魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第五十五話 イザヤ「僕の魔法の正体は……」

 泉美と香澄は、女子更衣室で制服から運動用の服装に着替えていた。二人とも、気合の入った顔をしていた。泉美はCADを腕に装着した時、香澄から声を掛けられた。

 

「泉美、準備は良い?」

 

「ええ、香澄ちゃんも大丈夫ですか?」

 

「もちろん」

 

香澄も泉美と同様に、装着したCADを泉美に見せるようにして腕を上げる。二人は更衣室から出て、第一演習場へと向かった。既に生徒会権限で演習場を借りており、生徒会の面々や達也の友人達が待っている。二人は大股で廊下を歩いて行く。

 

「それで泉美、アンタのお願いはアレで本当に良いの?」

 

「どういう意味です?」

 

「だって、もっと他にあると思ってさ。例えば、イザヤがどういう人生を送ってきたかとかさ」

 

香澄は、以前に泉美から聞いた命令権の内容に思うところがあるようだ。

 

「イザヤ君の過去にはもちろん興味があります。私も最初は、それを聞こうと思っていました。イザヤ君が昔、どんな子で、何をして来たのか。ですが、私が向き合うべきは今のイザヤ君です」

 

香澄は目を見開き、歩みを止めた。泉美は「どうしたのか?」と、遅れて香澄の数歩前で立ち止まる。

 

「…‥なんだか、成長したね泉美」

 

「なんですかいきなり………」

 

香澄は普段は見せる事はない慈愛に溢れた顔をしていた。それはまるで親が子を見るような目であった。

 

「私たち、いつも一緒にいたじゃない?だから高校に上がっても一緒だと思ってた」

 

「今も十分一緒だと思いますが………」

 

香澄の言葉に泉美は軽く首を捻る。だが香澄は首を横に振った。

 

「泉美はさ、変わったんだよ。イザヤ君と出会ってから。私には分かるの。十師族の令嬢として仮面を被って他人と、特に男には距離を置いていた泉美が、イザヤ君に突っかかってたり、授業サボって追いかけ回したり、デートしたり、イザヤ君に認めさせるために魔法の練習したりしてさ」

 

「最後の部分しか成長した事がみられないのですが……」

 

授業をサボるなんて本来あってはならない事だ。七草家の人間としての品格が疑われてしまう行為である。二度としないと誓っている。

 

「誰かに振り向いて欲しくて頑張る泉美を見て、僕感動しちゃったよ」

 

「突然どうしたんですか香澄ちゃん、何か悪い物でも食べましたか?」

 

普段はそんなこと言わないのに。聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。

 

「さぁ行こう、もうイザヤ君来てるかもしれないよ」

 

香澄は泉美の前を歩いて行く。その後ろ姿を泉美はしばらく見つめたのち、香澄の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

演習場に入ってすぐに深雪達が目に入った泉美は軽く謝罪する。

 

「いいえ、そんなに待っていないわ」

 

本当に待っていなかったので深雪はそう言い微笑み返す。泉美は深雪から横にいる人物に視線を移す。

 

「それよりもイザヤがまだ来てないんだが……」

 

深雪の傍にいたのは達也であった。

 

「イザヤ、もしかして忘れているとか?」

 

雫が変わらず無表情な顔をして呟く。

 

「それはないかと思いますが………」

 

大事なこの日を忘れるわけがない。イザヤ自身、この時を楽しみにしていると思っている。自分に何を要求するのかを。

 

「電話する?」

 

「…‥そうですね」

 

泉美がポケットから端末を取り出そうとした時、演習場の扉が開いた。コツコツと足音を立てて中にに入ってきたのは………、

 

「アレ?僕が最後かな?」

 

「イザヤ君……」

 

いつものようにニコニコした表情で入ってきたのはイザヤであった。イザヤは泉美と香澄のそばに近寄った。

 

「じゃあ早速見せてよ。君たちの成長した姿を」

 

「ええ、見せてあげます、香澄ちゃん」

 

「うん、上等だよ」

 

泉美と香澄は演習場の中心へと歩いて行く。魔法の発動の為に距離を取る必要があるからだ。イザヤは泉美と香澄から視線を離し、少し離れた達也達の元へ歩いて行く。

 

「……………」

 

