魔法科高校の後輩   作:パクチーダンス

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スティープルチェース編
第九話 魔法は兵器ですよ先輩


 定期試験を間近に控えているのにも拘らず、生徒会室の面々は放課後に事務作業を行なっていた。たとえ、試験が近づいていたとしても、生徒会の仕事はやらなくてもいいなんてことはない。

 

「会長、自治委員会と風紀委員会からの報告書等をまとめておいたので後でチェックをお願いします」

 

「分かりました…司波くん、お疲れ様でした」

 

「お疲れ様です」

 

そうして達也は帰りの準備を済ませ、そそくさと退出するつもりである。そんな姿をイザヤは

 

「先輩、もしよかったら手伝ってくれてもいいんですよ」

 

「いや、俺が手伝わなくても自分でできるだろう」

 

可愛くない後輩からの言葉を達也は一刀両断する。

 

「じゃあ、深雪」

 

「はい、お待ちしております」

 

後で迎えに来る、そんな言葉を言わなくても深雪は理解している。ちなみにこのやりとりは、もうすでに何十回と繰り返されていた。達也は基本的に処理能力が高すぎるため、皆の仕事を全て請け負ったとしても、閉門時間内に終わってしまう。というか達也がいたら、下級生の為にならないとあずさが考え、達也は自分の分の仕事を終わらせたら帰宅しても良いことになっているのは暗黙の了解である。

 

「失礼します」

 

そうして達也は生徒会室のドアを閉めて退室した。

 

「全く、少しぐらい手伝ってくれてもいいのに」

 

「イザヤ君、サボるのはいけませんよ」

 

「そうです、イザヤ君。あなた、昨日休みましたよね。そのせいであなたがやるはずだった仕事を、一体誰がやったと思っているんですか?」

 

泉美は大変だったんだぞと、イザヤを睨みつけて言う。

 

「まあまあ、泉美ちゃん。これも君のためを思ってのことさ」

 

イザヤは泉美に目を向けず、淡々と手を動かしながら述べる。

 

「は?」

 

イザヤが揶揄い、泉美がキレそうになっている。この光景も生徒会室では日常茶飯事である。

 

「君が立派な生徒会役員、いや生徒会長になる為に必要なことなんだ」

 

「…誰も生徒会長になるなんて言ってませんけど」

 

「じゃあ、僕らの代になったら誰が生徒会長を務めるんだい?」

 

「それは、、、」

 

泉美は手を止めて、イザヤの方を見る。この男が生徒会長になってしまったら、この学校は終わりだ。考えなくても分かる。

 

「あなたを生徒会長にさせてはいけないことはわかります」

 

「正解だ、泉美ちゃん」

 

「何が正解なんですか、まったく」

 

泉美は、深いため息をつく。

 

「君しかいないのさ、期待してるよ、未来の生徒会長さん」

 

そう言ってイザヤは立ち上がり、あずさに報告書を提出する。

 

「じゃあ、僕はこの辺で」

 

「…まさか、帰るつもりじゃないですよね?」

 

「そのまさかさ」

 

イザヤは鞄を持ち上げて、扉の方へ歩いていく。

 

「皆さん、また明日」

 

「……」

 

イザヤは退室していった。泉美は、しばらくその扉をジッと睨みつけていた。

 

 

 

 定期試験が来週に迫っていたとしても、生徒会の活動は関係なく行われる。達也と深雪は今日も放課後に生徒会室へ足を運んでいた。

 

「先輩」「深雪先輩」

 

後ろからイザヤと泉美の声が聞こえてきた。二人は同じクラスなので授業が終わった後、一緒に来たのだろう。

 

「定期試験が来週にありますけど、先輩大丈夫ですか?」

 

ニヤニヤと笑いながらイザヤは達也にそう問いかける。

 

「俺も深雪もそんな心配は要らない。お前の方はどうなんだイザヤ?」

 

「そうですね、次は全て90点に揃えようと思います」

 

「普段、真面目に授業を受けていないのに高得点が取れるイザヤ君が憎たらしいです」

 

そんな会話をしながら、達也は生徒会室の扉を開ける。しかし、部屋からは重苦しい空気が立ち込めていた。

 

「お兄様?」

 

立ち止まる達也の横から生徒会室を覗く。二人の視線の先には、この世の終わりのような絶望感を放ちながら、生徒会長中条あずさは頭を抱えていた。

 

