月星陰り、空晴れり   作:ハイカスカス

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各サブタイに名前ネタを入れるのにちょっと苦労する。

お気に入り者数が100人になりました。嬉しいですね。今後も息抜きとして細々と続けて参りますので、今後とも宜しくお願いします。

それと何も決めてなかった関係で使用銃種のアンケート始めました。オリ主はしばらく寝たまんまという関係で基本何になっても問題は無いとので、是非是非持ってほしいのをポチッとお願いします。

あー、お気に入りとか評価とか感想とかここすきとかがあると1人でニヤニヤできる承認欲求だけ無駄に高い人なのでよろしくお願いします。アンケートでもニヤニヤできます。投稿頻度?聞くな。



誰が為の優しき香りか

 

一応の治療が終わり、ヨウコ先輩の面会が可能になった。

治療といってもほとんど私達がすることはなく、健康チェック程度のものではあったが。とはいえその内容は散々の一言。生きてはいられるし自然治癒によって快癒している部位は多いものの、それでも残っている臓器は貧弱の一言に尽きる。

 

さっきも言った通り、ヨウコ先輩の面会は数日前から可能だ。ではなぜ私達は先輩の見舞いに行かないかというと…

 

「……」

「……」

 

「…終わらないわね」

「本当に、今リオ会長がいらっしゃればどれほど良かったか…」

 

仕事が、終わらないのだ。そもそも先輩発見のゴタゴタで溜まった書類、ミレニアムプライズ関連の後片付けの書類、新技術申請の書類、その他諸々エトセトラエトセトラ…

 

「本当に、投げ出して先輩の顔でも見に行こうかしら」

「ダメですよユウカちゃん。仕事を終わらせてから一緒に行きましょう」

「うぅぅ…せんぱーい…」

 

…久々にヨウコ先輩の顔を見たからか気が緩んでいる。つい縋ってしまいそうになる。見つかりはしたが、先輩は眠ったまま。別に、何も変わっていない。先輩に教えてもらうことも、手伝ってもらうこともできない。それは何も変わっていないのだ。

書類の塔に向き直り、黙々と山を崩し始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「お、おわりま、した」

「おつかれさま、のあ。コーヒーでも、淹れましょ」

 

デスクと床に溜まった書類の山の全てを踏破し、改めてセミナー部室内を歩ける状態にした頃にはもうブルーアワーとなっていた。その空模様は、これから出歩くには少しばかり遅い時間であることを示している。この時間から病院まで歩けば間違いなく日が落ちているだろうし、病院の方にも迷惑がかかってしまうだろう。

 

「あら、どうしましょう。このままコーヒーを飲んでゆっくりしていたら病院の方々にも悪いですね」

「仕方ないし、明日にしよう…あ、せっかくだし、このまま泊まっちゃう?」

 

変な提案をしてしまった。別に問題があるわけではない。セミナーには泊まりがけでの仕事のために寝袋がいくつか常備されているし、忙しい時なら基本そういう生活になる。

ただ、どちらかの家に泊まるのも変だし…まあ、そういうことだ。

 

「そうですね…せっかくですし、先輩の昔話でもしながら…なんてところですかね?」

「さすが、鋭い。ここだったらアルバムの一つや二つもあるかなと思って。今ぐらい少し昔の気分に浸っても」

「ふふっ。いいですよ。かくいう私も少しノスタルジックになっていたところですから」

 

それじゃあということでデスクを部屋の端に寄せて、棚から寝袋を引っ張り出す。それと同時に保管してあった着替えも取り出した。

…5人分。私の分、ノアの分、リオ会長の分、コユキの分。そして、先輩の分。1つだけ一際奥にあった。なぜかと言っても明白だろう。使う人間がいないからだ。

 

ノアはまた違う棚を開けている。そこはセミナーの過去の記録などがある場所で、ファイルの中身もほとんどが議事録だったはずなのだが…

 

「ふぅ、ありました。記憶だけを頼りにして探していましたが、案外どうにかなるものですね」

「それって…」

「はい。アルバム、です。まだ先輩がいた頃の写真がある」

 

それは、箝口令によって実質的な禁書と化していた思い出の品。処分されていたのかとずっと思っていたが、どうやら奥の方に仕舞い込まれていただけらしい。

 

「リオ会長がずっと前にここにしまっていたので。ほら、まだ初々しい頃のユウカちゃんですよ」

「ちょっ、やめてよノア!」

 

