魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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第六十四話 イザヤ「見舞いに来ました」

 

 桜井水波は今日もベッドの上で窓の外を眺めていた。特に変わり映えのない光景。見慣れた景色。でも最近、違う事があるのだ。

 

(私の為に護衛がつけられるなんて………)

 

 病院内および病院の外には、十師族から派遣された魔法師達が水波の護衛についていた。もちろんその目的は、九島光宣を捕まえるため。自分はその囮である。

 

(光宣様…………)

 

 心の中で光宣の名前を呟く水波。自然と顔が落ちていく。

 

(どうして光宣様は私なんかの為に…………)

 

 パラサイトになってまで今の自分を治そうとしていた。ただの四葉家の使用人である自分の為に。

 

「暗い顔してるね」

 

「はい、えっー」

 

 一人であるはずの病室で自分以外の声がした。水波はガバッと顔を上げて声がした方を向くと、

 

「イザヤ、君…………」

 

「久しぶり、水波ちゃん」

 

 折紙イザヤは自然と椅子に座っていた。何故ここにいるのか。いや、もっと他に聞かなければならないのことが。

 

「い、いつからそこに…………」

 

 入ってきた音なんてしなかった。

 

「ほんの数秒前だよ」

 

「あの、私の護衛が外にいたはずですが…………」

 

 十師族の、しかも四葉家から派遣されたエリート魔法師も警備にあたっていたというのに、

 

「いちいち魔法を説明するのは面倒くさいな。僕だから、それで納得して」

 

「あっ、はい」

 

 どんな魔法を駆使して監視の目を掻い潜ったか分からないが、あの達也に勝てるのだからそれも当然だと、すんなりと納得してしまった。

 

「容態はどう?」

 

「大分回復して来ました。最初は自分で起き上がるのもやっとで………」

 

 水波は口を閉じた。身体は回復してきたのは間違いない。しかし、肝心の魔法演算領域は傷を負ったままだ。

 

「食事はしてる?」

 

「………食事は出来ます」

 

「ふーん」

 

 イザヤは視線を水波の頭から少しずつ下に落として胴体、そして足の順に観察していた。

 

「あの…………」

 

「ん?」

 

「どうしてここに………?」

 

 水波のその疑問にイザヤは水波から視線を外して、水波のお見舞いとして持ってきたのだろうフルーツバスケットに目をやる。

 

「深雪先輩がね、気が向いたらお見舞いに来てあげてって。だから来たんだ」

 

「そうですか…………」

 

 イザヤはバスケットからリンゴを手に取る。

 

「ありがとうございます」

 

 別にイザヤとは仲がいいわけじゃない。けど、こうして見舞いに来てくれたことは素直に感謝した。たとえ自分の主人の敵だとしても。しかし、イザヤはどこか哀愁漂う雰囲気醸し出していた。それが水波は気になっていた。

 

「食べる?剥いてあげるけど?」

 

 イザヤはリンゴを水波に差し出す。

 

「いえ、お腹は空いていないので」

 

「そう」

 

 そう言われて手に取ったリンゴを、イザヤは再びバスケットの中に戻す。そうして、次にこんな言葉を掛ける。

 

「君の魔法演算領域、結構ズタボロだね」

 

「!?」

 

「一応処置は施されてるけど、それは何の役に立ってない。君はもう、魔法師としては生きられないね」

 

「やっぱり、私は…………」

 

 現実を突き付けられて、水波は酷く落ち込む。もう深雪の側にいられないのだと、自分の存在意義が無くなってしまう。

 

「深雪先輩が、僕の家を訪ねて来たんだ」

 

「えっ?」

 

 イザヤが独り言のように話し始めて、水波は少し戸惑った。

 

「水波ちゃんの魔法演算領域を治してもらうよう、僕に土下座までしてお願いしてきた」

 

「ーーー」

 

 水波は言葉が出て来なかった。イザヤの言った事を頭で処理するのに時間がかかった。

 

「そんな……………」

 

