魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第五十四話 イザヤ「久しぶり」

 午前の授業が終わりを告げた頃、泉美はイスから立ち上がり、食堂へと迷わず向かった。今日は午前中にトーラス・シルバーの記者会見が行われていた。泉美自身気になっていたが、イザヤはそれを見るために、あえて学校をサボっていたのだろう。

 

「おーい、泉美」

 

隣のクラスの窓から顔を覗かせるのは、自分の双子の姉の七草香澄であった。

 

「一緒にご飯食べようよ」

 

「ええ、良いですよ」

 

香澄の提案に対して断る理由はない。

 

「水波さんも行こうね」

 

「はい、わかりました」

 

香澄は後ろを振り返って水波も食事に誘う。クラスから出てきた香澄と水波は廊下に立っている泉美と一緒に食堂へと歩き始めた。だが香澄は、いつも泉美の横にいる存在がいないことが気になった。

 

「ねぇ、イザヤ君は休みなの?」

 

「いえ、午前はサボリです。どうせトーラス・シルバーの記者会見を見るために家でテレビを見ていたのだと思います」

 

「別に録画して見れば良いのに」

 

「それだけイザヤ君も注目していたんだと思います。トーラス・シルバーを」

 

「………………」

 

水波が会話に入りにくそうな顔をしていたので、トーラス・シルバーの名前を出すのはここまでにしようと泉美は口をつぐんだ。

 

「ねぇ、そのイザヤ君はどこにいるの?」

 

「お昼前に学校に来るよう連絡してあります。この時間なら食堂でテーブルを確保してくれていると思いますが………」

 

ちゃんと来ているかな?という風な顔をしている双子の妹に香澄はたった今疑問に思ったことを口に出す。

 

「……思ったけど、イザヤ君を良いように使えるのって泉美くらいじゃない?」

 

「それを言ったら、北山先輩や詩奈ちゃんもお願いしたら、彼は素直に聞いてくれると思いますよ」

 

「やっぱりさ、泉美を含めてその三人は特別だよね」

 

泉美、雫、詩奈の三人とその他では、三人の扱いが全然違うと香澄は語る。それは彼女達が面白い認定されているのもあるだろうが、イザヤはその三人に意識しているかどうか分からないが気を許している感じがすると考えている。

 

「ねぇ、本当にイザヤ君は泉美達の事好きじゃないの?」

 

泉美「達」というのは、雫と詩奈も含まれているのだろう。泉美はそう受け取った。

 

「……………………」

 

泉美は考える。本当の所はどうなんだろうか、彼は自分達をいまだに都合の良いオモチャとしか考えていないのだろうか。オモチャだから自分達を大切にしているのか。だから、詩奈が誘拐された時も真っ先に動いたのか。

 

「泉美さん………」

 

先程まで泉美と香澄の会話に口を挟まなかった水波が、後ろから二人だけに届く範囲の声で話す。

 

「彼はずっと問いただしているんだと思います。自分の心の中で泉美さん達の価値を」

 

「価値?」

 

泉美の言葉に水波は小さく頷く。

 

「彼がその気になれば、十師族や海の向こうの大国など、全てを敵に回しても世界を自分の手に掴む事が出来るかもしれません。だけどその時になって、泉美さん達を手放す事が果たして出来るのか……」

 

水波は思い出す。イザヤが司波達也、司波深雪の住まいにお邪魔した時の事を。

 

「イザヤ君は敵になったりしませんよ」

 

水波の話の中で、そこだけは否定したい。イザヤは決して自分達の、十師族の敵にはならないと。私がそうさせないと。

 

「……そうならない事を願っています」

 

司波達也は言っていた。必ず折紙イザヤは自分達の敵として立ち塞がると。その時になったら、果たしてこの世界はどうなるのか、一向に対策のない問題に自分に何が出来るのか……。

 

「あら水波ちゃん、泉美ちゃん、香澄ちゃん、そんなところで立ち止まって何しているの?」

 

