トネリコと征くグランドオーダー   作:名もなきWater

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召喚

 

「こんにちは。貴女が私の召喚者、ですね?

 私はトネリコ。雨の国の魔女、トネリコ。

 植物系の魔術は苦手ですが、敵を倒す魔術、争いに備える魔術、障害を破壊する魔術には自信があります。

 城の外の世界は不慣れですが、どうかよろしくお願いしますね 」

 

 ――初めて召喚したサーヴァントは、白い魔法使いであった。

 

 

 ◆

 

 

 人理継続保障機関カルデア。

 それが2015年現在、自分――藤丸立香が所属する組織の名前だ。

 カルデアとは、人類史を長く強く存続させるために魔術・科学を問わずあらゆる分野の専門家を集めた組織。言うなれば、人類史を保障し続けるためのプロフェッサー集団……らしい。

 らしい、というのは、自分も詳しいことまでは知らないからだ。

 

 ――そういえばティッシュが切れてたっけ。

 いつも通り帰路に着いた自分は、特に脈絡もなくそう考えて。

 報酬のティッシュ目当てに、なんとなく献血を受けて。

 適合率がどうとか言われつつ、あれよあれよという間にカルデアに案内され。

 

 ――かと思えば、カルデアは崩壊し。

 突如現れた特異点にレイシフトを行い。

 何もかもが焼け焦げた死の街を彷徨い。

 洞窟の奥底で、黒い騎士を相対し。

 生まれて初めての死闘の末、辛うじて生き延び。

 ――そして、今に至る。

 

「この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。

 それが人類を救う唯一の手段だ」

 

 ロマニ・アーキマンはそう言った。

 2016年から先の未来は焼却された。これを取り戻したければ、人理の転換点である七つの特異点へ赴き、これを修正せよと。

 

「……自分に、できることなら」

 

 たった一人で人類史と戦う覚悟? 人類を背負うだけの力?

 スケールが大きすぎて意味不明だ。そんなもの、一個人が背負うには重すぎるだろう。

 しかし、悩む余地はなかった。余裕もなかった。

 未来を取り戻したいのなら、やるしかないのだから。

 何より――

 

「――ありがとう」

 

 彼らの笑顔が、瞼にこびりついて離れない。

 何も分からない人間が、苦し紛れに頷いただけの一言。

 たったそれだけで、ロマニ・アーキマンは、マシュ・キリエライトは、笑顔を浮かべたのだ。

 

 

 ◆

 

 

「と、いうわけで。

 これより人理守護指定グランド・オーダー、記念すべき第一回のブリーフィングを行う!

 マシュ君、号令を!」

「え? あ、はい!

 では……起立! 礼! 着席!」

 

 マシュの号令の下、自分も含めた三人が姿勢を正してお辞儀する。

 急遽ブリーフィングルームと化した保健室には現在、ドクターことロマニ・アーキマン、マシュ・キリエライト、そして自分の三人のみだ。

 

「うん、元気な挨拶ありがとう、マシュ。やっぱり記念すべき第一回はこうじゃないとね。テンプレートは大事にしないと。

 コホン……では改めて。

 これよりボク達カルデアは、前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定していた、人理継続の尊命を全うする。

 我々が戦うべきは歴史そのもの。多くの英霊、伝説が君達の前に立ち塞がるだろう。

 例えば、そう。冬木で戦った黒いセイバーのような、ね」

「黒い、セイバー……」

 

 脳裏に一人の騎士が思い浮かぶ。

 くすんだブロンド。刺々しい漆黒の鎧。生気を感じさせない青白い肌。

 そして――何よりも印象的だったのは、あの黒い剣。

 ドクターの言う通りならば、彼女こそがアーサー王その人であり、手にした剣は音に聞くかの聖剣だったのだ。

 

「ボクは通信越しで見ていただけだったけど、あれはどっちが勝ってもおかしくないギリギリの戦いだったと思う。

 現地で知り合えたキャスター……クー・フーリンの協力が無ければ、君達は確実に殺されていた」

「……そうですね。その通りだと思います」

 

 ドクターの分析に、マシュは重々しく口を開く。

 

「かの剣を実際に受けて確信しました。例え変質していても、あれは紛れもなくアーサー王。彼女の剣には、伝説と謳われるだけの実力が備わっていました。私一人ではきっと、どうしようもなかったと思います」

