魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第四十七話 イザヤ「ディオーネ計画万歳!貴方もディオーネ計画万歳と叫びなさい」達也「絶対嫌だ」

 ここは国防軍の会議室。その部屋の中に、国防陸軍情報部の暗部を担うメンバーが集まっていた。

 

「もう体調はいいのか?遠山曹長」

 

「はい、ご心配をおかけしました。犬飼課長」

 

つかさの対面に座るのは、彼女の直属の上司である犬飼であり、達也を最も危険視する人物の一人である。さて、今回彼らが会議室に集まった理由は、達也ではなく別の人物。

 

「君が報告してくれた彼、折紙イザヤという青年の事なのだが……ハッキリ言って情報が全く無かった」

 

「それはどう言う意味でしょうか?」

 

つかさの質問の後、犬飼は自分の手元にある資料を、会議室のテーブルの真ん中に投げ捨てた。

 

「彼の経歴は全てが嘘で塗りたくられている。生まれ、出身、すべて偽造。特に一番下の部分、何故かFLT(フォア・リーブス・テクノロジー)の社員と書かれている。まだ17歳程度の青年なのだろう?ここまで隠す気がないと笑いが込み上げて来る」

 

つかさは犬飼が投げ捨てた資料を手に取って上から下まで見通した。この時のイザヤの資料を見た時の感想として「ふざけている」というのが感じられた。

 

「それで、この青年に君たち暗部が手も足も出なかったというわけか?遠山曹長」

 

「お恥ずかしい限りです………」

 

資料から目を外し、犬飼と向かい合う。

 

「本来なら司波達也を誘い出す計画だった筈なのだが、司波達也以上の化け物が釣れたというわけか」

 

今でもイザヤと対面した時の記憶が鮮明に蘇る。あの時の恐怖、まだ身体が覚えている。

 

「震えているぞ、曹長」

 

「!?……すみません」

 

犬飼に指摘されるまで自分の身体が震えていたことに気付かなかった。恥ずかしい限りだ。つかさは、部下の心配するような視線を感じている。

 

「この折紙イザヤという青年、第一高校の学生で司波達也の後輩にあたるそうだな」

 

「はい、その通りです」

 

「どうにかして、司波達也とぶつける事は出来ないだろうか?」

 

化け物と直接戦うなんてゴメンである。ならば、化け物同士をぶつけて共倒れを狙うのはどうか、犬飼はそう言っているのだ。

 

「折紙イザヤは生徒会役員を務めていた時期があるようです。ならば司波兄妹と少なからず関係はありそうです」

 

「…‥まだ情報が足りないようだ。引き続き、折紙イザヤの監視とその身辺調査を継続しよう。頼むぞ、遠山曹長」

 

「……はっ!」

 

つかさは立ち上がり敬礼する。かくして折紙イザヤの監視は始まった。本音言えば、イザヤと関わるのは嫌なのだが、これも軍人としての務め。震える拳を隠しながら、会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 達也は教室に姿を見せなくなった。次の日も、その次の日も。学校には来ているのだが、図書館にこもったまま、昼食も摂らず、下校時に深雪と帰るためにようやく出てきた。それが何日も続いた。達也の友人たちも配慮して近付かなかった。深雪以外に達也の側に近づくのは水波くらいだ。達也と深雪と除くいつものメンバー(二年、一年含む)で集まった喫茶店では、西城レオンハルトが席に着いて放った第一声は、

 

「そろそろヤバいんじゃないか?」

 

であった。その声に反応したのは幹比古である。

 

「ヤバいって…‥達也のこと?」

 

「他に誰がいるんだ」という目で幹比古を睨んでいる千葉エリカ。

 

「出席日数は大丈夫なんだろ?」

 

「ええ……校長先生直々に出席を免除すると言われたらしく……」

 

レオの言葉に、生徒会の仕事を終えて合流したほのかが頷いて答える。今の達也の状況に入り込む事は、ほのかでも出来ない。

 

「確かにヤバい、達也さんは学校に来る必要は無くなった」

 

雫の言う通りである。学校に来なくても出席がつくのならば来る必要はどこにも無い。

 

「司波先輩がこのまま、学校に出て来なくなると言う事ですか?」

 

