第二十話 イザヤ「ねえ深雪先輩、書記長ってなんですか?」深雪「簡単にいうと、貴方よりも立場は上ね」イザヤ「what?」
新学期になり、前任の中条あずさは生徒会を降り、新しい生徒会長が選ばれた。生徒会会長は司波深雪になった。まあ、当然の結果である。なんせ生徒会選挙では100%の信任を得たのだから、誰も文句は言わない。というか、言えない。
「さて、新学期も始まり、生徒会も変わりました。生徒会会長は私、司波深雪、副会長には泉美ちゃん、会計にはほのか、書記には水波ちゃんとイザヤ君、そして、書記長はお兄様、この六人で新たな生徒会を務めたいと思います」
「はい、質問です。生徒会長」
イザヤは、会長席に座る深雪に質問する為に手を挙げる。
「はい、何でしょうか、書記のイザヤ君」
「僕の役職は以前と変わっていないんですが」
「それは私と泉美ちゃんが考えた結果、イザヤ君にはその役職がふさわしいという結論に至りました」
深雪と泉美が以前、生徒会の構成を考えた時、泉美が「イザヤ君が今以上の高い役職に就くと、職権濫用するかもしれませんので、今のままでいいです」という言葉で決まったのである。
「あー、はい、そうですか。なら次の質問です」
自分が書記のままである事に何となく理解したイザヤは次の質問に入る。
「何でしょう?」
「達也先輩の書記長とは何ですか?」
「書記長というのは通称であり、正式には書記です。しかし、イザヤ君よりも立場は上です」
「what?」
「貴方よりも立場上です」
二回言われた。イザヤは視線をスライドして達也の方を見る。達也は「俺が言ったんじゃ無いぞ」という目をしてイザヤに訴える。イザヤはフッと笑い、
(このブラコン妹め)
と心の中でつぶやくのだった。
「深雪先輩、私は副会長として深雪先輩を全身全霊で支えていきたいと思っています!イザヤ君のことはお任せください。何かあったとしても、すぐに懲らしめますから!」
泉美はいつもの様に、深雪の事になるとストップが効かない。
(いざという時に、僕の味方になる人はいないな)
この生徒会は実質的に深雪と達也が権力を握っている。泉美は言わずもがな、ほのかと水波は達也達に常に味方するので、イザヤが何かしたとしても誰も味方にならず、5対1の構図となるわけである。
(ちょっと、肩身狭いかなー)
いつにも増して体を小さくするイザヤであった。
新生徒会役員の選出が終わると、いよいよ論文コンペの準備が始まる。しかし、達也はそれとは別にやらなければならないことがあった。放課後、九島邸に訪れる用があるのだ。
「雫」
達也は生徒会に遊びに来ていた雫に声をかける。
「何?」
「ほのかをしばらく泊めてやってくれないか?」
その言葉に雫は何か危険を察知したのか、
「何かあったの?」
「実は昨日、駅を降りたところで何者かに襲われたんだ」
達也はそう説明すると、
「そんな!?深雪先輩、お怪我はありませんでしたか!?」
大声をあげて泉美は椅子から立ち上がり、深雪に問い掛けた。
「大丈夫、私もお兄様も水波ちゃんも傷ひとつついてないわ」
泉美は深雪のその言葉に胸を撫で下ろして椅子に座る。
「怪我はなかったが、なぜ襲われたのか分からないんだ」
「誰なのかもわかっていない?」
「古式の魔法師としか分かっていないわ」
雫の疑問に深雪が代わりに答える。
「それだけ?何か心当たりは?」
「いいえ、なぜ襲われたのかわからないの」
雫と深雪の会話を聞いていたほのかは、ある考えに至った。
「達也さん個人が狙われたんじゃなくて、一高の生徒会が狙われている可能性があると言うことですか?」
「その可能性はあるかもしれない。だから、一人になるのは避けた方がいい」
雫はほのかの震える肩に手を置いて、
「わかった、ほのか、今日は家においで」
「……うん、そうする」
