魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第二十七話 イザヤ「サブタイトルで遊ぶなよ!」泉美「イザヤ君、誰に対して言っているのですか?」

 泉美は激怒した。必ず、あの性根が腐りしイタズラ男に鉄槌を下すことを決意した。泉美にはイザヤがわからぬ。泉美は十師族に名を連ねる七草家の三女であり、常にお淑やかで可愛らしい女性として皆から認知されていた。けれども、ことイザヤに関しては、人一倍敏感であった。泉美は朝から、淑女にあるまじき鬼の形相で廊下を闊歩していた。廊下ですれ違う生徒たちは皆、振り返ってその姿を見て驚愕する。香澄はそんな泉美の姿を後ろから見て深くため息をつく。自分の妹が、あんな男に感情を揺さぶられるとは、思いもしなかったのである。妹に春が来たと喜んでいいものか悩んでいる。だってイザヤだもん。

(どこにいるのですか、イザヤ君)

校内の廊下、中庭、図書館、どこを探してもイザヤは見つからない。明日来ると言っていたのは嘘だったのか。いや、絶対どこかにいるはずだ。泉美はチャイムが鳴る三十秒前まで探し続けた。そして居たのである。奴は教室の席に座っていたのだ。

(いつの間に、、)

そう思ったのも一瞬、泉美はスタスタと歩いて席に座る。

「おはよう、泉美ちゃん」

イザヤが泉美に挨拶をする。腹立たしい気持ちをグッと堪えて、笑顔で対応する。

「おはようございます、イザヤ君」

笑顔なのだが、眉間に皺が寄っている顔の泉美にイザヤは鼻で笑う。自分の心を見透かされたと思った泉美は、さらに笑顔が怖くなる。しかし、ここでチャイムが鳴り、授業が始まる。泉美は教卓に体を向けて授業を聞く姿勢に入るが、目だけはイザヤを見ていた。

(怖すぎ)

 

 

 

 午前最後の授業の途中、イザヤは手を上げた。

「先生、気分が優れないので保健室に行ってもいいですか?」

横にいた泉美は「は?」という顔をしていた。先生も少し悩んだ末、

「分かった。行ってきなさい」

「ありがとうございます」

イザヤはおもむろに立ち上がり、教室から出ようと扉を開ける。しかし、

「先生、申し訳ありませんが私も気分が優れません。なので、保健室に行ってもよろしいでしょうか?」

今度は泉美が手をあげて、調子が悪いと主張する。イザヤは泉美の言葉に目を開く。先生はイザヤの時よりも心配する。

「七草さん、大丈夫なのですか?」

「はい、少し横になれば良くなると思います」

「そうですか。それでは、誰かついてあげて「結構です」え?」

食い気味に話された泉美の言葉に先生は困惑する。そんな先生を置いて泉美は立ち上がる。泉美が立ち上がったと同時にイザヤは教室から出ていく。泉美も教室から出てイザヤの後を追いかける。二人の距離は約三メートル。ジリジリと近づいてくる泉美に、イザヤの歩くスピードが速くなる。泉美もスピードを上げる。そんな泉美に、イザヤはまたも歩くスピードを速める。泉美も速くなる。最終的に、二人は廊下を走っていた。

「体調が悪いのになんで走ってるの?」

「それは、こっちのセリフです!」

逃げるイザヤ。追いかける泉美。二人の壮絶な鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 隣のクラスで授業を受けている香澄は、少し退屈気味であった。別に授業がつまらないという事ではないが、香澄は座っているよりも、体を動かす事が好きな活発な少女である。

(早くお昼休みにならないかな)

廊下側の席である香澄は、特に理由もなく窓越しに廊下へと顔を向ける。すると、視界の端からイザヤが、そして後から泉美が現れたのだ。突然の事で、香澄の脳は状況を理解するのに数秒の時間が必要だった。

「は?」

香澄は思わず声を出してしまった。香澄の脳が理解に追いついた時には、すでに二人は走って消えていた。

(今の……イザヤ君と泉美だよね。まだ授業中なのに何してんの?)