泉美に付き合いを強制されて連れてこられた香澄が、達也の友人が誰も口にしない言葉を敢えて口にした。

 

「状況がよくなったら、戻って来ると思うけど」

 

「そ、そうよね!」

 

雫の言葉にほのかが声を上げた。そうなって欲しいという願いと共に。

 

「でも、この状況がなんとかなるの?」

 

エリカのどことなく苛立ちを感じさせる口調に、ほのかが固まる。

 

「エリカ、そんなこと言わなくていいだろ!」

 

「幹比古、落ち着けよ」

 

声を荒げた幹比古に声をかけたのはエリカではなくレオンハルトだった。

 

「エリカは間違った事は言ってねぇ。今の状況がすぐに好転するとは思えねぇからな」

 

「そんなこと分かってるよ!わざわざ口に出して言わなくてもいいじゃないか!」

 

「光井がショックを受けるからか?俺はそんな必要ないと思うけどな……」

 

「何アンタ、達也くんか学校からいなくなってもどうでも良いと言いたいの?」

 

次にレオンハルトに噛み付いたのはエリカであった。その声は怒りを孕んでいた。

 

「どうでも良くはねぇよ。達也が学校辞めたって、俺たちが達也のダチである事は変わりないんだからよ」

 

レオンハルトのその言葉に、エリカは瞬きをした。他の友人達も同じ様な表情をしている。

 

「……アンタのそういうところ、本当に敵わないわ」

 

エリカは完全に毒気が抜かれたようだ。彼の言う通りである。達也が学校に来なくなったとしても、自分達は達也の友人だ。それは変わる事はない。

 

「西城先輩のご友情は、尊敬に値すると思います」

 

エリカ達の言い合いが終わったのを見計らい、泉美が口を挿んだ。

 

「私はやはり、司波先輩には学校を辞めないで欲しいです」

 

泉美のその言葉に、香澄は「えっ!?」という表情を浮かべた。香澄はすぐさま、泉美の横でコーヒーを飲んでいる男に視線を移す。

 

「司波先輩が学校を辞められたら、深雪先輩が悲しまれるに違いありません」

 

泉美は頭の中で悲しむ深雪の姿を想像する。

 

「そうか、だったら大丈夫。達也さんが退学したら、深雪も学校に残らない」

 

雫の言葉に、泉美は青ざめる。

 

「深雪が学校を辞めるなんて、達也さんも許容できない筈」

 

青ざめた泉美の顔が、すぐさま反転した。

 

「そうです!深雪先輩の為ならば!」

 

「達也さんも学校は辞めない筈」

 

皆の不安はこれにて解決。めでたしめでたし、と言う訳にはいかない。

 

「……なら、この状況をなんとかしなくちゃならないんじゃないですか?」

 

和らいだ空気が侍郎の発言で再び凍りつく。詩奈は「何言ってるの!」という厳しい眼差しを向けて、侍郎を萎縮させる。気まずい雰囲気が流れるが、一人どこ吹く風といった様にコーヒーを飲んでいる男がいる。

 

「ねえ、イザヤ。アンタさっきから何も喋らないじゃない。というか、なんでここにいるの?」

 

エリカが飄々としてるイザヤに向けて声を掛ける。イザヤはコーヒーを飲む手を止めて、ついに会話に入る。

 

「何故って、ここにいる泉美ちゃんに無理矢理連れてこられたからですが?」

 

皆の視線がイザヤに向かう。「達也の事が心配ではないのか」そんな視線を。

 

「イザヤ君、貴方が飲んでいるコーヒーの代金は先輩方が払ってくれるようですから、イザヤ君も何か司波先輩の状況が好転する策を出してください」

 

「いや、そんな事一言も………」

 

幹比古は「言ってない」と言おうとしたが、それを美月に口を塞がれた。

 

「イザヤ、アンタはどうなのよ?達也くんが学校に来なくても良いの?」

 

幹比古は美月に任せておき、エリカはイザヤと話す。

 

「そうですね、今回僕は無干渉を決めるので」

 

「なんでよ?いつも何かと首を突っ込んで振り回しているじゃない」

 

「そもそも、達也先輩がディオーネ計画に参加するしないは、達也先輩自身が決める事です」

 