「あ、みんな」

 

「お疲れ様です、五十里先輩、いったい何があったのですか?」

 

頭を抱えているあずさを一旦放置し、事情を知ってそうな五十里啓に聴いてみる。

 

「いや、それがね、九校戦の運営委員会から今年の開催要項が送られてきたんだけど」

 

「それか、何か問題でも?」

 

達也がそう言うと、あずさは机を叩き、椅子から立ち上がる。

 

「何もかもです!!開催要項は競技種目の変更を告げるものでした!!」

 

「……何が変わったんですか?」

 

「スピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボードが外されて、新たにロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリーが追加されました!!」

 

全六種目のうち、半数が入れ替えられることとなった。

 

「しかも、掛け持ちでエントリーできるのはスティープルチェース・クロスカントリーだけなんですよ。その上、アイス・ピラーズ・ブレイク、ロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウンはソロとペアで分かれているんです!」

 

あずさが力説する。それでは戦術を一から見直さないといけなくなる。つまり、あずさがこれまで早めに準備していたことがすべて無駄になってしまったというわけだ。

 

「……こうなってしまった以上、選手の選考をやり直すしかないよ」

 

「………」

 

あずさは何も喋らない。いや、喋る気力を失っているのだ。達也はどうしたものかと机に突っ伏しているあずさを見ていたが、ふと横に視線を落とす。イザヤが九校戦の開催要項を手に取り、真剣な顔で何かを考えていた。あずさを五十里啓が慰めているのを横目に、

 

「何を考えていたんだ?」

 

「……僕が言ったこと、覚えてます?」

 

それは、以前イザヤが言っていた今年の九校戦でのよからぬ企みのことについてだろう。

 

「ああ」

 

「これが気になるんですよね」

 

そうしてイザヤが指差したのはスティープルチェース・クロスカントリーであった。

 

「これ、どうにもきな臭い」

 

「……その競技が何かあるのか?」

 

「僕の勘ですけどね」

 

「……」

 

二人の会話を聞いていた深雪と泉美は不安げな顔をしていた。今年も九校戦には何かある。達也は、わからない不安を抱えていた。

 

 

 

 達也は放課後、行きつけの喫茶店「アイネブリーゼ」に寄り道していた。メンバーは達也達二年生八人、そしてイザヤ、泉美、水波の一年生三人の合計11人と結構な大所帯である。イザヤや泉美は、交流がなかった二年生に軽く挨拶をして席に座った。そして。オーダーに済ませてすぐに、

 

「達也、九校戦の種目が変更したって本当かい?」

 

幹比古が達也に質問する。

 

「耳が早いな、誰から聞いたんだ?」

 

「風紀委員長と五十里先輩だよ」

 

幹比古の代わりに雫が種明かしをした。

 

「なあ、達也。今回加わった種目は、やけに軍事色が強い気がするんだが」

 

レオの発言にこの場にいる全員が、その事についてなんとなく感じていた。

 

「そうだな、おそらく横浜事変の影響ではないかと考えている。あの一件以降、国防関係者が改めて魔法の軍事的有用性を再認識し、その教育にシフトさせているんじゃないか」

 

達也はそう考えていると、

 

「反魔法師主義のマスコミたちが今回の種目変更に、変に騒ぎ立てるんじゃないですか?」

 

二年生達の会話にイザヤが入り込んできた。

 

「ああ、時期が悪いとしか言いようがない。何故、あんなわかりやすい変更を行なったのか、、、」

 

達也は考えながらコーヒーを口につける。この種目変更は明らかに軍事的介入がある。これでは魔法が兵器であると知らしめ、反魔法団体に目をつけられる可能性がある。そんな事を考えていると、

 

「雫先輩」

 

「ん?何?」

 

イザヤが雫に突然と声をかける。

 

「先輩は今年もアイス・ピラーズ・ブレイクに出場しますか?」

 

「まだ、わかんないけど出来るならやりたい」

 

「そうですか、それは良かった」

 

「?」

 

「イザヤ?」

 

達也は、イザヤがまた何か企んでいるのかと視線を向ける。案の定、イザヤの顔は笑みを浮かべていた。

 

「今年、掛け持ちできる種目はスティープルチェース・クロスカントリーのみ。アイス・ピラーズ・ブレイクに参加するにはソロかもしくはペアのどちらかでないといけない。雫先輩、あなたはどちらに出場したいですか?」