廊下の曲がり角から顔を出したのは一高の生徒会長であり、学園一の美女である司波深雪であった。彼女の後ろには、ほのかと雫の姿が。

 

「深雪様、特に何もございません」

 

「……そう、今から食堂に行こうと思っているとだけど、一緒にどうかしら?」

 

深雪がそう言うと、香澄が複雑な顔をして答えた。

 

「あー、深雪先輩、今からイザヤ君と合流するつもりだったんですけど………」

 

「イザヤ君と……?」

 

大丈夫ですか?というような顔をして深雪を見るが、深雪は微笑み返す。

 

「大丈夫よ香澄ちゃん、イザヤ君がいても問題ないわ。気にしてくれてありがとう」

 

深雪はそう言いながら、泉美をチラチラと見ていた。いつもなら自分が姿を見せたら、一目散に駆け寄ってくるのに。泉美はこちらに背を向けている。

 

「泉美ちゃん」

 

「……はい、深雪先輩」

 

こちらに顔を向けた泉美の顔は、頑張って取り繕っているように見えて、深雪にはまるで曇り空のように感じた。先程まで何かあった事は明白だが、それを聞こうとは思わない。聞かなくてもわかる事だ。

 

「イザヤ君が待っているかもしれないから、早く行きましょう」

 

泉美に微笑む深雪の顔は、まるで女神そのもの。

 

「はいっ」

 

そう返事した泉美の顔は、少し明るくなったように見えた。

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「泉美ちゃん…………みんなお揃いで」

 

そんな時、イザヤに声をかけたのは泉美。そしてその後ろには、香澄、水波、深雪、ほのか、雫の姿が。

 

「イザヤ君、ご一緒しても良いかしら?」

 

皆の一歩前に出た深雪がイザヤに訊ねる。イザヤはニコッと笑って返した。

 

「構いませんよ、誰であってもWelcomeですから」

 

そしてイザヤは両手を広げて答える。

 

「イザヤ君、もう食べたんですか?」

 

「いやまだだよ。待っていたのさ、僕は後でいいから先に買ってきなよ」

 

「ではお言葉に甘えて」

 

そういって泉美達は食券を買いに行った。イザヤはテーブルを誰かに取られないように再び座って待っている。

 

(深雪先輩がいるとは思わなかった………)

 

自分を避けてくるのかと思っていたが、思いの外近づいて来ることに内心驚く。イザヤ自身、司波深雪という人間を認めつつある。だから同じテーブルを囲うことに何ら問題はない。以前よりも楽しく会話ができそうだ。イザヤは待つ間、ケータイを取り出しネットニュースを見て時間を潰そうとしたが、流れて来るもの全てがトーラス・シルバーばかり。

 

「あのー、イザヤさん……」

 

イザヤはケータイから目を離し、声のする方へと顔を向けた。

 

「詩奈ちゃん、侍郎君」

 

「もし差し支えなければ、一緒に食べてもいいですか?」

 

詩奈と侍郎は、既に料理を手に持っていた。座る場所を探していたのだろう。

 

「構わないさ、座りなよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます、師匠」

 

詩奈と侍郎はイザヤに軽く頭を下げたのち、イザヤの横に詩奈、対面に侍郎が座った。その後、泉美達が帰ってきてイザヤが食券を買いに行った。イザヤがテーブルに戻って来る間、侍郎を除く女性陣が楽しく会話を弾ませていた。男一人、肩身が狭い侍郎は「早く帰ってきて……」と心の中で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 皆がお昼を食べ終わった頃、何やら食堂の入り口付近からザワザワした声が聞こえて来る。その理由は、

 

「達也様!」

 

深雪はその場で立ち上がり驚く。コツコツとコチラに向かって歩いて来るのは達也であった。記者会見が終わったその足で一高に来たようだ。

 

「もう学校に来てもよろしいのですか?」

 

