魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第三十話 イザヤ「僕の好感度がどんどん下落していってる」泉美「そんなもの最初からありませんでしたよ」

 昨日、ほのかは雫と帰らなかった。いや、そもそも雫が先に帰っていたので帰れなかった。何の連絡もなかった事が気掛かりで電話してみるが、雫は応答しなかった。ほのかは心配になって帰りに北山家を訪れたが、雫は体調が悪いから会えないと使用人に言われたのでそのまま帰る事になった。しかし、何かおかしいと感じた。ほのかが雫を最後に見た時は、全然元気だったからだ。そして今日、ほのかは雫と一緒に学校へ登校する為に早くから北山家を訪れた。インターホンを鳴らすが、

「雫お嬢様は、体調がよろしくないので今日はお休みになられます」

との事だった。ほのかは少しだけでも良いから会えないかとお願いするが拒否された。その瞬間、ほのかは雫に何かがあったと確信した。そして、それを引き起こしたのはあの男に違いないと。

(雫に一体何をしたの?イザヤ君)

ほのかは一人学校に向かう為に、早々と足を進めるのだった。

 

 

 

 雫が休みだという事をほのかから聞かされた深雪は、嫌な予感が頭によぎる。ホームルームの時間までまだ十分にある為、深雪とほのかは、イザヤのいる一年A組に向かった。一年生の廊下は、上級生の深雪とほのかが来た事でざわめき始めていた。二人が一年A組に到着した時、泉美が気づいて二人のそばに近寄る。

「深雪先輩、光井先輩どうしたのですか?」

急に来た二人に泉美は疑問に思う。

「泉美ちゃん、イザヤ君は何処かしら?」

「イザヤ君ですか?まだ来ていませんが」

イザヤはまだ学校へ来ていなかった。そもそも、今日は学校へ来ない可能性もある。

「泉美ちゃん、イザヤ君が来たらすぐに教えて欲しいの」

「……彼が何かしたのですか?」

泉美は深雪ではなく、暗い顔をしていたほのかの顔を見てそう言った。

「確かめなくちゃいけない事があるの」

泉美は、ほのかの言葉がイマイチ分からないが、顔からして深刻な事だと理解した。

「わかりました。彼が来たらすぐにお知らせします」

「ありがとう、泉美ちゃん。ほのか、戻るわよ」

「うん」

深雪とほのかは自クラスへ戻って行った。一人佇んでいる泉美は、イザヤの席を見つめる。

(今度は何をしたんですか?イザヤ君)

 

 

 

 事件は突如として起こった。反魔法師団体で組織されたデモ隊が、魔法大学構内へ押し入ろうとして警察と揉み合いになったのだ。デモ隊の一部が警察へ暴力行使として拳が出た。その瞬間、警察がデモ隊に一斉突撃。デモ隊は退却する中、逃げ遅れた何人かは警察に拘束されていた。その生放送のニュースが食堂の大型テレビに映し出されていた。

「あーあ、あいつら遂にやったな」

レオが呆れた声を出す。

「……逮捕者は二十四名か。この数は多いのか?少ないのか?」

「反戦デモが盛んだった頃に比べればずっと少ないが、ここ最近では多いな」

将輝の質問に答えたのは達也であった。

「でも達也、石を投げていた人たちはその倍以上いだぞ」

「あの人数を逮捕するのは、警察の数が足りない」

テレビに映し出されていたデモ隊の数は二百人ほどいた。あの爆破テロから段々人間主義が拡大している。早急に顧傑を捕まえなくてはならない。

「そういえば、雫は今日はお休みなの?」

エリカは、テレビにうんざりして話を変えることにした。エリカは雫と一番親しいほのかをみるが、

「……うん、体調が悪いの」

「大丈夫なの?」

「……分からない」

ほのかの言葉にエリカは首を傾げる。達也も雫が休んでいた事が気になっていた。隣にいる深雪も、何やら深刻そうな顔をしている。

「あの、誰がイザヤ君を見ませんでしたか?」

「イザヤ?今日は見てないわ」

「見てないぜ」

「俺も」

「………そうですか」

「何があった?」

下を向くほのかを深雪は心配する。達也はすぐにほのかに尋ねる。周りの皆もただならぬ事だと直感したのか、箸を止めて話を聞く体制に入る。

「雫が学校に来ない理由が、もしかしたらイザヤ君にあるんじゃないかって」

「………イザヤに?」

「昨日、雫はイザヤ君にバレンタインチョコを渡したんです。でもその後、雫は私を置いて一人で帰ってしまったんです。雫の家に行っても、使用人に体調が悪いと言うだけで家に通してくれませんでした」

「……それは………」

エリカは何か話そうとするがすぐに黙った。「イザヤに振られたんじゃないか」という言葉を飲み込んだ。雫がイザヤに特別な感情を抱いていることは仲間内では周知の事実である。しかし達也は思う。もし、イザヤに振られたとして落ち込みはするが、学校を休むなんてことが果たしてあるだろうかと。大した考えも浮かばない、女の機微に疎い達也は、返す言葉が見つからなかった。この時だけは役立たずであった。

(イザヤ、お前は何をした?)