 口を開いたかと思えば、たった三文字の言葉で後が続かない。主人が使用人である自分なんかの為に、頭を、土下座するなんて。

 

「水波ちゃん、君はいいご主人様を持ったね」

 

「私、私は……………」

 

「九島光宣のことは知っている。いずれ、君を攫おうとここに来るんだろうね」

 

「……………」

 

 時計の針が動く音だけがこの病室に響いている。水波はベッドのシーツをギュッと握りしめた。

 

「私の魔法演算領域を、治してはもらえないのですよね………?」

 

「ごめん、無理」

 

 イザヤは間をおかず淡々と、ハッキリと述べた。それに対して水波は首を横に振る。

 

「謝らないで下さい。図々しいお願いだと分かっていますから。今更、イザヤ君に助けを乞うなんて真似をしてすみません」

 

 水波は深々と頭を下げた。今まで散々敵視していたイザヤに縋りたいとなどと烏滸がましいにもほどがある。

 

「………………ねぇ、一つ答えてもらえるかな」

 

「……何でしょうか?」

 

「君の好きな人って九島光宣の事だよね……?」

 

「そっ!?」

 

 イザヤに対して頭を下げた状態だった水波が、首が心配になるくらい勢いよく顔を上げた。ついでに、顔は赤くなっていた。

 

「当たり」

 

「ち、違います!私はそんな………」

 

 好きではない、そう口にしようとしたが言葉に詰まる。苦しそうに胸に手を当てて下を向く水波。そんな様子にイザヤは、

 

「僕はね、壊す事は得意でも、治すのは苦手なんだ」

 

 ポツリと水波に聞こえるよう呟いた。

 

「えっ、それはどういう……」

 

 イザヤは手のひらを水波に向けてこう続けた。

 

「これは頑張っても上手くならなかった。生まれついての性質って奴なのかな。僕に人を救う事は難しい」

 

「イザヤ君…………」

 

「魔法演算領域を治すなら、僕は全神経を注がないといけない。そうなった場合、いかに僕でも攻撃を防ぐなんて無理だ。その間は殴り放題、撃ち放題、つまりはゲームオーバーさ」

 

 困っちゃうよね、なんて言葉を最後に加えて、やれやれと肩をすくめる。 

 

「どうして………私にそんな事を………」

 

 いきなり自分の弱点を曝け出したイザヤに困惑する水波。しかし、イザヤはニコッと笑った。

 

「これで僕の弱点は教えてあげた。さて、教えてよ水波ちゃん。九島光宣のこと好きなの?」

 

「えっ、それは………」

 

 自分で勝手に言ったのに、なんて心中でそう思っていながらも、イザヤの期待するような真っ直ぐな瞳にやられ、水波は固く閉した自分の胸の内を出そうとしていた。

 

「私は…………」

 

 イザヤはただ水波の言葉を待つ。

 

「私は…………」

 

 頭に思い浮かぶ光宣と出会った時のこと。ほんの少し一緒にいた、それだけなのに。自分の中で膨れ上がる、ただの使用人の、それも調整体の自分が抱いてはいけない気持ち。

 

「私は、好き、なのかもしれません…………」

 

 顔が熱を帯びているのが分かる。その言葉を口にして、今やっと閉ざされた心の扉が開いたようだった。

 

 主人にも言わなかった事を、まさかイザヤに打ち明ける事になるとは、水波自身予期せぬことであった。いや、主人でもないから打ち明けられたのかもしれない。

 

「人を好きになるって、どんな感じ?」

 

 まるで無知な子供が初めて目にしたものを親に質問するような、水波はそう感じられた。

 

「そう、ですね。その人の事が頭から離れなくなってしまって、ここがざわついたり………」

 

 水波はそっと胸に手を添えた。イザヤも彼女を真似るように手を胸に当てる。

 

「そう、なんだ…………」

 

「イザヤ君も、感じた事はありませんか…………?」

 

「僕は……………」

 

 その時、コンコンっと水波の病室をノックする音が聞こえた。水波とイザヤは扉の方を向く。

 

「水波ちゃん。入るわよ」

 