気づけば淹れていたコーヒーは冷め切っている。窓から入ってくる街の光が消えても、この夜はずっと語り合っていたかった。

だって、写真に写っているこの人はもうこんな笑顔を見せることは無いとわかり切っていたから。

私と先輩が横に座って仕事をしている写真。

先輩の横でノアが食事をしている写真。

セミナーの部屋で先輩と談笑する会長の写真。

なぜ部外者が入れるんですか!?とか先輩が喚きながら撮った記憶のある集合写真。

 

もうどれも撮ることができない。ここに写っている内の2人は、もうここに居ないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウカちゃーん。起きてくださーい」

「にゅう…う、あとごふん…いやじゅっぷんぐらい…」

「仕方ないですね…こうなったら先生にこの昔の写真を…」

「それは駄目っ!」

 

「ふふっ。おはようございますユウカちゃん」

「あっ…うぅ、おはよう、ノア」

 

眠気が一気に覚めた。窓の外を見遣ればもう太陽が高い位置にある。それが意味するのは…

 

「まずいまずい寝坊した!早く準備しないと…」

「一旦落ち着いて。今日はお休みを取りましたから」

「やす、み…?」

「ええ。今日は先輩のお見舞いでしょう?ゆっくりしたいと思いまして」

「…ありがとう、気を遣ってくれて」

 

息を大きく吐いて、寝袋から出る。顔を濯いでパジャマを脱ぎ、着慣れた制服に袖を通す。パンパンと頬を叩けば、もう普段通りな心持ちの完成だ。

 

「ふぅ…よし、行くわよ!」

 

 

 

 


 

 

 

病院に着いた頃にはもう日は昇りきっており、周りの飲食店は客足が増え始めていた。

 

病院のカウンターの前を抜けてエレベーターに乗り、流れていく外の景色を眺めている。

 

ふと呟いた。

 

「…病室に着いたら、先輩が起きてる、なんてことは…」

 

結局今まで能天気に過ごしていたが、現実は何も変わっていない。先輩がアルバムに綴じられているような笑顔を浮かべることはない。

階が上がるごとに先程までの喧騒は嘘だったかのように無くなり、私達はどこか別の世界に来てしまったのではないのかと錯覚してしまいそうだ。

でも、これから突きつけられるのはただの現実。どれだけ足掻こうと、どれだけ否定しようと、私達に否応なく理解させてくる事実。

 

あの時は、あくまで仕事だった。だから良かった。手続きの書類とか、謝罪行脚のルートとか。そういうもので頭をいっぱいにしてしまえば、何も考えずに済んだから。

 

でも今は違う。今日の予定はここで終わり。そのあとに考えることはない。だから、これから起こることから逃げることはできない。どこまでいっても、逃げられない。逃げることは許されない。それがどんな姿をしていようと、どんなことが起きていようと、ここに来る選択をした以上、私に向き合う以外の選択肢なんてはなから用意されてなどいないのだ。

 

「着きました…この病室ですね。失礼します」

 

先輩の身柄は精密検査が終わった時点でICUから一般的な病室に移された。別に医者や看護師が付きっきりで処置をする必要が無いことが判明したわけで、生存のために必要な機材をいくつか運び込んでしまえば最低限生きていける。そういうわけで、私達も比較的簡単にこうして面会が可能だった、というわけ。

 

「ヨウコ先輩、失礼しま──」

 

目に飛び込んできたのは、以前と変わらない…痛々しい姿。アルバムで見た姿とは似ても似つかないその身体。

 

不思議と涙は流れなかった。胸の中の不安が大きくなっただけだった。

麻空ヨウコはもう死んだのだ。死んだ人間に何を聞いても、最早何も返ってくることは無いのだと、その光景は雄弁に語っていた。

 

ふと、横にいたノアの顔を見遣る。その目は過去の郷愁に駆られているようであり、現在で悲嘆に暮れているようでもあり、未来へ思いを馳せているようでもあった。

きっと彼女の頭の中では、先輩との記憶が昨日のことのように思い出されているのだろう。

 

 

30秒、5分、それとも、1時間か。啜り泣く声も聞こえない病室で、私はヨウコ先輩のベッドに頭を押し付けていた。おでこにはとても硬い『何か』が当たっている。それがなんなのかは分からないし、分かろうとも思いたくない。

伏せていたのは別に泣いたのを隠したかったわけではない。

 

 

