放課後、イザヤと泉美は重い足取りで生徒会室に向かった。泉美はイザヤに生徒会の扉を開けさせて入室した。
「あら、泉美ちゃんにイザヤ君。やっと来たわね」
深雪が生徒会長の席に座りながら、泉美とイザヤが来るのを待っていた。深雪の顔は笑顔を見せていたが、明らかに怒りのオーラを放っていた。達也、ほのか、水波の三人も泉美とイザヤが来るのを今か今かと待ち侘びていた。
「こっちに来なさい」
お願いではなく命令口調で、深雪は二人を自分の近くに呼ぶ。
「は、はい……」
既に元気のない泉美の小さな声が聞こえる。
「貴方達、なんで呼ばれたか分かっていますね?」
「いやー、なんだろうね泉美ちゃん。僕たち何かしたかなー?」
隣にいるイザヤの言葉に泉美は開いた方が塞がらない。この状況でしらばっくれるイザヤの心臓には毛が生えていると思った。イザヤのその言葉に深雪は笑顔のまま、さらに眉間に皺を寄せる。
「 そうですか、心当たりがないですか」
「ま、待ってください、深雪先輩!校内で無断に魔法を使用した事は謝ります。申し訳ございません!」
「あと授業を途中でズルした事もね」
「…………………」
泉美は生徒の模範である生徒会であるにも関わらず、魔法を私的に使用した事を素直に謝罪する。逆に、イザヤは悪びれる様子もなく、泉美の発言に補足を加える。
「正直、二人には失望しました。泉美ちゃん、貴方は生徒会副会長でありながら、あのような行為に至りました。自覚が足らないと言わざるを得ません」
大好きな深雪からの失望という言葉は、泉美の心に重くのしかかる。
「イザヤ君、貴方が事の発端であることはおおよそ検討がつきます。もし、先生や生徒にバレていたら生徒会の信用は失墜していました。貴方がいかに魔法で姿を隠していたとしても、許されることではありません。貴方達二人には、それ相応の罰を与えねばなりません」
深雪は言葉を言い終えると、二人の顔を交互に見る。分かったのかと目で訴えている。
「……はい……わかりました」
「反省してます」
深雪はハァとため息を吐いて椅子から立ち上がる。
「残っている仕事は貴方達で片付けておきなさい」
「……はい」
「はーい」
既に帰る準備を整えていた泉美とイザヤを除く生徒会役員は、颯爽と椅子から立ち上がって、生徒会室から退室していく。最後に深雪が扉を閉めて、部屋には泉美とイザヤが残された。しばらく静寂が生徒会室を包み込んだが、
「さて、チャチャっと終わらせますか」
深雪に怒られてもなお、普段の調子を崩さないイザヤを見て泉美はため息を吐いた。
「…深雪先輩に失望されました、もうお終いです」
酷く落ち込んでいる泉美の肩を、イザヤは優しく叩く。
「ドンマイ、泉美ちゃん。これから、一緒に信用を取り戻そうね」
イザヤは親指を立ててニコッと笑うが、泉美は半目で睨み返す。そして、イザヤに腹を拳で殴る。
「痛い痛いよ、泉美ちゃん」
イザヤは泉美から背を向けるが、泉美の攻撃は止まずにポカポカと殴ら続けるのだった。その後、泉美とイザヤには一週間、他の生徒会役員が受け持つ仕事を代わりにやる羽目になったのだ。罰としては少し緩いと思った深雪が、さらに何かを加えようとしたが、ほのかが優しく止めに入るのだった。
日曜日。達也と深雪は北山家の屋敷を訪れていた。二人が北山家を訪れたのは、昨日教室で深雪が雫に招待されたからである。二人が屋敷に着くと、使用人が外で待っていた。そのまま、屋敷に案内され、応接室の様な場所に案内された。部屋に入室すると、既に雫が席に着いていた。達也と深雪の姿を目にして、雫がすぐに立ち上がる。
「ようこそお越しくださいました」
両手を揃えてお辞儀する。達也と深雪もそれに応じて挨拶を返す。
「お招きいただき、ありがとうございます」
「どうぞ」
いつもの雰囲気と違う。今日の雫はご令嬢モードであるらしい。メイドが三人の前に紅茶を用意する。達也と深雪はメイドに頭を下げて礼をする。メイドもそれに対してお辞儀をして部屋を退室する。
「ところで雫、今日はほのかは来ないの?」
「うん……まぁ……そう」
雫が言葉を濁して、理由を聞かないでほしいとほのめかす。少し気まずい沈黙が流れる。すると、扉をノックする音が聞こえたのだ。
「入って」
雫の許可を得て、先程とは別のメイドが扉を開ける。
「お嬢様、旦那様がお見えになりました」
「お通しして」
雫は達也達の意向も聞かずにそう答えた。どうやら今回の招待は雫の父親からのものらしいと達也は悟った。