 深雪の声である。彼女は病室の扉を開けて入室し、そして驚いた。水波の側に座っているイザヤに。

 

「イザヤ君………」

 

「こんにちは、深雪先輩、達也先輩」

 

 深雪の後ろには達也もいた。

 

「イザヤ、水波の見舞いに来たのか」

 

「えぇ」

 

 達也の質問に、そっけない態度で返すイザヤ。

 

「じゃあ。僕はこの辺で」

 

 どうやらここまでようだ。そう思い、イザヤは椅子から立ち上がり退室しようとした時、袖が水波に掴まれる。

 

「どうしたの……?」

 

「さっき言ったこと、ちゃんと考えて下さい」

 

「…………………」

 

「ちゃんと考えて、考えて、それで、答えを出して下さい。彼女達に………」

 

 深雪と達也は、イザヤと水波が何の話をしていたのか分からないが、「彼女達」という言葉からあの三人の事だと推測するのは容易かった。

 

 イザヤは水波に黙って頷き、退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七草弘一の命で護衛の任務にあたっている香澄と泉美は、水波が入院している病院のすぐ近くのレストランで待機していた。

 

 現在、そのレストランは七草家の貸切であり、彼女達の拠点となっている。

 

「それにしても、本当に来るのかなー」

 

 自分達に割り振られた仕事は、パラサイト化した光宣を待ち伏せて捕えること。捕獲が困難な場合、誅殺もやむなしと。だがそんな事、出来ればしたくないとは思ってはいるが、もしもの時は躊躇わずにやるだろう。

 

 香澄と泉美がいるのは窓際のテーブル、外が見えていつでも行動できる位置で待機していた。光宣の事も気になるが、香澄は目の前にいる自分の片割れが心配であった。

 

「泉美、大丈夫……?」

 

 レストランに入ってからずっと下を向き続けている泉美。どこか焦点があっておらず、ボーッとしている。

 

「問題ありません」

 

(問題ないわけ無いじゃん………)

 

 最近、ずっと泉美はこの調子なのだ。原因は言うまでもなくイザヤなのだが、イザヤの名前を口にすると益々悪化してしまう為、禁句になっていた。

 

(ホント、今どこにいるんだよ…………)

 

 精神的に弱っていると魔法も上手く行使できない。最初は護衛の任務につかせるのに香澄は反対したが、泉美は自分も行くと言って聞かなかった。

 

「泉美、何か飲む?」

 

「いえ、大丈夫です………」

 

「泉美ちゃん、香澄ちゃん、現れたわよ!」

 

 レストランの入り口から姿を見せた真由美に、香澄と泉美は席を立つ。

 

「既に戦闘が行われているわ!私達もすぐに行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場に辿り着いた七草三姉妹の目の前には、既に何人かの魔法師が道で倒れていた。三人は慌てて駆け寄り脈を測る。

 

「大丈夫生きてる!」

 

「こちらも息はあります!」

 

「どうやら眠らされているようね………」

 

 倒れている魔法師達の生死を確認していた所、すぐ近くの路地から数人の魔法師が出て来たのだ。彼らの顔は青ざめていた。

 

「光宣君は!?」

 

「来るな!」

 

 近づこうと寄ってきた真由美を手で制した十文字家の魔法師。突如、路地から凄まじい雷が彼らを襲う。

 

 放出系の系統魔法『スパーク』。だが、それは真由美の知っている魔法とは段違いの広範囲攻撃を見せていた。倒れた魔法師達は地面に倒れ、体が痙攣していた。

 

「誰!?」

 

 誰だと訊ねているが、それが光宣の攻撃だと確信していた。路地裏から姿を現したのは、

 

「真由美さん……」

 

「光宣君、大人しくしなさい!これ以上抵抗しなければ悪いようにはしないから!」

 

 そう主張する真由美。だが光宣に反応はない。光宣はゆっくりと真由美に手のひらを向けようとする。

 

(仕方ないわ……!)

