魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第六十二話 イザヤ「久しぶり」

 

先手を譲ってもらった侍郎は、勢いよくイザヤ目掛けて駆け出した。イザヤは魔法で応戦せず、侍郎の攻撃を待っていた。

 

「はぁ!」

 

侍郎の鋭い拳がイザヤの顔に飛んでくる。それを頭だけを動かし、最小の動きで回避する。避けられることを分かっていた侍郎は、直ぐに右手を引っ込めて、イザヤを衣服掴もうと腕を伸ばしていく。

 

その手をイザヤは弾く事はせずに、ただ回避するだけである。イザヤは衣服の上からでも、わずかな筋肉の動きを読み取り、侍郎がどんな手を使ってくるのか分かるのだ。

 

侍郎はイザヤを捕まえる事が容易ではない事は今までの戦闘で理解している。だからあえて攻め続ける。攻撃の最中、相手を上手く誘導することに専念した。

 

「おや?」

 

イザヤは、演習場の端に誘導されていることに気が付いた。イザヤは抜け出そうとするが、そこに侍郎の拳が飛んでくる。それを避けるのではなく、イザヤは侍郎の手首を掴んだ。

 

イザヤは、思いっきり侍郎を引き寄せて、壁に放り投げた。この瞬間、イザヤと侍郎の位置は逆転した。

 

「!?」

 

「さて侍郎君、次はどうする?」

 

襲い掛かるイザヤの手、侍郎は胸の高さまで腕を上げてガードの体勢を取り出した。しかし突如、侍郎のポケットから鋭利な刃物が飛んできたのだ。

 

「おっと!?」

 

それは、侍郎が持つ意思の力だけで物体を動かす超能力。『念動力』または『サイコキネシス』と呼ばれるものだ。魔法ではなく超能力に該当するために、魔法式は必要ない。

 

侍郎がガードを固めたのはフェイク。意識をそちらに向けさせるため。飛んできたのはペティナイフ。初めからポケットに仕込んでいたのだ。

 

回避するために体制を崩したイザヤに、侍郎は距離を縮めて攻撃しようとする。

 

(当たる……!!)

 

拳が当たると確信した侍郎であったが、足を滑らして転んでしまった。それは必然。侍郎があと一歩踏み出した時、足がつく床の摩擦係数をゼロにしたのだ。摩擦のない床は、足で踏ん張る事はできない。

 

「クソッ!?」

 

すぐに自分のミスではないと理解した侍郎だが既に遅い。起き上がろうとした時、

 

「はい、お終い」

 

「………………」

 

いつ早く体勢を直したイザヤが、侍郎の頭にチョップを入れた。勝負はついた。イザヤが手を差し出し、侍郎が起き上がる。

 

「今のは良かったじゃん」

 

「でも勝てませんでした」

 

「僕だからね。他の人間なら、今ので死んでたよ」

 

イザヤの言葉を聞いても、悔しそうな表情は無くならない。さっきの攻撃は自信があったのだろう。

 

「そう落ち込まない。君は強くなっている。もう詩奈ちゃんの正式な護衛にさせてもらいなよ」

 

「親と話しましたが、まだ検討中だとか」

 

「そっか、まぁいつかは正式な護衛として任命されるでしょ。あっ、後これだけは言っておくよ」

 

イザヤは侍郎に自信をつけさせるための、ある言葉を伝える。

 

「何ですか?」

 

「君の前にどんな奴が立ち塞がっても、僕よりも強い人間はいない。どんな奴でも僕以下だと思っていれば、恐れる事ない」

 

なんて傲慢な物言いだろう。自分よりも強い魔法師はいない、そう言ってのける師に、弟子はクスッと笑った。

 

「師匠の言う通りですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侍郎の修行を終えたイザヤは、雫と会うために歩きながら電話を鳴らす。すると、1コール目で雫からの応答があった。

 

「すみません雫先輩、今どこですか?」

 

『図書館』

 

「分かりました、すぐ行きます」

 

電話を切る。雫は図書館で待っているようだ。それを聞いたイザヤは、小走りで図書館へと向かっていく。しかしそこへ、

 

「おっと」

 

イザヤは曲がり角でほのかと鉢合わせした。ほのかはイザヤが角から出てきて驚いた様子はない。どうやら待ち伏せしていたようだ。

 