「ああ、その事について百山校長と話してきた。明日からまた学校に来る事になったよ」

 

深雪は嬉しそうな表情を浮かべた。それはほのかや雫も同じ事。また学校で顔を見る事ができると。

 

「俺はもう行くよ、また明日会おう」

 

達也は皆に別れを告げてから、その場を立ち去ろうとした。だが一瞬、達也はイザヤの方をチラッと目を向けた。皆が達也の方を向いているのにも関わらず、イザヤは一人、食堂に取り付けられている大型テレビに目を向けていた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、気付いてる?」

 

夕食後、夕歌は帰り際にのんびりくつろいでいるイザヤに対して、突然そんな事を言った。

 

「なにがです?」

 

「貴方、監視されているわよ」

 

「ああ、そんな事ですか……」

 

真剣な顔をするのだから、何か大事な事なのか思ったが拍子抜けである。監視されているのはもちろん気付いている。それが一体どんな輩なのかも、イザヤには分かりきっていた。

 

「別に夕歌さんが気にする事ではないですよ」

 

向こうから何かしてくる事を予想していたが、今日まで何も無い。そろそろ鬱陶しいと思っていた頃だ。近いうちに。こちらから接触する予定である。

 

「そう、なら良いのだけれど……」

 

「もしかして、心配してくれているんですか?」

 

「そんなこと思ってないわ。ただ少し気になっただけよ。貴方に心配する必要はないわ。心配するとしたら監視している彼らの方よ」

 

夕歌はイザヤの誤解を解こうと少し早口になっていた。それに対してイザヤはクスッと笑った。

 

「これがツンデレか」

 

「貴方ね……………」

 

夕歌は眉間に皺を寄せて軽くを睨むが、イザヤはニヤニヤとしている。ハァとため息を吐く。

 

「私を揶揄って楽しい?」

 

「人を揶揄うのが僕の性なので」

 

「そうだったわね」

 

口では自分が負かされてしまうと思った夕歌は、そそくさと帰っていった。イザヤはその姿を見送り、リビングへ戻った。すると、リビングテーブルに置いてあったケータイが鳴り出した。電話してきたのは泉美であった。イザヤは応答ボタンを押して電話を繋げた。

 

「もしもし、泉美ちゃん」

 

『イザヤ君、今大丈夫ですか?』

 

いつもよく聞いている泉美の声が聞こえてきた。

 

「構わないよ、今は一人だからね」

 

『……またあの人来ていたんですか?』

 

泉美が言う「あの人」とは夕歌のことだろう。

 

「まあね、そんなに気になるの?」

 

『……別に、何でもありません。それよりもイザヤ君に言わなければならないことがあるんです』

 

「それはどんな?」

 

『貴方が出した課題が、ようやく終わりました』

 

「へぇ……」

 

イザヤは一高に入学した当初のことを思い出す。あの時に泉美に与えた課題、そしてその後、香澄にも同様の課題に取り組ませた。それがついに終わりを迎えたのだ。

 

『……もっと驚いてくれるもんだと期待しました』

 

泉美の不満そうな声が聞こえてくる。

 

「いや、十分に驚いているよ。もう少し掛かるものだと思っていたからさ」

 

イザヤは三年に上がるくらいの時期だと予想していたが、こんなに早く課題を終わらせることができたとは。二人は血の滲む努力をしたのだろう。

 

「なら明日、それを僕に見せてくれると言う事かな?」

 

『はい。放課後に演習場を借りて、イザヤ君にお見せしますから。ですがその時に、深雪先輩達も呼んでもいいですか?』

 

「………ふーん、まあいいよ」

 

泉美が何を考えているのか、大体予想がついたイザヤは、少し間を置いたのち了承した。

 

『分かりました、じゃあ、おやすみなさい』

 

「ああ、おやすみ」

 

通話はそれで終了した。その後、イザヤは何を思ったのか、ベランダに出て夜風に当たっていた。今夜は雲に隠れて星が見えなかった。

 

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