魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第三十六話 イザヤ「できる、できる、君ならできる」侍郎「あんたふざけてないか?」

 次の日のお昼休み、イザヤは第二演習場を借りる為に生徒会である泉美に頼み込んでいた。

「頼むよ泉美ちゃん、君の権限で第二演習場を借りてくれない?」

イザヤの向かい側で、モグモグと定食を食べている泉美に頭を下げる。イザヤはもう生徒会ではなくなったので、一般の生徒が演習場を借りる事は難しい。その為、イザヤはある一定の権限を持つ人間に頭を下げる他なかった。

「なるほど、貴方が定食を奢ってくれた事はこの為でしたか」

実は泉美が食べている定食は、イザヤに奢ってもらったのである。タダで食う飯は美味いとはよく言ったものだ。それに、イザヤが自分に頭を下げるなんて今まで一度でもあっただろうか。しかし、定食を奢るだけでは足りない。少し吹っかけてみても良いだろうと、泉美はニヤリと笑う。

「奢ってくれた事はありがとうございます。でも、ダメですね」

「え?」

イザヤはてっきりOKしてくれるものと思っていた。

「定食を奢ってくれただけで、私の心を動かせると思いましたか?」

「………………」

泉美は、イザヤにまだ何かしてもらいたい様で、イザヤもそれを察知した。イザヤの今の心境としては「この女。下手に出てやったら調子に乗りやがって」という感じである。イザヤには泉美に頼む他ない。他の生徒会役員に頼んでも貸してはくれないだろう。普段の行いのせいで。

「泉美さま、どうすれば良いですか?」

「そうですね………………わかりました。一日何でも言う事を聞く、これでどうでしょうか?」

「…………マジ?」

演習場を借りてもらうだけで、一日中なんでも言う事を聞くのは、いくら何でもあんまりである。

「あのー泉美ちゃん?演習場を借りるのは今日だけじゃなくてですね……………せめて三日間、放課後に借りて欲しいのですが‥‥」

その言葉を聞いた泉美はさらに口角が上がり、天井に届きそうだった。

「じゃあ三日間、言う事を聞くにしましょうか」

「あ、あんまりだ………」

イザヤの顔には、絶望の二文字が貼り付いていた。イザヤは机に突っ伏して、動かなくなった。

「……冗談です。そんなに落ち込まないでください。最初に言った、一日だけで良いですから」

泉美はそんなに嫌かと不満げにイザヤを見る。いつもやられっぱなしなので、これくらいの事は許して欲しいものである。

「恩に着るよ、泉美ちゃん」

「本当に感謝してますか?」 

 

 

 

 放課後、侍郎はイザヤと共に第二演習場に向かう。途中、イザヤは暇そうにしていた雫を引っ張ってきた。正確に言えば、雫は暇では無いのだが、珍しくイザヤから自分を頼ってくれた事が嬉しかったので、着いてきたのだ。

「演習場で何するんだ?」

侍郎は前を歩いているイザヤに問う。

「当然、君を強くするんだ。だけど、あまり修行を他の誰かに見られたく無いんだ」

「……北山先輩はなんでいるんですか?」

誰かに見られたく無いと言いながらも、イザヤの横にいる雫を見てそう言った。

「雫先輩は言わば、君の姉弟子に当たる人だ。見られても問題ないよ」

雫は後ろにいる侍郎に小さく頷いた。侍郎は雫のことを少しだけ知っている。四葉家次期当主である司波深雪に負けず劣らずの魔法力を有していると。侍郎からすれば、なんとも羨ましい限りである。演習場に着いた侍郎は、早速イザヤからの指導を受けると思いきや、雫と試合を行う事になった。