「失礼するよ」
雫の父、北山潮が入室してきて雫の隣に立つ。達也と深雪は立ち上がって挨拶をする。
「お邪魔しております」
「いやいや、若い人たちの席に厚かましくお邪魔しているのは私の方だよ」
「厚かましいなど滅相もございません。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
達也達は、あえて雫に招かれたというスタンスを維持する。その方が相手も話しやすいだろうと考えたのだ。しかし、こんな回りくどい真似をして、いったい何の用があるのか、達也は警戒する。
「君たちを招いたのは雫だからね。そんな事を気にする必要はないよ。ところで、厚かましさついでに少し話を聞いてもらえないだろうか」
「自分たちで良ければ」
「それは良かった、では座って話そう」
話を進めると、北山潮が達也達に聞きたかった事は、魔法師に対するネガティブキャンペーンの事であった。妻や娘である雫が魔法師であるが故に、現在この国に蔓延している魔法師を目の敵としている風潮に、十師族はどの様に対応するのかを十師族の一員で四葉である達也達に聞きたかったようだ。
「既に公表されている事ですので存じでいると思いますが、十師族は現在テロの首謀者を探しています。自分もその捜索に加わっています」
達也は差し支えない範囲での情報を潮に話す。
「それで、マスコミの方は何の手も打たないのかな」
「その事については、聞いておりません」
「そうか………」
嘆息をついた潮は、そのままメイドに用意してもらった紅茶を手に取り喉を潤した。
「反魔法師主義の団体は私も他人事として見過ごす事はできない。もしも十師族が協力を欲するのなら、私からマスコミに口を聞くことができるが」
確かに北山潮の財力ならば、マスコミに一定の影響を与えることができるだろう。世論の敵対的な風潮を逆転させる事はできないが、勢いを弱める事はできるだろう。しかし、
「現在の状況下で北山さんが魔法師に味方する方向で介入すれば、雫さんの為にも好ましくないと思います」
潮の目に鋭い光が宿る。
「何故かな?」
「反魔法師運動は反社会運動の一形態でしかありません。魔法師が社会に対する捌け口になっているのです。北山さんは不満分子の標的になりやすい大富豪ですから。あの手の輩は見境がありません。魔法師である奥様や雫さんだけでなく航君にまで被害が及ぶ可能性があります」
「君が娘や息子のことを考えてくれているのは分かった。しかし、君はそれでいいのかね?」
「……もし、一高の生徒が犯罪の被害者になったら、その時はご助力をお願いするかもしれません」
「未然に防ぐつもりはないと?」
「学校の外で生徒の行動をフォローする事は不可能です。もちろん、注意は促しますが、それ以上は難しいと思っています」
「確かにそうだ」
潮は紅茶をグッと飲み干すと、達也へチラリと視線を向ける。何だか値踏みされているようだと達也は感じた。しかし、潮の顔は笑顔に戻っていた。
「分かった。私も当面は静観する事にしよう。しかし、事態が悪化したらすぐに相談してくれ給え。私にとっても他人事ではないからね」
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
頭を下げる達也に潮は頷く。これで話は終わったかと思われたが、潮は父親の目をして達也達に問い掛ける。
「すまない、もう一つあるのだが良いだろうか?」
達也はまだ何かあるのかと思ったが素直に言葉を返した。
「何でしょう?」
「……折紙イザヤという青年をご存知かね?」
「お父さん?」
潮のその言葉に、先程まで黙っていた雫は自分の想い人の名前が出てきた事に「突然何を言い出すんだ?」という目を向けていた。達也達もその名前が出てくる事は予想外であった為に、一瞬反応が遅れた。
「…知っています。一つ下の後輩であり、同じ生徒会の一員でもあります」
「なるほど…そうか…」
「イザヤがどうかしましたか?」
達也のその言葉に潮は黙って下を向く。雫は潮の顔を横から覗くが、その顔は不安が張り付いていた。やがて潮は、重い口を開く。
「もし、言えるのであれば教えてほしいのだが、折紙イザヤ君は十師族の人間なのだろうか?」
「……何故、そう思うのです?」
イザヤが十師族の人間なのか、そう聞いてくる潮の真意を達也は聞き出そうとする。
