魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第四十話 達也「お前は人類の脅威」     イザヤ「おまいう」黒羽貢「お前が言うな」  達也「……………」

 今日は十文字克人が招集した二十八家の若手会議の日だが、達也はいつもと変わらず朝から九重八雲の寺へ修行に出掛けていた。そして帰ってきた達也は汗を洗い流していた。達也にとってはいつもと変わらない日常、というわけでもなかっだ。それは昨日の事。達也は軍からの緊急要請があったのだ。それは、ロシアの敵船が日本に向けて侵攻してきたからに他ならない。達也は軍の命令で、超遠隔精密標準補助の機能を持つCAD、サード・アイを用いて『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』や『術式解散(グラム・ディスパージョン)』を敵艦隊に向けて魔法を放つ時だった。迎撃に出ている日本艦隊の進路上に、敵の魔法が複数展開されたのだ。それは戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』酸水素ガスを生成・点火することで広範囲を攻撃する魔法。達也は敵の魔法の発動を無効化し、事なきを得た。その後、敵船の三分の一を足止めして、任務を終えた。だが達也の顔色はすぐれなかった。

(対策を考えなければ……)

魔法式が魔法式を組み立てて、魔法が複写されるわずかなタイムラグを調節し、すべての魔法式を同時に作動させる。発動の範囲を広げられた場合はカバーできない。敵が魔法式を複写し終える前に無効化しなければならない。しかも複写元になる魔法式は、連射可能な魔法かもしれない。達也は一つの魔法式であれば、記述内容が同じで、何百、何千の魔法だろうと一つのものとして『術式解散(グラム・ディスパージョン)』で処理できる。だが、『トゥマーン・ボンバ』は、少しずつ記述内容が違う無数の魔法式の集合体である。自動複写により連鎖的に展開されていく魔法を、達也は『チェイン・キャスト』と名づけ、何らかの対策を講じなければならなかった。

(アイツなら、これをどう対策するだろうか……)

達也の後輩、生意気な後輩、折紙イザヤ。あの男ならば、この程度の問題など、軽くやってのけるだろう。手を借りたいぐらいだが、そうはいかないだろう。

(フッ、『トゥマーン・ボンバ』の使い手には悪いが、どうもイザヤと比べてしまうと、可愛らしいものだな)

イザヤの場合は、対策を講じる事も出来ない。魔法の使用が、達也の『眼』で認識出来ない。本来、達也の『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』はイデアにアクセスし、存在を認識することができる能力だ。この『眼』から逃れる事など出来ない。そう自負していたが、イザヤの存在でそれは否定された。なぜ見ることが出来ないのか、何かカラクリがあるのは間違いない。無敵の魔法などこの世にはない。

(イザヤは師族会議の場所を知る際、十師族の側近の一人に催眠をかけたと言っていたな………)

催眠。それは古式魔法なのか現代魔法なのか分からないが、ともかく誰かがイザヤに操られていた。そしてその人物は見つかっていない。イザヤの言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、今はそれしか奴の手がかりが無い。

(催眠……催眠か…………)

達也は鏡に映る自分を見ていた。別に変わり映えのない自分の体だ。達也は鏡の中の自分と目を合わせる。

「お前は催眠にかかっているのか………」

鏡の中の自分自身に問い掛ける。なんともおかしな話である。自分が既に、イザヤの催眠にかかっていたらどうだろう。そんな隙を与えた覚えは無いが、もし、自分がイザヤの術中にハマっていた場合、『精霊の眼』で認識出来なくさせられていたら………。

(ダメだ……自分が催眠に掛かっているなんて、わかる筈がない)

達也は考えるのをやめた。催眠に掛けられているのか、掛けられていないのか、そう考える事こそ、イザヤの手のひらで転がされている気がしてならない。幸運にもイザヤはまだ動く事はない。今は目の前の敵に集中するしか無い。しかし、問題の先送りは、達也にとって耐え難いものであった。

 

 

 