ほのかは雫の手に自分の手を重ね、少し安心した顔をした。
「イザヤ君、余計な心配かもしれませんが、あなたも気をつけてくださいね」
達也たちが話している時でも、手を止めずにデスクで仕事をしているイザヤに深雪は話し掛ける。
「ええ、深雪先輩、貴方も気をつけて」
深雪の方を見ずに、そう返事するのだった。
達也と深雪の話から翌日の事。
「イザヤ君、少しお願いがあるのですが」
午前の授業を終え、泉美は横で昼食を食べているイザヤに話しかける。
「なに?泉美ちゃん」
イザヤは横目に見て、泉美のお願いとやらを聞く。
「何処か空いている日がありましたら、私の家に来てくれませんか?」
「え?イザヤ君を家に招待するの?」
泉美の横で食べている香澄がそう聞いてくる。
「ええ、お父様がぜひ会いたいと言ってまして」
「ふーん、君たちのお父さんがね、、」
イザヤはそう言いながら食事を続ける。
「会ってはもらえませんか?」
そう聞いてくる泉美に、
「それ、絶対行かなきゃダメ?」
イザヤの言葉に泉美は少し困った表情を浮かべる。
「絶対、という事では無いのですが、もし断ったら、イザヤ君の周りをお父様は色々と調べるかもしれません」
泉美の言葉に香澄は、それって脅迫じゃない?と思った。
「残念だけど、僕の事を調べても何も出てこないよ。全て偽造されてるしね」
「「え?」」
その言葉を聞いて、香澄と泉美は驚いて固まっている。そんな二人を気にせず、イザヤは昼食を食べている。
「それって、言ってもいいものなの?」
香澄は恐る恐る聞いてみるが、
「僕にとっては、バレても問題ないよ」
「そ、そうなんだ」
「………………」
この男を理解しようとすると、わからない事が次々と増えていくと泉美は思う。しかし、わからない事から目を背けようとはしない。
「それでイザヤ君、お父様と会ってもらえないのですか?」
「そんなに来て欲しいの?」
「ええ、わたしも少し貴方と話がしたいんです」
「……………わかったよ、都合が合う日があれば、また言うよ」
「わかりました」
泉美は昼食を食べ始める。一方、昼食を食べ終えたイザヤは、泉美が食べている姿をジッと見つめるのだった。
今回の奈良訪問で周公瑾の捜索に関しては良い成果をあげられなかった。しかし、日本魔法の長老の九島烈との協力を取り付け、その孫の九島光宣との出会い、大勢の古式魔法師の待ち伏せなど、濃い土日を過ごした達也だが、平日になり学校に来ると、講堂で五十里啓からの論文コンペの手伝いに駆り出されていた。今日も今日とて、お兄様は忙しいのだ。
「はぁ」
達也は講堂の裏手で、誰もいないところで一人ため息をつくが、
「先輩、お疲れのようですね」
何処からかイザヤが出てきた。自分は誰もいないことを先ほど確認したばかりなのに。
「…イザヤ、一体何処から現れた?」
「僕が近づいて来る事にも気付かないなんて、よっぽど疲れているんですね」
心配だなー、と言うイザヤはいつものようなニコニコと笑っている。達也は疲れているが、誰かが近づいて来る気配を察知出来ないほど疲れてはいない。しかし、イザヤは突然現れた。入学当初の試合の時みたいに。
「この土日何してたんですか?」
「お前に教えて何になる?」
「そんなツンケンしてると、周公瑾を捕まえることはできませんよ」
「!?」
達也は目を大きく開いて、イザヤを見る。何故、この男は自分が周公瑾を追っていることを知っているのかと。
「……何故知ってる?」
「そう顔に書いてありました」
「……………」
聞くだけ無駄かと達也は思った。
「まぁ達也先輩なら、周公瑾くらいすぐに見つけれますよ。しかし、甘く見て足元掬われないで下さいね。特に、『鬼門遁甲』にはね」
「『鬼門遁甲』?」
「じゃ、先輩頑張って下さいね」
イザヤは自分が言いたい事だけ言って、そのまま何処かへ歩いて行った。