横に並んで再び泉美と香澄を視界に入れる。彼らとイザヤの間に会話はない。ただイザヤは、雫と詩奈、そして侍郎を一瞥した。

 

「用意はいい?二人はとも」

 

イザヤが二人に確認を取る。

 

「はい」「うん」

 

いつでもいいと言うような表情を作る二人に、イザヤはフッと笑う。そして、

 

「はじめ」

 

抑揚のないその声が合図となった。泉美と香澄は、腕を上げて装着したCADにコマンドを入力していく。その動作も一切の無駄もなく練られている。何度も反復してきたのだろう。コマンドを入力し終えた二人は、腕を天井高く突き上げた。サイオンが二人の体の中から溢れ出す。

 

(さぁ、僕に見せてみなよ)

 

泉美と香澄、それぞれを中心として渦が発生し、強風が吹き荒れる。そして互いに干渉しないように、この室内の気流を制御する。そう、これはまさしく『窒息乱流』。

 

(完璧に制御されている………)

 

そう評価したのは他でもない、司波達也であった。入学当初に七草の双子の『窒息乱流』を目にした時は、まだ精度が不十分であった。しかもそれは、二人がかりでようやく発動できる程度だった。だが二人が同時に発動した『窒息乱流』は完全に独立しており、完成されている。

 

(すごいわ、泉美ちゃん、香澄ちゃん……)

 

深雪であっても、二人の魔法の練度を見て感嘆した。だが一つ疑問に思う事がある。どこに練習する時間があったのだろうかと。泉美は生徒会で香澄は風紀委員をしている。彼女達の一日の時間は限られている。その中で、これほどの高度な魔法を高校生の身分で完成させるとは。

 

(…………………)

 

魔法を発動する泉美はまだ余裕のある表情をしているが、香澄は顔に汗が見える。だがイザヤは満足そうに頷いた。人の成長を垣間見えたことに。やがて風は弱まり、魔法がゆっくりと終了する。空気の成分のバランスも均一に戻っているのを、イザヤは『目』で確認した。

 

「やりましたね、香澄ちゃん」

 

「フゥー、何とかね」

 

汗を拭う香澄に笑いかける泉美。その二人にイザヤは拍手をして讃えた。イザヤに続いて、達也達も手を叩く。それに対し二人は、恥ずかしそうに頬をかいた。イザヤは手を叩くのをやめ、二人に近づいていく。

 

「さて泉美ちゃん、香澄ちゃん。君たちの課題は見事クリアされた。ご褒美をあげないと」

 

先程までの恥ずかしそうにしていた顔から一変して、二人はキリッとした顔をしてイザヤと視線を合わせる。

 

「イザヤ君。約束通り、私達には貴方に何でも命令できる権利を手に入れた、そうですよね?」

 

「ああ、そうだよ。君たちにはそれぞれ一つずつ僕に命令できる、さぁ、君たちは何を望むんだい?僕のできる範囲で君たちの願いを叶えてあげよう」

 

泉美と香澄は互いに目配せし、香澄が一歩前に出た。

 

「じゃあ、私からいい?」

 

「どうぞ」

 

「なら私は……イザヤ君の魔法が知りたい」

 

イザヤの魔法、その正体が知りたい。それは香澄に限らず、ここにいる皆の総意だろう。達也は無意識に手に力が入った。

 

「僕の魔法か……まぁ、そうだと思っていたけどね。だけど、見物人が多いな。人に魔法を教える事がどういうことか、それは知ってるよね。君たちはあえて、この場で僕の魔法が知りたいと?」

 

「…………………」

 

「君たちに教えてもいいけど、先輩達に教えるのは少し癪だな」

 

「イザヤ君。私はこの場で聞きたい」

 

香澄の視線とイザヤの視線が交わる。それはほんの数秒のこと。イザヤは香澄から目を離した。後ろにいる見物人、達也達に目を向ける。

 

「まぁいいか。この場で聞きたいというのも、お願いに入ると思うけど、それはオマケしてあげるよ」

 

達也は探るようにイザヤを見つめた。魔法を他人を晒す事は、自身の弱点にもつながる。だがイザヤは、あえて自分達に晒す事をよしとした。それは、負けないという絶対の自信からなのか。

 

「さて香澄ちゃん。君の願い通り、僕の魔法を教えてあげよう。僕だけにしか使えない僕だけの固有魔法を」

 

