魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第三十九話 イザヤ「日常に戻ってきたなー」 達也「………」その他大勢「…………」

 学校は一時騒然となったが、しばらくしてまた通常通りの授業に戻っていた。だが授業の内容は、生徒達の頭にすんなり入らなかった。先程の感じた事のない力の気配により、集中する事など誰にも出来なかった。それは、達也も例外ではない。イザヤが今の段階で、四葉と事を構えるつもりがない事は、泉美から送られたイザヤのメールを見て把握したが、それでも不安が消える事はなかった。イザヤは今日、矢車侍郎との約束で放課後の学校へ来るはずだ。そこで何があったか話してもらおう。もし無理ならば、四葉本家に連絡を入れて直接真夜に訊ねるだけだ。達也は今日ほど、早く放課後になってくれと願う日はなかった。

 

 

 

 本日の最後の授業が終わる。いつもならば、各々が部活へ入ったり、家に帰ったり、何らかの行動をとるのだが、今日に限って教室の生徒の数は減る事はなかった。皆が一様に、あの時の波動が何なのかを議論しているようだ。何かの研究所が爆発したとか、四葉の新兵器だとか、大亜連合が攻め込んできたとか、色々と妄想が飛び交うが、誰一人当てる事はできない。そう、泉美を除いて。

(あの波動はきっと、一人の人間が出していい力ではないでしょう……)

およそ人間が到達する事のできない領域に足を踏み込んでいる。世界を揺るがす力。世界そのものを壊す力。あの力がただのそよ風程度だったならば、イザヤの『本気』は一体どれほど…………。

(考えるだけでもゾッとしますね………)

あの男がその気になれば、世界征服など容易く行われる事だろう。誰も彼を止める事はできない。

(だからでしょうか。彼が退屈と感じてしまうのは)

絶対的な強者。故に、好敵手がいない。退屈を抑えるために、イザヤは自分に縛りをつけている。それが『遊び』。自分の力を抑え、時には相手に合わせ、自分が不利な状況を作る。だって、そうしないと面白くならないから。そうしないとすぐに壊れてしまうから。だから大切に、丁寧に、オモチャを扱わなければならない。

(早く、香澄ちゃんと完成させなければ…………)

泉美は今、自分が出来ることをするまでだ。

 

 

 

「ようやく着いたか……」

イザヤは夕歌に送ってもらった後、新幹線に乗ってようやく東京に着いたのだ。ここからの移動に車は必要ない。いるのはこの身一つだけだ。イザヤは軽く準備体操を済ますと、勢いよく地面を蹴って空を高く飛び上がった。イザヤの体は下に落ちる事はなく、空中に足場を形成して、最短距離で一高へ目指して走り出す。空ならば車も走らないし、信号機に止められる事はない。右足、左足、足が落ちるポイントに足場を作っていく。

「さて、みんな大騒ぎだろうな……」

泉美達が驚いている様を想像して、イザヤはニヤリと口角が上がった。

 

 

 

 イザヤが学校へ着くと、校門で待っていたのは達也であった。

「あれ?達也先輩、何でここに?」

生徒会の仕事はどうしたんだ、とイザヤは聞いているのだ。達也が仕事をサボるなんて事はありえないから。じゃあ後は、一つしかない。イザヤ自身だ。

「お前を待っていたんだ。お前が空から来る事は俺の『眼』で確認していた」

達也はイザヤが駅から一高に来るまで、仕事そっちのけでイザヤを見ていた。そろそろイザヤが着く頃に、生徒会室を抜け出して校門で待っていたのだ。

「わざわざ出迎えてくれてありがとうございます」

「そんなことよりイザヤ。本家で何があった?」

達也は無駄な話をするつもりはない。イザヤが何をしたか、それだけを聞きに来たのだ。

「何があったかなんて、自分で本家に連絡すればいいじゃないですか?」

「それはどうだろうな。全ての人間が理解できているわけじゃない。本家で……いや、お前は何をした?」

達也の鋭い目がイザヤを捕える。

「真夜さんからお願いがありましたね。僕はそれを叶えただけですよ」

「……お願いとは何だ?」

「『本気』を見せて欲しいと」

「……………」

イザヤの『本気』。あの時の自分に駆け巡ってきた波動の正体は、イザヤの内から漏れ出した『本気』なのか。にわかには信じがたい。アレが人の所業であるならば、イザヤは一体………………。

「そろそろ良いですか?僕は侍郎くんの相手をしなくてはいけないので」

イザヤは達也の横を通り過ぎる。イザヤはそのまま校舎の中に入っていく。達也は後ろを振り返りはしなかった。ただ強く、己の拳を握り締めていた。

(イザヤ、お前は危険な存在だ。お前が何者であろうと構わない。お前はこの世にいてはいけない存在なんだ)

