魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第二十九話 イザヤ「そういえばクリプリ先輩」将輝「…もしかして俺のことか?」達也「他に誰がいるんだ」

 顧傑の隠れ家を特定した達也は、黒羽亜夜子、黒羽文弥、四葉の戦闘員と共に隠れ家を襲撃した。しかし、突如現れた米軍よって顧傑の追跡を妨害されてしまった。後日、真夜にその事を報告した時、イザヤの事について聞いたが、どうやら監視をつけたのは真夜では無いようだ。達也はそれ以来、捜索に進展は無かった。もっとも、成果が上がっていないのは克人や真由美や将輝も同じであった。ミーティングでもめぼしい話はない。達也は先日、イザヤを監視していた人間を、イザヤに消される前に追い払ったが、その際に十師族のどの家の者なのかを話してはくれなかった。その為、克人にも聞かなければならなかった。

「話は変わりますが十文字先輩」

「何だ?」

達也に話しかけられて、ティーカップを掴もうとした手を止める。

「折紙イザヤに監視の目をつけたのは十文字先輩ですか?」

「いや、俺ではない」

克人はそれを否定する。達也は克人が嘘をついていないと判断した。克人はそのまま紅茶を口を運ぶ。

「一条家、四葉家、七草家、十文字家でもないとすれば何処だろうな?」

将輝はイザヤに監視の目をつけた他家を考える。

「何処の家だってあり得るだろう」

達也は将輝にそう言う。

「イザヤの事については一旦放置でいいでしょう。今の時点で、アイツから何かしてくる事はありません。今はテロリストを捕まえる事が重要です」

達也の言葉に三人が頷く。これにて、ミーティングはお開きとなった。

 

 

 

 将輝は焦っていた。いつまで経っても、爆破テロの首謀者の捜索が進展しない事に。これでは、せっかく一高に通わせてくれた父親の顔を潰してしまう。授業をサボってでも任務を優先したいと言う気持ちが溢れてくる。座学の授業に集中できないでいる。我ながらだらしないと感じた。しかし、そんな腑抜けた顔を愛しい少女の前で晒したくは無かった。授業が終わり、食堂に向かう為に立ち上がった時、

「一条君!」

将輝を呼んだのは、深雪でもほのかでも雫でもなかった。クラスメイトの女子が将輝にあるものを差し出す。

「これ、受け取ってください!」

将輝が返事をするよりも早く、リボンが付いている箱を渡された。そんな姿を見た他の女子達は、

「あっ!抜け駆け」

「私も受けとって」

続々と将輝は女子から渡された物を受け取る。腕の中にはラッピングされた小箱が溢れかえっていた。

「あらあら、大人気ですね。一条さん」

笑いながら話し掛ける深雪に将輝は振り返る。その後ろに、雫やほのかが立っている。

「これは、一体……」

未だに事態を把握できていない将輝に雫は呆れた顔をして答えた。

「今日はバレンタイン」

「ああ、なるほど」

将輝はようやく理解した。鈍いにも程があるとほのかは苦笑いした。

「この分ですと、まだまだ増えそうですね」

何気ない深雪の一言が将輝を酷く打ちのめした。

 

 

 

 泉美は深くため息をついた。彼女がそんな事をするのはいつだってイザヤの事である。今日はバレンタイン。泉美も例に漏れず意中に相手にチョコを渡す為に、昨日作ったチョコを学校へ持って来ていた。しかし、肝心なイザヤがいないのだ。午前の授業を全て欠席。午後に来る確証も無いので、どうしようかと悩んでいた。

「泉美」

教室の外から香澄の呼ぶ声が聞こえる。その隣には水波も一緒である。最近、彼女達と一緒に食べる機会が増えている。水波が達也や深雪の親戚という事から、要らぬ詮索をしてくる女子が増えて来た。そのため、香澄が水波を連れて、泉美とイザヤを合わせて四人で食べている。まあ、今日はその一人が居ないのだが。

