魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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少ないよ


第六話 魔法ってすげーや、

 七宝琢磨と香澄、泉美の決闘試合から翌日、今日は新入生勧誘期間の最終日である。トラブル続きだったこの期間もついに終わりを迎える。イザヤは昨日の喫茶店で話した通り、七草の双子に自らお手本を見せるために泉美と共に演習室を借りるために職員室の先生にお願いをしに行った。

 

「今日の放課後、空いている演習室を貸していただけませんか?」

 

 そんなお願いを先生はすんなりOKしてくれた。泉美は鍵を先生から受け取り、イザヤと共に職員室から退室した。

 

「案外、すんなり貸してくれたね。生徒会役員とはいえ、まだ入学して間もない僕たちになんの疑問も持たなかったのかな?」

 

「さぁ、どうでしょう。それだけ、生徒会を信用しているということなんでしょうか?」

 

 あの先生は終始、泉美の方を向いて話していた。僕のことなんて気にも留めなかった。七草家の人間だからと媚び諂うようだったと、イザヤは感じていた。

 

(まあ期待していなかったけど、職員の中に面白そうな奴はいなかったな)

 

 そんな事を考えていると、廊下から達也と深雪が歩いてくるのが見えた。

 

「あら、二人ともどうされたのですか?」

 

 深雪は職員室になんの用事があったのか尋ねる。

 

「演習室の鍵を借りてきたんですよ」

 

「どうしてだ?」

 

 達也がイザヤに質問する。

 

「もちろん、魔法を披露するためですよ」

 

 イザヤはそれしかないじゃん、という感じで達也に答えた。

 

「イザヤ、一体何をするつもりだ?」

 

 達也が問い詰めるような言い方をする。

 

「それは、イザヤ君が自分ならもっと上手く『窒息乱流』を使えると豪語したので、香澄ちゃんがそれを見せてみろと言うことで……」

 

「…本当かイザヤ?」

 

達也はイザヤに事実かどうか確認する。

 

「嘘言ってどうするんですか?それに、あの魔法はそれほど難しいものではないですよ」

 

 軽く言ってのけるイザヤに泉美はムッとする。そんな姿を見て達也は、

 

「なら、俺も見てもいいか?」

 

「お兄様が行くなら私も」

 

「構いませんよ」

 

 では放課後に、そうしてイザヤと泉美は廊下を歩いて行く。達也はそんな二人を、特にイザヤの背中をジッと見えなくなるまで見つめていた。

 

「お兄様」

 

 そんな達也に深雪は声をかける。

 

「ああ、深雪すまない、俺たちも行こうか」

 

 そうして達也達はイザヤ達とは逆の方向に歩いて行く。

 

「お兄様、少し宜しいですか?」

 

「なんだい、深雪?」

 

「先程、イザヤ君は『窒息乱流』はそれほど難しくないとおっしゃっていましたが、どう思われますか?」

 

「………あの魔法は決して簡単ではない。むしろ、難易度は高い部類に入るだろう。これでやっと、あいつの実力を見ることができそうだ」

 

 向こうもそれを承知の上で了承したのだろう。つくづく、わからない男だ。

 

 

 

 そして放課後、達也と深雪はイザヤ達も共に第一演習室について行くことになった。香澄は用事があるとかで遅れてくるそうだ。途中、廊下ですれ違ったのは七宝琢磨と十三束鋼である。

 

「あれ、あの二人どこに行くんですかね?」

 

 泉美がそう口にすると、

 

「あの二人は隣の第二演習室を使うようだ」

 

「どうしてです?」

 

「お前達がいなくなった後、十三束が七宝を殴り飛ばし、腐った性根を叩き潰すと言っていた」

 

「それはまた…」

 

 泉美は言葉を失う。イザヤはその事を聞いて「ククク」と笑っている。

 

「まぁなんにせよ、良い方向に直れば良いんですけどね」

 

 イザヤは七宝琢磨の事をただの道化とか見ていなかった。これを機に、彼がどのような人間へと変わるのか、ほんの少しぐらい彼に期待することにした。イザヤは第一演習室に入り、電気をつけてCADの用意をしていた。

 

「……それがお前のCADか?」

 

 イザヤがポケットの中から取り出したのは小さな箱であった。その箱を開けると、指輪型のCADが姿を見せる。

 

「ええ、汎用型CADですよ」

 

 その指輪型CADを右手の人差し指にはめて、準備を整えた。だがまだ香澄が来ないのか、ただ待っていても退屈なので、ある提案をした。

 