「知っていたかもしれないが、彼と雫は仲が良くてね。二人で別荘に行ったりもしているんだよ。何をしに行くのか、私や妻に内緒でね」
「それは、イザヤに口止めされているから」
雫とイザヤが仲が良い事は達也も深雪も分かっている。二人で別荘に行った事も、深雪を倒すための特訓として行った事も知っている。だが、どのような内容なのかは知らない。
「こんな風に。雫はイザヤ君のことを私や妻には話さないんだ。だから、私個人でイザヤ君の素性を調べて見たんだ」
「それ、私の前で言って良かったの?」
「雫、これは大切な事だったんだ。私は父として、お前を守る義務がある」
潮は体を雫の方を向けてそう話す。潮は雫を溺愛している事は達也達も承知済みである。その娘に、あの得体も知れない男が近づいてきたら父親として対処するのは当然だと達也は思う。しかし、達也も深雪もイザヤの正体が分からないので、何とも言えない。
「すみませんが、自分達もイザヤの事はほとんど知らないんです。十師族なのかどうかも分からないです」
「……彼の経歴は全てが嘘で作られていた。まるで、最初から騙すつもりも無いみたいだった。調べたいなら好きにしなと言われているようだった」
「………」
達也は顎に手を添えて考える。まず今回の事から、イザヤが十師族である事はほぼ無いだろう。師族会議を盗み聞きする事なんて大罪を犯す真似を十師族の一員ならばやるはずが無い。それに、
「自分の考えでは、イザヤは十師族ではないと思っています。それに、権力のある人間が、イザヤのバックについている事もないと考えています。」
潮は探るような目をして達也を見る。
「何故そう思うのかね?」
「イザヤが十師族でないと思う理由は、残念ながらお話しする事はできませんが、イザヤのバックに誰かいる事はないと思う理由なら言えます」
達也の次の言葉を潮は黙って待っている。
「それは、あいつが誰かの傘の下にいる人間には到底思えないからです」
達也の言葉に最初に反応を示したのは潮ではなく雫であった。
「確かに、私もそう思う」
雫の同調の声に潮は黙って聞いている。達也もそれに続けて話す。
「あいつは個人として完結しています。自分はイザヤにできない事は無いと考えています。経歴詐称も学校への入学も全てイザヤ一人が行った事だと踏んでいます」
達也のその言葉に黙っていた潮がようやく口を開く。
「達也君は、イザヤ君が何者だと思うかね?君の意見が聞きたい」
潮の目は、先程の反魔法師運動の会話の時よりも鋭い目をしていた。潮の言葉に達也は、自分が現時点でイザヤをどう思っているのかを正直に話す。これは、雫のためでもある。
「…自分は、イザヤが今回のテロリストよりも脅威であると認識しています。そして、もし仮にイザヤが十師族と敵対した時は、十師族のみならず、師補十八家の力も総動員して対処しなければならないと考えています」
達也のその言葉に潮は今日一番の驚きの表情を浮かべた。潮のみならず、雫も同様の顔をしていた。折紙イザヤという一人の個人が、日本の魔法師全体を揺るがす力を有しているという言葉に。潮の顔はより一層険しくなる。
「………雫」
「……何?」
「イザヤ君に近づくのはもうやめなさい」
「!?」
父親として当然の決断だと達也は考える。イザヤとは、今は敵対してはいない。しかし、将来その可能性は高いと予想している。
「嫌だ」
「雫、私は達也君の言葉を大袈裟と思っていないよ。彼の目を見ればわかる。雫、これはお前のためなんだ」
「嫌だ!」
雫はさっきよりも強い口調で拒絶する。
「雫、貴方はイザヤ君がどういう人間なのか、貴方が一番良く分かっているはずよ」
今まで一言も喋らなかった深雪が雫に話し掛ける。
「…………」
雫は黙って下を向く。彼女は、イザヤがどういう人間なのかは少なくともこの部屋にいる人間よりも理解している。しかし、それを理解してもなお、彼女の想いは止まる事は無い。
「分かってる……分かってるけど、私は……………」
雫の泣きそうな顔に深雪は酷く心配する。雫がイザヤに特別な感情を持っている事は既に知っていた。それ故に、彼女の苦しむ姿を見ていられなかった。
「私は、この想いを殺すつもりはない」
「雫!」
雫は立ち上がって潮の静止を無視して部屋から出て行った。
「……すまない、達也君、深雪ちゃん」
「いえ、これからもイザヤの事は自分たちも調べますので。雫にも気を配っておきます」
「何から何まですまないね」