 達也は横浜にある魔法協会関東支部に足を運んだ。今日ここで若手会議が行われる。支部がある横浜ベイヒルズタワーの入り口で、達也は偶々、良く知っている七草の三姉妹と出会った。

「あら達也くん、お久しぶりね」

「お久しぶりです。七草先輩も出席されるんですか?」

七草家から出席するのは、長男の智一だと考えていた。参加人数は限定されていないので、もしかしたら若手会議に参加するのか。

「いいえ、私たちはお手伝いなの」

私たちというのは、真由美の双子の妹である香澄と泉美の事である。真由美だけでなく妹の二人まで少し大人っぽくドレスアップしているのは、受付や案内を手伝う為らしい。

「こんにちは、司波先輩」

「こんにちは」

「ああ、こんにちは二人とも」

泉美は普段から生徒会で顔を合わせるが、香澄は風紀委員であるため、頻繁に顔を合わせる事はない。真由美ほどではないにしろ、少し久しぶり感がある。

「司波先輩、深雪先輩は来られないのですか?」

休日でも大好きな深雪に会いたい泉美が、達也に訊ねてくる。

「ああ、深雪は若手会議には参加しない。俺だけで十分だ」

「そうでしたか」

泉美は少しため息をついた。その態度は達也に対して少し失礼であるが、達也は気にしなかった。いつもの事だから。

「そう言えば司波先輩、1時間前くらいにイザヤ君がここに来てたんです」

「イザヤが?」

二十八家でもないイザヤがここに来る理由はない筈だ。というか、若手会議が行われる場所を何故知っているのか。偶々ここに来たとは考えにくい。

「イザヤは何しに来たんだ?」

達也は泉美に訊ねる。

「ええっと、どこから話しましょうか…………」

泉美は1時間前の記憶を掘り起こす。

 

 

 

 七草三姉妹は朝早くから、ベイヒルズタワーの入り口で若手会議に参加する人の受付の手伝いをしていた。休日なので人がたくさんいる中、入り口から入って来た、笑顔を貼り付けたような男に気付いたのは、香澄であった。

「あれ?泉美、イザヤ君がいるよ」

「はい?」

香澄が泉美の肩を叩き、泉美は少し抜けた声を出しながら、香澄の指さす方向を見る。そこにはいつも学校で見るイザヤがいた。

「なんでここに?」

泉美がそう思ったのも束の間、イザヤはエレベーターに乗り込んだのだ。その行動に、泉美はイザヤが何をしに来たのか気づいた。泉美は、急いでエレベーターまで走っていき、↑ボタンを押して閉ろうとしていたエレベーターの扉を開けた。

「あれ?泉美ちゃん、なんでここに?」

「それは、こちらのセリフです」

泉美は少し息を切らせながら、イザヤの腕を引っ張り、エレベーターから降ろさせようとしていた。

「ちょっと泉美ちゃん、なになに?」

「降りてくださいイザヤ君。あなたの魂胆はお見通しです」

泉美は力いっぱいイザヤの腕を引いてみるが、びくともしない。悲しいかな、泉美の力ではイザヤを動かす事はできない。

「ちょっと二人とも、他の人の迷惑だよ」

後から駆けつけてきた香澄も協力して、イザヤをエレベーターから降ろした。イザヤは二人にされるがまま、入り口の受付まで引っ張られていった。

「ちょっと貴方たち何してるの?」

妹達が男の腕にしがみつきながら歩いて来たので、真由美は呆れていたのだ。

「お久しぶりです、真由美さん」

「貴方はたしかイザヤ君、香澄ちゃん、泉美ちゃん、そろそろ彼の腕から離れなさい」

こんな公の場ではしたない二人に真由美は注意するが、泉美はそれを拒否する。

「ダメです、お姉様。イザヤ君をこのまま離してしまうと、会議を盗聴するやもしれません」

「え?盗聴?」

一瞬何のことか分からなかったが、真由美は去年の冬ごろに起こった師族会議の盗聴の件が、イザヤの仕業であると父親である弘一に知らされていたのだ。故に、理解した真由美の行動は早かった。