 

 

 

 午後の授業が始まろうとしていた時、イザヤが教室に入って来た。泉美はやっと来たかとため息を吐く。そして、隣に座るイザヤに話しかける。

「遅い登校ですね、イザヤ君」

「まあね」

「深雪先輩と光井先輩が貴方を探していましたよ」

「ん?……ああ、なるほど」

深雪とほのかが、自分を探している理由が分からなかったが、すぐにその理由に見当が付いた。

「何か悪いことでもしたんですか?」

「悪いことねぇ、どうだろう?僕は自分が悪い事をしたとは微塵も思ってないけどね」

泉美の言葉でイザヤは昨日のことを思い出すが、自分に非はないと思っている。むしろ、自分を理解する事ができなかった雫に問題があると、イザヤは考えている。別に雫だけがそうではない。今まで会って来た人間も、雫の様にイザヤを理解する事ができずに離れて行った者達ばかりである。悲しい気持ちはない。次の新しいオモチャを見つければ良いだけの話である。探すのに苦労するだろうが。

「……何があったか分かりませんが、放課後にちゃんと会いに行ってくださいよ」

「同じ生徒会なんだから否が応でも会う事になるよ」

 

 

 

 泉美とイザヤは授業が終わると、そのまま二人で生徒会室へ向かった。途中、水波と廊下で会ったので三人で雑談でもしながら歩いていた。先頭の泉美が生徒会室の扉を開けると、何やら重苦しい雰囲気が部屋の中を包んでいた。入室することを一瞬迷うが、一歩ずつ足を踏み入れる。後ろにいるイザヤと水波も何か感じ取ったのか、泉美に続いて生徒会室へ入る。生徒会室には既に、深雪と達也とほのかがいた。険しい顔をした三人に泉美と水波は戸惑うが、イザヤは何事もない様に椅子に座り、業務を行おうとする。しかし、

「イザヤ君」

ほのかが近づいてイザヤに話しかける。イザヤは、ほのかの方に顔の向きを変えずに返事する。

「なんですか?ほのか先輩」

カタカタと作業を始めるイザヤを見て、

「昨日、雫と何かあったんですか?」

「何かとは?」

「……雫、今日学校を休んだんです」

イザヤはパソコンからほのかへと視線を移す。

「その休んだ理由が僕であると?」

ほのかはコクリと頷く。ほのかは以前、イザヤから達也と深雪の婚約について嫌な事を言われた経験がある。それからほのかはイザヤから距離を取る事にした。しかし、幼馴染である雫がイザヤに恋をしていた為、雫からイザヤの話を聞かされると少し気まずかった。後日、イザヤから謝罪とお詫びのケーキを受け取った。イザヤの誠心誠意の謝罪をほのかは許した。そして今回、雫はあの時の自分と同じ状態になっているのではないかと考えていた。

「そうですねー、まぁそうとしか考えられませんよね。ほのか先輩からすれば」

「実際どうなんですか?」

「貴方の考えている通りですよ。雫先輩が休んだのは僕が原因でしょう」

あっさり見とめるイザヤ。ほのかはイザヤに問い詰める。

「雫に何をしたんですか?」

「何をしたと言われても、僕は正直な気持ちを雫先輩に伝えたにすぎません」

イザヤの言葉にだんだんと眉を顰めるほのか。

「何を伝えたんですか?」

「男女間の問題に首を突っ込むのですか?」

「私は雫の親友よ。首を突っ込む権利はあるわ」

顎に手を当てて考えるイザヤ。それを見つめるほのかや達也達。

「権利ね、じゃあ言いましょうか。貴方を好きではありません、そう言ったんですよ」

イザヤの笑って答えた言葉に、ほのかは顔を暗くする。

「どうして…そんな事を……」

「言ったでしょう?僕は正直な気持ちを伝えたと。ではあのまま、叶う事のない気持ちを持ち続ければよかったと思いますか?」

「それは………」

ほのかは言葉に詰まる。実際自分も、達也に恋をしている。叶う事は不可能な恋を。だから分かるのだ。今の雫がどう言う気持ちなのかを。誰よりも理解できる。

「僕も雫先輩を傷つける事はできるだけ避けたかった。だけど、こうでもしないと今よりも雫先輩を、より一層傷つける事になります。僕も痛かった。雫先輩の悲しい顔を……見たくなかった」

