魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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孤立編
第四十五話 イザヤ「新章突入!」達也「絶対見てくれよな!」深雪「お兄様、キャラが崩壊しています」


 数日前から生徒会室は、通常の業務以外にもやる事があった。そう、九校戦の準備である。達也と深雪は、高校生活最後となる九校戦である。時間の流れを感じつつも、達也は競技用CADのチェックをしていた時だった。

 

「マスター」

 

突然ピクシーが達也に話しかけたのだ。

 

「どうした?」

 

「重大なニュースが入って来ました」

 

達也は作業を一旦止めて、ピクシーの方へ振り返る。

 

「戦略級魔法に関するニュースです」

 

ピクシーのその言葉に、作業をしていた他の生徒会役員が自分のディスプレイから顔を上げた。達也は深雪とアイコンタクトで意思疎通をした。

 

「大型ディスプレイに映してくれ」

 

達也の指示に従い、ピクシーは生徒会室にある大型のテレビに映し出した。

 

『ギニア湾岸、ニジェール・デルタ地域の紛争地帯において、、戦略級魔法『霹靂塔』を使用したと大亜連合が発表しました。死者は約八〇〇人と見られています』

 

報じられたニュースを見て、最初に感想を漏らしたのは泉美であった。

 

「今度はアフリカですか………」

 

「三月末に、南米でブラジル軍が使用したばかりなのに……」

 

次に言ったのは詩奈。ブラジル軍が使用した『シンクロライナー・フュージョン』、戦略級魔法の使用は世界からの非難を浴びた。だが、大亜連合は戦略級魔法の使用を隠そうとはしなかった。

 

「他国に対する牽制でしょうか?」

 

深雪が達也に話し掛ける。

 

「それもあるが、理由は他にあるだろう」

 

使われた戦略級魔法は『霹靂塔』。しかし、使用者は劉雲徳ではなく劉麗蕾という少女であった。劉雲徳は『灼熱のハロウィン』で戦死した。それは達也が知っている。何故なら劉雲徳を殺したのは達也なのだから。大亜連合はその情報をひた隠ししていた。しかし、ついに隠れなくなったのだろう。だから大亜連合は、劉雲徳の後釜として劉麗蕾という十四歳の少女を公の場に立たせ、新たなる戦略級魔法師として世界に知らしめる必要があった。いわば抑止力。変わりはいくらでもいるぞ。達也はそう言っているように思えた。

 

 

 

 

 

 イザヤは携帯端末でニュースを見ていた。傍には侍郎もいて、イザヤの端末から聞こえてくるニュースを聞いていた。今日も今日とて、演習場で修行をつけていたイザヤ。休憩を挟んだ時、不意に端末に流れて来たニュースを開くと、戦略級魔法に関する知らせだった。

 

「また、戦略級魔法ですか………」

 

「戦略級魔法を使うハードルが低くなりつつあるようだね。厄介な事に」

 

イザヤは端末に映し出された少女、劉麗蕾を見て、

 

(そうか、もうそんな歳か………)

 

イザヤは心の中で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 驚くのはまだ早い。大亜連合が戦略級魔法の使用を公開したその二日後、達也と深雪は、自宅のテレビに映し出された魔法大学の記者会見に目を向けている。後ろで控えている水波もテレビに釘付けである。その理由は………

 

『では、人殺しの魔法を開発した一高生に責任があると言う事ですか?』

 

『一高生に責任はありません!』

 

『ですが現に、一高生が全国魔法科高校親善魔法競技大会用に開発した魔法で、百人以上の死者が出ているんですが』

 

その後も記者会見は続いていく。テレビを見ていた達也は、深いため息と共に、テレビから視線を外して俯いた。

 

「正直なところ、『アクティブ・エアー・マイン』を使いこなせる魔法師がいるとは思わなかった。雫に迷惑をかけなくて本当に良かった」

 

『アクティブ・エアー・マイン』とは、達也自らが考案した魔法であり、雫はこの魔法で新人戦、スピード・シューティング優勝を勝ち取った。そして、魔法の百科事典『魔法大全』に新種魔法として収録された。最初は雫の名前で魔法を登録しようとしたが、雫がこれを拒否。そして一年後、達也が魔法大学に説得されて、嫌々ながらも達也の名前で登録した。今になって、これで良かったと達也は思った。

 

「お兄様、大丈夫ですか?」

 

俯く達也を心配する深雪。

 

「ああ、大丈夫だ深雪」

 

少しずつズレていっている。世界が悪い方向へと。そして達也に待ち受ける数々の困難が、日本を揺るがしていく。

 

 

 

 

 後日、放課後。職員室から呼び出された深雪が生徒会室に帰って来たが様子がおかしい。自分の席に戻らず扉の前で立っている。

 

「皆さん、聞いてください」

 

ただ事でないと、皆が思った。深雪は涙を堪えながら言葉を続ける。

 

「九校戦大会委員会から通達がありました。今年度の九校戦は中止となりました」

 

生徒会役員の声にならない悲鳴が、絶句する姿が見られた。達也はその言葉を受け止めたのち、

 

「………深雪、通達文書を見せてくれないか」

 

深雪は達也に委員会から通達された文書を手渡す。達也はその中身を見て、しばらくして目を閉じる。

 

「やはり、俺のせいか……」

 

「違います!こんなの言い掛かりです!お兄様に責任などありません!」

 