「二人とも、彼をスタッフルームまで運ぶわよ」

「「はい」」

息のあった双子の言葉に、イザヤはため息をついた。イザヤはそのままスタッフルームまで運び込まれた。香澄と泉美はイザヤを椅子に座らせ、イザヤの前で腕組みをした。

「イザヤ君、逃がしはしませんよ」

「そうだよ、いつも迷惑ばかりかけて」

泉美は普段からの鬱憤が溜まっている様子で、香澄はイザヤから何かされた訳ではないが、ただ泉美に同調しているだけである。

「何だよ二人とも、僕が何をしたっていうんだ?」

イザヤは両手を広げて二人に抗議した。

「これからする事を未然に防いだんです」

「これからって何のこと?」

しらばっくれるイザヤに泉美は問い詰める。

「若手会議の内容を盗み聞きしに来たんでしょう?」

「ビンゴ、よく分かったね」

「貴方のことなど私には全部お見通しです」

泉美は自信満々にそう発言し、その言葉に香澄は苦笑いする。自分で凄い事を言ってるのに気が付かないのかと。

「えーと、香澄ちゃん。泉美ちゃんてやっぱり……」

そういう事なの?と耳打ちで聞いて来る真由美に対して、香澄は「そういう事です」という意味で頷いた。

「盗聴が趣味なんですか?」

「違うよ、暇だったから来ただけさ」

「なら若手会議が終わった後、私と遊びませんか?」

香澄と真由美は、末っ子がいきなり男とデートを取り決めようとしている事に空いた口が塞がらない。

「それってデート?」

「はい、デートです。もちろんイザヤ君がエスコートして下さいね」

泉美は隠すつもりはない。真由美は空いた口を手で覆う。三姉妹の中で男を作るのが一番遅いと思われていた泉美が、まさかここまで。自分よりも一歩二歩先をいってる。この妹、やりおる。

「僕まだOKしてないけど………」

「じゃあ終わったら連絡しますね」

泉美はそういって部屋から出ていった。有無を言わせない泉美の言葉に、イザヤは困った顔をして頭を掻いた。

「ねぇイザヤ君、少しいいかしら?」

先程まで妹達の一歩後ろに控えていた真由美がイザヤに近づいて来た。

「何ですか、真由美さん」

「貴方は、泉美ちゃんの事どう思っているの?」

「どうとは?」

イザヤは質問を返すが、香澄が間に入る。

「そりゃもちろん、好きかって事だよ?」

真由美よりもあからさまに話す香澄に、イザヤはしばらく沈黙したのち答える。

「好ましいか否かで言ったら、好ましい部類にはありますね。彼女は面白いから」

「またそれ…………」

香澄は呆れる。イザヤは変わらない。自分にとって面白いか否かが、物事の最優先なのだ。

「じゃあ、嫌いではないのね?」

「人は誰しも嫌いな人間に近づこうとはしませんよ」

回りくどい言い方をしているが、要するに泉美の事は特別と思っているのだと、真由美はそう判断した。

「今はそれでいいわ。私が無理に踏み込んで二人の仲を割く事はしたくないし。これで失礼するわ」

「あっ、私も行くよお姉ちゃん。イザヤ君、泉美を悲しませないでね」

真由美の後を追いかけて出て行こうとする香澄が、イザヤに対してそう忠告するのだった。二人は部屋から出て行って、イザヤは一人はきりになった。

「好きって何だろうな………………」

イザヤは天井を見て一人つぶやいた。

「どうなんだろうな、僕、…………分かんないや」

まだ何も分からない。だけど、わずかながら、イザヤの心の中で新しい何かが生まれてこようとしている。それは破滅か、それとも……………。

 

 

 

 泉美の話に、若手会議がイザヤに盗聴させる可能性を達也は失念していた。泉美がいなければ、イザヤは同じように繰り返していただろう。今回ばかりは泉美に助けられた。

「じゃあイザヤはもう居ないんだな」

「はい。すでに部屋には居なかったので、どこかへ行ってしまったようです」

「そうか、助かった泉美。ではそろそろ俺はこれで」

達也は真由美達に軽く一礼した後、エレベーターで会議室へ向かった。

 

