魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第五十二話 イザヤ「修羅場かな」夕歌「それって私も入ってるの?」

 イザヤは家に帰る途中、何人かの通行人に二度見された。イザヤを先頭に三人の女性が後ろからついて来る光景。まさにハーレム、とか思っているのだろう。老婆の通行人は「まぁ」と何故か顔を赤らめ、その横にいた老人の男性は「ケッ」とイザヤを羨ましそうに見ていた。その場からすぐに走って帰りたいとイザヤは考えていた。女性陣は「楽しみですね」とか「別に普通の家でしたよ」とか何とか話している。こんなにも人を招く事はまず無いのでイザヤは、

 

(コップの数足りるかな?)

 

なんてことを考えているうち、マンションに到着したイザヤ。四人はエレベーターに乗って上へと上がって行く。そしてイザヤの家の階に着き、扉が開いた。

 

「思ってたけど、ごく普通のマンションだね」

 

そう呟いたのは雫。別に嫌味を言ったわけではないが、イザヤにはそう聞こえてしまった。

 

「自分の家とは大違い?」

 

「そう聞こえたのなら謝る」

 

「まあ本当に普通ですからね」

 

ここに住んでいる者達は、ごく普通の一般人。魔法師はイザヤだけだろう。イザヤは自分の家の前に到着すると、無言で扉を見つめていた。

 

「開けないんですか?」

 

「……そうだね」

 

泉美の声でイザヤはポケットから鍵を取り出して扉に差し込んだ。カチャっと音が鳴り、イザヤは扉を開ける。

 

「お邪魔します…………は?」

 

そう言葉を発したのは、イザヤの次に家に入った雫であった。とても低い声が出た。雫は入ってすぐに気づいた。玄関に女性の靴が並んでいたのだ。

 

「イザヤ、これなに?」

 

「どうしたんですか北山先輩………何ですかこれ?」

 

雫の異変に気づいた泉美も同様に女性の靴を見つけた。そしてリビングに電気が付いている。これはもう……。

 

「イザヤ、家に女いるよね?」

 

「まあ、いますね」

 

雫の質問に正直に答えるイザヤ。

 

「誰?何で?いつから?」

 

「質問は一回ずつでお願いします」

 

「お帰りなさい………え?」

 

案の定、リビングから姿を現したのは夕歌だった。夕歌はコチラを見た瞬間、固まって動かなくなった。イザヤの後ろに一高の制服を着た女の子達がいたからだ。泉美、雫、詩奈は夕歌と目が合った。

 

「イザヤ、説明」

 

「えっとー、この人はですね…………僕の姉です」

 

「は?」

 

「なに言ってるんだコイツ」と言うような目をしてイザヤを見る夕歌。

「お姉さんでしたか、初めまして、イザヤさんの後輩の三矢詩奈です」

 

イザヤの嘘にまんまと引っかかった詩奈が、夕歌に頭を下げて自己紹介する。

 

「三矢って、あの………」

 

「あっ、はい。その三矢家です」

 

「詩奈、嘘だよ。イザヤに姉はいない」

 

「え!?じゃあどなたなんですか!?」

 

「いや、その、私は………」

 

自分の身分を隠している夕歌は、どうしたものかと頭を悩ませていた。四葉の者であると知られてはいけない。

 

「ククク……」

 

頭を悩ませている夕歌の姿を見て、イザヤは笑いを堪えていた。そんなイザヤに「何とかしてくれ」と視線を送る。

 

「とりあえず、中に入ろうみんな」

 

イザヤは三人をリビングに誘導した。まだ疑問が解消されない中、泉美達はリビングに入ると、目に入ったのは、壁に取り付けられた白いホワイトボード。それに人間の脳、見た事ない魔法式、人間の身体が描かれていた。

 

「紅茶使うわよ?」

 

「良いですよ。三人ともソファに座って」

 

ソファに座らせたイザヤは、夕歌の淹れた紅茶をそれぞれの近い位置でテーブルの上に置いて行く。そしてイザヤもソファに座る。

 

「じゃあイザヤ。あの人はどちら様?」

 

台所で腕を組んで立っている夕歌を見て、雫が代表して質問した。

 

