詩奈がソレに気付いたのは、ベッドで横になって少し眠気が襲って来た頃だった。詩奈の聴覚は鋭敏過ぎる。普通の人間ですら聞き取ることのできない微かな空気の振動を音として聞き取ってしまう。それは、魔法的な知覚力に起因する。部屋に閉じ込められていたとしても、自分の耳につけているイヤホンを外せば、この洋館すべての敷地内の音が詩奈の耳に飛び込んでくる。しかし、詩奈の能力とは関係なく、誰もが感知し得る事が洋館全体に起きた。
(………いま、揺れた?)
ベッドに横になっている詩奈が揺れを感知した。気のせいだとは思えなかった。それは、天井のシャンデリアが微かに揺れていたからだ。
(まさか戦闘が行われている?もう助けが来たの?)
これが演習である事を一瞬忘れそうになっていた詩奈。洗面所で顔を洗いにいって眠気を吹き飛ばす。少し朦朧としていた意識を呼び戻し、詩奈は髪を整えてベッドの上に座る。いつ助けが来てもいいように待っている事にした。
洋館正面の入り口付近には、四人の軍人が扉を固めていた。彼らは自分たちに向かって歩いてくる人影を確認した。
「こちら正面入り口前、洋館に向かってくる第一高校の制服を着た男子生徒を確認」
四人の中で一番身長が大きい男が無線で伝えた直後、その男子生徒は何の前触れもなく姿を消した。
「「「「!?」」」」
彼らは驚いて辺りを確認するが、時すでに遅し。
「はい、終わり」
その男子生徒は、既に彼らの背後に回っていたのだ。その声の方を振り向くと同時に、彼らの体に激しい痛みが走り、その場に倒れ込む。
「殺すのは簡単だけど、手加減はすこし面倒くさいな」
その男子生徒が倒れている軍人たちにした事は、彼らの身体に流れる生体電気を増幅させ、電流を浴びせたのだ。
「手心を加えるのは今回だけだよ」
彼は正面から堂々と乗り込んでいく。彼はは隠れて忍び込む必要はないのだ。彼の力の前では、向かうところ敵なしである。
十山つかさは内心焦っていた。詩奈を連れ去ってからまだ数時間しか経っていないにも関わらず、こんなにも早く乗り込んでくるとは思いもよらなかった。しかも、助けに来たのは司波達也でも、その友人達でもない。監視カメラに映るこの青年は誰なのか………。
「こちら、一階の大広間、侵入者を確認しました。これより戦闘を開始します」
仲間が青年に向かって魔法や近接武器で攻撃を仕掛けようとしている姿を、つかさはモニターで観察していた。そのとき、その青年とカメラ越しで目が合った。
「!?」
つかさは驚いて椅子を後ろに引いた。仲間達は青年に指一本触れることも出来ずに床に倒れ込む。
「………今、彼は何をしたの?」
つかさは魔法で援護する事はなかった。いや、援護する機会すら持ち合わせていなかったのだ。仲間達が攻撃を仕掛けている時に障壁魔法を展開したら邪魔になってしまう。だから初手は様子見、そんな軽い気持ちでいた数秒前の自分を叱ってやりたかった。
「魔法を使ったようには見えなかった……」
そうだ。青年は魔法を展開した様子は見せなかった。何故なら、青年の手は未だに制服のズボンに収まっているのだから。CADを操作した様子も、見えなかった。では一体何をしたのか。
「見た……目で見ただけで倒したというの……?」
つかさは自分でも信じられない答えに辿り着く。CADを使わずに魔法を使うなど、どこの絵本に出てくる魔法使いか。あり得ないことが目の前のモニターで映し出されている。この青年は危険だ。軍人としての自分の経験上、見たこともないタイプの魔法師。いや、魔法師と言ってもいいのかすら分からない。
「これはマズイですね………」
仲間達がバタバタと倒れていく。幸運にも、皆息はありそうで殺されてはいなかった。その青年は、歩みを止めることなく一定のリズムで階段を上っていく。
