一応本話までがプロローグみたいな形です。
気ままに書きたいキャラの曇らせを書くのでよろしくお願いします。
上体を起こして目を開き、こちらを見回す彼女。その目の片方は淡い光を放っている。恐らく義眼が嵌め込まれているのだろう。体を完全に起こし立ちあがろうと身を捩っていたが、管が大量に繋がれていることに気づいたのか直ぐに大人しくなった。
「起きたんですねヨウコ!体に不調はありませんか?その機械の調子は…」
「待ってヒマリ。多分、この感じは…」
そして、文字通り空気が震える。その震えは耳に届き、脳に情報を伝えた。
その震えは喉から生まれたものではなく。温かみを感じられる歓迎の挨拶ではなく。
『本機の再起動を確認。マスター不在…管理権限移行。事前の指令の通り、本機は貴方達の指令に従います』
「………え?」
「っ、やっぱり…か」
伝えられた音は、スピーカーから生み出された
「はは、そんな冗談はいいんですよヨウコ。私がそういうくだらない冗談が嫌いなこと、あなたなら知っているでしょう?ほら、そんなスピーカーなんて使わずに話してくださいよ」
「違う。違うんだ、ヒマリ。これは冗談なんかじゃない…今、あの身体の脳は…麻空ヨウコの脳は、植物状態にあるんだよ」
そう言ったウタハの目には涙が浮かんでいる。そしてその事実を受け入れたくないかのように瞬きを続けている。
「っ……いえ、すみません。続けてください」
「じゃあ、続けるよ。麻空ヨウコは死んでいる。さっきは植物状態と言い切ってしまったが、植物状態なのか、脳死状態なのかはヒビキが持ってきたこのカルテだけでは分からない…しかしどちらにせよ、彼女だけでは動けない状態だったのだろう」
コトリにシャットダウンの指示を出してそのまま話を続ける。
「この『仕様書』を見た感じ、かなりの突貫工事だったことが伺える。それでもこれ程のものを仕上げている辺り、やはりビッグシスターの名前は伊達では…」
「そんな事を聞きたいんじゃありません!!」
ヒマリのらしくない怒号が響く。残響が消えこの狭い病室が静寂に包まれた時、絞り出すようにまた一つ言葉を紡いでいく。
「じゃあ、そんな言葉を話せばもどるんですか?」
その声は酷く震えていて。
「太陽みたいに笑ってくれて」
すぐに折れてしまいそうなほどか細くて。
「笑顔を振り撒いて。そういうことをしてくれる子だったんですよ…」
彼女の見た目と“よく似合った”言葉だと思ってしまった。
「じゃあ、アレはなんですか!?あの声は!?あの仕草が!?あの子なわけがない!あの子は死んだんでしょう!?」
ヒマリは、涙を流しながら縋るように車椅子から崩れ落ちる。
「あの子は死んで、別の人間が話していると、そう…言ってくださいよ。ねぇ、ウタハ…?」
「…」
そのまま泣き続けるのかと思ったが、急にぐったりとして倒れてしまった。何かと思って顔を上げると…
「ごめん。あまりに見てられないからやっちゃった」
「いや、むしろ助かったよエイミ。よっぽどのことが無ければここまで酷くはならないと思うんだが、今回はさすがに、その『よっぽどのこと』だったみたいだね…コトリ、ヒビキ。ヨウコの収容手続きは?」
「大丈夫。セミナーに連絡したらすぐに手配してくれた。一応、エンジニア部とかから使えそうな物は搬入してもらう予定」
「分かった。とりあえずは搬入作業に注力しよう」
どたばたと慌ただしくみんなが走っている。こういったことには疎い私は、ただ眺めているしかなかった。
一方、セミナー。一年前に失踪した生徒が見つかったという報を受け、急遽受け入れの準備が進められていた。
「近場の病院に病室の手配を…?なに?急すぎる?うるさいわね、急患よ!セミナーで買収でもするから空けてもらうわ!」
大声を出し病院に搬送するよう指示、というより最早脅迫な文言を飛ばすユウカ。
「機材の搬入には手の空いているC&Cを出しましょう。幸い今日は任務外のはずです」
即座に連絡機器を取り出しC&Cに指示を送るノア。
「あの…なにがあったんです?」
2人の焦りようから、只事ではない状態であることをなんとなく察して珍しく大人しくしているコユキ。
「…ええ、はい。分かりました。ユウカちゃん、私達も行きますよ。エンジニア部の方の機材を持ち出すのに立会人が欲しいそうです」
「こっちは問題なし。ICUが一つ取れたわ。早速指定された機材を運び込むわよ」