「彼女は元第一高校の生徒、つまりは僕たちの先輩にあたる人物です。夕歌さんが何者であるかは、すみませんがお答えできません。彼女は身分を隠していますから」

 

「言えないような仲、なんですか?」

 

「貴方達が考えているような仲じゃないわ。彼は私の研究の協力者、それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

詩奈が恐る恐るイザヤに聞くが、返答したのはイザヤではなく夕歌。誤解は早めに解いておかないといけない。

 

「ほ、本当ですか?」

 

先程は騙されたので疑い深くなっている詩奈。夕歌はハァとため息を吐いた。

 

「本当よ、やましい事は何も無いわよ、お嬢さん」

 

「あの人はそう言ってますが、本当のところはどうなんですか?」

 

夕歌の言葉を1ミリも信じていない泉美。そんな泉美に台所から何か言いたそうな目を向ける夕歌。イザヤは夕歌が淹れてくれた紅茶に口をつける。

 

「本当だよ。僕のこと信じてくれないの?」

 

「はい、全く」

 

「……貴方って本当信用ないのね」

 

夕歌は呆れた表情を浮かべる。

 

「すみません夕歌さん。いきなり連れてきてしまって」

 

「良いわよそんなの。それにここは貴方の家よ。誰を連れて来るかなんて貴方の自由だわ。むしろ、勝手に家に入ってる私が悪いんだから」

 

「あっ、悪いって自覚あったんだ」

 

「まあ、それなりには……」

 

イザヤと夕歌の会話をしている様子をじっーと見つめていた三人は、面白くなさそうな顔をしていた。

 

「仲がよろしいんですね」

 

泉美はニコッと笑うが目が笑っていない。その様子にイザヤはニコッと笑い掛ける。

 

「彼女の研究は僕も興味があってね」

 

「どんな研究なんですか?」

 

そう聞いてくる詩奈に、イザヤは「言ってもいいのかな」と思いながら夕歌を見た。イザヤが確認をとってきたのが分かると、夕歌は自分の口から説明した。

 

「私の研究は、魔法演算領域のオーバーヒートよ」

 

「オーバーヒートですか?」

 

魔法師が魔法の過剰行使を行った場合、魔法演算領域に過負荷がかかる。それによって演算領域が損なわれ、魔法技能を失い、最悪の場合は、死に至ることもある。

 

「彼の知識は私の研究を飛躍させる。もしかしたら、オーバーヒートを起こした魔法師が、再び魔法を使えるようになるかもしれない」

 

「それはすごいですね。もしそうなれば、魔法界のノーベル賞ですよ」

 

「だから毎日、ここで議論を交わしているのさ」

 

イザヤはそう言いながら、ホワイトボードに目をやる。何度も書いては消してを繰り返したので、純白だったホワイトボードは少し黒ずんでいた。

 

「今の所、何か分かったことがあるの?」

 

興味を持った雫がイザヤと夕歌に聞いてみる。

 

「全然、今の所はオーバーヒートを起こした魔法師に、別の魔法師の魔法演算領域を植え付けるもしくは、人の手で新たな魔法演算領域を作ることくらいしか思いつかないわ」

 

「そ、それって可能なんですか?」

 

別の人間の魔法演算領域を植え付けるだなんて、人の脳の一部を他人の脳に移植するようなものである。なかなかに物騒なことを淡々と話す夕歌。

 

「やり方なんて分かんないわ。まだまだ想像の話よ、実現には程遠いわ」

 

と言うものの、成功例はいる。それは司波達也である。彼は、精神の意識領域内で最も強い想念を生み出す強い情動を司る部分、感情を白紙化し、魔法演算を行う仮想魔法演算領域を植え付けられた。四葉家当主だった四葉真夜が企画し、その姉の司波深夜の固有魔法『精神構造干渉』にて施術した。

 

「僕は面白いと思いますけどね」

 

「面白いってどう言うことですか?」

 

イザヤの言葉に対して泉美が質問する。

 

「人間に魔法演算領域を植えつける事ができれば、非魔法師が魔法師となることも可能と言うわけです」

 