「曹長!敵は曹長の所へ真っ直ぐ進んでいます!」
「……………」
それはつかさも気付いていた。青年は詩奈ではなく自分の所へ向かっているのだ。探す素振りもなく、自分の居る方へ進んでいく。まるで事前に知っていたかの様だ。仲間達は青年の歩みを阻止しようと魔法を放つが虚しく崩れ散る。
「話が通じる相手でしょうか…………」
既に扉の前まで来ている。つかさは緊張で唾を飲み込む。ただの高校生に、自分が恐れているという事実。つかさは後ろを振り向いて、扉を凝視する。その扉は、ゆっくりと優しく開かれた。そして、青年は顔を出す。
「こんにちは」
「……………こんにちは」
つかさは緊張のあまり青年に挨拶を返すのが遅れた。落ち着かなくてはならない。ここで攻撃しても無意味。イレギュラーな事態に対応するのも軍人としての務め。
「申し訳ありません。これは「ああ、言わなくて結構ですよ」えっ!?」
これは演習です。つかさはそう言いたかったのだが、青年が手をつかさの前に出して止められた。
「しっかし、貴方達は司波先輩を相手しようだなんて、バカな事を思いつくんですね」
青年はつかさを鼻で笑った。自分よりも歳下の人間に小馬鹿にされたので、流石のつかさも少しムッとした。
「それはどういう?」
「言わなくては分かりませんか?結果が分かっている戦いほどつまらないものだ。もし達也先輩が来ていたら、貴方達死んでますよ」
「……………」
「まあ僕も最初は貴方達を殺すつもりでしたけど」
「…………………………」
殺すつもりだった。それは過去形。今は殺すつもりがないということ。つかさは無意識のうちに緊張が解かれてしまった。敵を目の前にして、軍人としてあるまじき行為。だが言い訳を許してもらえるのなら、それ程までに、目の前の青年に潜在的な恐怖が隠れていたからに他ならない。
「あっ、今、緊張を解きましたね」
「!?」
己の失態を相手に指摘されるまでわからなかった。
「殺すつもりがないと思って安堵したんだ。ダメですね貴方。せっかく泉美ちゃんの言う通りに、殺さずに眠らせるだけで済ませようとしたのに」
青年の周りの空気が重たくなっていく。息が上手くできない。苦しい。
「これは……………………………」
「罰が必要だな」
青年の身体から溢れ出す、今まで感じたことの無い負のオーラを至近距離で浴びて、つかさは全身の毛が逆立ち、足がガクガクと震え上がる。歯がガタガタと音を立て、顔からは血の気が一切消えた。つかさに出来る唯一の行動としては、自分の体を抱きしめる事のみだった。死というものが形をなすならば、それは目の前にいる。死がこちらに腕を伸ばしている。その距離、わずか15cm。ゆっくりとゆっくりと、たかが15cmの距離を、眠たくなるくらいの遅いスピードで、手が近づいてくる。それが、つかさをより一層恐怖に陥れた。
(く、来る!近づいてくる!苦しい。息ができない。動けない。手足が動かない。来る!怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖…………………」
プツリと、つかさの意識はそこで途切れた。仰向けになって床に倒れ込む。
「おや、もうギブアップですか、つまらないな」
イザヤは倒れたつかさを気にすることなく、部屋を出ていった。そしてその足は、囚われの姫の場所へ連れて行った。
「何?今のは…………?」
そう遠くない距離から負のオーラを感じ取った詩奈は、ベッドから降りて壁際まで移動した。そのオーラは数秒の間であったが、詩奈が怖がるのには十分であった。
(扉の向こう側で一体何が起こっているの?)
部屋の外から聞こえてくる音が、ピタリと止んだ事に詩奈を不安にさせた。いや、近づいて来る足音が一つある。
(誰か来る!)