「香澄ちゃん、水波さん、お待たせしました」

「イザヤ君は居ないのですか?」

「はい、まだ学校に来ていません」

泉美は振り返ってイザヤの席を見つめる。そんな泉美に姿に香澄は、

「午後には来るでしょう。もしかしたら、食堂でテーブルを取ってくれているかもしれないしね」

ポジティブな言葉を泉美に投げかける。その言葉に泉美も少し元気が出たのか微笑みを浮かべる。三人はそのまま食堂へと足を運んでいく。

 

 

 

 食堂に着くと、泉美は早速イザヤをキョロキョロと探し始めた。いつもの事のように、食堂は生徒達で溢れかえっていた。その為、探すのは困難であった。しばらく探してもイザヤの姿は見当たらないので、今日は休みなのかも知れないと思った。落ち込む泉美に香澄は優しく肩を手を置く。

「あ!泉美さん、あそこ」

泉美は顔を上げて、水波の指を刺した方向を見る。そこには、一人テーブルで肘を付いているイザヤがいた。イザヤが学校に来ていた事に泉美の顔は明るくなる。三人はそのまま、イザヤに近づいて行く。

「イザヤ君」

最初に声をかけたのはもちろん泉美である。呼ばれたイザヤは顔を泉美に向ける。

「やあ、泉美ちゃん。それに香澄ちゃんと水波ちゃんも一緒で」

こっちの気も知らないでニコッと笑うイザヤに泉美は少し腹を立てたが押し留めた。

「また午前の授業を休んだんですか?」

「座学なんて暇すぎるからね」

「まったくもう‥…」

そう言った泉美の顔は、困った顔をではなく嬉しそうであった。泉美のその姿に香澄と水波は互いに笑い合う。

「食券買いに行きなよ。僕はここで待ってるからさ」

その後、泉美達はイザヤと楽しく昼食をとるのだった。

 

 

 

 放課後の生徒会室では、達也を除いた生徒会役員が雑務をこなしていた。達也はテロリスト捜索のために先に学校を後にした。皆黙々と作業を進める中、生徒会室の扉が開く。中に入って来たのは雫であった。

「雫、まだ私帰れないよ」

「うん、わかってる………イザヤ」

雫はほのかからイザヤに視線を移す。呼ばれたイザヤは雫に返事する。

「何ですか?雫先輩」

「少し良い?」

「…………わかりました」

イザヤは立ち上がり、深雪の方に振り返る。

「すいません、少し席を外します」

「ええ、わかったわ」

そのまま雫とイザヤは生徒会を後にする。扉が閉まるまで泉美はイザヤの背中をずっと眺めていた。

 

 

 

「ついて来て」

行き先も告げず、雫は前を歩いて行く。イザヤは黙って雫の後について行く。雫は後ろのイザヤを気にしながら歩く。そしてついた場所は風紀委員本部であった。

「……ここですか?」

イザヤは風紀委員会室と書かれた看板を見ながら雫に尋ねる。

「うん、ここ」

雫は扉を開けて入室する。イザヤもそれに続く。中に入ると、部屋には誰もいなかった。どうやら、今は人が出払っているらしい。

「あそこの箱を取って欲しいの」

雫は棚の一番上に置いてある箱を指差してイザヤに伝える。箱は、雫の身長では到底届く事のできない位置にある。

「誰がここに置いたんですか?」

「わからない」

「そうですか、わかりました」

イザヤは、棚の一番上に置いてある箱を取ってテーブルの上に置く。箱の中には、報告書らしき書類が詰まっていた。

「これで良いですか、雫先輩」

少し埃っぽいので手を叩きながら喋るイザヤは、雫に確認を取るが、雫は何も話さない。代わりに、小さな箱を渡して来た。

「チョコだよ」

可愛らしいラッピングがされた箱をイザヤに渡した。

「ありがとうございます、雫先輩」

「……………」

雫は何も喋らない。

「先輩?」

黙ってこちらを見つめている雫に、イザヤは首を傾げる。沈黙は十秒ほど続いた。

「…………イザヤ」

ようやく口を開いた雫はイザヤの名前を呼ぶ。

「何ですか?」

「……私はね、イザヤのことが好き」

雫の体は熱くなる。告白したのだ。好きな人に自分の気持ちを。まさか自分が、年下の男性を好きになるなんて思いもよらなかった。だけど、雫の心はイザヤに奪われていた。深雪を倒すために特訓した日々の事。別荘で過ごした時間は短かったが、イザヤの子供っぽい所や頼もしい所、そして二人だけの秘密。いつしかイザヤに惹かれていた自分がいた。しかし、