魔法を使えない者が魔法を使えるようになる。持たざる者が持つ者へと進化する。

 

「……出来るの?」

 

雫は疑問をぶつける。

 

「何故できないと思うのです?」

 

雫の質問をイザヤは逆に質問で返した。そしてイザヤは詩奈の方へ顔を向けた。

 

「詩奈ちゃん、魔法師が魔法を発動するために必要なものはなんだい?」

 

「えーと、魔法演算領域、サイオン、そしてCAD」

 

その三つがあれば、魔法を発動できる。魔法師ならば誰もが知っている事だ。

 

「人間なら魔法師・非魔法師問わず、サイオンを少なからず所有している。非魔法師はそれが魔法師よりも少ないだけさ。昔はサイオン保有量が、そのまま実力として測られていたが、現在になって魔法式、起動式、CADの進歩によって、サイオン量は魔法技能を優劣するものではなくなった」

 

イザヤの言葉にその場にいる皆が耳を傾ける。

 

「非魔法師に魔法演算領域を植え、CADを渡しさえして、魔法が使えるようになるのなら、魔法師と非魔法師という二つの種族が一つとなるやもしれません。まあ、非魔法師にも魔法演算領域が存在していて、まだ見つかっていないだけかもしれませんけどね」

 

イザヤの最後の言葉にピンときたのは雫と夕歌であった。二人は魔法師としての進化を自分の身で感じているからだ。今までイザヤしか知り得なかった、魔法師には使われていない魔法演算領域があること。だが泉美と詩奈はそれを知らない。雫と夕歌が深く考え込んでいるのに気付かなかった。

 

「すべては僕の頭の中で作った妄想、そう深く考え込まなくてもいいよ」

 

物思いに耽っている雫と夕歌を見て、イザヤはそう言った。そろそろ話を変える必要がある。

 

「もう17時か、そろそろ夕飯の支度をしないとね。みんな、今日は食べていく?」

 

「はい、ぜひお願いします」

 

イザヤの手料理が食べられると思い、嬉しそうになる詩奈。

 

「そうですね、私も食べたいです」

 

「同じく」

 

泉美と雫も食べていくようだ。イザヤは立ち上がり、台所へと向かう。

 

「………そうね、今日は何にしようかしら?」

 

イザヤの話は一旦置いておくことにした夕歌は、夕飯を考える。

 

「え?イザヤさんと夕歌さん、一緒に作ってるんですか?」

 

「前までは夕歌さんが一人で作ってくれてたんだけど、何度も申し訳なくなっちゃってね」

 

「別にこのくらい構わないわよ」

 

「「「………」」」

 

泉美、雫、詩奈の三人は、立ち上がって「手伝います」とは言えなかった。だって料理出来ないから。料理を覚えようと思っていた泉美だが、生徒会や魔法の修行のせいで、ろくにやっていなかった。故に、イザヤと夕歌の仲良く料理を作っている風景を、指を咥えて眺めることしかできなかった。ずっとソファに座っているのは居心地が良くない。

 

「イザヤ、ちょっとこの家探検するね」

 

「探検する程広くはないですが」

 

雫はスッと立ち上がり、リビングを出て行った。

 

「あっ、じゃあ私も」

 

「私も、イザヤ君の部屋気になります」

 

雫に続いて詩奈、泉美が立ち上がり、後を追いかける。

 

「おいおい、勝手に漁らないでよ」

 

帰ってくる返事はない。足早にリビングを出ていく女性陣。そんな様子に「全く……」というような表情を浮かべるイザヤである。

 

「可愛らしい子達じゃない?ねぇ、あの中で誰が本命なの?」

 

泉美達がいなくなった途端、ジジくさいことを言い始めた夕歌。その顔はニヤニヤとしている。

 

「好きって事ですか?どうなんでしょうね………」

 

「何それ?つまらない回答ね。あの三人は貴方に好意を持っているんじゃないの?私の事を敵視してたし」

 

「………………」

 

イザヤは黙ってしまった。イザヤの心は揺れているのだ。今まで人を道具としか思っていなかった自分に、変化が訪れているのだ。その変化をもたらしたのは間違いなくあの三人。第一高校に入学した時から、折紙イザヤの運命は少しずつ動いている。まだ回答が見つけ出せないでいる。俯くイザヤの様子に夕歌は失言したと思った。