 

 

 午前九時ちょうど。十文字克人と七草智一が、会議室の扉から揃って姿を見せた。克人はこの場に集まってもらったことについて一一同に謝辞を述べてから、中央の席に座った。

「皆さん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。無駄な時間を費やさず、早速本題に入りたいと思います」

克人の言葉に異論はない。忙しい合間を縫ってここへ来た人も少なくない。

「皆様からお意見を頂戴したいのは、ますます勢いを増す反魔法師主義運動に対して、我々魔法師がどう対処すべきかについてです。今月に入って、日本だけでなく世界各地で大きな事件が起こっています。この厳しい状況にあたって、我々は行動するべきなのか、皆様からの忌憚のない意見を頂戴したく存じます」

克人の言葉を起点に、会議に出席した者達から様々な意見が飛び交う。達也はこの話し合いに積極的に参加しようとは思わなかった。口を開くのは、話を振られた時のみに限定していた。話は、魔法師への不信感を払拭する為に、魔法師がメディアへの進出について議論が展開していた。自分たち魔法師が、社会の役に立っている姿を分かりやすく示す必要があるとの事。

「メディアの露出を意図的に増やすとなると、見栄えも重要になってきませんか?容姿は優れている方が良い」

話がやや浅慮軽薄な方向に流れていってると達也は思った。もしかしたら、七草家はこれを見越して、この会議を企画したのかもしれない。

「凶悪事件や大規模災害に出勤するとなると、実力の方も疎かには出来ないでしょう」

「容姿と実力を兼ね備えた魔法師ですか……。それなら、七草さん、貴方の妹さんなんて、ピッタリじゃないですか」

この発言に克人と将輝の眉がピクリと動いた。

「真由美ですか……どうでしょう、魔法師としての実力はそれなりだと思いますが……」

謙遜して見せている七草智一のセリフに、達也は耳を傾けつつも、瞼を閉じ、自分の表情を消した。これから発言されるであろう言葉に、達也は不快感を持たずにはいられなかった。

(イザヤ、どうやら今回の会議は、お前にとって面白いものではなさそうだぞ………)

達也のその考えは正しい。もし、イザヤがあのまま若手会議を盗聴していたら、時間を無駄にしたと思ったことだろう。

「では、四葉家の次期当主などはどうでしょうか?我々が象徴していただくのに相応しい姫君だと思いますが」

智一は待ってましたと言わんばかりに、目に強い光を宿す。智一はこのまま、会議をある一つの方向に進めようと、口を開こうとしたその時。

「七草さん」

達也が智一よりも早く口を開いた。若手会議が始まってから、達也は初めて喋ったのだ。

「なんでしょう」

「積極的に社会に貢献し、アピールする。大変結構な事です」

そして言葉を続ける。

「しかし、警察にも消防にも多くの魔法師が勤めています。国防軍でも多数の魔法師が軍務に服しています。彼らの仕事に横からしゃしゃり出て、まるで自分たちの功績にするのは、どうかと思いますが」

会議室の空気は凍りつく。和やかになりつつあった所に、達也がぶち壊した為、多くの人間が達也に非難の目を向ける。しかし、達也は知った事ではない。達也は自分が若手会議に来た本来の目的を遂行する。