 

 真由美はCADを操作して、光宣に魔法を放つ。殺傷能力は低く、相手の平衡感覚を狂わす魔法。しかし光宣は、

 

「効いていない……!?」

 

 真由美の放った魔法に顔を歪ませることなく、ただただ笑みを浮かべていた。

 

「同じ系統魔法で相殺されたの……!?」

 

 光宣の手のひらから『スパーク』が放たれる。光宣自身、真由美達を傷つけたくはないが、一筋縄ではいかないことは理解している。

 

 真由美は自身に障壁魔法を張り、魔法を退ける。

 

「光宣!大人しくしろ!」

 

 真由美の後方、香澄と泉美が光宣に向けて魔法を放つ。その魔法は光宣の肩、そして足に直撃したかと思われたが、

 

(すり抜けた!?これが『仮装行列』!?)

 

 妹達の魔法が光宣の身体をすり抜けたのを見て、真由美はそう分析した。昔、父である弘一から教えられた通り。相手の照準を狂わせる、九島家固有の魔法。

 

(ならば………!)

 

 実体は必ず近くにある。真由美は魔法を構築するその間に、

 

「香澄ちゃん!泉美ちゃん!障壁魔法を張りなさい!」

 

 真由美の指示に従って、二人は防御魔法を構築する。

 

(見つけ出してあげるわ……!)

 

 真由美はあたり一面に『ドライ・ブリザード』を降らせた。しかし、光宣の実体を捉えることはできなかった。

 

(何処に行ったの………?)

 

 まさか、既に射程範囲外にいるのか?『仮装行列』の魔法範囲がどれくらいまで及ぶのか分からない。実体は病院に向かっているかもしれない。パラサイトとなった今、光宣の力がどれほど大きくなっているのか、想像もつかない。そう考えた真由美は魔法を中断する。

 

「悪手だ、真由美さん」

 

「しまった!?」

 

 何のことはない。光宣は空の上にいたのだ。古式魔法の一つなのか、空気を足場にして立っていたのだ。目の前に降りてきた光宣によって、真由美の意識は刈り取られた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

 倒れる真由美を光宣は受け止めて、ゆっくりと地面に横たわらせた。

 

「よくもお姉ちゃんを……!」

 

「香澄さん、泉美さん、そこをどいてくれ。二人を傷つけたくないんだ」

 

 光宣の願いに従うわけはない。香澄と泉美は光宣にCADを向ける。戦いの意志を見せた二人に、光宣は顔から表情が無くなった。

 

「こんな所で時間を潰すわけにはいかない」

 

 すぐに増援がやってくる。そんな思いの中、突如光宣の上空から壁が落ちてきた。光宣は上に向けて同じ障壁魔法で相殺する。

 

 次は右から壁が押し寄せてきた。壁は光宣の身体を吹き飛ばした。

 

「克人さん!」

 

「香澄!泉美!真由美を運べ!」

 

 建物の屋上から飛び降りて姿を現したのは、十文字当主、十文字克人。吹き飛ばした光宣は既に立ち上がり、克人を睨みつけている。

 

「克人さん……!」

 

(立ち上がるとは、骨や内臓が逝ったと思ったんだが。俺の『ファランクス』が効いていない?治癒魔法か何かか?)

 

 「鉄壁」の二つ名を持つ十文字家。真由美達よりも手強い。このまま持久戦にでも持ち込まれ、達也も加わるとなるとマズイ。

 

「光宣、手加減はせん。覚悟しろ」

 

「クッ………!」

 

 もう殺すつもりでかかるしかないのか、そう考える光宣。そんな思いも知らず、克人が光宣に障壁を展開するその時、

 

「そこまでだ」

 

「えっ?」

 

 その声量は大きくもなく小さくもなかっ。だがハッキリと、その場にいる全員の耳に届いていた。その声の主は、光宣の後方からゆっくりと歩いてきた。

 

「イザヤ君…………」

 

「君、九島光宣だよね?そろそろ逃げたほうがいいよ」

 

 水波の見舞いを終えて、家に向かう途中だったイザヤが、魔法の反応を感じて病院の近くまで戻ってきたのだ。

 

