魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第五十九話 イザヤ「愛ってな、二百種類あんねん」

 一条茜は、金沢有数の病院へと運ばれた。一条将輝は、廊下に設置されている長椅子に座っていると、走ってくる父親、一条剛とその妻、一条美登里の姿が見えた。

 

「親父!お袋!」

 

「将輝、茜はどこだ?」

 

「この中だ…………」

 

将輝は視線を剛からある部屋へと移動した。剛も息子が見ている場所に目を移す。そこは集中治療室と書かれていた。その文字を見た時、一条美登里の顔が青ざめる。

 

「そんな……………」

 

「………将輝、一体何があったんだ?」

 

剛は顔を青ざめはしなかったが、重苦しい表情を作った。そして、息子に説明を求める。

 

「折紙イザヤだ………」

 

「何だって?」

 

「茜は折紙イザヤと一緒にいたんだ。その時に、奴に何かされたんだ。俺が駆けつけた時には、茜は地面に倒れていた………」

 

将輝は、自分の拳を力強く握りしめる。自分を責める顔をする将輝に、剛は何も言えなかった。

 

「貴方、折紙イザヤとは誰のことですか?」

 

「美登里……それは………」

 

その時、集中治療室から医者が出て来た。その様子は見るからに焦った顔をしていた。

 

「先生!茜は、茜は!」

 

美登里が医者に詰め寄って、娘の状態を聞こうとした。その悲痛な声に、医者は顔を下に向けた。

 

「分からない………」

 

「どういうことです!?」

 

「分からないんです。茜さんには外傷は無く、内部も検査しましたが、特に異常があるわけでもない。おそらく、茜さんの魔法師としての部分、魔法演算領域に問題が生じているのではないかと思われます。茜さんは尋常ではない汗をかいています。そして、脈拍も弱まってきているんです。このままですと………」

 

医者はその次の言葉を言い淀んだ。

 

「このままだとどうなるんです!?先生!?」

 

美登里の悲痛な叫びが、廊下に響き渡る。何でこんな事に、美登里は顔を手で覆い、その場で崩れ落ちた。

 

「お袋…………」

 

「今すぐに、十師族ならびに師補十八家に連絡を取る。茜が陥っている症状について知る者がいないか、助けを求めよう」

 

「親父…………」

 

「将輝、お前はここで母さんについていてくれ」

 

剛は来た道を全速力で戻って行った。途中、走る剛を叱責する声が聞こえていたが、剛は構わず階段を駆け降りて行った。

 

「うっ………ううう……」

 

涙する母の肩に、そっと優しく手を置くだけの将輝。何も出来ない無力な自分を呪っていた。

 

 

 

 

 

 津久葉夕歌は、自身が所有する研究施設で一人、資料に埋もれていた。その資料は、これまで夕歌が研究を続けて得たデータ。そして、魔法演算領域について様々な研究者達の論文であった。

 

「少し休もうかしら………」

 

そう呟く夕歌の声に、反応する者は誰もいない。夕歌はここのところ、調子が出てこないのだ。

 

「あーあ、何で私まで追い出されちゃったのよ……」

 

イザヤと議論を交わしている方がいいのに、そのイザヤは絶賛不機嫌中な為、相手してくれる人間がいないのだ。椅子に全体重を預け、天井を見つめる。

 

「全く困ったものよね、若者って……」

 

夕歌は今年23歳。イザヤや泉美達とは六歳も歳が離れている。だが彼らを若造と思って舐めてはいけない。一癖も二癖もある若者達のいざこざに巻き込まれて、夕歌は苦悩していた。だがあの時、部屋に招き入れた夕歌から始まったことなのだが、その事について夕歌は悪いとは思っていない。余計なことをしたとは思っているが。

 

「彼の機嫌が治るまで、一人で頑張るか……」

 

イザヤと出会う前まではそうして来たのだ。ただ元に戻るだけである。だけど力が出ない。

 

「はぁ………」

 

夕歌のやる気スイッチが入ったのは、この時から十分後、四葉家現当主、四葉真夜から電話が入った時であった。

 