完全なる授業放棄である。香澄は、泉美がイザヤの悪い影響を受けてしまったと、一人頭を抱えていた。水波は香澄が頭を抱えている姿に、首を傾げるのだった。

 

 

 

 イザヤの走る速度に、運動能力が劣る泉美が追いつける事はまずない。そのため、泉美は自分自身に加速魔法を掛けて追いかける。しかし、一向にイザヤに追いつける気配が無い。それもそのはず、イザヤも魔法を使用し、同様に加速していたのだ。校内での魔法の使用は限られている。本来、トラブルへの対処や何らかのやむを得ない理由に限り、魔法の使用が認められている。しかし、この二人は明らかにその範疇を超えている。ましてや、生徒会役員の一員であるのにも関わらず、バレたら非常にまずい事であるのを、この二人は分かっているのだろうか。

(参ったな、少し面白くなってきた)

イザヤはこの状況にワクワクしていた。泉美がこの様な手段を用いてくるのが全くの予想外だったのだ。イザヤにとっては、泉美を振り切る事など容易なのだが、もう少しこの状況を楽しみたいと思っていた。

(少し遊ぶか)

イザヤは、泉美が次に足が付くであろう廊下の特定の場所にある魔法を掛けた。すると、泉美が足がついた瞬間、盛大に足が滑って転ぶのだった。

「きゃあ!?」

泉美が転んだ瞬間、イザヤが仕掛けた魔法に自分が掛かったことを理解した。足がついた場所の摩擦係数をゼロにしたのだ。転んだ瞬間に目にしたのは、イザヤの笑っている顔。泉美をますます怒らせることとなった。

「イザヤ君!絶対に許しません!」

「来なよ泉美ちゃん、まだまだ遊び足りないよ」

泉美は起き上がると、再びイザヤを追いかけ始める。イザヤはその姿を見て階段を降りていく。

(一体、どこへ逃げるつもりですか)

泉美はイザヤに続いて階段を下っていく。鬼ごっこはまだ始まったばかりである。

 

 

 

 二年A組の授業は実技棟で行われていた。深雪は、実技ではトップクラスの成績を収めている。皆が深雪の魔法に見惚れる中、雫は自分の番が終わったので窓の外を眺めていた。

「雫」

深雪が雫を呼ぶ。この声に反応して雫は窓の外から深雪に視線を移す。

「深雪、終わったの?」

「ええ、少し退屈だったわ」

深雪ほどの魔法力を有していれば、学校の実技など軽くこなしてしまう。しかし、それは雫も同様である。雫は、自分の魔法力がイザヤのおかげで格段に上がってから、物足りなく感じていた。もっと自分の力を出したいという欲が溢れていた。

「私も同じ。もう一度、深雪と戦いたいくらい」

その言葉に深雪は微笑む。

「そうね、私もリベンジしたいわ。次は来年ね」

そんな会話をしていると、深雪はふと窓の外を覗く。

「何かしら、あれ?」

深雪の発言に雫も何の事かと窓の外を見る。するとそこには、泉美がイザヤを追いかけている姿が見えるではありませんか。

「あれ?今、授業中だよね?」

「あの二人、一体何をしているの。しかも、明らかに魔法を使用しているのだけれど…」

最悪の場合、停学じゃ済まされないかもしれないと深雪は顔面蒼白となった。しかも二人は生徒会役員であるにも関わらず、あの様な行為に及んでいる。

「私、叱りに行ってくるわ」

イザヤと泉美のあり得ない行動に、深雪は怒りの表情を浮かべる。雫は怖くなってほのかを呼ぶ。

「み、深雪、何で怒った顔をしているの?」

実技が終わって雫に呼ばれたほのかは、深雪が何で怒っているのかわからず、そう尋ねる。

「ほのか、外を見ればわかるよ」

雫は外を指差してそう伝える。しかし、窓の外を覗くほのかは首を傾げる。

「外に何があるの?」

「え?、イザヤと泉美がいるでしょ?」

「何言ってるの雫。イザヤ君も泉美ちゃんもいないよ」

「「え?」」

ほのかのその言葉に深雪と雫は揃って窓の外を見るが、さっき見た通り、イザヤと泉美がいた。誰が見てもわかる場所に。

「ほのか、二人が見えないの?」

「雫、揶揄ってるの?人一人いないじゃない」

ほのかは冗談を言っている様には到底見えなかった。では、深雪と雫が見ている二人は何なのか。二人は揃って首を傾げる。

(もしかして、これもイザヤ君の魔法かしら?)

正解に辿り着いた深雪は、心の中で呟く。実際、イザヤと泉美の周りには、ある一定の魔法力を有している人間にしか、その姿が見えない魔法が発動されていたのだ。

(イザヤ、楽しそう)

雫はイザヤの笑っている顔を見て、泉美が羨ましくなった。雫はイザヤとは学年が違うので、会う頻度が少ない。それに対して泉美は、同じクラスで同じ生徒会であるので、イザヤと会話する頻度は雫よりも必然的に多くなる。その分、イザヤの人柄をよく理解しているのだろう。

(私も負けていられないな)

改めて決意する雫であった。

 

 

 

 そろそろ午前の授業が終わる頃である。鬼ごっこもいよいよ大詰めとなった。イザヤと泉美は、体育館裏で足を止めた。イザヤは体を泉美の方に向ける。二人の距離はおよそ三メートル。

「イザヤ君、そろそろ観念して下さい」

「君の方こそ、もう終わりにしたらどうだい?」

両者は見つめ合う。イザヤはもうこの遊びに満足したのか、次で終わらせるつもりである。

「泉美ちゃん、もうすぐお昼休みだから、今日はこれでお終いにしようか」

イザヤは泉美に向けて右手をかざす。

(また穴に落ちてもらおうか)

イザヤは、以前と同様の魔法を発動させた。これで鬼ごっこはおしまいだと思っていた。しかし、イザヤの予想だにしない結果が起きる。

(ここだ!)