「ほのか先輩……」

 

「イザヤ君、今から雫に会いにいくんでしょ?」

 

「はい、図書館にいるらしいので」

 

そう言ってイザヤは、ほのかの横を通り過ぎようとした。

 

「ちょっと待って」

 

しかし、ほのかがイザヤを静止させる。

 

「なんです?」

 

「一つ、言っておかなければならない事があるの」

 

ほのかは、生徒会の仕事を後回しにしてまでイザヤを待ち伏せしていた。ほのかは毅然とした態度でイザヤを見ていた。ほのかの表情からは、並々ならぬ思いが伝わってきた。

 

「今度また、雫を悲しませるような事があったら、私貴方を許さないから」

 

「……………」

 

光井ほのかは北山雫にとっての幼馴染で親友。だがイザヤにとっては、ただの一先輩でしかない。興味を惹かれるものもないし、今後そうなる事もない人物。しかしこの瞬間だけは、雫を思うほのかの気持ちに素直に応えた。

 

「そうならないよう善処します」

 

「………絶対だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館に着いたはいいものの、肝心の雫の姿が全然見えなかった。イザヤはコツコツと歩きながら雫を探していた。

 

(参ったな、何処にいるのかわからん)

 

とりあえず図書館をグルリと一周したが、雫の姿は一向に見えなかった。イザヤは仕方なく『干渉魔法』を発動し、探し出そうとしたその矢先。

 

「イザヤ」

 

後ろから探している人物の声が聞こえた。振り向くと案の定、雫がいた。本棚からヒョコッと顔を出して。

 

「先輩、探しましたよ。何処に居たんですか?」

 

「イザヤの後ろを追いかけてた。イザヤの困った顔が見たくて」

 

無表情ながらも、うっすらと笑みを浮かべる雫にイザヤは「全く……」というような表情を作る。

 

「座ろ」

 

雫が壁際に取り付けられた長椅子に歩いて行くので、イザヤも黙って着いて行く。雫が腰を下ろして、隣の空いたスペースをポンポンと叩いて座れと促す。

 

「……それで話とは?」

 

「別に話をしようと思って呼んだわけじゃない」

 

「えっ?」

 

なら何故?そう思うイザヤに対して、雫は自分の太ももをポンポンと叩いた。

 

「寝て」

 

「はい?」

 

「横になって頭を乗せて」

 

イザヤは雫が何を考えているのか分からず首を傾げるが、雫の無言の圧に押されて渋々横になり、雫に頭を預ける。

 

「髪サラサラしてる」

 

「みんな同じですよ」

 

雫はイザヤの髪の毛をいじくる。それの何が楽しいのか知らないが、イザヤはされるがままとなっている。

 

「あの、雫先輩?これはなんですか?」

 

「膝枕」

 

今の自分の状態が、そう呼ばれている行為なのは理解しているが、何故膝枕をされているのかが分からない。

 

「これになんの意味が?」

 

「昔ね、お母さんがよくしてくれたんだ。嫌な事があった時にこうやって頭を撫ででもらってね。嬉しかったんだ」

 

「………………」

 

「最近のイザヤ、とても危なげだから。私達の所為なのは分かってるけど、知らぬ間に遠くに行ってしまいそうで怖いの」

 

怖い、そう聞いた時イザヤの心が揺れ動く。

 

「怖い………怖いか…………それは僕も同じですよ。最近、ここが騒つくんです。よく分からない『何か』が蠢いてるような」

 

イザヤは自分の胸に手を当ててそう言った。哀愁漂うイザヤの表情。雫は一瞬目を見開いたが、すぐにイザヤに微笑み返す。

 

「怖がらないで」

 

それは切実な願い。イザヤの頭を優しく撫で続ける。子供をあやす親のように。

 

「……少し、目を瞑ってもいいですか?」

 

「うん」

 

眠りにつく訳ではない。雫の撫でる手の感触に心地よさを覚えながら、イザヤはゆっくりと瞼を閉じた。

 

(イザヤ、私はいつでも待ってるよ)

 

なにも相手に愛を伝えるのは言葉だけじゃない。行動によって教えてあげたい。イザヤの心にざわめく『何か』、イザヤがその正体を知る瞬間を、雫はずっと待っている。

 

 

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