「この場を借りてお話しさせてもらいます。現在、我々日本の魔法師は、ある一人の人間に注視する必要があります」

達也は立ち上がり、皆に訴えかける。その言葉に、克人、将輝、六塚家当主、六塚温子が達也が何を話そうとしているのかを理解した。

「一人の人間?それは誰のことですか?」

そう発言したのは、八代家当主の弟、八代隆雷であった。

「それは、折紙イザヤという男です」

会議室にいる多くの人間はその名前を聞いた時、誰かわからず首を傾げた。

「この折紙イザヤという男は、十師族の当主全員に最危険人物として認識されています」

達也の言葉に一同が驚愕した。皆が一様に、その事が事実か確かめる為に、六塚温子と克人の方に顔を向ける。温子と克人は全員の視線が集まる中、重たい口を開いた。

「「事実だ」」

二人の当主の事実確認が終えた後、五輪洋史が動揺しながらも達也に訊ねる。

「その人物は、一体何者なんですか?」

そう疑問に思うのも当然だろう。だが残念ながら、達也にはその問いに答えることはできない。

「折紙イザヤが何者で、どこから来たのか。今もまだ分かっていません」

四葉の総力を上げても、イザヤの正体を掴むことはできなかった。

「その男は何故、危険人物として見られているんですか?」

三矢家次期当主、三矢元治が達也にではなく、温子に訊ねる。温子は自分たち十師族の失態を口にしたくはないが、それも無理な話である。

「去年の師族会議の話し合いを折紙イザヤに盗聴されていました」

「と、盗聴ですか!?」

三矢元治が声を上げてそう聞き返した。驚くのも無理もない。温子でさえ、その事実に驚愕したのだから。

「その人物の居場所は特定出来ているんですか?」

三矢元治が再び温子に訊ねるが、その問いに答えたのは達也であった。

「折紙イザヤは、第一高校に通う2年生で自分の後輩にあたります」

「がっ、学生!?」

三矢元治は空いた口が塞がらなくなった。それは他の者の同様。どんな凶悪犯だと思いきや、まだ学生の身分だったとは。

「居場所が特定しているのなら、何故その男を捕まえないのですか?」

九島家、九島蒼司が非難の声を出す。その矛先は、温子と克人にである。

「現在、折紙イザヤと敵対しないというのが十師族当主、全員の一致で決まりました」

克人が腕を組みながら、九島蒼司に返答する。

「ただ一人の学生に、十師族が屈したと言うことですか?」

「屈してなどはいません。これは、十師族当主と折紙イザヤとの間で決められたことです」

達也は「決められた」とは思っていない。それは克人がそう思っているだけの事である。イザヤの気が変われば、状況は一変する。

「司波」

「なんでしょうか、十文字さん」

「何故、今ここでその発言した?」

克人は咎めているのだ。折紙イザヤの事は、十師族の機密事項に当てはまる。

「十文字さん、今は敵対しないだけです。自分たちは必ず、折紙イザヤと戦う事になります。その日が来る前に、皆に知っておくべきだと自分は判断しました」

両者目を合わせる。会議室の空気はどんどん重苦しいものになっていく。そんな時に手を挙げたのは、達也の隣に座っていた将輝であった。

「十師族当主達は具体的に、折紙イザヤはどれぐらい危険な人物とお考えなのですか?」

それに答えたのは温子である。

「折紙イザヤ一人の力は、大国一個分の戦力と同等と考えています」

これには将輝も驚き目を見開く。一人の魔法師の力で日本に戦争を仕掛ける事ができると、温子はそう言っているのだ。

「……それで、その人物の使う魔法は何ですか?」

八代隆雷は手を挙げて発言するが、誰もそれに答えなかった。

「まだ、どんな魔法を使うかわからないと言う事ですか?」

少し間をおいて、達也が話し出す。

「いえ、イザヤが使う魔法に限定はありません。精神干渉魔法を好んで使う傾向はありますが、それ以外にもイザヤに不得意はありません」

「つまり、何でもできると言う事ですか?」

「その言葉通りです」

達也は八代隆雷の言葉に頷く。しばらくの皆の沈黙が会議室を支配した。イザヤの事を既に知っている人間は、イザヤの脅威を再認識し、イザヤを今日知った者たちは、戦慄を覚えた。

「司波」

沈黙を破ったのは克人であった。

「司波、可能ならば折紙イザヤとは有効な関係を築きたいと俺は思っている」

「俺は」という言葉をあえて強調した理由は、達也が自分と同じ考えを持ってはいないと考えていたからだ。

「だが、お前はそうでは無いのだろう?」

達也は口を開く事なく、頷いた。

「そう思う根拠は何だ?」

「………イザヤの中にあるのは、身勝手な悪意の塊。奴の行動基準は、自分にとって面白いかどうかでしかない。そして、自分達のごく一般的な価値観からかけ離れています。イザヤはそれを何よりも優先する」