 

「……私たちの学校が確実に優勝する為には深雪がソロに出て、私がペアの方で出場した方がいいと思う」

 

「本当にそれでいいので?」

 

「………何が言いたいの?」

 

「それは司波深雪に負けを認めて、あなたはソロ出場を諦めるというわけですか」

 

イザヤは、あえて挑発的な言葉を選んで雫をイラつかせる。

 

「……だって、その方が確実だから。深雪がソロで出れば確実に優勝する」

 

イザヤは雫の言葉を聞き、心底つまらなそうな顔をする。

 

「だから貴方はいつまで経っても、司波深雪に近づけないんですよ」

 

「イザヤ君?」

 

泉美は横に座るイザヤを見つめてそう呟いた。

 

「あなた、さっきから雫に対してなんなんですか!?」

 

ほのかは、先程からのイザヤの発言が気に入らなかったのか椅子から立ち上がり、声が店内に響き渡る。

 

「ほのか、落ち着いて」

 

深雪がほのかを落ち着かせようとする。そんなほのかに目もくれず、

 

「北山雫、貴方はいつまでも司波深雪が一番手、自分はその次で良いとお考えですか?」

 

「………」

 

「司波深雪に勝ちたいとは思いませんか?」

 

「…………」

 

雫はイザヤの目を見ながら何も喋らない。他の皆も二人の会話を静かに聞いている。

 

「僕が初めて先輩とあった時、貴方の第一印象は負けず嫌いです。それは今も変わっていません。それに、アイス・ピラーズ・ブレイクに本来ならペアではなくソロで出たい。そう思っているでしょう?」

 

「………私のことよくわかっているね」

 

「去年、貴方と深雪先輩の試合を見ました。貴方は深雪先輩に手も足も出なかった。違いますか」

 

「………そう、私は深雪に負けた」

 

「なら、次は勝ちましょう。俺が、貴方を勝たせて見せます」

 

イザヤは、雫の目をまっすぐに見つめた。そしてその目を達也の方に向けて、

 

「達也先輩、僕と勝負しませんか?」

 

「勝負?」

 

「ええ、勝負です。深雪先輩か雫先輩、どちらをアイス・ピラーズ・ブレイクのソロで出場させれるかの勝負です」

 

「どう勝負するんだ?」

 

「二人に試合をさせて、勝った方がソロで出る。負けた方がペアで出る。そうしましょう、選手登録には、まだまだ時間があるでしょう?それまでにどちらをソロで出場させるか決めるんですよ」

 

「……なるほど。しかし、俺にその勝負を受ける意味はあるのか?」

 

「わかってないな先輩。先輩は深雪先輩を、僕は雫先輩をコーチングして戦わせるですよ。これはもう、僕と先輩との戦いでもあります。だから、勝った方は相手の言う事をなんでも一回聞かなければならない。なんて、どうでしょうか?」

 

達也はイザヤの笑いながらも、どこか真剣な顔を見て考える。

 

(これは、チャンスかもしれない)

 

これまでイザヤのことは何にも分からなかった。しかし、この勝負に勝った暁には、奴はなんでも言うことを聞かなければならない。という事は、奴の正体を知ることができるかもしれない。しかし、逆もまた同じ事である。達也が負ければイザヤの言う事を聞かなければならない。

 

「受けて達也さん、深雪」

 

「雫」

 

「私、勝ちたい。深雪に勝ちたい」

 

何度も勝ちたいと言う雫に深雪は、

 

「雫、貴方の気持ち、しっかりと受け止めたわ。わかったわ、アイス・ピラーズ・ブレイクのソロ出場をかけて戦いましょう」

 

深雪もそれに応じる。

 

「おいおい、なんか面白い展開になってきたんじゃないか」

 

「なんだか、ワクワクしてきたわね」

 

レオとエリカがそれぞれ発言する。

 

「わかった、その勝負受けよう。たがなイザヤ、深雪は強い。それは変わらない事実だ。雫、お前はどう足掻いても深雪には敵わない」

 

達也は、イザヤと雫に対してお前達は勝てないと口にする。

 

「超える壁が大きいほど人は成長し、強くなる。それは、魔法に限らずその人間の心も同様です。試合が楽しみですね達也先輩」

 

この日、達也と深雪、イザヤと雫がソロ出場をかけての勝負が決まった。

 

 

 

 

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