「達也先輩、香澄ちゃんがくるまでの間、僕と試合しませんか?」

 

「何?」

 

イザヤがいきなり達也に試合を提案してきた。

 

「僕のこと、知りたいんでしょう?。なら、魔法で語り合いましょうよ」

 

 そんなイザヤに達也はしばらく悩んだのち、

 

「いいだろう、イザヤの勝負受けよう」

 

「胸を借りますよ、達也先輩」

 

 そうして自分のCADを抜き、達也とイザヤはスタート位置に立ち、互いに見つめあっていた。

 

「勝利条件はどうする?」

 

「そうですね……、じゃあ先に相手に触れた方が勝ちにしますか」

 

「……分かった」

 

「達也先輩、すぐに接近戦に持ち込んで終了だなんて、つまらない事しないでくださいよ」

 

「もちろん、お前の化けの皮を剥いでやるつもりだ」

 

 互いに軽口を叩き合いながら、

 

「それでは、審判は私が務めますね」

 

 深雪がスタートの合図を行う。その横では、泉美がニコニコ笑っているイザヤをジッと見つめていた。

 

「それでは、司波達也と折紙イザヤの試合を始めます」

 

 天井高く上げた腕が振り下ろされ、試合が開始した。だが、達也もイザヤも互いにスタート位置から動くことはなかった。その姿に深雪も泉美も困惑していた。

 

「来ないんですか、達也先輩?」

 

「初手は譲ってやる」

 

「そうですか、なら…」

 

 イザヤは指輪型CADをはめた右腕をあげて、達也に指差した。すると、指の先からドライアイスが生成されて、達也に射出された。

 

(これは、『ドライ・ブリザード』か)

 

 空気中の二酸化炭素を集め、ドライアイスを作り、凍結過程で余った熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、ドライアイスを高速で射出する魔法である。この魔法は去年の生徒会長、七草真由美の得意であった魔法だ。

 

達也は飛んでくるドライアイスに銃口を向け、魔法を発動して無効化する。

 

「それが先輩の得意魔法である『術式解体』《グラム・デモリッション》ですか」

 

「ああ、得意というかほぼこれしか使えないんだけどな」

 

 達也は容易くイザヤの魔法を分解した。

 

「どうしたイザヤ?これで終わりか?」

 

 達也がイザヤに向けて挑発をする。そんな達也にイザヤは笑って返す。

 

「じゃあこれはどうですか?」

 

 そうしてイザヤは、また達也に向けて『ドライ・ブリザード』を放つ。今度は少し大きめのドライアイスを作り、達也に攻撃するつもりだ。

 

(何度来ても同じことだ)

 

 そうして達也は再び銃口を向け魔法を発動する準備をしていたが、イザヤから射出されたドライアイスは恐るべき速度を有し、達也に襲いかかる。

 

(!?)

 

 達也は魔法を発動する暇もなく、ドライアイスが達也の側頭部をかすめた。

「お兄様!?」

 

「速い!?」

 

 深雪と泉美がそれぞれ声を上げる。

 

「ギリギリでしたね、達也先輩!さぁ、次は腹ですよ」

 

 再びドライアイスを生成し、達也に射出される。すると達也はイザヤを中心に円を描くように走り始めた。動いているものに当たるのは難しい為である。次々に放たれるドライアイスを達也は神回避する。

 

 するとイザヤは左腕をあげて手で銃の形を作り、達也に向ける。その左手の人差し指にはいつの間にか人差し指にCADがはめられていた。その指からドライアイスが生成され、達也に襲いかかる。

 

(パラレル・キャストか!?)

 

 複数のCADを同時に使用するその技は、イザヤとっては造作もない事である。イザヤはまるで西部劇のガンマンのように達也にドライアイスを打ちまくる。

 

(単純な魔法ではあるが、恐るべきはその射出の速度だ。ニ撃目の攻撃はかろうじて体が反応できた。危なかった)

 

 達也は『目』で見えてはいたが、体が反応するまでがギリギリであった。それほど速いスピードで放たれる魔法を達也は分解するのが間に合わない。

 

(仕方ない)

 

 達也は戦いを近接戦に持っていき、すぐこの試合を終了させようとしていた。たとえ、ドライアイスの嵐が自分に降り掛かろうともすぐに『再生』することで相手に一撃与えられると。しかし、

 

「達也先輩、まだ終わらせませんよ」

 

 イザヤは達也から距離を置き、『ドライ・ブリザード』を中断した。

 