とても切ない声を出して、右手で目を覆い隠すイザヤにほのかは顔を俯く。この男は雫を大切に思っているからこそ、行動してくれたのだと。

「イザヤ君……そこまで雫のことを思って……」

「嘘ですよね」

「え?」

嘘。誰が言ったのか。その声の方を向くと泉美がいた。

「嘘ですよね、イザヤ君」

「……………」

「光井先輩は騙せても、私は騙せませんよ」

「泉美ちゃん?」

「ほのか、信じてはダメよ」

「深雪?」

今度は深雪が発言する。深雪は椅子から立ち上がり、ほのかの側まで近づく。

「イザヤ、芝居はやめろ」

達也のその言葉にイザヤは目を隠したまま、口角を上げた。

「やっぱりバレました?」

イザヤは手を目からどかして達也の顔を見る。イザヤのすました顔を達也は睨みつけていた。

「な!?貴方は!」

先程の事が全て演技だったと理解したほのかは、憤慨してイザヤに詰め寄ろうとするが、深雪がそれを止める。イザヤはそんなほのかを気にも留めず、泉美の方を向く。

「どこが嘘だと思ったか教えてもらえるかな?泉美ちゃん」

「貴方は悲しむとは無縁の人間です」

「あー、そこか。じゃあ、僕が雫先輩の事を好きではないと言った事は、本当だと思っているんだね」

「………貴方は、人を人とは思わない人間ですから」

泉美のその言葉にイザヤはニヤリと笑う。

「泉美ちゃん、僕のこと分かってるね。嬉しいよ」

「…………」

イザヤと泉美が話している間、達也は水波とアイコンタクトを取り、水波は生徒会の扉に鍵を閉める。誰も中に入れさせない為だ。

「でもね泉美ちゃん、僕は決して悪くないんだよ。僕は雫先輩の純粋な気持ちに、自分の純粋な気持ちで答えたまでさ」

「それが、雫を傷つけたんでしょう!!」

泉美とイザヤの会話にほのかが切り込む。

「いいえ、ほのか先輩。傷ついたのはむしろ僕の方ですよ。雫先輩は僕の事を好きだと言った。けど、彼女は僕の事を理解した後に突き離したんです。だから僕は被害者だ」

清々しいまでにイザヤは自分は悪くないと発言する。ほのかの沸点は、既に限界を超えていた。

「ふざけないで!!」

叫ぶほのかにイザヤは耳に手を当てて塞ぐ。

「雫に何を言ったのか言いなさい!!」

「答える気はありませんよ」

ほのかの言葉を拒否するイザヤに、泉美も続く。

「答えなさい、イザヤ君」

泉美の目がイザヤの目を捕らえんとする。

「………はぁ、そうだね。僕は雫先輩にある魔法を使ったんだ」

「……なんの魔法ですか?」

「言葉の魔法さ。その魔法に彼女は苦しみ続けるだろう」

不気味な笑みを見せるイザヤに、生徒会の面々はゾッとする。しかし、ほのかはすぐにイザヤに喰らいつく。大好きな親友の為に。

「今すぐ雫に掛けている魔法を解除しなさい!!」

「無理ですね。その魔法は、掛けられた本人でしか解くことはできない」

「そんな………」

ほのかは、今も家で苦しんでいるだろう雫の身を案じて涙を流す。その姿を見た深雪は決断する。

「イザヤ君」

「何ですか?」

「生徒会長の権限により、今この時点で、貴方を生徒会役員からクビにします」

「「「!?」」」

この場で唯一、深雪の決定に驚かなかった達也は深く後悔していた。自分がイザヤを生徒会に引き摺り込んだからだ。そのせいで、友達に迷惑を掛けていると。

「……なるほど、そうきましたか」

「もう、貴方をここに居させるわけにはいきません。即刻、この場から立ち去りなさい」

冷たく怒った顔をしている深雪に、イザヤは恐れない。椅子から立ち上がり、深雪に頭を下げる。

「生徒会長、今までお世話になりました」

イザヤは頭を上げると、そのまま生徒会室の扉を開けて出て行った。生徒会室には沈黙が漂う。達也は椅子から立ち上がり、皆に頭を下げる。

「すまないみんな、俺のせいだ。俺がイザヤを生徒会に入れたせいで、この様な事態になってしまった」

「お兄様……」

「達也さん、頭をあげてください。達也さんのせいでは無いですよ」

「達也さま…」

「……………」

この日、生徒会長が生徒会役員の一人をクビにするという、第一高校始まって以来の前代未聞のことが起きた。後日、この事は校内全体に知れ渡り、あらゆる憶測が飛び交うのだった。

 

 

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