 

「ごめんなさい、貴方は貴方でちゃんと考えているのね」

 

「………………」

 

「けどねイザヤ、これだけは言っておくわ」

 

いつもは「貴方」呼びなのに、この瞬間だけは「イザヤ」と名前で呼んだ。これは決して意図して言った訳ではなかった。

 

「後悔はしないようにね」

 

それは一人の人間、いや、一人の悩める青年に対して、夕歌が送ったアドバイスであった。

 

 

 

 

 

 雫はリビングを出てから、数歩先に歩いて左にある部屋に入った。そこにはベッドが置いてあった。どうやらイザヤの寝室だろう。雫は躊躇なく足を踏み入れた。

 

(味気ないな………)

 

この部屋にはベッド以外には本棚しかなかった。イザヤはもしかしてミニマリストなのかもしれないと雫は思った。

 

「北山先輩、何してるんですか?」

 

部屋に入ってきた詩奈が雫に声を掛ける。詩奈の後ろに続いて泉美も寝室に入室する。

 

「いや、まだ何もしていない」

 

この部屋には、暮らしに必要最低限の家具しか備わっていない。それに本棚には、本は一冊も収納されていなかった。何のために置いてあるのか分からない。最初から備え付けられていたものなのか。

 

「何にもないですね……」

 

この部屋に面白みは皆無だ。だが詩奈のある言葉で、この部屋は瞬く間に魔境と化すのだった。

 

「これ、イザヤさんが普段から使っているベッドなんですよね…………」

 

「…………」

 

詩奈のその言葉で、雫はスタスタとベッドへと歩いて行った。そして、自分の体をベッドに預けた。

 

「え?……何してるんですか?」

 

突然の雫の行動に理解が及ばない詩奈。

 

「イザヤを体感している」

 

「え?……は?……は!?」

 

ようやく雫の行動に理解が追いついた詩奈は、顔を赤らめて手で顔を隠す。

 

「イザヤの匂いがする……」

 

布団を被って堪能している雫を引っ張り出そうと、泉美は布団を掴んで引き剥がす。

 

「泉美、何してるの……?」

 

「それはこっちのセリフです北山先輩。そんな変態みたいなことしないでください」

 

呆れた様子の泉美に雫は無言で枕を投げ渡す。その枕をキャッチした泉美は、

 

「…………」

 

一瞬躊躇したかのように見えたが、顔を枕に埋めた。

 

「な、何してるんですか泉美さん」

 

「モゴモゴモゴ」

 

何か言っているようだが、顔に枕を押し当てているのでうまく聞き取れない。

 

「あわわ……」

 

指の隙間からチラリと雫と泉美の光景を覗いている詩奈は、羨ましいと思う反面、どうにか自制を働かせていた。

 

「な、何だかイケナイ事をしてる気がします……」

 

二人とも淑女としてあるまじき行為を行なっているのだが、そんな二人から詩奈に対して誘惑を持ちかける。

 

「はい詩奈、布団貸してあげる」

 

「枕もどうぞ」

 

先輩達から詩奈に「お前もこっちへ来い」と誘う。

 

「え!?いや、私は………」

 

悪魔の誘惑に詩奈は抗うことができるのか、詩奈は自分に言い聞かせる。

 

(私はこんな誘惑…………誘惑……ゆう……わく……)

 

段々と二人の誘惑に自然と手が伸びていく。三矢家の令嬢?品位ある淑女?そんなの知らない。詩奈は堕ちた。その時、ちょうど部屋の外から足音が聞こえて来た。

 

「ちょっと貴方達なにして…………何してるの?」

 

様子を見に来た夕歌が目にしたのは、布団に包まり、枕を抱きしめている詩奈の姿が。

 

「ああ、イザヤさんの匂いが………」

 

「彼も大変ね…………」

 

呆れ笑いをしてる夕歌だが、この彼女はこの日をきっかけとして遠くない未来、泉美、雫、詩奈の三人と深く関わっていくことになる。

 

 

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