魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第六十一話 泉美「イザヤ君、私に会いにー」イザヤ「いや、侍郎君に」泉美「は?」侍郎(プルプル)

 お昼を食べて腹を満たした学生達には、午後の授業は眠たい事だろうが、魔法科高校の生徒達は、熱心に先生の説明に耳を傾けている。

 

「ーであるから、この数式を当てはめて」

 

泉美は、先生の話を聞いていながらも、少しばかり心が上の空であった。その原因は、もはや言うまでもないだろう。

 

(………………………)

 

横の空席を見つめながら、泉美は悩んでいた。次第にイザヤとの物理的な距離、心の距離が離れてしまっている気がしていた。別に恋が覚めてしまったわけでは無い。泉美自身に非があるのは理解していた。

 

イザヤを一方的に責めてしまって怒らせてしまったこと。あんなに怒ったイザヤは初めて見たのだ。しかし、イザヤの水波に対しての言い方は許せないと思っていた。それで敬愛する深雪に肩入れするのは仕方がない。

 

(私は、一体どうすれば良いのでしょうか……)

 

最初は、イザヤに愛を教えてあげたいと必死に動いていた。愛を知らず、心が子供のまま大人になってしまった。入学当初からこれまで、イザヤの心が少しずつ変化しているのは分かっていた。

 

だがそれでも、愛だけでは足りないと今は思っている。仮に愛を知ったとしても、イザヤの本質は変わらない。人を道具として見ること。

 

それは、イザヤが退屈だから。イザヤはこの世界に飽きている。面白いと思うのは、ほんの一瞬のこと。イザヤの渇きを潤すことが出来る方法は一つしかない、それは敗北させる事。だが………

 

(司波先輩も勝てないのに、私が勝てる訳もない)

 

折紙イザヤに勝てる人間はこの世に存在するのか。イザヤが負けた時、そのとき初めて、何かが変わるかも知れない。しかし、それが出来る人間など一体何処に…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の授業が終わり、生徒達は各々席を立つ。クラブ活動に行く者、帰宅する者、生徒会室に行く者様々である。

 

(今日も師匠はいないのか……………)

 

侍郎は、修行をつけてくれる人間がいない為、家に帰って特訓するしかないのだが、詩奈の生徒会の仕事が終わるまでは、図書館や部活動を見学しながら暇を潰していたのだ。

 

(今日は何のクラブを見に行こうか…………)

 

そんな事を考えながら席を立った侍郎だが、廊下が何やら騒がしいのに気が付いた。侍郎が廊下に出ると、一科生のクラスに人が集まっていた。何故集まっているのか不思議に思い様子を見ると、そこには幼馴染の詩奈と、尊敬する師がいたのだ。

 

「イザヤさん、学校へ来てくれたんですね」

 

「詩奈ちゃん、君があまりにも騒ぐから人が集まって来たよ」

 

今の会話だけで、侍郎は人だかりが出来た理由がわかった。詩奈は、誰が見ても可愛らしい容姿で人気もある。そんな詩奈を気になる男子生徒も少なくない。だが詩奈の目には、イザヤしか映っていないのだ。周りを気にせず、飛び付いて行ったのだろう。

 

「泉美さんや北山先輩も喜びます」

 

「………そうかもね。だけど、僕が今日来たのは彼女達に用があるんじゃないんだ」

 

イザヤは詩奈から視線を外し、ある一点を見つめていた。

 

「!?」

 

イザヤと目があった侍郎は、驚きつつも、スタスタと二人の方へと歩いて行く。

 

「久しいね、我が弟子」

 

「一週間振りですかね、師匠」

 

詩奈は、イザヤと侍郎を交互に見ていた。

 

「侍郎君に用があったんですか?」

 

「しばらく修行をつけてあげれてなかったからね」

 

「俺の為に……」

 

わざわざ自分の為に学校へ来てくれたことに、侍郎はつい嬉しくなっていた。

 

「僕がいない間に、どれだけ成長したか見せてよ」

 

「はい、分かりました」

 

「詩奈ちゃん、演習場を借りるから、先生に許可をとって来てよ」

 

イザヤの言葉に、詩奈は頬を膨らませる。男同士の間に入ることが出来ず、いいように使われる始末。

 

「いいよね侍郎君は、イザヤさんに構ってくれて」

 

「詩奈、まさか嫉妬しているのか……?」

 

疑問を浮かべる侍郎に、詩奈は「フンッ」とそっぽ向く。その様子に、イザヤはフッと笑い、詩奈の頭に手を乗せる。

 

「また今度ね」

 

「はい………」

 

イザヤに頭を撫でられて、詩奈は顔を赤らめてしまう。

 

「風紀委員です。これは何の集まりなの?」

 