「おっと、勘違いさせちゃったかな。別にマシュを責めてるわけじゃないよ」

「……そうなのですか?」

「当然さ。そもそもマシュはデミ・サーヴァントで、戦いにも不慣れだ。いきなり伝説級の偉人と戦っても勝てるわけがないだろう?」

「それは……そうかもしれませんが。いえ、ですがそれでは――」

「人理を救うなんてできっこないって? うん、確かにそうだ。

 ボク達の敵は人類史そのもの。これから先、アーサー王クラスの偉人と戦わなくちゃいけないこともあるだろう。

 そこで、だ。ボク達は何よりもまず最初に、やらなくちゃいけないことがある。

 藤丸くん、なんだと思う?」

「む……」

 

 唐突に始まった謎掛けに、しばし頭を悩ませる。 

 マシュはデミ・サーヴァントだ。人間でありながらサーヴァントと戦えるだけの力を既に持っている。しかし、戦闘経験がまるで足りてない。

 ……ふと、右手に刻まれた赤い痣を眺める。令呪と呼ばれる刻印で、マスターの証でもある。

 マシュ同様、自分もまたマスターとしての経験が足りていない。それどころか魔術師ですらないただの一般人だ。

 経験不足のサーヴァントとマスター一組。つまるところ今の自分達には、戦うための力が足りない。だからこそ冬木では、キャスターの協力が不可欠だった。

 ならば……他の特異点でもそうするべきだと思う。

 

「やっぱり、戦力の補充ではないでしょうか。例えば、冬木でのキャスターのような」

「現地のサーヴァントの協力を得る、か……うーん」

「ドクター?」

 

 微妙な反応に、マシュと二人で首を傾げる。

 我ながらいい案だったとは思うだが……

 

「あー、うん。そうだね、正解だ。正解ではあるけど……今欲しい答えじゃなかったなって。

 現地のサーヴァントの協力を得る、それはいい。でもその前に、もっと簡単な方法があるだろう?

 つまり、英霊召喚さ。

 現地ではなくカルデアでサーヴァントを召喚し、藤丸くんと契約。以降、レイシフト先では藤丸くんのサーヴァントとして力になってもらおうってコト」

 

 

 ◆

 

 ――かくして今に至る。

 マシュの盾を触媒として、初めての英霊召喚を試みた。

 他に色々と準備が必要なのでは、とドクターに聞いたのだけど、

 

「うーん、結局のところは相性だからなぁ。まあ、誰が来ても戦力になるのは間違いなし、気楽に気楽に」

 

 とのこと。気楽なもんである。仮にも医療チームのリーダーがそれでいいのか。

 付け加えるとカルデアの召喚システムは、俗に言う面接のようなもの、らしい。

 こちらから応募を送り、英霊側が承諾することでようやくカルデアに召喚される、といった。逆に言えば、カルデアの召喚される英霊は、こちら側の事情を把握した上で召喚される。間違っても召喚された直後に英霊本人に殺される、ということはないらしい。

 とはいえ……こういうギャンブルっぽいことは正直、嫌いじゃない。どんな結果でも損しないなら猶更だ。

 一体どんな英霊が召喚されるのか、あれやこれやと妄想していたのだが――

 

 ――初めて召喚したサーヴァントは、白い魔法使いであった。

 

 年齢は……少なくとも、外見的にはマシュと同年代。

 白い三角帽子と、その下から覗く明るいブロンド。白い外套、金の装飾。そして、右手に握られた木製の杖。

 如何にも魔法使い、といった出で立ちの少女が、そこにはいた。

 

「ぁ……」

 

 一瞬。おそらくは瞬きすらもない僅かな間。

 少女は、ほんの少しだけ驚きの表情を浮かべた――ような気がした。

 

「こんにちは。貴女が私の召喚者、ですね?

 私はトネリコ。雨の国の魔女、トネリコ。

 植物系の魔術は苦手ですが、敵を倒す魔術、争いに備える魔術、障害を破壊する魔術には自信があります。

 城の外の世界は不慣れですが、どうかよろしくお願いしますね 」

 




なお、トネリコさんは全部知ってます。
「大人の私とは色々あったみたいだけど、今の私には関係ないでしょう」というスタンス。
むしろ人間に興味津々で、積極的に関わろうとします。

最初はモルガン(狂)召喚ものを考えていたのですが、
①モルガンからの好感度はマイナススタート
②モルガンという時点でカルデア側も警戒度MAX
以上の二点からぐだの心労が半端ないのでナーフしました。

短編の予定。本日中に合計四話上げます。
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