 

 

 

 

 イザヤが金沢から帰った翌日の朝、折紙イザヤの家のインターホンを押したのは、軍服を着た一人の男性だった。歳は三十前半、その顔には緊張が伺える。ガチャッと玄関の扉が開く。

 

「はい、どちら様ですか?」

 

イザヤが顔を出すと、男は敬礼した。

 

「折紙イザヤさんですね?私は、国防軍情報部の山本と申します。申し訳ありませんが、何も聞かずに同行願いますでしょうか?」

 

 

 

 

 

 北山雫は、学校へ登校するために制服に袖を通していた。三面鏡で、自分の身だしなみを整え、自室を出る。階段を降り、朝食を取るためにリビングに出ると、弟の北山航がすでに朝食をとっていた。

 

「おはよう、姉さん」

 

「おはよう、航」

 

雫がテーブルにつくと、使用人がすぐに朝食を持って来てくれる。雫は手を合わせ、朝食に手をつける。

 

「姉さん」

 

「ん、どうしたの航?」

 

航が声をかけて来たので、雫は箸を止めた。

 

「最近、また何かあった?」

 

それはどういう意味なのか、雫は首を傾げていた。

 

「なんか暗い顔してるから」

 

分からない様子の雫に、航は自分がそう思った理由を伝えた。

 

「……そうなの?」

 

「姉さんはいつも無表情だけど、家族である僕は分かるよ」

 

「……そうなんだ」

 

三面鏡で見た自分の顔は、いつものように何の変哲もない顔をしていたが、弟にはそう見えなかったらしい。だが、航の言っていることは、あながち間違いでは無いのかもしれない。

 

「まぁ、思い当たることがないわけでも無い」

 

「また、引き篭ったりするの?」

 

弟は懸念していた。姉がまた同じ状態に陥ることを。

 

「それは無いから安心して」

 

雫は苦笑した。あの時は、家族全員、使用人達に迷惑をかけた。その事は反省している。

 

「聞いてもいいのか分からないけど、何で姉さんは一時期、引き篭ったの?」

 

「男に泣かされたから」

 

雫は具体的な事を省き、あの時の原因を簡潔にまとめた。

 

「えっ!?」

 

航は手に持っているお椀を落としそうになった。姉さんが男に泣かされるなんて、思いもよらなかった。むしろ、姉が男を泣かす方だと思っていたからだ。

 

「だ、大丈夫だったの?」,

 

「うん、この通り」

 

「えぇ、でも、姉さんがそんな事になったらお父さんもお母さんも許さないと思うけど………」

 

その泣かせた男に対して、何かしらの制裁を下ったのだろうと思っている航だが、弟の考えが読み取れた雫は訂正する。

 

「ううん、別に何も無かったよ。それに、イザヤからは謝罪をもらったから」

 

「その人、イザヤさんって言うの?」

 

「うん、私の好きな人」

 

航は雫の言葉にポカンとした顔をした。好きな人、好きな人ってあれか?好意を持っている人ってことか?

 

「えぇ!?姉さん、好きな人いたの!?」

 

「うん、というか、お父さんもお母さんも何度かイザヤに会ってる」

 

「えぇ……僕だけ知らないんだけど」

 

一人蚊帳の外にされている事に不満を漏らす航。

 

「で、でも、その人泣かされたの?何で?」

 

「まぁ、色々あって………」

 

言葉を濁す雫に、航は訳が分からなかった。

 

「ねぇ姉さん、もうお父さんもお母さんも、その人の事を認めているの?」

 

まだ早いかもしれないが、将来、自分の義兄になるかもしれないので、自分にも教えてもしいものだ。

 

「いや、むしろ逆。猛反対」

 

「えぇ……………」

 

「だから、航には私の味方になって欲しい」

 

「いや、僕には何が何だか分からないよ」

 

姉に、人を見る目はあると思っていたが、男を見る目は無いようだ。その人によっぽど問題があるのかもしれない。

 

「姉さん、ほのかさんもイザヤさんを知ってるの?」

 