テキパキと荷物を持ち、エンジニア部の部室へ向かう。コユキも遅れて跳ねるようにそれに続いた。
「ねえちょっと!?ユウカ先輩!?さっきからなんでそんなに焦って…」
「……」
「ひっ…の、ノア先輩!なんでさっきからこんなにピリピリして…」
「……」
「な、なんでみんな黙ってるんですか!?」
張り詰めた空気を纏う一団がミレニアムを駆けていく。その中からは姦しい声が聞こえたとかなんとか。
油と金属の匂いが充満するエンジニア部部室。そこでは、少々違和感の感じるメイド服の少女達が居る。彼女達は部室の奥の方から少しばかり埃が被っているような気がする機械達を運び出していた。
「よう、来たか」
「ごめんなさい。遅れたわ」
「いーや、大して待ってねえよ。それにしても、随分と大事になったな」
ユウカ達3人を出迎えるのはC&Cのリーダー、美甘ネル。
「まあ、仕方ないわよ。1年間も失踪していた生徒が急に見つかったとなったらこうもなるわ」
「…にしても、あいつのことだしどこかで元気にやってるのかと思ったが…まさか、な」
「リーダー!こっち手伝ってー!」
「おうよー!…そんじゃあ、私は向こう行ってくる」
ネルはアスナの声に応えてそちらの方向に向かっていく。その背中を見届けたコユキは、今なら聞いてもいいかも、という考えの下もう一度質問する。
「あの…結局なんで私達やC&Cまで動員されてるんですか?ここまでの大事なのに私何も知らされてないんですけど…」
「うーん…まあ、話しちゃってもいいかしら」
「いいと思いますよ。今は知らなくても結局どこかで耳にすることになるでしょうし。ヨウコ先輩、交友関係は広かったですから」
「じゃあ、コユキには私が話すわ。ノアはC&Cの方で手続きをお願い」
「ええ。分かっています」
その話を聞けるということで、コユキは目を輝かせてそこら辺の手摺りに座った。普段ならはしたないとかなにやらで注意するところなのだが、そこまで思考が回らなかったのかそのまま話し出した。
今回の事案の発端は、先生達が行方不明になっていた生徒を発見したことよ。その生徒の名前が『麻空ヨウコ』。失踪当時2年生…つまり、今順調にいけば3年生で私達の先輩になるはずだった…
え?去年の名簿にそんな名前は無かった?はは、当然よ。ヨウコ先輩は別に、どこか特定の部活とか組織に所属してたわけじゃないから。ヨウコ先輩は、リオ会長やヒマリ先輩みたいな突出した技術は無かったけど、広く浅く、教えられればそこそこできるっていう器用な人だったから。色々な部活に手を貸して、連名で研究をして、それで実績を作って進級するっていう…まあ、なんというか、グレーというか阿漕というか、そういうことをしていたのよ。
ちょっと人聞きの悪いことは言ったけど、わざわざ自分の領域の研究に部外者を入れるなんて真似、そうそう普通の研究者がするはずもないから…その辺は、先輩の人徳とか信用からなのかしらね。
話を戻すけど、一応ノアと私もヨウコ先輩にはお世話になったわ。1年生の時からリオ会長…当時は、まだ役員だったのかしら。まあ、今はいい。それで、会長のヘルプに入っていたから、セミナーの仕事については当時の役員よりも知っていた、なんて噂もあったほどだったの。
その関係で、私達の教育役に抜擢されたのがヨウコ先輩だったのよ。最初は外部の人間になんて、って反発してたんだけど、教えるのがまた上手で…一ヶ月もあったら馴染んでみんな懐いちゃったわね。懐かしい。
私達みたいに、今の2年生より上の子は大体みんな何かしらでお世話になったんじゃないかしら。
それで、大体…半年…いや、もっと経ったぐらい?そのぐらいの頃、リオ会長から急にこんな命令が来たのよ。
『麻空ヨウコについて、一切の詮索を禁ずる』
…って。当時の私達はもちろん反発したわ。お世話になってた先輩だから、何かあったなら知る権利があるはずだーって。
その後、リオ会長の決定がセミナーを通じて発布されたわ。事件や事故じゃなくて、『その人物について箝口令を敷く』なんていう珍しい事態で、随分と話題になった。
噂も絶えなくて、『真実に近づきすぎてビッグシスターに消された』とか、『ミレニアム以外の研究機関に送られた』とか、そういう眉唾物ばっかりだったけど。
もちろん、ヴェリタス達は先輩の動向を追っていた。でもダメだった。相当奥深くに隠されていたのか監視カメラの細工も巧妙で、何度もハズレを引かされたってヒマリ部長も言ってたわ。
