お久しぶりです。
あ、ここの話はオリジナル要素出るんで注意してください。
あと2話で完結させます。
空が赤く染まり、塔が天を突く。
「ヨウコ先輩の収容は終わったのね。じゃあ、私達もエリドゥの方へ行くわよ」
「はい。コユキちゃんもしっかりホールドしてますから大丈夫です」
「ちょっとぉ!?なんで何も話してくれないんですか!?まだですか!?まだ何かお仕事があるんですか!?」
塔は折れ、方舟はそらへ登る。
「お久しぶりですね、リオ」
『……久しぶりね、ヒマリ』
「まあ、今は緊急事態ですのでそう多くは言いませんが…ヨウコの事は今後、話してもらいますよ」
『ええ、分かっているわ。あなたには私を糾弾する権利がある…そのことは、よく理解しているつもりよ』
「私以外にも物申したい人は沢山居ると思うのですが…まあ、いいです」
…再び、空は赤く染まる。
「ヒマリ部長、捜索中に新しい「サンクトゥム」を発見しました。今までに観測されたことのないものです。このままでは顕現してしまうかと…通信妨害でしょうか、繋がりませんね」
すでに顕現が始まっている…?これが敵の切り札だとするのなら、顕現を阻止…いえ、遅らせる程度の事はしなければ。
「ここは、私が抑えます…!」
外部への通信ができない以上、この場は私1人で凌ぎ切るしかない。即座にアビ・エシュフを起動し身に纏う。
「っ、もう来ますか!」
その隙を突くと言わんばかりに地面が爆発した。即座に身を翻して躱し、お返しに両手の武装で周囲を薙ぎ払う。気配は幾分か減ったが、それでもわらわらと出てくる。
数が、多いっ!
エリドゥによるバックアップが受けられない以上、限界というものは早く来る。弾丸、爆発、レーザー。あらゆる攻撃が隙間なく撃ち続けられ、装甲に傷が増えてきた。
腕を振って近づいてきていた敵を振り払い、弾幕を張ってこれ以上近づけないようにする。
だが、限界は、来る。
過熱か、それとも銃口に石ころでも入ったか。コンマ1秒乱れた弾幕を潜り抜けてくるのが居る。即座にその場を捨て跳び上がり、着地場所を見繕ってそのまま何人かを下敷きにしながら着地する。
…やはり1人では限界がありますね。
そうぼやき、ただひたすらに時間稼ぎに徹する他無かった。
起きて。起きて。…おーい、聞いてる?まあいいや。
うぇー、おほん。こうやって喋るのも久々だからね。君は寝たまんまかもしれないけど、聞いてほしい。私は、まだしばらく起きられないから、君に代わりをしてほしいんだ。
今、私の後輩がピンチみたいで…ほら、私も動けないからさ。結構かわいい後輩だったし、助けてきてほしいなぁって。君を起こしたり装備用意したり色々までは私がやるから、そこから先は君にお願いしたいの。これでも技術者やってたしハッカーもやってたからね。この程度お茶の子さいさいよ。……ハッキングの方は、チーちゃん達からようやく及第点が貰えた程度だけど。
まあ、…じゃあ、お願いね。
オペレーター組。相手の新たな策を突破するため思案を続けていた。
『新しい信号…?これは…』
「リオ、何か見つけましたか!?」
『エリドゥに安置していた筈の
「そのサムス・イルナは…」
『…あの時、エリドゥでヨウコが使っていた物よ。プロトタイプ・アビ・エシュフとも呼べる代物…使い道も無いからあれ以降エリドゥの奥深くに安置したままのはずなのだけれど』
リオの脳内に一つ思い起こされるもの、サムス・イルナ。エリドゥ支援下以外でも十全なスペックを発揮できるようにと開発したものではあったが、演算装置やバッテリーの追加搭載により大型化されてしまいスペックも必要不十分であったために再開発が決定した機体。アビ・エシュフの先代機でもあった。エリドゥ防衛戦以降起動申請すら行われていなかったはずだが…
「こちらにも新たな信号…これは、ヨウコの!?」
『起動要請はしていないはず…じゃあなんで』
「2つの進行方向…まさか!」
『この信号…!』
「見つけました!