香澄はゴクリと唾を飲み込んだ。ついに、折紙イザヤの強さの秘密が分かる。イザヤはゆっくりと口を開く。香澄はイザヤが開いた口を凝視していた。

 

「僕の魔法の正体は…………………」

 

この場にいる皆が、イザヤの言葉に耳を傾け集中する。そして、その時は訪れる。

 

「僕の魔法の正体は、『干渉魔法』だ」

 

「………………………『干渉魔法』?」

 

そう呟いたのは他でもない、イザヤと向かい合う香澄である。疑問の二文字が頭に浮かぶ。

 

「それって、『精神干渉魔法』ということ?」

 

香澄の問いに、イザヤは首を振る。

 

「『干渉魔法』というのは僕が命名したに過ぎない。だけど、その文字通り、僕の魔法は、この世全てのありとあらゆるものに『干渉』する事ができる」

 

「!?」「そんな事が………」

 

驚く香澄と同時に、声が漏れ出したのは達也であった。『干渉』とはつまり………。

 

「それは、火・水・電気・風・土・空気・光・精神・肉体・重力・摩擦・音・振動・状態・密度・ベクトル・結合・分離…………出したらキリがないが、形としてあるモノものないモノ関係なく、僕は全てにおいて『干渉』する事ができる」

 

「それって、なんでもアリじゃん…………」

 

香澄がそう思うのも無理もない。イザヤでさえ、生まれ持ったこの力を、イザヤは神のイタズラだと思っている。皆が唖然としている中、今度は泉美と向かい合う。

 

「さて、泉美ちゃん。次は君の番だ」

 

泉美は思考の波に飲まれている中、突然名前を呼ばれてビクッとした。

 

「……私含めてまだ皆さんが、貴方の魔法の正体に、いまだに驚愕して戻って来ていないんですが」

 

「待っているのも面倒だからさ。僕の魔法のことは、後からじっくり考えてよ」

 

「………分かりました」

 

泉美は一旦、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。達也達も、イザヤの魔法について考えることを中断し、泉美が何を命令するのかを黙って見ていた。

 

「さぁ泉美ちゃん。君は僕に何をして欲しい?僕の過去が知りたい?それとも、僕を奴隷にして一生飼ったりするのかな?」

 

イザヤは不適な笑みを浮かべながら、泉美を待っている。自分にどんな命令が下るのか、それに興味があるのだ。

 

(……………)

 

達也は思う。ここでイザヤを奴隷とは言わずとも、従者にしてしまえばイザヤの行動を縛る事ができるのではないかと。だが泉美は、それをしないだろう。

 

((……………))

 

雫と詩奈は思う。ここで「恋人になって欲しい」と言って、イザヤが恋人となったら、どんなに嬉しいかと。だが、泉美はそれを望まないだろう。そんな事をしても、イザヤの心は手に入らない。

 

「私は、貴方に…………………」

 

(………………)

 

香澄は願っている。いつか泉美の気持ちが、イザヤに届くようにと。

 

「私は、貴方に縛りを与えます」

 

「縛り?それはどんな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人を、殺さない事です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

それは、イザヤの予想していた事の斜め上をいくものだった。呆気に取られているイザヤに、泉美はさらに言葉を続ける。

 

「イザヤ君、貴方の力は強大です。貴方のその力は、一瞬にして他人の命を亡き者としてしまう。とても恐ろしい力です。貴方は、自分以外を都合の良い道具としか見ていない。私は考えました。どうすれば貴方をその考えから脱却させることが出来るかを。それが、人を殺さないことです。簡単に命を奪ってしまう貴方に、命の価値を知り、慈しみを持って頂きたいのです。そうすれば、貴方もー」

 

泉美は次に何を言いたかったのか、それは彼女自身にしか分からない。それは何故か。ゾワリと全身に悪寒が走り、言葉が中断されてしまった。イザヤを中心にして激しい風が吹き荒れた。それと同時に、身の毛もよだつ程の凄まじい邪悪な負のオーラがイザヤから解き放たれた。

 

「きゃーー!?」「イザヤ!?」

 

「何……これ………!?」「怖い……!」

 

「イザヤ……さん……」「詩奈!?」

 

「お兄様!」「やめろ!イザヤ!!」

 