論文コンペで忙しい第一高校が、別のざわめきに覆われていた。元生徒会長の七草真由美が十師族として司波達也に面会しに来たのである。達也と真由美は来賓用の応接室で話している。二人で何を話しているのやら。学校の生徒達はしばらくこの噂で持ちきりであろう。イザヤが生徒会室に入ると、、いつもの部屋の雰囲気とは違うと即座に理解した。何故か皆、口数が少なく、ソワソワしている感じがする。特に、生徒会会計を務める人間が。
「あれ?達也先輩来ていないじゃん」
イザヤが周りを見渡し、達也が来ていないことを皆に聞く。
「イザヤ君、お兄様は応接室でお客様と話されています」
会長席で報告書をまとめている深雪がイザヤに返答する。
「客?誰です?」
「私のお姉様です、イザヤ君」
「あー、真由美さんね。何を喋っているか気になりますね。ちょっと聞き耳立てに行きましょうか。ほのか先輩」
「え!?」
ほのかは自分に話を振って来るとは思っておらず、体をビクンとさせて驚いた。
「気になるでしょ、何話してるか」
「それは………」
「イザヤ、ほのかをイジメないで」
ほのかがイザヤに遊ばれていると思った雫は、少し怒った表情を作り、イザヤを叱る。
「やだなー、イジメてるなんて。気になってるほのか先輩を誘っただけなのに」
「イザヤ君、本当に盗み聞きしてはいけませんよ」
深雪もイザヤに注意する。イザヤなら本当に盗み聞きするかもしれないと。
「冗談ですよ」
「貴方が言うと冗談に聞こえません」
イザヤは自分の席に座り、割り振られた仕事をこなしていく。しばらくすると、達也が生徒会室に帰って来た。すると、イザヤを除く、深雪を始めとする生徒会の皆が達也に駆け寄って来る。
「司波先輩」
最初に口火を切ったのは、泉美であった。
「どうした泉美、何か分からないことがあるのか?」
「違います!」
達也はとぼけてみるが、泉美は真っ向から否定した。
「お兄様、一体真由美さんと何を話されていたんですか?」
ここにいる皆が聞きたいことを、妹である深雪が達也に聞いた。
「どうやら先輩も今回の論文コンペが開かれる京都にちょうど用があるらしくてね」
その言葉に泉美はピクリと身体を震わせる。その姿をイザヤは横目で見ていた。どうやら、七草真由美も論文コンペの下見に同行したいらしい。しかし、何故なのか教えてくれなかったため、お断りしたとか。
「達也さん、七草先輩が頼ってきたという事は、よっぽど大事な事じゃないですか?それに、魔法大学には十文字先輩や市原先輩もいるのに、わざわざ達也さんに頼ってきたという事は、それほど七草先輩に頼りにされていたんじゃないでしょうか」
ほのかの言葉に泉美はウンウンと頷く。
「……そうだな」
その後も達也達は話を続けていたが、イザヤはどうでもいいのか、仕事が終わると、デスクで最新のニュースを眺めて時間を潰していた。するとそこへ、
「イザヤ」
達也がイザヤを呼ぶ。どうやら話は終わったみたいだ。
「俺や深雪、水波がいない間はここを任せてもいいか?」
「ええ、ほのか先輩と泉美ちゃんと楽しくやってますよ」
「……わかった」
達也達が論文コンペの下見に行ってる間、残る生徒会役員は変わらず書類の整理や風紀委員会からの報告書等の仕事に明け暮れていた。
「まったく、一気に三人が居なくなると、途端に忙しくなったね。泉美ちゃん」
「口を動かさずに手を動かしてください。イザヤ君」
「イザヤ、後からもお願い」
「雫先輩、ヘルプで来たんだから少しは頑張って下さいよ」
「雫、もう少しだけ頑張って」
三人の空いた穴は大きかった。生徒会役員のイザヤ、泉美、ほのかそして助っ人(半分遊びに来た)に来た雫の計四人で閉門までに終わらして行く。
「終わったら、いつもの喫茶店に行きましょう」
「賛成」
「雫、これもお願い」
「イザヤ君、手だけじゃなくて足も動かして下さい」
「そんな無茶な」