「価値観とは何だ?」

「例えばの話です。退屈な人間が、ある男から提案されました。自分の大事な人を殺せば、退屈から解放させてやると。そしてその男は、殺しに条件をつけた。最も悲惨でむごたらしく殺せと」

「……………」

「イザヤなら、迷わず殺すでしょう。それも大事な人を惨たらしく姿に変えて………」

会議室がさらに重苦しい空気に包まれていた。皆が口を塞ぎ、下を向いて暗い表情を作る。

「司波、ひとつ聞いて良いか?」

「何でしょうか?」

唯一顔を下げていなかった克人が達也に訊ねる。

「四葉は折紙イザヤに勝てるか?」

達也ではなく四葉と聞いた克人。それが何を意味しているのか、達也には分かった。

「四葉ではイザヤに勝つ事はできません」

「そうか…………」

克人は天井を見上げる。四葉は日本国内でトップクラスの戦力を有している。十師族でも四葉の力は頭ひとつ抜けているのだ。その四葉が白旗を上げる意味。克人は重く受け止めた。

「お前が今日ここに出席した理由は、この事を話す為なのだろう。我々日本の魔法師が、今どんな状況に陥っているのか」

達也の作戦は言うまでもなく上手くいった。参加した二十八家全ての人間が、今回の会議の内容を当主に話すことだろう。そして、その内容は百家にも伝えられる筈だ。今こそ日本の全魔法師が力を合わせ、折紙イザヤに対抗せねばならない。この若手会議がはじめの一歩になる事を達也は願う。

「魔法師が魔法師を排斥するか……人間主義団体からすれば、私達の行動に笑い転げるだろうな」

六塚温子は独り言のようにそう呟いた。その言葉に達也は目を閉じる。

 

〜回想〜

「長い間、自分に問い続けて来たんだ。愛とは何なのか。だが僕には、自分以外は全て道具で自分を楽しませてくれるオモチャ、そうとしか見れないんだ」

〜〜〜〜

 

(イザヤ、自分ではわからないだろうが、お前は愛に飢えている。だが、お前は魔法師であっても、その力はもはや魔法師のそれでは無い。人間が到底立ち入る事の出来ない領域に、足を踏み込んでいる。お前の『遊び』で、深雪に危害を与えようものなら、俺はお前を許さない。必ず、お前の正体を暴いてやる)

 

 

 

 若手会議が終わったのは、十二時を回った頃であった。そろそろイザヤに連絡を入れる為、泉美はスマホを取り出して連絡を送った。そしてすぐに、イザヤから「今から行く」という返信が来て、泉美は内心、浮かれていた事は誰にも秘密である。イザヤから返信が届いて約20分後の事だった。入り口付近で何やら人だかりができている。様子を見にいった香澄が大慌てで泉美の方に走ってきた。

「泉美!大変大変!」

ひどく慌てた様子の香澄に泉美は少し面食らう。

「どうしたんですか香澄ちゃん?」

「イザヤ君だよ泉美、イザヤ君が来たの!」

慌てていた理由は、何とイザヤが来た事であった。泉美は、イザヤが来る事の何がそんなに驚いているのか理解できなかった。イザヤとデートの約束をした時、香澄もその場にいた筈である。だが、香澄の次の言葉は、泉美に度肝を抜かせることとなる。

「イザヤ君がリムジンで来たの!!」

「はぁ!?」

これには泉美もびっくり仰天。イザヤは何と、泉美とのデートの為にリムジンで迎えに来たのだった。泉美は急いで、ベイヒルズタワー入り口に止まっている黒いリムジンまで全速力で駆けつけた。人だかりを押しのけて、最前列に辿り着くと、リムジンからイザヤが降りてくる。

「やあ、泉美ちゃん、待たせたね」

「………………」

驚きを通り越して呆れてものも言えない。この瞬間から、イザヤと泉美のデートが始まったのだ。

 

 

 

 

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