何処かで騒ぎを聞きつけた風紀委員が、一年生の階にやって来たのだ。しかしその声を聞いて、イザヤは誰が来たのか直ぐに分かった。人だかりを抜けてやって来たのは、

 

「うぇ!?イザヤ君、何でいるの!?」

 

「香澄ちゃん、僕が学校に来ちゃ行けないの?」

 

一人驚く香澄に、イザヤは疑問をぶつける。

 

「い、いや、そんなことないよ。うん。早く泉美に知らせなくちゃ」

 

香澄は慌てて弁明をして、風紀委員の仕事を捨てて、そのまま来た道を走り去って行った。

 

「さて、僕は向こうで待ってるから」

 

「はい、直ぐに行きます」

 

香澄を背中を見送り、イザヤは演習場を目指して歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香澄は生徒会室を目指して走っていると、曲がり角から雫とほのかが現れた。香澄は衝突を防ぐ為に急ブレーキをかけた。

 

「香澄、廊下は走らないで」

 

「す、すいません!あっ、北山先輩、大変です!」

 

香澄の慌たっぷりに、何かあったのか心配になる雫とほのか。

 

「イザヤ君が来てるんですよ!学校に!」

 

「え?イザヤ君が?」

 

「………………」

 

香澄の言葉に聞き返すほのかと無言になる雫。

 

「あの私、泉美に伝えなくちゃ行けないんで、それじゃあ!」

 

再び生徒会室へと走り出す香澄。遠のいていく香澄から視線を外し、ほのかは雫に声を掛ける。

 

「雫、イザヤ君、来てるって」

 

「……ほのか、イザヤは一高の生徒なんだから、来るのは普通だよ」

 

雫は、至極当然の事を言うが、そんな言葉をほのかは聞きたい訳ではなかった。

 

「………雫、会いに行かなくていいの?」

 

「会いたい。会いたいけど……………」

 

ほのかの言うことは最もである。今すぐにでも駆け出して、イザヤの元へ向かいたい気持ちが心の中で渦巻いている。だが、会って何を話せば良いのだろうか。

 

元気にしてた?、休んでいる時は何してた?どれも違う。本当に雫が聞きたいのは、貴方は何に悩んでいるの?である。

 

しかし、イザヤが精神的に不安定な今の状況で、自分と会うことが、かえって邪魔にならないか。なんて事を頭の中で考えていると、

 

「雫」

 

ほのかが優しく、落ち着いた声で名を呼ぶ。

 

「ほのか」

 

「雫、会いに行くべきだよ。たとえ拒絶されても、何もしないよりはずっと良いよ。それに、イザヤ君が明日も学校に来るとは限らないんだし」

 

ほのかの言う通りである。明日もイザヤが来る保証は何処にもない。最悪の場合、二度と来ないかも知れない。ならば、いま自分に出来ることは、

 

「ほのか、ありがとう」

 

雫の中で決心がついたようだ。

 

「私、イザヤに会いに行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪と泉美は、ノックをせずに開いた扉に驚き、モニターから視線を外した。

 

「香澄ちゃん、ノックもしないで「泉美!イザヤ君が来てるよ!」…‥イザヤ君が?」

 

咎めようとした泉美だったが、香澄が言葉を被せて来た。加えて、その内容に泉美はピタッと動きを止めた。

 

「そうだよ泉美、イザヤ君が来てるんだよ!」

 

「イザヤ君が、来てるんですか…………」

 

香澄の言葉を噛み締めるように泉美は言った。

 

「香澄ちゃん、イザヤ君は今何処に……?」

 

「え、いや、何処なんだろう…………侍郎と一緒にいたから、もしかすると演習場にいるのかも」

 

言い淀む香澄だが、泉美の視線が刺さって推己の測を並べる。

 

「そうですか…………」

 

それだけ言って、泉美は再びモニターを見て作業を始めた。香澄は声に出さずとも「え?」と言うような表情を作った。

 

「い、泉美、会いに行かないの……?」

 

「今は仕事がありますから…………」

 

「そ、そうなんだ……」

 

香澄はてっきり、すぐさまイザヤの元へ向かうと思っていたが、変に落ち着いているので、逆に不安になった。

 

「それと香澄ちゃん、ノックもせずに部屋に入るのはマナー違反ですよ」

 

「え?……ああ、ごめん」

 

泉美の落ち着きように、深雪も不思議そうに見つめていた。その後、香澄は生徒会室から去り、詩奈とほのかが来るまでの間は、再び深雪と泉美だけの空間となった。

 

「…………泉美ちゃん」

 

「はい、何でしょうか、深雪先輩」

 

泉美は深雪を見向きもせず、モニターを見ながら返事した。

 

「行って来ても良いのよ?」

 