詩奈は咄嗟に身構えた。腕を突き出して戦闘態勢に入る。だがこの時、自分が人質であることを忘れ、CADが装着されていない事に気付いたのは、部屋の扉が開くと同時だった。ガチャリと扉が開かれる。
「あっ、いたいた」
「え!?イザヤさん!」
扉から姿を見せたのは自分の想い人、折紙イザヤその人であった。詩奈はイザヤに小走りで近づく。最近、侍郎の修行で自分に構ってくれなかったので、自分を助けに来てくれた事が嬉しくて、つい抱きついてしまった。
「イザヤさんが助けに来てくれたんですね!」
「………元気がいいね、詩奈ちゃん」
「す、すみません!」
詩奈は抱きついてしまった事に恥ずかしくなって少し距離を取る。イザヤから視線を逸らして、髪をくるくるする。
「君が無事で安心したよ」
「あ、あの、これで演習は終了なのでしょうか?」
「君、自分が誘拐されていたという自覚はある?」
「え!?誘拐!?」
詩奈は今回の件を演習と伝えられていたようだ。イザヤは詩奈がどういう状況だったのか説明した。
「皆さん、私を探すために動いてくれてたんですか」
詩奈は申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「詩奈ちゃん」
「はい…………へぇ!?」
イザヤは詩奈の頬を両の手で掴んで横に引っ張る。
「にゃ、にゃにをするんでしゅか?」
「君は危機感が欠けているね。好奇心旺盛なのは君の良いところだが、同時に悪いところでもあるよ。反省してね」
詩奈の頬を上下左右に弄り回すイザヤに、詩奈は顔を赤らめる。
「や、やめてくださいイザヤさん」
「君がわかった言うまで何度も続けるよ」
「わ、わにゃにましゅた」
「ん?聞こえないな、今なんて言ったの?」
「そ、そんにゃいじわる………」
結局詩奈は、3度目ではっきりと「わかりました」と言えた事でイザヤから頬を離された。イザヤが掴んでいた部分が少し赤くなっていたのだが、顔を赤らめていた事でイマイチ分からなかった。
「さて、もう僕たちがここにいる必要はないし、帰ろうか詩奈ちゃん」
「つかささんに言わなくて良いのでしょうか?」
詩奈が言うつかさが誰の事か分からないイザヤだが、話を合わせるために適当に会話する。
「つかささんは後片付けが忙しいから、もう帰っていいって言っていたよ。顔見せなくてごめんって」
「そうでしたか……」
(上手く騙せたようでよかった)
詩奈は何でも鵜呑みにしてしまうので、イザヤは騙されやすいこの少女が心配になった。
「あの、どうやって帰るのですか?」
「また空を歩いて帰ろうかな………」
そう言いながらイザヤは部屋の窓を開ける。外からは涼しい風が部屋中に入り込む。
「そ、それなら………」
「?」
「それなら、今度はお姫様抱っこして欲しいな………なんて」
恥ずかしがりながら詩奈はイザヤにお願いしてみる。詩奈はまだ15歳の夢見る少女である。果たして詩奈のお願いはイザヤに届くのか。
「…………………」
イザヤは黙って詩奈を見つめていた。その顔は、なんともいえない表情を作っていた。
「あっ、す、すいません!ちょっと出来心でつい…」
詩奈は何度も頭を下げて謝るので、イザヤはつい笑ってしまった。そして、
「フッ、いいよ。やってあげる」
「ふぇ!?」
イザヤは詩奈に近づくと、体を持ち上げて両腕で抱えたのだ。そうお姫様抱っこである。体と体が密着して詩奈の鼓動は速くなる。
「詩奈ちゃん、自分で言って緊張してるの?」
「そ、それは……だって………」
イザヤの胸の中で詩奈は丸くなる。赤くなっている顔を見られたくなかったのだ。
(う、嬉しい!イザヤさんにお姫様抱っこされちゃった!それにイザヤさん、結構ガッシリしてる………)
心の中では、詩奈は飛び上がり興奮していたのだ。
「やれやれ‥‥」
イザヤは詩奈を抱えたまま窓から飛び出した。空はすっかり暗くなって綺麗な星が見えていた。星を眺めながら、イザヤと詩奈は夜空に消えて行った。
「ーという事があったんです!あの時のイザヤさんはとてもカッコ良くて、あ、でも普段からカッコいいんですけど、お姫様抱っこされながら見たイザヤさんの横顔は、私の心を掴んで離さなくて「はいはい、もう分かったから、もう、お腹いっぱいだから」まだ話し足りないのですが…………」
昨日の事を熱く語る詩奈にストップを掛けたのは香澄であった。
「もう20分は話してるよ。私そろそろ疲れてきたよ」
「もうお昼休み無くなってしまいましたね………」