顔を上げる。そのままベッドを手で衝いて立ち上がった。手の平は水で湿っていた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「ユウカちゃん」

「大丈夫よ、ノア。私は大丈夫だから」

 

病室から出てしばらく。食事をしようということになった。でも、何か食事をする気分ではなかった。

 

ただ、そう。そういうわけで、一度その辺りを散策することにした。

 

いつもなら会話をしながら流し見るような景色が全て新鮮に、そして懐かしく見えてくる。ただのコンビニ、ただの古着屋、ただのスーパー。

こんな場所もありましたね。ここ、みんなで行ったわ。とか、そういう他愛もない会話を交わしながら、喧騒の隙間を縫ってゆく。

 

しばらく歩く内に、ある公園へとたどり着いた。都市部の人混みから外れていて、利用者はほとんどいない。

ベンチに座って上を見上げている。口から言葉が少しずつ漏れてきた。

 

「先輩、ほんとうに起きないんだ…」

「…」

 

笑っていたり、泣いていたり、怒っていたり。表情豊かな先輩の顔が、今になって次々と蘇ってくる。

 

「みんなの友達で、みんなの仲間で、みんなの…みんなの大事な人で」

「ユウカちゃん…」

 

あの時のアルバムは、みんな笑顔だった。戻りたいと思っても叶わない、輝いていた過去。

 

「私の、憧れで」

 

いつかはああなりたいと思っていた。でも、もう分からない。先輩の立ち振る舞いを考えても、靄がかかったように思い出せない。

 

「いつかは居なくなるって分かっていたけど、こんな、別れ方なんて」

 

いつかが来るにしても、それは卒業の時だとずっと思っていた。ただ、薄氷の上に成り立っていた日常は一瞬で消え去ってしまった。

頼れる先輩たちは気がつけばいなくなっていた。

 

「あん、あんまり、じゃ」

「大丈夫ですよ。ここには、誰もいません。見ていません。だから何も気にしないでください。一緒に、泣きましょう?」

 

その声に誘われるまま、ノアの胸に顔を埋めて泣いた。背中に暖かい腕が添えられる。

 

ふと、頭に冷たいものが触れた。

そして少し思考を巡らせる。ああ、彼女も私と“同じ”だったのだと気づいた。なら、いい。きっと小雨がふっているだけだ。

 

 

誰にも見られない2人だけの空間で、ほんの少し過去に浸っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

目を腫らした2人が向かい合って食事をしている。だが2人の雰囲気は決して重くなく。どこか軽い雰囲気を纏っている。

 

「…どうしましょうか、これから」

「まあ、会長が帰ってくるなり、先輩が起きるなり…そういうことになるまでどうにか私達で回すしかないわ。先輩は、もし起きたら引っ張りだこだろうけど」

 

後ろも、下も向いていない。見るのは前。そして上。過去には縋らない。私たちが前に進めるしかない。

だからこそ進むしかない。

 

「先輩が起きた時にあっと驚かせられるよう、頑張るわよ!」

「はい!早速頑張りましょうか、ユウカちゃん」

 

そう決めて、一歩を踏み出した。

 

 

 

「あっ。帰る前にコユキちゃんに何か買っていきましょうか」

「たまにはいいかもしれないわね。この辺りに持ち帰れそうなのって何かあったかしら」

「ケーキとか、ドーナツとか…向こうのジャンクフード店も持ち帰れるでしょうけど、少し遅くなっちゃいましたし、甘いものの方が良さそうですね」

「じゃあ、ドーナツにしましょ。昔行って美味しかった記憶があるの」

「ヨウコ先輩と…ですか?」

 

わーわーと、喧騒の中を少女達は進む。人混みの外へ捌けることもなく、ただひたすらに、まっすぐに。

 

(いつか起きた時、驚かせてあげますよ!)

 

心の中に秘めた想いを燃やしながら。




オマケ


【挿絵表示】


15分ぐらいで描いた麻空ヨウコのヘイロー。特に意味はないが、作中でこれが使われる日は来るのだろうか。モチーフはそのまんま麻。

過去、麻空ヨウコが使用していた武器種は?(お気軽にどうぞ)

  • AR(アサルトライフル)
  • SR(スナイパーライフル)
  • HG(ハンドガン)
  • SMG(サブマシンガン)
  • MG(マシンガン)
  • SG(ショットガン)
  • RL(ロケットランチャー)
  • GL(グレネードランチャー)
  • RG(レールガン)
  • FT(フレイムスロワー)
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