月曜日。イザヤは朝から登校してクラスへと向かう。途中、変な虫がついて来ていたが、無視していた。クラスに入ると生徒が妙にざわついていた。イザヤが席に着くと、他の女子たちと話していた泉美がこちらに気づいて近づいてきた。
「おはようございます、イザヤ君」
「おはよう、泉美ちゃん」
互いに挨拶を交わすと、泉美は席に着く。
「何やら皆んなが妙にざわついているけど、何かあったの?」
「今私も話していたんですど、どうやら一条将輝さんがこの一高に来ているらしいんです」
「へぇー」
あのクリムゾン・プリンスが来ているとなると、生徒たちがざわついているのも納得である。しかし、何故ここに来たのかを知る者はごく一部の人間のみだろう。一条将輝とは九校戦で挨拶をしただけであるため、これから深雪関係でイジってやろうと考えるイザヤであった。
(また、悪い顔してる……)
お昼休みになった。Aクラスに配属された一条将輝は、まだ一高に慣れていないため、一応交流がある深雪とその友人であるほのかと雫と共に食堂に向かった。
「何がオススメなんですか?」
「ここの食堂はトンカツ定食が人気なんですよ」
「そうなんですか、じゃあお昼はそれにしようかな」
「達也さんと合流しましょう」
「…………」
深雪と将輝は食堂のメニューについての会話をしており、ほのかは早く達也と会いたいようである。雫は深雪と将輝を交互に見て考え事に耽っていた。
「イザヤ君、早く行かないと混んでしまいます」
「分かってるから、手を引かなくてもいいよ」
「泉美、もう周りの目を気にしなくなったね」
「…………」
曲がり角から泉美、イザヤ、香澄、水波が出てきた。それにいち早く気付いたのは深雪であった。
「あら、皆んなお揃いで」
「深雪先輩!おはようございます」
目をキラキラさせた泉美が、深雪に一直線に近づいてくる。香澄と水波はペコっと頭を下げる。
「もうこんにちはの時間だけどね」
「イザヤ君、揚げ足をとらないでください」
イザヤに言葉尻を捉えられて不満そうな顔をする泉美である。そんな二人の姿を雫は深雪の後ろからじっと見ていた。
「折紙イザヤ」
将輝はポツリと呟いた。将輝がこの学校に来た目的はテロの首謀者を探す事だが、もう一つ父親の剛毅に言い渡されたのは、折紙イザヤという人物のことである。イザヤとは九校戦の開会式で、ほんの少しだけ話しただけに過ぎなかった。
「お久しぶりです、クリムゾン・プリンス」
「その呼び名はあまり好きではないと言ったが……」
将輝は嫌な顔をするが、イザヤは気にも留めない。
「皆さんもこれから食堂に行くんですか?」
深雪の後ろにいる雫やほのかを見ながら、そう訊ねる。
「ええ、皆んなもそのつもりでなのでしょう?」
「一緒に食べよう」
深雪は自分たちと同様に食事を取りに行くのかと聞くが、後から雫が共に食べることを提案する。ほのかは雫の考えをいち早く察して同調する。
「そうですね、多い方が楽しいですし」
深雪は一条に確認を取る。
「…一条さんもよろしいでしょうか?」
「ええ、皆んながいいなら」
将輝は深雪と食事を取ることができるなら何でもいいと思っている。かくして、イザヤ達は達也達と合流するために食堂へと向かう。
食堂には人が溢れていたが、達也達を見つけるのはあまり苦労をしなかった。食堂の真ん中のテーブルを確保していた為である。そこには、達也、レオ、エリカの三人がいた。
「あれ?幹比古と美月は?」
二人がいない事をほのかは達也に尋ねる。
「幹比古が風紀委員の用事があるから別で食べることになったんだ。美月はその手伝いをしに行った」
「なるほど」
「ところでそっちは大所帯だな」
達也は深雪達のほかにイザヤ達一年生組も混ざっていた事を指摘する。
「途中でバッタリ会ったので、そのまま一緒に食べる事にしたんです」
「大きいテーブルを確保しといて良かったぜ」
深雪の言葉にレオがそう返す。
「では食券を買いに行きましょう」
その後、合計十一人にもなる集団は、大きなテーブルを囲んで食事を取り始める。がしかし、
「雫先輩、イザヤ君と少し近くないですか?」
「それはこっちのセリフ」
泉美と雫がイザヤを挟んで言い合っている。そんな妹の姿を向かい側にいる香澄はハァと息を吐く。水波は少し頬を赤らめている。イザヤは気にせずに黙々と食事を進める。
(雫、いきなりエンジン全開ね)
雫は昨日の事があってもなお、イザヤの近くにある事を選んだ。深雪は今後、自分たちとイザヤの関係がどうなるかわからないが応援はしている。