「雫先輩、お願いします」

「うん」

雫は左腕に腕輪型CADを装着し、拳銃型CADを右の腰部分のガンホルダーに入れる。

「……ルールは何ですか?」

侍郎は、演習場の壁にもたれながら腕を組んでいるイザヤに聞く。

「どちらかが膝をつくまでさ。それに、どんな魔法もOKだよ」

イザヤは簡潔に述べた。

「……本気ですか?」

それはつまり、殺傷力が強い魔法も発動しても良いということ、侍郎はイザヤにその意味を込めて「本気か?」と問う。

「本気だよ。それにしても侍郎君。君は随分と余裕そうだね。準備は良いのかい?」

「大丈夫です」

イザヤの挑発じみた言葉に侍郎はムッとする。いくら相手が二つ上の先輩だからと言って、自分はそこそこ戦闘経験がある。負ける事は無い、そう思っていた。

「じゃあ始め」

イザヤの試合の合図を聞いた瞬間、侍郎は自分の体に移動魔法を掛けて、雫に急速に近づいていく。。相手との距離を詰めて一気に無力化する。そのつもりだった。しかし、

「それは悪手」

雫はそれを読んでいた。雫は侍郎に目を離さず、CADを高速で操作して、魔法を発動する。

「ぐっ!?」

雫の加重力魔法が掛かり、侍郎は、自分の体が地面に倒れる寸前の所でなんとか踏み止まった。だが、雫は右手で拳銃型CADを構え、侍郎にトドメを指す。

「ガッ!?」

侍郎はモロに攻撃を食らい、地面に横になった。

「はい終わり」

イザヤはそう言うと、倒れている侍郎の近くに移動する。

「大丈夫、侍郎君」

「………大丈夫じゃ、無いです」

何もさせて貰えなかった。試合が開始してからほんの十秒ほどで決着が着いてしまった。相手は完全に自分の行動を予測していた。

「正直舐めてた?」

「……………はい」

雫の言葉に、侍郎は素直に返事する。

「魔法師は近距離に弱い。それに、私は体術を習っていない事に貴方はすぐにわかった。だから、距離を詰めて私を倒す。そう思ったから、私は貴方の動きを見てから行動した。簡単に分かったよ」

侍郎は歯を食いしばる。正直な話、ただの女子生徒と思っていた自分を罰してやりたいと思った。戦闘経験は自分が上であるのは今も思っているが、判断能力は明らかに自分よりも上だ。

「参りました、姉弟子」

「うん、わかれば良い」

雫は普段することのない腕を組みをして、侍郎に頷いてそう言った。

「さてと、いい汗かいた所で本題に入ろうか」

イザヤはその場にゆっくりと腰を下ろした。侍郎は身体がまだ痛むが、根性で起き上がり、その場に座る。

「イザヤ、椅子が欲しい」

「おっと、これは失礼」

演習場には椅子が置いていないので、イザヤは魔法である範囲の空気の密度を上げて、人間が座れるようにした。いわば、空気椅子を作ったのだ。雫はそこに座る。周りから見れば、雫の体が浮いているように見えるだろう。

「まず、さっきの試合は、君がどれくらい出来るかを見たかった訳だけど、残念ながら見れなかったね」

「…………」

「そう落ち込まないで、君もすぐにあれくらい出来るようになるさ」

「それはどういう?」

イザヤはニヤリと笑い、そして話し始めた。去年、雫に言ったようにサイオンの無駄、そして抑える方法、そして………。

「魔法力の増大!?」

「声が大きいよ」

「す、すみません……」

侍郎はイザヤに謝る。しかし驚くのも無理もない。今まで自分に足りなかったものが手に入るのだから。故に、侍郎の興奮は止まない。

「そ、その壁を破壊さえすれば、俺の魔法演算領域が拡大できると」

「そうだよ」

興奮気味に話す侍郎に、イザヤは短い言葉で答えた。

「その為にもサイオンを抑える特訓は欠かすことはできない。しっかりとやってもらうよ」

「は、はい!」

侍郎の顔が明るくなる。これで詩奈を守れる力が手に入ると喜んでいた。

「言っておくけど、この事を誰かに話してはダメだよ。もちろん詩奈ちゃんでもね」

「……ダメですか」

「もし言ったと分かったら、君を二度と魔法を使えなくする体にするよ。一生ベッドの上で生活だ」

イザヤのその言葉が冗談ではないことに侍郎は理解した。イザヤは笑っているが目は笑っていない。侍郎は青ざめて何度も首を縦に振った。

「よろしい、では始めようか」

そうして、侍郎の特訓一日目が始まった。

 

 

 

 侍郎の特訓が一段落したので、イザヤ達は演習場を後にした。侍郎は汗を流す為に更衣室に入り、イザヤと雫は、演習場の鍵を泉美に渡す為に生徒会室を目指して歩いていた。

「二人だけの秘密じゃなくなったね」

「まあ、こればかりは仕方ないですね」

「イザヤは何で、矢車を強くしようと思ったの?」

「ただの気まぐれです」

答える気のないイザヤに雫はムッとする。雫はイザヤの脛を蹴る。

「痛い痛い」

イザヤは痛いと言うが、雫はそれほど強く蹴ったつもりはない。オーバーリアクションだ。

「ねえ、イザヤ」

「何ですか?」

改まって自分の名前を呼ぶ雫にイザヤは訊ねる。

「また一緒にどこか行きたい」

「例えば?」

「遊園地」

「そうですね……そのうち空いてる日を伝えますよ」

「イザヤ、いつも空いてるでしょ」

雫と話していると、いつのまにか生徒会室に到着していた。イザヤは生徒会室のドアを三回ノックして入室する。

「こんにちはー」

ドアを開けると、生徒会室にいる全員がイザヤに視線を向ける。どうやら全員いたようだ。

「イザヤ君、もう終わったのですか?」

「ああ、鍵返しておいて」

イザヤから演習場の鍵を渡される泉美。泉美の名義で借りているので、イザヤが先生に返すわけにはいかない。

「あの、イザヤさん。侍郎は何してますか?」

「彼は更衣室でシャワーを浴びてるよ。そろそろ、帰ってくるころだと思うけど」

「そうですか」

詩奈は演習場で何をしているか気にはなっているが、男性は隠れて努力したい生き物である事を知っているので深くは聞かない。だが、達也は違う。

「イザヤ、演習場で何していたんだ?」

当然聞いてくるだろうとイザヤは分かっていた。だけど、こちらも言うことは決まっている。

「秘密です」

イザヤは達也の方に振り向かずに答える。達也はイザヤの隣にいる雫に視線を移動する。雫は達也がこちらを見ているのに気が付いた。達也が何をもって自分を見ているのか分かっていた雫は首を横に振る。