「もちろん」

 

「ほのかさんもイザヤさんと面識があるの?」

 

「あるよ、イザヤは元生徒会だし」

 

「元?イザヤさんって姉さんよりも年上?」

 

「違う、年下」

 

「年下なんだ………」

 

生徒会に「元」がつくのはどういうことなのか、航はよく分からなかった。だがそれよりも、姉が年下を好きになった事が驚きだ。姉は、頼れる年上の男性を好きになると思っていたから。

 

「ちなみに、ほのかも泣かされている」

 

「………………もうこの話やめようか」

 

航は自分の姉の将来が心配になった。

 

 

 

 

 

 夕歌が金沢の病院に着いた時は、日付が変わった頃だった。眠たい目をこすりながら、夕歌は患者のいる病室へと案内された。中に入ると、そこに待っていたのは、一条剛、美登里、将輝の三名であった。

 

「津久葉夕歌です」

 

「来て頂いてありがとうございます、一条剛です」

 

剛は夕歌に深々と頭を下げた。それに続いて、美登里も将輝も頭を下げる。

 

「来る時にある程度は教えてもらいました。早速ですが、あちらのベッドで横になっているのが一条茜さんですか?」

 

挨拶は手短に省き、夕歌は本題に入る。ことは一刻を争うと聞いている。

 

「はい、私の娘の茜です」

 

夕歌は茜の容態を目で確認する。苦しそうな顔をしており、額には汗が見える。夕歌は茜の腕を掴む。茜の身体はとても冷たくなっている。非常にまずい事態だ。

 

「医者はおそらく、茜の魔法演算領域に何らかの問題があるのではないかと言っていました。津久葉さん、どう思われますか?」

 

「それを見るために、今から魔法を使用します」

 

「私達は、外に出た方がよろしいでしょうか?」

 

「……そうですね、すみませんが席を外してください」

 

「分かりました。行こう二人とも」

 

三人は名残惜しそうに、茜の病室から出て行った。剛はドアを閉める前にもう一度頭を下げた。茜をお願いします、と。

 

「……さて、始めましょうか」

 

夕歌は袖をめくって精神干渉魔法を発動した。茜の内部、深層奥深くを覗く。茜の精神世界、魔法演算領域には深刻な損傷は見られない。

 

(魔法演算領域に問題がない?じゃあ彼女が苦しんでいる理由は何?)

 

夕歌はもっと深くを潜り込んでいく。あまり深く潜りすぎると、上がって来れなくなる。だが、目の前で苦しむ少女を助けたいという気持ちはある。

 

(考えられる事はそう多く無い、いや、むしろ「それ」しか思い浮かばない…………)

 

茜の症状を聞いた時に、すぐに夕歌の頭に思い浮かんだのは、

 

(やはり、サイオンの過剰放出が原因………!)

 

ならばやる事は一つ。体の内から溢れ出るサイオンを内に留めること。しかしそれは、自分自身でコントロールする事である。しかし茜は、それがうまく出来ず、サイオンが放出し続けている。

 

(いや違う。コントロールは出来ている、だけどそれが下手なだけ。彼女が倒れたのはおよそ七時間前、とっくに死んでいてもおかしくないのに、こうして生きているという事は、サイオンの放出を僅かながらでも抑えられているということ)

 

なにゆえサイオンを抑える事ができているのか。それは今は関係のない事だ。今やらなければならない事は、茜のサイオン放出を止めること。

 

(できるかしら?私に…………)

 

自分自身でやるのと、他人でやるのとは全然違う。夕歌は、自身が体験した記憶、『壁』を破壊する際に、イザヤが自身の精神世界に『干渉』してきた事を思い出しながら、手探りで始めた。額に汗が滲む。今後イザヤに教わろうとしていた事を、ぶっつけ本番でやる事になるとは思いもしなかった。苦しむ茜の表情に、夕歌は覚悟を決める。

 

(これが終わったら、絶対文句言ってやるわ!!)

 

津久葉夕歌の長い戦いが始まった。

 

 

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