誰も達也がトーラス・シルバーだと口にしなかったが、イザヤは口にした。もはや隠す必要はないだろう。そのうち皆が知る筈だ。

 

「何か知ってることがあるなら言いなさいよ!」

 

エリカが机をバンっと手をついて立ち上がった。

 

「もしディオーネ計画に参加すれば、達也先輩はそこでゲームオーバー」

 

「どう言う意味よ……?」

 

理解出来ていないのはエリカだけではない。イザヤの横にいる泉美も、香澄も、テーブルを囲う全員がイザヤの言う意味が分からない。

 

「ディオーネ計画の真の目的は、他国の脅威となる魔法師を地球から追い出す事でしょう」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

イザヤの発言に皆が目を見開いて驚く。

 

「ディオーネ計画は、表向きは宇宙開発という、皆からの賞賛を浴びる聞こえの良い言葉を並べていますが、その実プロジェクトに携わった魔法師は長期の間地球に戻って来れないでしょう。戻って来れたとしても、またすぐに星の外へ飛立つ事になる」

 

この場にいる皆がイザヤの言葉に耳を傾ける。誰もが想像しなかった事を、イザヤは淡々と話し続ける。イザヤの話に根拠は無い。本当にディオーネ計画は人類のための慈善活動なのかもしれない。だが、イザヤの話は、馬鹿らしいと断じる事は出来なかった。

 

「二度と……達也さんに会えないって事ですか?」

 

イザヤに向けて、震える唇を動かしたのはほのか。

 

「まあ、そうなりますね」

 

顔から血の気が引いていくほのか。二度と想い人に会えないなんて言われて、ほのかは椅子から倒れそうになった。それを雫と美月が支えた。

 

「イザヤ君は、司波先輩がどうすれば良いと考えていますか?」

 

「どうすれば、それはー………」

 

イザヤが話そうとした時、喫茶店内に取り付けられているモニターにニュースが流れ始めた。その内容とは、新ソ連のベゾブラゾフがアメリカのプロジェクトに参加する事、そしてトーラス・シルバーにディオーネ計画に賛同するよう呼び掛けていたのだ。

 

「戦略級魔法師が国外で非軍事活動に従事するなんてね………」

 

エリカはそう呟く。

 

「いまのは本当に十三使徒のベゾブラゾフ本人なのでしょうか?」

 

泉美は先程、画面に映ったベゾブラゾフが影武者である可能性を考え発言した。戦略級魔法師は身元を隠すものだ。それは暗殺を回避するため。堂々とテレビ出演するのは疑わしい。

 

「本物か偽物かはどうでも良いよ。肝心なのは、新ソ連がUNSAのプロジェクトに協力する姿勢を示したこと。達也先輩、これから大変だろうなー」

 

イザヤはカップの中のコーヒーを飲み干すと立ち上がった。

 

「ご馳走様です、僕はこれにて失礼します」

 

「待ってくださいイザヤ君、司波先輩の状況を好転する策を聞いていません」

 

「それを君に言ったところで何も出来ないよ。出来る事はただ傍観することのみ」

 

そう言い残してイザヤは喫茶店から出て行った。エリカはイライラした様子で注文したカフェオレ飲み干した。

 

「あーもー!アイツむかつくわ!雫!なんであんな奴の事好きなのよ!」

 

「黙秘」

 

「ま、まあ、エリカ。誰を好きになるかは個人の自由だよ……」

 

ほのかがやんわりフォローするが、エリカの気は収まらない。今度は泉美に不満をぶつける。

 

「泉美!貴方ちゃんとアイツの手綱を握っていなさいよ!」

 

「それが出来れば苦労しないんですけど………」

 

 

 

 

 

 イザヤは、自分を監視している視線に気が付いていた。具体的には監視の目がついたからずっとだ。イザヤはあえて泳がしている。最近、退屈だと感じていたので、何か面白い事をしてくれるなら歓迎である。

 

(達也先輩は僕に構う余裕なんてないし、僕は僕で遊んでいようかなー)

 

そうしてイザヤはマンションに着くと、自分の家に明かりが付いていることを確認した。

 

(また来てるよ………)

 

研究の為とはいえ、そう何度も来られても困る。自分にも一人の空間が欲しいのだ。イザヤはため息をついてエレベーターに乗った。

 

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