさ」

イザヤはニコニコとしながら男達に話しかける。

「何言ってんだお前?早くどっか行けよ」

一人の男が強い口調でイザヤに言うが、

「じゃあ、君たちがどこかに行ってね」

イザヤは右手の人差し指を空に向かってクルンと回すと、男達が回れ右をし始めた。

「あれ?」

「なんだこれ?」

男達は体の自由が聞かないことに戸惑っている様子だ。

「ちょっと遠くまで行ってきてよ」

イザヤが人差し指で何もない空中で線を引くと、その線を引いた方向に男達が歩き始める。

「おい、どうなってんだこりゃ!?」

「か、体が勝手に!?」

男達はイザヤ達から見えなくなるまで何処かへ歩いて行った。

「おまたせ、泉美ちゃん」

「……今のは、魔法ですか?」

「そうだよ、ちょっと面白いでしょ」

そう言ってイザヤは泉美の隣に座り、屋台で買った焼きそばや唐揚げを一緒に食べ始めた。

「もっとカッコいい登場はなかったんですか?」

泉美はイザヤに、アレは無い、と言った。

「ちょっとびっくりした?あのまま連れていかれると思った?」

「そんな事になる前に自分で自衛しました」

「CADもないのにどうやって?」

「………」

泉美は今、自分の手元にCADがない事を忘れていた。常に持っている物なので、つい持っていると勘違いしてしまったのだ。

「自分がいかに危険だったのか、わかって良かったね」

「でも、そうなる前にイザヤ君が守ってくれると信じていましたから」

「信頼度高いなー、僕。もし裏切られたら、君はどんな顔をするんだろうね」

「イザヤ君は私を裏切らないで下さいね」

「それは、約束できないな」

イザヤは泉美の目を見つめる。泉美もイザヤの目を見つめる。互いに見つめ合う時間はほんの数秒であったが、それでも何かを感じとった泉美は、

「私はいまだに貴方のことをよく理解できていません。でも、私は信じてますから」

泉美の真っ直ぐな瞳に映るイザヤはいつもの笑顔ではなく、真剣な顔つきになっていた。イザヤは目を閉じるフッと笑い、

「君は怒ると怖いからね、そのような事が無いように心がけるよ」

「心がけるではなく、しないで下さい」

そのまま二人は、お腹を満たした後、再びプールで泳いだのだった。

 

 

 

 泉美が家に帰ると、自分の父である七草弘一に呼ばれて父の部屋に来ていた。

「座りなさい、泉美」

「はい、お父様」

泉美はソファに腰掛けて七草弘一と対面で座る。

「さて泉美、こんな時間までどこに行っていたのかな?」

「お友達と遊びに行っていました」

「その友達と二人で?」

「はい、二人です」

七草弘一に質問攻めされている泉美は、自分が何か悪いことをした気分になっていた。

「泉美、私もその友達が女の子ならば、何も言う事は無いんだよ。しかし、今日一緒に遊んだのは男の子だね。しかも、市民プールで」

「………お姉様と香澄ちゃんから聞いたのですか?」

「二人を怒らないであげてくれ、私は純粋に父親として、お前が心配なんだ」

心配、そう言われると泉美は何も言い返せない。

「その男の子の事を私に教えてくれないかい?」

七草弘一がそう言うと、泉美はポツポツと喋り始めた。

「…その子の名前は折紙イザヤと言います」

「折紙イザヤ君か、それで?」

「………彼は子供っぽくて、よく私や一高の先輩を揶揄って遊んでいます。それに、秘密主義の部分もあり、私も彼をよく知っているとは言えません。ただ、、」

「ただ?」

「……彼の魔法師としての実力は計り知れません。それこそ、私の知っている十師族の人間の中で、彼に勝てる人間はいないと思っています」

泉美のその言葉に七草弘一の目は、より一層鋭くなる。

「ほう?それは十文字克人や一条将輝でもか?」

「はい、失礼ですが勝負にならないと思います」

その言葉を聞いて七草弘一はしばらく考えるようなフリをして、

「泉美、その折紙イザヤという子を一度家に連れてきなさい」

「え?」

「泉美がそこまで言うんだ。私も興味がある」

「はい、分かりました」

「もう部屋に戻っていなさい」

泉美はソファから立ち上がり、頭を下げた後、部屋の扉のドアノブに手をかけようとした時、七草弘一の方に顔を振り返る。大事な事を伝える為に。

「お父様」

「なんだい、泉美?」

「さっきのイザヤ君のことですが、、」

まだ何か言いたい事があるのか、七草弘一は泉美を見る。

「お父様がイザヤ君と何を話されるかは自由ですが、彼を子供だからと侮らないで下さいね」

「どういう意味だい?」

「お父様だからといって、彼に足元を掬われるかもしれません。それこそ、この七草家を危険に貶める事になるやもしれません」

七草弘一は泉美の言葉に少々疑問が残る。

「泉美、お前はその子と友人なんだろう?もし彼にその力があったとしても、お前の居場所を失わせるような行為をするのかい?」

その言葉に泉美は、

「私や香澄ちゃんがいたとしても、彼は何の躊躇もしないと思います。いつもの様に笑った顔を見せて……」

そう言って泉美は今度こそ部屋から出ていく。七草弘一は、さっきの泉美の言葉を聞いて、

(少し調べてみるか、、)

そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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