「そうですか」

イザヤが言ったのはそれだけだった。もっと他にないのかと雫は不満な顔をした。自分は勇気を持って告白したのにと。

「先輩が僕を好きな事はわかっていましたよ。というか、他の人も知っていると思いますよ。結構、積極的でしたし」

雫は既に、イザヤに気づかれていると分かっていた為、顔を赤らめたりはしなかった。黙ってイザヤの言葉を聞いている。

「でもね、その気持ちは受け取れません」

イザヤの断りの言葉を聞いた瞬間、雫の顔は俯き暗くなる。

「……やっぱり、泉美のことが好きなの?」

雫はライバルである泉美の名前を出すが、イザヤは首を振る。

「いいえ、違いますよ。それに、たとえ泉美ちゃんが僕に告白して来たとしても断るつもりですよ」

「何で?」

目に涙を溜め込んで見つめてくる雫に、イザヤはニコリと笑う。

「僕にとって自分以外は、僕を楽しませてくれるオモチャでしかないからです」

雫は酷くショックを受ける。イザヤにとって自分は、ただの道具でしかない事に。

「僕はね雫先輩、退屈で仕方がないんですよこの世界が。だからね、わざと手加減して相手のレベルに合わせたり、オモチャを強くして他のオモチャと戦わせたりして楽しんでいるですよ」

「私は、オモチャじゃない!!」

「いや、貴方は素晴らしいオモチャですよ。何せ、深雪先輩に勝ったのですから。まあ、試合というルールに縛られていましたけどね。それでも、僕は面白かったですよ」

手を大きく広げて笑うイザヤに雫は悲しみの涙をこぼした。雫は今理解した。折紙イザヤという人間の本性、その全てを。イザヤは、人を人として見ない。全てがイザヤを満たす為の道具であると。自分は数ある中のオモチャの一つに過ぎないと。

「…………悲しい人」

「悲しい?僕が?」

「貴方は歪んでいる。きっと、誰かに愛されたことがないんだ」

雫の言葉にイザヤは鼻で笑う。

「愛なんて自分を縛る為の鎖でしかありません。僕は自由でいたいんですよ。誰にも縛られずに、このゲームという名の世界を楽しみたいんですよ。故に、僕は一生、誰かを愛する事はありません」

「それは絶対に間違っている」

「間違ってる?誰がを愛する事にメリットは無いですよ。僕は子供なんていらないですから」

未だ目から涙が溢れる雫にイザヤはポケットからハンカチを取り出した。

「これで拭いてください」

イザヤから差し出されたハンカチを雫は手で跳ね除けた。

「いらない!」

「あらあら」

そのまま落ちたハンカチをイザヤは拾いって叩いた後、ポケットに戻した。

「あぁそれと、先輩の勘違いを一つ正さないといけないですね」

「勘違い?」

自分が何を勘違いをしているんだと雫はイザヤを睨む。

「僕を好きだという事ですよ」

「…どういう事?」

「貴方の僕を好きだという気持ちは、僕が魔法で操作したからです」

「!?」

「貴方の僕に対する感情を、ある方向に誘導する魔法を仕掛けました。なので、貴方が今まで僕に感じていた全てが僕によって作られた物だという事です」

その事実を聞かされた雫は、その場に体が崩れ落ちた。自分がイザヤに向けていた恋という感情は、イザヤが作り出した偽物。自分を都合よく利用する為に植え付けられた物だと。

「……そんな……ことって……」

その場でうずくまる雫。もう何がなんだか分からなくなった。イザヤの事が。自分の心が。もう何も考えたくなかった。

「……いや……いやあああああぁぁぁぁぁ!!!」

部屋に悲痛な叫び声が響く。泣き叫ぶ少女の姿に口角が上がるイザヤ。イザヤは雫の慟哭を聞きながら部屋を出て行った。扉の前で立ち止まり、イザヤは雫から貰った箱からチョコを取り出して口を運ぶ。

「少し甘いな」

イザヤはそのまま生徒会室に戻るのだった。

 




クズめ
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