(今度は何をするつもりだ)

 

 達也はイザヤの次の攻撃を警戒していた。だが、イザヤに向かって走り続ける達也に、

 

「ハハハ、達也先輩。なんだか必死ですね」

 

「イザヤ、悪いがこれで終わらせる」

 

 後ろに跳んだイザヤに達也の手が届きそうになる。

 

(終わりだ)

 

 そう思った達也だが次の瞬間、不思議なことが起こった。

 

「!?」

 

 イザヤの体がドロドロに崩れていなくなってしまった。

 

(これは、幻術か。奴はどこだ)

 

 達也は『精霊の眼』で奴の場所を見つける。

 

「深雪から離れろ、イザヤ」

 

 イザヤはいつの間にか、深雪の横に立っていた。いきなり現れたイザヤに深雪と泉美はビックリした。

 

「イ、イザヤくん!?」

 

「あはは、驚いた顔だ」

 

 イザヤは驚いた二人にニコニコと笑っている。

 

「イザヤ、お遊びは終いだ」

 

「そうですね、達也先輩。だいぶ温まってきたし、僕もウォーミングアップはおしまいにしましょう」

 

 そうしてイザヤは何故か指からCADを外してしまった。

 

「何をしている、イザヤ?」

 

「何をしてるって、CADをしまっているんですよ」

 

 CADを箱の中にしまい、ポケットに入れた。

 

「試合を放棄するのか?」

 

「いいや、このまま続けますよ」

 

 そうしてイザヤは達也に近づいて行く。

 

(何をするつもりだ)

 

 達也はイザヤを不気味に感じている。いまだ奴の底が見えない。

 

「5……4……3……」

 

 イザヤはいきなりカウントダウンを始めた。達也は警戒し、イザヤに銃口を向ける。

 

「2……1……」

 

(来る!)

 

「0」

 

 イザヤが消えた。

 

「!?」

 

 達也は理解できなかった。たった今、イザヤという人間の存在が消えた。比喩ではない、瞬きもしていない。なのに消えた。達也の『目』をもってしても、何故消えたのか分からなかった。

 

(俺のこの『精霊の眼』でも捉えることができなかっただと!?)

 

 それは、深雪達も同じであった。突如消えたイザヤの存在感、辺りを見渡しても彼の姿はない。

 

「どこだ!イザヤ!」

 

 達也の声が部屋全体に響く。返ってきたのは、ただの静寂である。しばらく間をおいて、泉美も声を上げる。

 

「イザヤ君!どこですか!」

 

「ここだよ」

 

「「「!?」」」

 

 イザヤは達也の後ろに立っていた。

 

(いつ俺の背後に!?)

 

 全く分からなかった。イザヤはいつそこに居たのか、何故消えたのか、分からないことだらけで頭がおかしくなりそうだった。達也の背中に汗が滲む。

 

「いつ、そこにいたんだ?」

 

「居ましたよ、ずっと」

 

「いつだ?」

 

「先輩が声をあげている前からずっとね」

 

 達也は後ろを振り向き、イザヤと目を合わせた。イザヤはニコニコと笑顔を消さなかった。

 

「一体、なんの魔法だ?」

 

「さあ、なんの魔法なんでしょう?」

 

 イザヤはとぼける。

 

「達也先輩、それ以前に聞きたいことがあるんじゃないですか?」

 

「……お前の使用していた『ドライ・ブリザード』は発動速度が異常だった、何故だ?」

 

「それは、僕が使用していたCADが汎用型ではなく特化型CADであったからです」

 

「!?」

 

「あなたは、僕が汎用型CADという言葉をまんまと信じてしまった。僕の使用していた特化型CADは魔法の発動速度と射出速度を重視したCADです。今回、僕が使用していたCADには『ドライ・ブリザード』と『窒息乱流』の2つの魔法しかインストールしていなかったんですよ」

 

「…では、あの時の幻術はなんだ?」

 

「あれは、BS魔法です」

 

「BS魔法だと!?、BS魔法師は現代魔法も古式魔法も使える水準に達していない超能力者のことだぞ」

 

「なら、僕が初の特別なBS魔法師ですね」

 

「……なら、最後の魔法はなんだ」

 

「あれも、僕のBS魔法です」

 

(一体、どんな魔法なんだ)

 

 達也は頭をめぐらしていると、

 

「ごめーーん!!、遅くなった!」

 

 香澄がやっと到着した。

 

「……香澄ちゃん、今までどこに行っていたのですか?」

 