イザヤは聞く耳を持たなかった。イザヤはただ、目の前の少女を睨んでいた。イザヤの鋭い眼光が泉美を殺さんとする。

 

「泉美ちゃん、僕に人を殺すなと?それは、僕の邪魔な奴らに情けをかけろという事か?道端のアリを殺さずに避けろという事か?」

 

「そうです!」

 

泉美は声を振り絞って、今出せる大きな声をイザヤに発した。

 

「邪魔な奴らは何度も邪魔をして来る。周りを飛ぶうるさいハエを、僕に気遣えというのか、泉美……!」

 

泉美とイザヤの距離はおよそ1メートルにも満たない。そんな近くで、負のオーラを一身に浴びる泉美は、足が震え、呼吸も荒くなる。

 

「泉美!!」

 

香澄が助けようと一歩踏み出すが、イザヤの負のオーラに心が呑まれる。怖い。身体が動かない。一歩踏み出すのがやっと。

 

(こ…‥怖い!逃げたいしたい……!)

 

こんなイザヤを今まで見た事がない。いつも自分に笑いかけてくる姿とは違う。自分に明確な殺意を向けているのが分かる。膝がガグガグと笑っている。目に涙が溜まる。泣きそうになる泉美は、拳を膝に打ち付ける。

 

(逃げちゃダメだ……!!)

 

「イザヤ!!」

 

達也はイザヤにCADを突きつける。泉美に向けて手が伸びていくのを視認したからだ。だがイザヤは止まらない。泉美の頭にイザヤの手が触れようとする。達也が引き金を引こうと指を動かす。その瞬間、顔を上げた泉美の目とイザヤの目が合った。今にも泣きそうな泉美の姿が。泉美が思いっきり腕を振りかぶる。

 

「泉美ちゃ『パチンッ』……!?」

 

室内に乾いた音がなった。皆が口を開けて固まる。泉美がイザヤの頬を叩いたのだ。イザヤの体から放たれる負のオーラが散り散りに消えていく。室内の苦しい空気が元に戻っていく。

 

「約束は約束です。ちゃんと守ってもらいますから」

 

「………………痛いよ、泉美ちゃん」

 

雰囲気はいつものイザヤに戻っていた。だが、親に叱られた子供のように。シュンとしていた。泉美は足が崩れて、その場にペタンと座り込んでしまった。

 

「泉美!!」

 

香澄が泉美のそばに駆け寄る。

 

「死ぬかと思いました………」

 

「泉美、やっぱり凄いよ……」

 

座り込んだ泉美に背を向けて、イザヤは歩き出した。

 

「イザヤ、どこに行くんだ?」

 

達也が呼び止める。達也の横を通り過ぎる時、イザヤは足を止めた。

 

「今日はもう帰ります。さようなら」

 

そしてイザヤは演習場から出て行った。それを見送ったのち、皆は泉美と香澄のそばまで駆け寄った。

 

「泉美ちゃん、大丈夫?」

 

深雪が座り込む泉美を心配して腰を下ろし、目線を合わせる。

 

「はい、なんとか………」

 

「泉美、勇敢だったよ」

 

「あの状態のイザヤ君に、ビンタをお見舞いするなんてね」

 

雫と深雪が泉美を称賛する。誰にもできない事だ。

 

「イザヤさん、とても怖かったです………」

 

「ああ、あんな師匠初めて見た………」

 

「いや、私たちも初めて目にしたわよ」

 

思い出すだけでも恐ろしい。エリカはブルブルと身体を震わせる。達也は一人、イザヤが出て行った演習場の扉を見つめていた。

 

(人を殺すな……か。イザヤ、お前は泉美が本当に言いたかった言葉の続きを、理解する事ができるのか………)

 

 

 

 

 