泉美は精神干渉系の魔法が来ることを読んでいた。泉美はこれまで見て来た魔法の中で、イザヤが特に、精神干渉系の類いの魔法を好んで使用する事がわかっていた。これまでの傾向から、自分に使用される魔法を精神干渉系の魔法だと勘で察したのだ。魔法が発動した瞬間、泉美は走り出していた。

(!?)

泉美の予想外の行動にイザヤは目を開く。泉美の目は、真っ直ぐイザヤを捕えていた。以前、深雪が言っていた対処法を試みる。しかしそれだけではない。泉美は驚くべきことに、自分の舌を噛んだのだ。

(クッ!)

さらに痛みを負うことで自分を現実へと覚醒させる。イザヤが驚き固まっている隙に、泉美はイザヤの体に手を当てて押し倒す。イザヤの背中が地面に激突し、その痛みでイザヤは顔を顰める。泉美は馬乗り状態になっていた。

「イテテッ。泉美ちゃん、結構思い切ったことしたね」

「こうでもしないとあなたを捕まえられないと思いまして」

泉美の口の中は血で充満していた。今もその痛みに耐えながら、イザヤ顔に自分の顔を近づける。二人の距離は、口と口が触れてしまうほどだった。

「私を甘く見ましたね、イザヤ君」

「ああ、油断していたよ。君の行動力を甘く見ていた」

互いに見つめ合う二人。その時間は何秒にも何分にも感じられた。やがて、泉美が口を開く。

「イザヤ君、私を一つ約束をして下さい」

「約束?」

「お互いに嘘をつかないこと」

嘘をつかない。相手に正直であれ。泉美のその言葉はイザヤを困らせる。なにせ、イザヤの全てが嘘で塗りたくられているのだから。

「だけど、本当に言いたくないことは言わなくていいです」

「え?」

「無理に言わせても相手を傷つけるだけです」

「………君は僕の正体を知りたくないの?」

「知りたいですが、それは後からでもできます」

まだ自分に課せられた課題が終わっていないのだから。泉美はその言葉をそっと仕舞い込む。

「………ふーん、そっか。わかったよ、泉美ちゃん。今回は僕の負けだ」

手を上げて降参を示すイザヤ。泉美は満足したようで立ちあがり、裾をはたく。イザヤも起き上がり、グッと背伸びをする。そして、午前授業の終了を示すチャイムが鳴った。

「イザヤ君、そろそろお昼にしましょうか」

「そうだね、走ったからお腹が空いたよ」

鬼ごっこはこれでおしまい。二人は並んで食堂へと向かう。その途中に、泉美は大事なことをイザヤに話す。

「イザヤ君、私達、もしかすると停学ですよ」

授業を放棄して校内で魔法を使用した罰は重い。泉美はようやく自分のした事に顔を青ざめる。

「それはないよ。僕たち二人を見た人間は、僕が知る限りでは三人かな」

「三人だけ?」

泉美は首を傾げる。あれだけ派手にやったと思っていたのに、気付いたのはたったの三人。

「それもイザヤ君の魔法ですか?」

「ああ、流石に姿を隠さないと皆に気付かれちゃうしね。げど、深雪先輩に気づかれたと思うから、あとで説教だね」

深雪に叱られる事を想像して泉美は肩を落とした。今回のことは、深雪もお冠であろう。落ち込む泉美を見てイザヤは笑う。

「……イザヤ君」

「何かな?」

「昨日の質問なんですが、師族会議を盗み聞きしていたのはイザヤ君なのですか?」

「そうだよ、スリルを味わいたくてね」

「……やっぱりそうですか」

昨日に比べて、驚く事にイザヤはあっさりと白状した。もう隠さなくていいと判断したのか、イザヤは悪びれる様子もなくそう話した。

「けど、あまり僕が面白いと思った事は無かったね。時間の無駄だったよ」

「……そんなことを言うのは、イザヤ君だけですよ」

まだ、イザヤの事を全て分かった訳ではないが、少し距離を近づけることが出来たと思った泉美であった。

 

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