「………いえ、仕事が優先ですから」

 

「そう………」

 

深雪は、泉美を気に掛けながらも、自分の仕事に集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イザヤは目を瞑り、壁にもたれて演習場の前で侍郎を待っている時、コツコツと誰かが歩いて来る足音が聞こえて来た。イザヤは片目を開けて音が聞こえる方をチラリと見た。

 

イザヤへ向かって歩いて来たのは、雫であった。雫は、イザヤから約三メートル程の場所で立ち止まり、ジッーと見つめていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

互いに無言が空間を支配する。だが痺れを切らしたイザヤが声を掛ける。

 

「何ですか?」

 

「……………」

 

イザヤは問いかけるが、雫は一向に喋る様子はない。何も話さず、ただイザヤを見つめていた。イザヤ怪訝な顔をし、雫の側へ近寄る。

 

「雫先輩?」

 

「…………寂しかった」

 

ようやく口を開いたかと思えば、第一声が「寂しい」であった。だがイザヤは、疑問を浮かべる。

 

「寂しかった?常にほのか先輩が側にいるでしょ?」

 

意味が伝わっていないことにムッとした雫は、コツンと優しく、イザヤの足を蹴った。

 

「イザヤに会えなくて、寂しかったって言ってるの」

 

口に出したことが恥ずかしかったのか、頬を赤く染める雫。

 

「イザヤは寂しくなかった?」

 

「会おうと思えば会えますし、別にって感じですよ」

 

「……………なんかムカつく」

 

雫は別に期待はしていなかったが、もう少し考えて欲しいと思った。先程まで、ウジウジ悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてきたのだ。それに、イザヤの言葉にも腹が立ってきた。

 

だがそれと同時に、雫は安心していた。いつものイザヤに戻っていたからだ。会った時、拒絶されないか心配していた。

 

「ねぇ、侍郎の修行が終わったら、少しいい?」

 

「まぁ、少しだけなら」

 

イザヤの言葉に、雫は満足そうにコクリと頷くと、踵を返して歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました一条茜は、もう一度身体を検査をしてもらい、何の異常も見られなかったので、翌日に剛と美登里そして将輝の四人で帰ることになった。

 

「茜、身体は本当に平気なの?」

 

「お母さん、もう大丈夫だって。お医者さんも問題ないって言っていたし」

 

「そうだけど……」

 

車の中で、助手席に乗っている美登里が、後部座席にいる茜を心配して後ろを向く。

 

「私自身変だと思っているんだけど、なんだか身体が軽くなったような気がするんだよね」

 

「身体が軽い?」

 

腕をグルグルと回す妹に、横に座る将輝が疑問を浮かべる。

 

「最初は死んじゃうかもって思ったけど、今は身体の底から力がみなぎっている感じ」

 

「………………」

 

運転している剛は、ルームミラーで茜をチラチラと見ていた。医者ではない剛の目にも、茜がもう大丈夫だと判断できる分には元気だった。

 

「茜、折紙イザヤがお前に何をしたか分かるか?」

 

「えーと、イザヤさんが言ってたのは、私のサイオンを放出させたって」

 

「サイオンを放出?」

 

疑問を浮かべる将輝。美登里も剛も茜の話を黙って聞いていた。

 

「あの時は、私のサイオンが一気に放出して、酷い脱力感が身体を襲ったの。それに耐えられなくて倒れちゃったんだけど」

 

茜の自分の身に起こったことを、淡々と話し始めた。

 

「他に折紙イザヤはなんて言ってた?」

 

「鍋に蓋をするイメージを持ったら、サイオンを抑えられるって。だから私、意識が朦朧としながらも、ずっとそのイメージをし続けていたの」

 

人間の身体は、呼吸と同じで無意識のうちにサイオンを放出している。サイオンの放出が抑えられなかったとき、どうなっていたのだろう。それは想像に難くない。

 

「あと、『君には新しい世界を見せてあげよう』とか言ってたよ」

 

茜の言葉に、将輝の頭の上に「?」が浮かぶ。

 

「新しい世界?すまん、言っている意味がわからん」

 

「本当にそう言ってたんだって。私にも分からないよ」

 

「……………」

 

腕を組んで茜を黙って見つめる将輝。イザヤが茜に何かしたのは間違いない。だがその「何か」が分からないのだ。

 

「茜、帰ったら魔法が正常に発動できるか見てみよう。津久葉さんに治療してもらったが、万が一の事はある」

 

「分かりました………」

 

その後、家に帰った一同が目にしたのは、茜のとてつもなく成長した魔法力であった。しばらく皆の開いた口が塞がらず、茜の『爆裂』は、将輝の『爆裂』が霞んで見えてしまう程であった。

 

 

 

 

 

 

 

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