 イザヤの一件から数日後、日本時間で午前五時頃、早い者はこの時間から起きて会社に行く準備をしているだろう。だが大半の人間はまだ寝ているに違いない。そんな時間に、司波達也が滞在する伊豆半島中央付近で大規模魔法による爆破攻撃を受けた。イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ、新ソビエト連邦が公表している戦略級魔法師で十三使徒の一人であるこの男は、司波達也を標的として、戦力級魔法『トゥマーン・ボンバ』を使用した。一撃目、達也が『雲散霧消』を発動しこれを阻止。二撃目、深雪の魔法『凍火(フリーズ・フレイム)』燃焼という現象を阻害する魔法でこれを凌ぐ。達也はその間に、『精霊の眼』で自分と深雪の悪意をたどる。だが達也は遅れて気付いた。まだ攻撃が終わっていなかったことに。三撃目、間に合わない。達也は深雪を抱きしめる。守らなくては。ベゾブラゾフは自身の勝ちを悟った。三連続攻撃の最後の一撃、別荘を中心に大きな爆撃が起こった。殺した。そう思ったのも束の間、別荘は原型を留めていた。何故か、それは障壁魔法が別荘を覆い囲んでいたからだ。桜井水波が自身と引き換えに、ベゾブラゾフの魔法から達也と深雪を守ったのだ。水波は倒れた。そして時計の針は進み、場面は病院に運ばれた水波が目を覚ましたところから始まる。

 

 

 

 

 

目が覚めた時、水波は自身の身体が重いことが感じられた。激しい倦怠感と共に。

 

「ここは………」

 

真っ白な天井。別荘ではない。水波は目だけを動かして辺りを見回す事で、自分のいる場所が病院であると認識した。

 

(深雪様!達也様!)

 

身体を起こそうとするが動かない。力が入らないのだ。ここまで衰弱しきっているとは。ベッドで仰向け状態になっている水波の耳に、ノックする音が聞こえてきた。

 

「…‥どうぞ」

 

自分でも驚くほど長細い声。ノックした人物には聞こえていないだろう。

 

「お邪魔します」

 

(深雪様…!)

 

入室してきたのは、深雪だった。再び身体を起こそうとするが結果は同じ事。深雪は水波が起きていることに驚いた。

 

「水波ちゃん!」

 

すぐに水波の側に駆け寄る深雪。そしてもう一人部屋に入って来たのは達也である。

 

「水波、無理はするな」

 

「達也様……」

 

二人の顔を見た途端、水波は安心した顔をした。

 

「お二人とも無事でしたか………」

 

無事に守る事ができた、この二人を。心のそのから安堵する。

 

「ああ水波、お前のおかげでな。ありがとう」

 

「光栄でございます」

 

達也に認められた事で水波は泣きそうになっていた。その様子に達也と深雪は微笑む。だが、その表情は次第に曇っていく。言わなければならない。重い口を開けたのは達也であった。

 

「……水波、これから話すことを聞いてくれ」

 

「はい………」

 

達也の深刻な表情から、水波は何を話そうとしているのか察していた。何を隠そう自分の体の事だ、自分自身がよく理解している。出来るなら聞きたくない。だけど、達也の口から語られる残酷な話を、水波は耳を塞ぐことすら出来ない。

 

「水波、お前の魔法演算領域は深刻な損傷を負っている。治るまで魔法を使わせられないし、そもそも治るかどうか分からない。俺たち魔法師自身にとっても、ブラックボックスのようなものだ」

 

「はい………」

 

水波はさらにか細い声を漏らした。側にいる達也と深雪に届くかすらも分からないような声で。

 

「……それに、今回回復したとしてもまた同じ事が繰り返されないとも限らない」

 

応急処置が間に合わなかった場合は、その時はもう…………。

 

「私は……深雪様のガーディアンの任を解かれるのですか………」

 

「……………」

 

達也は思う。普通の魔法師として活動することはできるだろう、普通の魔法師なら。だが激しい戦いには水波はもう耐えられない。ガーディアンに撤退は許されない。主人を守る盾でなくてはならない。

 

「戦えない私は……処分されるのですか?」

 

震える唇を動かした水波の表情は、決して言葉では言い表せないものだった。達也は水波にそのような言葉を言わせてしまったことを悔いた。

 

「そんなことさせない!!」

 

そう声を上げたのは深雪だった。部屋中に響き渡る深雪の声。水波はその声にビクッと身体を震わせた。

 

「そんな事はさせないわ。そんなこと、私が許さない」

 

深雪は水波を抱きしめた。水波の頭を自分の胸に引き寄せ包み込む。水波はされるがまま深雪の胸に埋まる。深雪は涙を流した。悲しみ、そして怒り。何故、水波がこのような目に合わないといけないのか。

 

「深雪様………」

 

水波は、流す涙を拭おうと思ったが身体が動かなかった。悲しむ深雪と水波を見て、達也は胸が痛んだ。

 

 

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