 なかなか来ない香澄を泉美は心配していた。

 

「間違えて第二演習室に入っちゃってさ。そしたら、七宝君と十三先輩が試合してて、ボク、ずっと見ちゃってて、その後もさ、七宝君と少し話をしてて」

 

 香澄は七宝と十三束の戦いに目が離せなかったようだ。

 

「ごめん、イザヤ君!演習室まで用意してもらって悪いんだけど、ボク、もういいんだ」

 

「香澄ちゃん、ここまで待たせておいて何を言うんですか」

 

 泉美は香澄に注意する。

 

「……香澄ちゃん」

 

 イザヤは香澄の目を見る。香澄もイザヤの目を見る。

 

「七宝琢磨と何かあったのかい?」

 

「それは、、、」

 

 香澄は俯いて下を見たがすぐに顔を上げて、

 

「ボクが未熟な事が、よく理解できたから」

 

 香澄のまっすぐな目がイザヤをより一層笑顔にする。

 

「なるほど、君も彼も成長したということか」

 

 イザヤはうんうんと頷き、歩き始める。

 

「どこに行くんですか?イザヤ君」

 

「もう、僕がここにいる必要は無くなったから、帰るね」

 

 イザヤは泉美に返答する。

 

「じゃあ、みんな。また明日」

 

 そうしてイザヤは演習室を退出した。

 

「……行ってしまいましたね」

 

 泉美はポツンと呟いた。

 

「……そうだな。俺たちも帰るとするか」

 

「あの、鍵はボクが返してきます」

 

 こうして達也達も演習室の鍵を閉め、そのまま家に帰った。

 

 

 達也と深雪は一緒にソファに座っていた。そこへ、水波が紅茶を持ってきた。

 

「どうぞ、達也様、深雪様」

 

 二人の前に紅茶を置く。

 

「ありがとう、水波ちゃん」

 

「ありがとう」

 

 達也と深雪が感謝を伝え、紅茶をゆっくりと飲んでいく。

 

「あの、達也様。気分が良くないのですか?」

 

 水波は達也に元気がない事に気づき、心配する。

 

「ああ、大丈夫だ水波」

 

 しかし、そう言う達也の顔は晴れない。深雪も心配そうに横から見つめている。そして、

 

「もしあの時、本当の命のやり取りだった場合、俺は死んでいた」

 

「お兄様」

 

「最後の魔法は、俺には何が何だか理解できなかった。後ろを取られた時、ゾッとしたよ」

 

 達也は放課後の試合について淡々と述べる。

 

「そんな、達也様が敵わないなんて」

 

 水波は驚いた表情を浮かべた。

 

「深雪、イザヤは俺たちの敵になる存在なのかどうか見定める必要がある」

 

「分かりました、お兄様」

 

そうして、達也達は就寝した。

 

 

 

 

 七草泉美は明日の学校の用意をした後、ベットで横になり、天井を見上げていた。今日の放課後の試合を思い出す。イザヤの『ドライ・ブリザード』、達也の『術式解体』、そしてBS魔法。自分にはできない芸当を平然とやってのける彼らに、

 

(レベルが違いすぎる、二年生である司波先輩となんなく戦えるなんて)

 

 そう考えたが、すぐに首を振る。

 

(いや、司波先輩が上級生だろうが関係ない。あの二人は他の生徒とは一線を画す存在だ、特にイザヤ君、彼の魔法は司波先輩にも分からなかった)

いつもふざけているあの男が、あの時だけは何故かカッコよく見えた。

(いや、何を考えているの私)

 

 泉美はベッドから起き上がり、窓を開けて空を眺めていた。今日は星がよく見える日であった。

 

(イザヤ君は香澄ちゃんが成長したと言っていた。後、多分七宝君も)

 

 イザヤが言っていた言葉から推察する。

 

(なら、私は?、私は入学してから今日まで何か成長できたのかしら?)

 

泉美は何故か、香澄や七宝に置いて行かれている気分になった。二人だけじゃないイザヤにも。

 

(いつも隣にいた彼が、実は雲の上の存在だった。そんな彼に私は追いつくことができるのかな)

 

 泉美は自分が分からなくなっていた。何故こんなにも彼を気にかけるのか、いつも男性とは適切な距離をとっていた自分が、イザヤとはいつからか、軽口を叩けるようになるまでになっていた。

 

(分からない、彼が。彼は常に何を考え、行動しているのだろう)

 

泉美はこれから、イザヤの事を注視していくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

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