「誰だお前は!?」

 

「そういえば君と僕は初めましてだったね。少しばかり話もしたいけど、自己紹介をしている時間はない。もうじき増援が来るしね」

 

 イザヤは光宣に近づいて行く。

 

「来るな!」

 

 光宣は近付くイザヤに向けて『スパーク』を放つ。だがイザヤは驚くべきことに、

 

「邪魔」

 

 手で払いのけたのだった。

 

「は?」

 

 光宣は目の前で行われた出来事に理解が追いついていなかった。驚きのあまり次の行動に移せずにいた。

 

「驚くことはない。情報強化や硬化魔法の応用で、肉体の自己強化をしたに過ぎない」

 

「い、意味がわからない………」

 

 仮にその応用で、どうやって『スパーク』を手で払いのけることができるのか。光宣の唖然とした表情に、イザヤはフッと笑う。

 

「理解が出来ないって顔だね。けど、それが僕だ」

 

「折紙イザヤ、何しに来た?」

 

 克人がイザヤと直接対面するのはこれで二度目となる。一度目は達也の別荘にて達也とイザヤの戦闘を遠目で見ていただけだった。

 

「彼を逃しに来たんだ」

 

「何だと……?」

 

 イザヤは克人から視線を外し、その奥にいる真由美、香澄、そして泉美に目をやる。

 

「……………」

 

「……………」

 

 泉美とイザヤは互いに見つめ合っていた。

 泉美は「どうしてここに?」

 イザヤは「怪我はしていないか?」と。

 

「光宣を逃して、お前に何の得があるんだ?」

 

「僕は見たいのさ、愛をね」

 

「何の話だ……?」

 

 イザヤの言っていることが理解できない克人。

 

「理解出来なくていい、理解してもらおうとは思わない。さぁ九島光宣、早く逃げなよ」

 

「君は…………」

 

 イザヤは首を軽く動かし「行け」と促す。今は引くしかないのは光宣自身も理解している。

 

「すまない」

 

「逃すと思うか」

 

 克人障壁魔法を展開し、イザヤと光宣の四方を壁で塞いで閉じ込める。

 

「このまま逃す訳にはいかない」

 

「僕の決めたことに茶々入れるなよ」

 

 イザヤは自分の目の前にある壁を殴って破壊する。一撃で粉々に砕けた障壁に流石の克人も目を見開く。だがさらに、克人は続けて壁を張り逃げ道を塞ぐ。

 

「耳を塞いで」

 

 イザヤは側にいる光宣にそう告げると、右手の中指と親指を重ね合わせる。そして、弾く。

 

      バチンッッッッッ!!!

 

 指パッチン。別名、フィンガースナップと呼ばれるもの。何倍にも増幅した音の振動。

 

     キイィィィィィィンーーー!!!

 

克人と七草の双子は顔を歪ませ、慌てて耳を塞ぐ。音と同時に四方にある壁が粉々に破壊された。

 

「さぁ、逃げな」

 

 克人は耳鳴りで周り音が聞こえず頭がクラクラとしていた。朦朧としながらも、光宣を逃すまいと障壁を展開しようと試みるが、

 

「寝てろ」

 

 瞬間移動したと勘違いしてしまうほど、一瞬にして距離を詰めてきたイザヤによって意識が闇の中へと呑まれていった。

 

 「鉄壁」を誇る克人が地面に崩れ落ちるのを、香澄と泉美は見ていることしかできなかった。

 

「僕も帰るか……」 

 

 光宣は姿を消した。自分もここにいる必要は無くなったと思い、踵を返そうとした時、

 

「待って………」

 

「………………」

 

「待って、下さい…………」

 

 泉美とイザヤは再び見つめ合う。それは何秒、何十秒、香澄の存在を無視し、二人だけの空間が出来上がっていた。

 

「学校で会おう、泉美ちゃん。ちゃんと来るからさ」

 

 連絡を受けた達也と深雪が到着した頃にはイザヤの姿はなく、泉美がずっと、イザヤが去った方角を見つめていた。

 

 

 

 

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