そこから大体1年が経って。膠着状態は変わらず。
リオ会長の失踪と同時に箝口令が解除されて…
「今に至る…ってことよ」
「なるほど。道理で私が知らなかったわけですね!」
「知らなかった、って…」
「私、好奇心が向かない場所は大して漁らないので!」
にははははは、と声高々に笑う。まあ、それで済んだならいいか、と、曖昧に笑ったユウカだった。
急ピッチで進められた機材の搬入は終わり、ICUに張り詰めた雰囲気が立ち込める。
ここへ機材の搬入を行ったトキを除くC&C。機材搬入の付き添いのためこの場に残ったリオを除くセミナー。
それぞれがどこか緊張した面持ちで待機している。そんな中、機械に繋がれた少女が運ばれてきてベッドに寝かされた。
「“みんな、わざわざありがとう”」
「気にしないでください。ヨウコ先輩には、私もお世話になりましたから」
…ユウカは悲しげな目で部屋を見渡す。あの機械に繋がれているのが自らの敬愛していた先輩であることを一つ一つ咀嚼しながら。
「すまないが先生、時間がない。始められる部分は早く始めよう」
「“分かった。何をするの?”」
「今は問題点の洗い出し、それと彼女を傷つけずに修理できる部分は修理する。しばらくはこの仕様書とにらめっこをすることになりそうだ」
じゃあ、失礼すると言い放ち、ウタハ達エンジニア部はICUに入っていった。
「…本当に、君なんだね…」
「部長、始めていい?」
「ああ。感傷に浸っている暇は無い。早速始めよう」
テキパキと機材が用意されてベッドの近くに並べられている。もちろんこの設備の内側にある機械達は念入りに消毒されてるが、それでの不安というものは残っている。
大丈夫だ。大丈夫。いつもと同じだ。やってみせろよ、マイスター。
そう心に言い聞かせて彼女の着ていたいわゆる患者衣を脱がせる。そこから現れたのは少女の艶めかしい身体ではなく、痛々しい機械達だった。
「っ…やっぱりこうして見ると、中々辛いものがある…」
「大丈夫ですか部長?あまり辛いのなら、私達でも」
「大丈夫。大丈夫さ。マイスターとして逃げるわけにはいかない」
…目の前に提示された、責任からも。
心の中でそう付け加えて、改めて向き直る。
身体中を診る度に、身体の機械を一つ見つける度に、彼女の変わりようを否応にも実感させられる。
それと同時に、変わらないものも、またあった。少しだが残った肌はサラサラで、手入れはされていたのか、亜麻色の髪のツヤは衰えていない。義眼が嵌め込まれていない方の目を見れば、きっと美しいグリーンが出迎えてくれるだろう。
だが、彼女が自ら動くことはない。どれだけ変わらないものがあろうと、今の彼女はただの中身のない人形に過ぎないのだ。
点検や修理は、想定以上に早く終わった。リオ会長の処置は適切で、それでいて最良のものばかりであった。以前の戦闘で少々ガタが来ていた部分だけ交換すれば、後はもう終わりだった。
その日は修理が終わったことを伝えて、部室に戻った。
そして今回の機器の搬入によって幾分かスペースができた場所を散策していると、まだ組み立て途中だった何かが落ちている。埃を被っているのを見るに、これは相当前の…
「ああ、そうか。これは、君との…」
「最期の約束、だったな」
記憶のどこかで彼女が微笑む。一緒に作ろうと言ってくれた、約束の物。設計図は、たぶんきっと、もっと奥の方にある。私1人では決して完成しない、マイスターでも作ることのできない発明品。
「本当に、本当にきみはひどいやつだ」
1人でここにうずくまって泣いた。泣いた。ソレを握りしめて。
留めていた感情が決壊する。だばだばと、涙とともに溢れ出る。
「う、ううぅ、あ゙、ぁ゙ぁ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
日が暮れ、灯りも消えた深夜まで、ただ1人で泣いていた。
ミレニアム2年生以上全方位曇らせ爆弾と化した麻空ヨウコの明日はどっちだ…!
…マジでどこに向かうの?
過去、麻空ヨウコが使用していた武器種は?(お気軽にどうぞ)
-
AR(アサルトライフル)
-
SR(スナイパーライフル)
-
HG(ハンドガン)
-
SMG(サブマシンガン)
-
MG(マシンガン)
-
SG(ショットガン)
-
RL(ロケットランチャー)
-
GL(グレネードランチャー)
-
RG(レールガン)
-
FT(フレイムスロワー)