通信が、繋がる。
『…武装を通せば妨害はされませんか。良かったです』
『トキ!?』
「…ご無沙汰しております、リオ様はご無事なようで何よりです」
未だに沸いて出てくる敵を片っ端から潰していく。…限界が、近い。
『すぐに撤退なさい!あの数相手にこれ以上の継戦は無茶です!』
『ええ、すぐに支援部隊をそちらに送るわ。一時退却して、そちらに向かっているヨウコと合流しなさい!』
「…それは、できません」
『トキ、何を言って…!』
ぜえはあと息を切らせながら、一息で答える。
「ここは、ミレニアムから遠く離れた場所です。一番近い部隊を向かわせようと到着には時間を要するでしょう……私がどうにかして時間を稼ぎます。その間に、どうか、このサンクトゥムの阻止を…!」
『トキ!?トキ!!応答なさい!』
時間を、稼ぐ。ここで私が瓦解すれば被害が出るのはミレニアム。それだけは避けなくてはいけない。バイザー内の情報に目を向けて、迎撃の準備を整える。けたたましいアラートが鳴り続ける。
「…頼みましたよ、みなさん」
両腕の銃口を、立ち塞がる敵に向けた。
『抑制』までの限界時間と戦い続けているヴェリタス。ヨウコの脱走は聞いているが、その程度のことが即座に忘れ去られてしまうほど緊迫した空気に包まれていた。
「『抑制』時間の減少がまた加速してる……!?」
「先程よりも早く…?まさか!?」
「流石に減少速度が早すぎる!!」
トキの奮闘により一時的に減速していたその時間は、生徒達の努力を嘲笑うかのように加速を始める。
「残り、60秒!」
時間は、刻一刻と迫っている。
撃つ。受ける。光る。弾く。避ける。跳ぶ。堪える。
ただひたすらに数を堕とす。しかし、私が減らす量よりも新たに出現する敵達の方が圧倒的に多い。眉間に皺が寄っていることが分かる。歯を食いしばって痛みに耐える。額に生暖かい物が垂れてきた。
……それでも、ここは、ここだけは通すわけにはいかない。ここが落ちてしまえば、今空に上がっている先輩達の、今眠ったままの彼女の……帰る場所が無くなってしまう。そんな終わりだけは、いやだ。
『トキっ!』
思考が途切れる。脚部のフレームが砕けた。
「まだッ!」
腕を振り上げ、ただひたすらにトリガーを引く。
……瞬間、異音が響いた。建物、瓦礫、外敵。あらゆる障壁を薙ぎ倒してこちらに近づく反応。
新たな敵ではない。むしろ、暖かさすら感じる、この、感じは…?
真横に位置している廃ビルの外壁を粉砕して大きな影が、私と敵の間に立ち塞がった。私のアビ・エシュフよりも一回り大きい、それは…まさか…
“それ”に乗る彼女は、バイザーを付けたままの顔でこちらを一瞥し、向き直る。背部のキャノンを展開して、前方を薙ぎ払った。
『
『……サムス・イルナ、及び管制AI。戦闘行動に移行します』
彼女を動かしているのが全くの別人であると理解していても、それでも、私はこの時それを見た。暖かいあの日の記憶を。
「サムス・イルナの交戦開始を確認!」
『これで時間は多少稼げるはず。今の内に抑制状態維持のため方舟との連結を解除するわ。早くしないと、ヨウコとトキが…!』
「こちら、到着したわ!セキュリティシステムの前に!」
「美食研究会、お願いします!」
『さあ、皆さん!セキュリティシステムの解除装置を破壊しますわよ!』
「ホシノ先輩、いけますよね!」
『おっけい、破壊するよ!』
「ゲーム、開発部、破壊を!」
『わ、分かりました!えい!』
「こちらセキュリティシステム前。セキュリティシステムが開きました」
「あれを壊せばいいんだよね!」
「これ、5秒で閉まっちゃうらしいし、急ぐわよ!」
「では、アカリさん。フィナーレをお願いします」
「ふふっ、ついにこれを使う時が来ましたか」
「さあ、スペシャルな1発、いきます!」
『ヴェリタス、連結の解除を!』
『連結、解除!!』
『…トキ、そのサンクトゥムはもうすぐ消滅するわ』
『ええ。ですのでそれまでに撤退を』
『戦闘行為をやめ、撤収しなさい。トキ』
「申し訳ありませんが、それは…難しそうです」
損傷が、酷くなっている。身体が、言うことを聞かなくなっている。今私が襲われていないのは、ヨウコ先輩が注目を一身に集めているから。しかし、ヨウコ先輩のサムス・イルナは純粋な性能的にはアビ・エシュフ以下であったはず。
「これ以上、動けま、せん。それに、動けたとして、も……先輩を、ここに1人残して、いくわけには…いきません」
『トキ、せめて安全な場所に避難を!こちらは支援の要請を…!』
「……大丈夫です。ここに応援が来ないことは分かりきっていますから。そもそも、ここにヨウコ先輩が来たこと自体が予想外なのでしょう?その程度のことは、理解しているつもりです。ここは、ミレニアムからかなり離れている…今から支援を要請しても、時間がかかり過ぎます。すぐここに到着するのは、不可能ですから」
限界を迎えたサムス・イルナが破砕音と砂煙を立てながらこちらに向かってくる。遮る壁が居なくなったことで、次々と敵が、こちらに押し寄せてくる。