詩奈の隣で聞いていた泉美も、疲れた顔をしていた。時計を見ると、あと10分程で午後の授業が始まってしまう。
「あーあ、詩奈も悪い男に捕まっちゃったなー」
詩奈のイザヤに対しての心酔っぷりに呆れてしまう。
「でも、詩奈が無事で戻って来れてよかったよ。本当に心配したんだからね」
「ご、ごめんなさい………」
「イザヤ君も言っていましたけど、詩奈ちゃんには危機感が足らないようですね。すぐに人を信用してはいけませんよ。特にイザヤ君とか」
自分も惚れているくせにイザヤを信用するなとは、これには香澄も苦笑いした。
「そういえばイザヤ君は?」
イザヤと同じクラスである泉美に訊ねた。
「今日はまだ来ていませんよ。侍郎くんの修行の為に放課後に来ると思いますが……」
今、メキメキと成長を遂げている矢車侍郎は、周りからも一目置かれている。それは同級生のみならず上級生からも注目の的である。
「イザヤ君って年下に甘いような気がするんだよね」
「そう言われれば、そうかもしれません」
あの男。上級生に平気で噛み付くくせに、年下にいい格好を見せるとは、なんとも呆れた奴である。
そうして三人は、急いで昼食を片付けてそれぞれのクラスへ別れて行った。
放課後、第二演習場では、侍郎とイザヤが組み手をしていた。初手はいつも侍郎に譲っている。侍郎は最初から全力でイザヤに挑みにいく。今日は一撃入れてやるぞという気持ちでいつも臨んでいるのだが、いつも負かされてしまう。
「はい、ここ甘い」
「グッ!?」
イザヤの蹴りが侍郎の脇腹に直撃した。初手の侍郎の拳を軽くいなしてからの一撃。だが、これで倒れるとは思っていない。イザヤは一旦距離を取る。侍郎は痛みを堪えながらも再びイザヤに襲いかかる。右手で殴ると見せかけての左手で殴るフェイント。しかし、イザヤはそれを見切る。侍郎の左手首を掴んで後ろに放り投げる。
「クソッ!」
「丸わかりだよ。三流には通じるだろうが、一流にはフェイントを一つじゃなくて複数仕掛けるものだ。さぁ次だよ」
今度はイザヤから仕掛ける番だ。侍郎はすぐに起き上がり構えをとる。イザヤの連打攻撃が侍郎に降り注ぐ。侍郎は頭と胴をガードする事しか出来ない。
「守るだけでは話にならないよ。相手の攻撃からスキを見て反撃だ」
「そこだ!はああぁぁぁぁぁぁ!」
侍郎はイザヤに向けて蹴りを繰り出す。
「今のスキはわざと作ったんだ」
イザヤは侍郎の蹴りを避けて、胸ぐらを掴み取る。そして、冷たい床に叩きつけた。
「ガハッ!!」
これがいつもの事である。イザヤはいつも侍郎を床に叩きつけて戦闘を終わらせる。侍郎はこれが痛くてたまらないのだ。畳の上ではなく、硬いコンクリートの床。最初は痛くて立ち上がれなかったが、段々と体が慣れてくる。だけど、痛いのは痛いのだ。
「今日はこれでおしまいかな」
「………ありがとうございました」
イザヤから差し出された手を掴んで起き上がる。まだ背中がジンジンと痛むが、これでも手加減されている方なのだから恐ろしい。
「畳の上では味わえない痛みだろう?この痛みに慣れてきたらすぐに反撃出来るね」
ニコッと笑い掛けるイザヤの顔が侍郎には悪魔に見えた。だけど、怖いのでこれは内緒。
「今度からは魔法も織り交ぜた戦闘をしようと思う。より実戦的にやろうと思うから、僕を殺す気で来てね」
「はい!」
人に向けて殺傷能力の高い魔法を発動するのは御法度なのだが、目の前の男は何をしても死ぬことは無いので全力で挑める。修行は終わり、イザヤと侍郎は汗を流しに更衣室でシャワーを浴びる。そして制服に着替えて更衣室を出ると待っていたのは、
「イザヤ、少しいい?」
雫であった。
「ええ、わかりました。じゃあ侍郎君、また明日」
「はい師匠」
侍郎は、雫が自分の師に懸想している事を知っていたので、邪魔者はすぐに撤収するのだ。スタスタと廊下を歩いて、待っている詩奈のところへ向かう。
「………」
雫は気を遣ってもらった弟弟子の背中をしばらく見つめたのち、イザヤに近づいていく。
「それでどうしました?」
「今度の休日、遊園地に行こう」
「遊園地?」
たしかそんな話をしたなと、イザヤは雫との過去の会話を思い出す。
「もしかして忘れてた?」
「いやいや、覚えてましたよ」
先程まで忘れていたが、イザヤは咄嗟に嘘をつく。
「……まぁいいや、それでいけるの?」
「構いませんよ、雫先輩の為に空けておきます」
「そうして」
こうしてイザヤは、雫との遊園地デートを予定に組み込んだ。