達也は、イザヤを人と呼べるかすら怪しかった。人の形を保っているだけの怪物だと、そう考えざるを得なかった。なら、あの怪物をどうやって倒すのか。達也にはその術が見つからない。

 

 

 

 イザヤは泉美から第一演習室の鍵を借りるために、生徒会の扉をノックせずに入った。突然人が入って来たので、生徒会の面々は顔を上げて扉の方を見る。

「……イザヤ君、ノックして下さい。非常識ですよ」

「ごめん泉美ちゃん。侍郎君と雫先輩は先に、第一演習室前で待っているからさ、早く行きたいんだよね」

「だからと言って、ノックをしない事にはならないですよ」

「ごめんってば」

イザヤは謝るが、いつものように反省している顔には見えない。泉美は机の引き出しから、先生に受け取った演習室の鍵を取り出した。それをイザヤが差し出した手のひらの上に置く。

「ありがとう泉美ちゃん」

「…………」

泉美からの返答はない。それどころか、泉美は怒ってそうな顔をしている。何故だろう。

「イザヤ君」

「…………何かな?」

「人に迷惑をかけてはいけませんよ」

それは子供を叱る親のようである。泉美の言葉に、イザヤはキョトンとした顔をした後、ニコリと笑って返した。

「わかったよ泉美ちゃん。善処します」

イザヤは生徒会室を退室した。それを見送る泉美。イザヤが何者であっても泉美は変わらない。泉美の心はいつまでもイザヤを想う。それはまさしく…………。

 

 

 

 その日の夜。達也は本家に連絡を入れて、イザヤと何があったのかを聞くつもりでいた。しかし、電話に出たのは真夜ではなく執事の葉山であった。

「葉山さん」

「達也様申し訳ありません。奥様は今、体調がよろしくないので、自室で休んでおられます」

「当主の身に何が?」

「それは、近いうちに奥様自らお伝えするでしょう」

その言葉の後、電話は切れた。達也は真夜の身に何が起こったのか、イザヤに何をされたのか、憶測の域を出ない。しかし、葉山の冷静な顔がより一層、達也を不安にさせた。まだ真夜に倒れてもらうわけにはいかない。深雪の為にも、自分の計画のためにも。達也は自室から出ると、リビングで水波と深雪が話していた。水波の手には、今はもう見かけなくなった封筒を持っていた。電子ネットワークが進歩したこの世の中で、珍しい事だ。

「水波、それは何だ?」

「‥‥お手紙でした。宛先は達也様と深雪様のお二人方です」

「差出人は?」

「十文字様からです」

手紙の差出人は十文字克人だった。水波は封筒を達也に渡す。封筒を受け取った達也は、ペーパーナイフで封緘部に滑り込ませた。手紙の内容はいかに……。

「反魔法師主義運動対策の会議に俺か深雪を招待したいそうだ」

「反魔法師主義対策に、私たちをですか?」

「二十八家の若手を集める会議らしい。将来的にはナンバーズ以外にも対象を広げて、日本魔法協会の青年部会みたいなものを作りたいそうだ」

「……それは、十文字先輩らしくないような」

達也は苦笑いを浮かべた。確かに十文字克人は、画策などには程遠い存在だろう。

「いや、純粋に意見交換の場を作りたいだけだろう」

十文字克人は、次世代を担う魔法師のコミュニティを作ろうとしているようだ。

「それでお兄様、如何なさるのですか?」

「俺が出席しよう」

達也の答えに迷いは無かった。ここは自分が行くべきだと。達也は理由を説明しなかった。

「それに、反魔法師主義対策の為に話し合うのは良いが、俺は別に伝えたい事がある」

「それは………」

深雪も理解したのだろう。それ以上、口にする事はなかった。達也は小さく頷いた。

「折紙イザヤについて、情報を共有すべきだ。あの男は、全人類の敵になり得る」

この会議で何かが決まるとは思えない。ただ、達也は皆に注意を促す為にその会議に参加するつもりだ。

 

 

 

 ここは十師族の一角、三矢家の居間。そこに正座させられている侍郎、腕を組んでいる三矢家当主の三矢元、そして同じく正座している娘の詩奈の三人である。三矢詩奈と三人侍郎と詩奈は、なぜ自分たちが呼ばれたのか理解出来ていなかった。