「……隣に居続けることができず、申し訳ありません、リオ様」
アラートが鳴り響く。激しい電子音が脳を揺らす。
「そして、短い間でしたが……ご一緒できて光栄でした、ヒマリ部長」
……恐怖を、言葉で抑えつける。やるしか、ない。
『トキ、何をするつもり!?』
「私も、本当は、シャーレと共に戦いたかったです。C&Cの先輩方と、ヨウコ先輩と…みんなと」
最後の最期、大仕事だ。
「……リオ様、最後に…アビ・エシュフとサムス・イルナの自爆コードを教えてください」
『…っ!?』
「用意周到なリオ様のことです。私が裏切った時のために、備えているはず」
喉が、震える。通信に乗せないよう、慎重に一語一句を数えていく。
「ヒマリ部長は、ヨウコ先輩に単身で脱出するよう指示をしてください。この2つの機器のエネルギーであれば……完全に、このサンクトゥムを破壊できるはずです」
『……そんなものは、存在しないわ。貴女達に、そんな…』
「トロッコ問題、と言っていましたね。私1人の命、ヨウコ先輩の命、そして、世界の存亡。どこにレバーを倒すべきかは、火を見るより明らかなはずです。あの時、誰かがレバーを引くべきとリオ様はおっしゃっていましたが…」
『ち、違う!私は!あの時は!あの、時、は…!』
『……私は、過去に縋って生きていくしか、なかったのよ…』
時間が無い。もう、目の前まで迫ってきている。頭が痛い。なんだか寒い。
「……そういうことにしておいてあげます。……では…」
『待って!トキ!私は、貴女まで居なくなったら、私は…!』
「ターゲット確認。目標を捉えた」
降下して、まずは周囲を片付ける。私に続くように、カリンとアカネも降りてきた。
「……先輩、方…?」
「やっほー、トキちゃん!それにヨウコちゃんも!助けに来たよ!」
「間一髪でしたが、なんとか間に合いましたね」
「そうだね。危ない所だった」
身体を回し、地面に倒れこむトキを見遣る。
「…おい、そこでブっ倒れる新人」
「そんな台詞、二度と先輩の前で言うんじゃねえぞ」
「どうやって、ここに……?」
『なんとか間に合いましたか……』
『ノア!?あなた、どうやって…!?未来予知でもしていない限り、こんな事は…!?』
『ヨウコ先輩脱走の報を聞いて即座にミレニアム随一の速度を誇るヘリでヨウコ先輩からの信号を追跡、現場に向かわせました』
『なぜそんな、確証を持って…』
『私が望んだのだよ。未来予知、ではないが、限りなく近い…言うなれば、勘と言うべきか…』
『セイアさんからの連絡を決め手に、追跡を開始したんですよ』
『…リオ、未来には…このように安易な解があっても良いのではないか?未来を識ってしまった私達にとっては、尚更だ』
「とりあえず、お掃除を始めましょうか」
「ああ。残党処理…だな」
「そらそら、行くぞ!」
「イッツ、ショウターイム!」
空は晴れ渡り、流れ星は落ちた。
全てが、終わった。
サンクトゥムタワーの崩壊、各自治区の建物の破壊など、誤魔化しきれない傷跡を私達に残していきましたが、それでも私達の日常は帰ってきました。
そんな中私は療養のため、病院のベッドの中に叩き込まれていた。ヨウコ先輩と同じ病室で。
「……暇ですね。やることがありません」
とはいえ、これでも安静を命じられた身。ここで静かに誰かが来るのを待っていなければ……
「はっ!?」
気がつけば、病院の外に出ていました。しっかり上から下まで着替えて。
着替えてしまったものは仕方がありません。では、早速帰りましょうか。
私の居た病室に手を振りながら、どこを巡ろうかと考える。リオ様が失踪中な以上、私は無職、絶賛休職中ということでもあります。
ヨウコ先輩の看病係を申し入れれば受理されたりはするのでしょうか。
そんな他愛もない事を考えながら道を歩く。私が…私達が守ったミレニアムに帰りながら。
サムス・イルナ
オリジナル要素。パワードスーツ。アビ・エシュフの先代機であり、アビ・エシュフが『エリドゥの支援下において万全の性能を発揮する』のに対して、本機は『全領域において万全の性能を発揮する』というものをコンセプトとしている。その代償としてジェネレータの増加や演算用コンピュータの機体本体への搭載によって大型化や稼働時間の低下、負荷の増加を招いた。基礎スペックがアビ・エシュフより低く、総合性能はフルスペックでもエリドゥ支援下のアビ・エシュフの70%、稼働時間に至っては50%ほどとなっている。とても完成系とは言えない。それらの要因によってリオの手で再開発が決定され、本機はエリドゥ内の奥深くに安置されていた。エリドゥ防衛戦において麻空ヨウコ(AI制御下)を操縦士とし投入された。
デザインはトキである。リオ案は敢えなく却下された。
ちなみに、サムス・イルナはバビロン第1王朝の第7代王。ハンムラビ法典で有名なハンムラビの息子であり、アビ・エシュフの父親である。あと戦争しまくってめっちゃ領土失ってる。