(雫、やるわね)
ほのかも友人の行動を見習って、意中の達也にアタックを仕掛ける。深雪はほのかの行動にニコッと笑いながら、何処か圧を感じさせる。将輝は深雪のオーラにオロオロしていたが、エリカやレオはニヤニヤと見ていた。空気を変えるために、達也は将輝にある事を伝える。
「一条、任務の件で十文字先輩がミーティングを開いていることは知っているか?」
「いや、聞いていはないが…」
お互いテロリストの捜索を命じられているが、東京に来たばかりの将輝はミーティングの事を知らなかった。
「ミーティングと言っても、十文字先輩と七草先輩と俺が情報交換をいているだけなんだが、一条も来ないか?」
達也の誘いに将輝は考え込むが、それは十秒にも満たなかった。
「差し支えなければ、俺も参加させてもらおう」
捜索に当たって、情報交換の共有をすることは必要だと分かっていた。
「それって今回のテロの事か?」
レオが何の気も無しに達也に聞く。達也も別にテロリスト捜索を隠しているわけではないので、素直に答える。
「ああ、そうだ。未だどこに隠れているか分からないからな」
「反魔法師運動も拡大してるって言うし、私達も気を付けなくちゃね」
エリカの言うことは最もである。
「今も全力で首謀者を探しているよ。心配は分かるが、もう少し待っていてくれ」
「そうですねー、早く捕まえてくださいねー」
食べ終わったイザヤが会話に参加した時、エリカ、レオ、ほのかを除く皆の意味ありげな視線がイザヤに集中する。
((((((((お前が言うな))))))))
今回のテロリスト以上のことを仕出かした人間が、一体何を言っているんだと目で訴える。
「まぁ、先輩達なら捕まえる事が出来るでしょうね。何の介入もなければ」
「それはどう言う意味だ?」
「分かってるくせに」
イザヤはトレーを持って立ち上がる。
「あっ、待ってくださいイザヤ君。まだ私食べてますから」
まだ完食していない泉美がイザヤを引き止めようとする。
「泉美ちゃん、僕はクラスには戻らないよ。このまま欠席するから」
「え?」
疑問の声を上げたのは泉美であった。声には出さないが他の皆も同様の気持ちであった。
「何故だイザヤ?」
達也が真っ先に学校を早退する理由を訊ねる。
「秘密」
イザヤは達也の質問に答える気が無いようだ。
「イザヤ君、それは本当に言いたく無い事ですか?」
今度は泉美がイザヤに質問する。泉美の目がイザヤの目を捕える。二人の空気に達也達は黙って耳を傾けるしかなかった。彼女の言葉にイザヤは笑って答えた。
「分かった言うよ。僕の周りに飛んでいるハエを駆除しに行くんだ」
「ハエ?」
泉美は首を傾げるが、達也、深雪、水波、将輝はすぐにピンと来た。十師族の誰かが、イザヤに探りを入れにきていると。
「イザヤ、それはダメだ」
達也がイザヤの行動を止めようとする。今、テロの首謀者を捕まえていない中、下手にイザヤを刺激する事は得策では無い。テロの首謀者とイザヤを同時に相手取るのは不可能である。イザヤの事は慎重に進めなければならない。
「なら達也先輩、彼らに言って来てくださいよ。死なないうちに家に帰れって」
イザヤがそう言った瞬間、皆が息を呑む。泉美や他の皆もようやく意味がわかり緊張が走る。
「…分かった、伝えておく」
「そうですか。じゃあ泉美ちゃん、僕は先にクラスに戻っているから」
イザヤは返却口にトレーを返しに歩いて行った。その後ろ姿を達也はしばらく見つめると、将輝に視線を移した。
「一条、お前の手の者か?」
「いや、俺の家じゃ無い。すると何処だ?」
将輝は自然と視線を達也から七草の双子に移した。
「お父様の仕業では無いと思います。一度、痛い目を見ている様ですから」
達也は四葉家の手の者かと一瞬考えたが、自分の忠告を真夜がしっかりと理解していればそうはならない筈である。
「達也君、いまいち状況が掴めないんだけど…」
エリカは達也にそう発言するが、レオも同じ気持ちなのかこちらを見て頷く。二人も無関係ではいられない。口止めはされているがエリカとレオならいいと達也は判断した。
「分かった。後で伝えよう」
そして達也はその場で考え込む。
(イザヤの事について、もっと十師族で共有した方がいいな)
そしてこの場は、食べ終えたものから解散した。達也は一人校門を出て、イザヤを監視している人間を探しに行った。その為に授業に遅れたのは許して欲しかった。