「侍郎くん」

「はい」

三矢元が口を開いた。

「最近、君の行動がどこか怪しいと両親が言っていてね。訓練所にも顔を出さないで、部屋で何かしているようだな」

「そ、それは……」

イザヤから教えて貰った、サイオンを抑える修行をしているのだ。誰にも自分のやっていることを知られてはいけない。

「確かに、その通りです」

「それに、詩奈の帰りが遅いのも、詩奈が君を待っているのが原因だとか」

「!?」

何故それを知っているのか。まさか、詩奈には既に護衛役が付けられているのか。侍郎は強く拳を握る。

「君は詩奈を待たせてまで、何をやっているか?」

三矢元は侍郎を問い詰める。未だに自らを護衛と名乗るならば、主人の足を引っ張ってはいけない。

「い、言えません」

侍郎は回答を拒否した。三矢元は眉をひそませる。

「何故言えないんだ?」

「そ、それは、言ってはいけない約束なんです」

「約束?誰との約束なんだ?」

イザヤは、修行の内容は誰にも言ってはいけないと話していたが、誰に修行をつけて貰っているかは、言ってはいけない事柄に含まれていないだろう。侍郎はゆっくりと口を開いた。

「一年上の先輩の折紙イザヤという人です」

「何だと!?」

詩奈は前から第一高校に通う予定だった。だが、折紙イザヤが第一高校に通っていることを知った三矢元は、それを危惧して詩奈をそこに通わせるかどうか悩んでいたが、詩奈が第一高校を強く推しので、仕方なくそこへ入学させたのだ。まさか……。

「詩奈、お前は折紙イザヤを知っているか?」

「はい、イザヤさんは私の恩人です」

「恩人だと?」

「以前、反魔法師団体に襲われそうになったのを助けてくれたんです」

「そんな事が………」

まさか、娘にもあの男の手が伸びていたとは。三矢元は頭を抱えてしまう。気危惧ていた事が起きてしまった。いや入学以前から、折紙イザヤは詩奈に目を付けていたのか。

「おの、お父様、どうなされたのですか?」

「ご当主?」

詩奈と侍郎の心配する声が三矢元の耳に届いた。考える事に集中していて2人を置き去りにしていた。

「すまない2人とも。だが金輪際、折紙イザヤと関わりを持つのはやめなさい。折紙イザヤは危険な男だ。お前たちは知らないのだ。あの男がどんな人間なのか……」

折紙イザヤは十師族案件だ。娘や娘の幼馴染が、イザヤと関わりを持つのは将来的にまずい事になりかねない。あの男の魔の手が届かないようにしなければ。

「お父様、少し誤解しているようなので訂正しておきますね」

「誤解?」

「侍郎君はどうか分かりませんが、私は自分の意志でイザヤさんと関わっているんです」

「詩奈、お前……」

自分の娘が既にあの男の手中にあるのか。三矢元はショックを受ける。そして、この場にいないイザヤに対して怒りを向ける。

「詩奈!お前は騙されているんだ。折紙イザヤという人間に!あの男がどんなに危険な男か、お前は知らないんだ!」

声を張り上げる三矢元。それに、緊張感を覚える侍郎。しかし、詩奈は以前と毅然とした態度を示した。

「知っています。師族会議を盗聴した事や、十師族の当主の方々に目を付けられている事も」

「詩奈、何でそれを……」

そう、詩奈は泉美から教えて貰っていたのだ。イザヤが四葉に行っている間、イザヤが何故、四葉に目を付けられているのか。イザヤが何をしたのか。泉美が知っている全てを。

「私は、イザヤさんがどういう人間か知ってもなお、彼のお側にいたいと思っています」

詩奈の決意は固まっている。これからもイザヤを想い続ける事に偽りは無い。自分の父親に、さりげなく好きな人がいます宣言をした。三矢元は顔を顰める。

「何故よりにもよってあの男なのだ!詩奈、私は認めないぞ」

「お父様……」

三矢元は立ち上がって居間から出て行った。残った侍郎と詩奈は、お互いの顔を見合わせる。

「侍郎君……」

「何だ詩奈?」

「怒られちゃった……」

詩奈は顔を俯いた。あそこまで怒った顔をした父親を見たのは初めてであり、それが自分に向けられた事に詩奈は落ち込んだ。

「詩奈、俺もっと強くなるよ」

「侍郎君……」

「詩奈を守れるくらい、あの先輩を倒せるくらい」

「フフフ、それは無理じゃないかな」

「かもな……」

出会って数日しか経たないが、あの得体の知れない男に勝てるビジョンが浮かばない。コテンパンにされてる自分の姿しか想像できない。

「倒せないなら、一発喰らわせるようになってやる」

「うん、楽しみにしてる」

2人の新たな学校生活は、まだ始まったばかりである。2人が入学した年は、波瀾万丈の年だと誰もがそう口にする。あの前代未聞の『事件』が起こる。

その日は、刻一刻と近づいている。

 

 

 

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