深雪のおさえていた感情が爆発した。深雪の叫び声と共に、生徒会室の室温がガクッと低下していく。

 

「落ち着け、深雪」

 

達也は『再生』を使用し、部屋の冷やされた温度を常温に巻き戻す。

 

「……すみません、達也様」

 

深雪は落ち着きを取り戻し、「お兄様」呼びから「達也様」呼びに戻っていた。他の生徒会の面々は、今の一瞬の出来事に困惑していた。

 

「ですが、達也様には何の責任はありません。悪いのは昨年から競技の種目変更で軍事色が強くなったからです。現にここ数日、九校戦はそれでマスコミに叩かれていたのですから」

 

確かに、達也の開発した『アクティブ・エアー・マイン』が騒がれていたのは最初のうちであった。現在やり玉に上がっているのは、九校戦の大会委員会、テレビでもそのように報じられていた。

 

「……そうだな」

 

達也は深雪の主張を受け入れた。ただそれは、表面上だけであって、内面はそうではなかった。

 

 

 

 

 

 後日、第一高校は九校戦が中止された事について話が持ちきりだった。朝礼で教員に知らされた生徒達の顔は驚きで埋め尽くされた。その後生徒達は、個々で集まって何やらヒソヒソと話していた。九校戦が中止になった原因は何か。話に上がる大半は、達也の考案した魔法が他国の軍事兵器として使われた事についてだが、

 

(まったく、嫌になりますね。この空気……)

 

泉美はクラスの空気が嫌になって、授業が始まるまで廊下に出ようとした。ついでに、イザヤも一緒に連れ出そうとした。

 

「イザヤ君、少し廊下に出ませんか?」

 

「ん?いいよ」

 

イザヤも椅子から立ち上がり、二人で廊下に出ていく。泉美は悪い空気を入れ替える換気のため、廊下の窓を開ける。

 

「そういえばイザヤ君、北山先輩とのデートはどうでしたか?」

 

「もうどこから聞いたとか言うのいちいちめんどくさいな。全て筒抜けなんだね」

 

廊下に出た理由は嫌な空気を吸いたくなかった事と、雫とのデートについてイザヤに聞きたかったからである。

 

「知りませんでした?私と北山先輩と詩奈ちゃんで三人のグループチャットがあるんです」

 

「そうだったんだ……」

 

「それで、どうだったんですか?」

 

「楽しかったよ。ジェットコースターや観覧車に乗ったりして、初めての体験だった」

 

イザヤは先週の休日、雫とのデートの出来事を口だして笑みをこぼした。

 

「そうですか、それは良かったですね。なら次は私ともデートして下さい」

 

雫が自慢げにチャットで話していたので、泉美は軽く嫉妬した。いつも自分を振り回しているのだから、自分の要求を飲めと。だが、

 

「それは難しいかな」

 

「え?」

 

いつもなら、「しょうがないなぁ」と言って受けてくれるのに、今日のイザヤはそうではなかった。イザヤは窓の外に視線を向けていた。

 

「世界が少しずつ乱れている。悪い方向へとね。ここから先、何が起こっても不思議じゃない。ここしばらくは、世界の情勢を逐一見ていかないとね」

 

「……何が起こると言うのですか?」

 

嫌な空気が漂う。これでは廊下へ出た意味がない。イザヤと話して気分を晴らそうとしたのに、これでは逆戻りだ。

 

「例えば、日本に戦略級魔法が使用されるとかね」

 

「!?」

 

最悪の可能性。だが、それは少しずつ現実味を帯びている。戦略級魔法という人類が生み出した戦争の道具。殺戮兵器。抑止力として作用していたのが、実戦として灼熱のハロウィンで日本が使用して以降、ここ最近、ブラジル、そして大亜連合が投入して来た。ますます魔法師が非難を浴びている。

 

「もし。そんな事になったら………」

 

どうなるのだろう。 自分たちもCADを手に取って戦場に赴いて人を殺すのか。

 

「そんな怖い顔しないで、これはもしもの話さ」

 

泉美は顔を上げてイザヤを見る。イザヤの顔はいつものようにニコニコとしていた。その姿に泉美は少しホッとした。だけど、

 

「イザヤ君」

 

「ん?」

 

「イザヤ君は……………死なないでくださいね」

 

泉美は自分でも、何でこんなことを口にしたのか分からない。しかし、イザヤが突然消えてしまうのではないかと、不安が押し寄せて来た。泉美の悲しい声がイザヤの耳に届く。それに対してイザヤが笑う。

 

「ハハハ、何それ泉美ちゃん、僕が死ぬと思っているの?僕の強さ知ってるでしょ。さっきの話で怖くなっちゃった?」

 

笑って返すイザヤだったが、泉美の顔は晴れなかった。

 

「絶対ですよ!!」

 

周りを気にすることなく、泉美は声を荒げる。廊下から聞こえて来た大きな声に、クラスの窓から顔を出す生徒達。

 

「………………」

 

イザヤは泉美の声と泉美の泣きそうな顔に一瞬、言葉を失ってしまった。その後、イザヤは泉美に腕を伸ばして小指を立てた。

 

「約束だ、泉美ちゃん。僕は死なないよ」

 

「はい…………」

 

その返事は弱々しい声であった。泉美も小指を差し出してイザヤの小指と絡め合わせた。誓いの指切り。どうかこの約束が守られますように。

 

 

 

 

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