(教えてはもらえないか……)

達也が察するに、去年の雫の特訓と同じ事をしているのではないかと考える。雫の魔法力を増大させた何らかの方法を、侍郎にも施すつもりなのだろう。魔法力の増大、魔法演算領域の拡大、その方法を知ることができれば、魔法師は更なる飛躍を遂げる。どの国も、喉から手が出る程欲しがる情報だろう。雫も何も言わないのはその為だ。現に四葉真夜は、この事を達也から聞いた時は歓喜で震え上がっていた。

「イザヤ、少しいいか?」

「珍しく達也先輩から僕に何か用ですか?」

イザヤは帰ろうとしていた足を止めて、達也の方に振り向く。

「母がお前に会いたいそうだ」

「「「「!?」」」」

母親。それはつまり、四葉家現当主の四葉真夜の事である。達也はオンラインの師族会議の後、真夜にイザヤと個人で会えるように取り計らって欲しいと言われていたのだ。驚いたのは、達也、深雪、水波を除く生徒会役員と雫である。

「へえー、極東の魔女が僕に何のようですか?」

「それは聞いていない。母はお前の空いている日に合わすそうだが、なるべく早く言って欲しい」

「じゃあ明日で」

「明日?」

イザヤは考える素振りも見せず、達也にそう答えた。しかし、いくら何でも急過ぎると達也は思う。

「………明日しかダメか?」

「用事は早めに終わらせたいので。今日の夜に支度するので使いの車を用意してくださいよ」

「朝から?学校はどうするんだ?」

達也は当然の質問をイザヤに訊ねる。

「放課後の時間に来ますよ。侍郎君の事もあるしね」

「……少し待て。今から本家に連絡する」

達也は椅子から立ち上がり、ポケットからスマホを取り出すと、誰かに電話を始めた。

「………はい、イザヤは明日しか無理だと……………はい、学校は午後まで行かないつもりの様で………はい、わかりました。失礼します」

皆が緊張で見守る中、達也の電話が終了する。

「イザヤ、二十二時にお前のマンションの前に迎えの人間が来るようだ」

「わかりました、それでは失礼します」

イザヤは軽く頭を下げて生徒会室を退室した。イザヤがいなくなった後、生徒会室では泉美に訊ねる詩奈の姿が。

「あ、あの、泉美さん」

「詩奈ちゃん?」

「イザヤさんは、一体何者なんですか?」

イザヤと会って日が浅い詩奈は、四葉家現当主から招待されている事に驚きのあまり困惑していた。

「それは………こっちも聞きたいです」

泉美は自分の心の内を吐露した。

 

 

 

 イザヤはその後、家に帰ると四葉の使いの人間が来るまでテレビをぼうっと眺めていた。テレビはいまだに、ブラジル軍がゲリラに使用した戦略級魔法関連のニュースを報道していた。近年、戦略級魔法は抑止力としてのみ使用され、実戦に投入されたことは無かったはずだ。しかし、灼熱のハロウィン以降、各国は戦略級魔法の認識を再評価したに違いない。容易に戦略級魔法を使用することに踏み切ったと考えれば……

「達也先輩、貴方のせいですよ…………」

イザヤは一人言を呟いた。時計を見ると、針は21時50分を指していた。そろそろ外で待っていようと思い、荷物を持って家から出た。エレベーターに乗り、1階のボタンを押して下に降りていく。エレベーターのドアが開き、イザヤはそのまま外に出ると、一台の黒い車が止まっていた。

「あれか」

イザヤは黒い車に近付くと、中に乗っていた人間が出てきた。

「初めまして、私は四葉家当主の命により貴方を迎えにきた津久葉夕歌と言います」

「こちらこそ急な事で申し訳ありません」

夕歌はイザヤに対して軽く一礼をした。イザヤも後から彼女に頭を下げる。

「さあ、お乗りください。今から駅まで行って、新幹線に乗ります。その次に、迎えの車に乗って本家に向かいます」

夕歌は簡単に四葉への行き方を説明する。

「なるほど、長い旅になりそうだ」

イザヤは笑い、運転席の後ろの席に乗る。運転席には黒いスーツ服を着た20代後半ぐらいの男性がハンドルを握っていた。

「よろしくお願いします」

イザヤはその男性に声を掛けると、小さく頷いた。夕歌はイザヤの隣に座り、男に指示する。

「出して」

「かしこまりました」

夕歌の指示に男は車を発進させる。イザヤは向かう。いざ、魔女の館へ…………

 

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