千手扉間とうずまきナルトのラブロマンス   作:かっぺー@じゃこ天

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これからも一緒

「── いつか、貴様が天寿を全うし終えたそのときに、ワシは貴様を迎えに行く」

 第四次忍界大戦は終結した。戦いが終わったいま、忍連合軍に加勢した、穢土転生のワシらはもはやこの世界に留まる必要はない── 六道仙人によって、もうじき解術されようとしていた。

「……二代目のおっちゃん」

 ナルトはいまにも泣き出しそうで、声が震えていた。父である四代目火影と別れたばかりだけに、ワシとの別れが連続するのは、悲痛だろう。なにも、ナルトだけではない。それは、ワシもなのだから。

「また、すぐに会える」

「すぐ?」

「年齢が上がっていくごとに、一年という月日はどんどん早く感じるようになっていく。そういう意味では、再会の日は遠くはない。……それでも、しっかり一日一日を大事に生きてほしいところだ」

「……扉間」

「ああ、だが、ワシに早く会いたいからといって自害は許さん。もしそんなことをしてみろ、天から迎えに行ってやらん」

「っ、分かったってばよ。……だけど、そのときがきたら、迎えに来てほしい」

「ああ、約束だ。だから、そう泣くな」

 ワシに言える慰めの言葉は、これだけだ。短い時間の中で育まれていた絆だった。生前はすべてを里の繁栄に捧げた。なぜ、死んでから、こんな幸福に巡り合ってしまったのだ。

「── また会う日まで、な」

 気がつけば、サルはすでに逝っていたようだ。直感するまでもなく、次は自分が逝く番か。別れ惜しい。マダラのように逆らうつもりはない、ワシは体の塵が散っていく感覚に身を委ねる。

「……?」

「おっ、おい、二代目のおっちゃんだけなんで消えねぇんだ!?」

 妙だな、と思ったことを口にするまでもなく、ナルトが真っ先に声を上げる。どういうことだ、ワシは消滅する運命にあるはずだ。なぜ、体の塵がいつまでも散る気配がないのだ。

「ガハハハ‼︎」

 間を置いて、見知った笑い声が耳に突き刺さり、その声の主であろう、兄者に目を向ける。

「笑いごとか‼︎」

「扉間よ、お前は木ノ葉をここよりしばらく見守っていろ。俺は……先にあの世に還っているぞ」

「あ、兄者ー‼︎」

 後は任せたぞ、というふうに親指を立てながら去っていく兄者を、ワシはただ見送るほかなかった。切実に送った救いを求める視線は、何も意味を成さなかった。

「……どうやら、扉間の穢土転生の解除だけ、なんらかのバグを起こしてしまったらしい」

「バグ⁉︎」

 六道仙人の声すら、いまや遠く感じる。一人取り残されたという事実がどことなく衝撃的で、兄者の塵の跡をただ見つめていた。バグ、と言ったか。ワシの作った術だぞ……? そんな欠陥があるわけが……。

「……申し訳ないが、いますぐにどうこうなる話ではない」

「つ、つまり扉間は……」

「当分、あちらには渡れないだろうな」

「えっ、えええええっ⁉︎」

 ナルトが混乱していることすら、眼中に入ってこない。カカシ班だったか、彼らの視線がやたら憐れみを帯びていた。なかでも、無興味だというような、うちはサスケの視線がやたら痛かったことだけは間違いない。

 


 

 結局、ワシは、サルや兄者、四代目とともに天へは昇れずに終わった。

 しばらくあの場はなんともいえない── 皆、ワシのことに関して触れづらいというふうな空気だったが、そんなことはいまとなってはどうでもいい。無限月読も無事解除されたからな。

 だが、一つ問題を抱えていた。ああいう別れ方をしかけたのに、まさかの想定外の事態になってしまったのもあってか、ナルトが手のつけられないほどに泣いてしまっていたのだ。

「オレの涙を返してくれってばよ‼︎」

 ワシにべたりとくっついて、さっきからボカボカと背中を殴られる。……体は痛くなくとも、心が痛む、ヤメテクレ。

「おっちゃんは水遁得意なんだろ⁉︎ オレの涙くらい返せるだろ!」

 無茶を言うな、馬鹿者。ワシの術とてそこまで万能ではない。

「─── ワシのせいではないわ‼︎ 文句は六道仙人に言え!」

 なにも貴様だけではない、ワシとしても不本意なのだ。ようやく死神の腹から解放された喜びもつかの間、死んだはずのマダラが忍界を荒らしていると聞いて戦場へ向かい、終わったから昇天するのだろうと思いきや、これだ。

「父ちゃんが逝っちまって、二代目のおっちゃんも逝っちまうって泣いて、オレの気持ち考えろってばよ!」

「だから、ワシのせいでは……」

 自分でも自然と苛立ちが溜まってくるのが分かる。ここまで喚かれてはさすがのワシでも癪に障る。いい加減にしろ、と言いかけて振り向いたとき、ナルトがまたもやワシの胸に飛び込んできたのだ。それも、勢いよく。

「ッ……!」

「オレ、二代目のおっちゃんが好きだから」

「……!!」

「扉間が好きだから、正直、ここに残ってくれて嬉しい」

「……ナルト」

「父ちゃんは、外法の存在だから長居はいけない、みたいに言ってたけど、またしばらく扉間といられるんだよな?」

「……六道仙人も言っていただろう、いますぐ解決できる話ではないと。つまり、そういうことだ」

「ッ……」

「またそんな泣きそうな顔をしよって、貴様は……」

 涙を溜めかけているナルトの目尻を払ってやる。

 何度も泣かれる立場になってみろ、まったく。貴様には、そんな泣き顔は似合わぬ。それよりも、笑った顔が似合いよ。

「……扉間、行く当てあんのかよ?」

 ふと、懐かしい千手邸での暮らしが思い浮かぶ。兄者の料理も洗濯も、家事の面倒をワシが一時期面倒を見ていた。忍術は多才でありながらも、料理の腕や洗濯に関しては驚くほど不器用だったのだ。生活力が乏しい兄者に代わり、ワシは家政婦同然に、兄者と同居していた。さすがに彼奴がミトと結婚してからは、別居したが。

 その旧家がどうなったか、だいたい察しは容易につく。千手一族も数が減っていた、当然、綱手が使っているとも思えない。

「ないな、当然」

 いまのワシに、行く当てなどなかった。

「その、じゃあ、オレの家に来るってのは?」

 ふむ、粋な提案をするものだな、此奴は。

「……申し出はありがたいが、この体勢をどうにかしたい」

「えっ?」

「はぁ……気づいておらんのか。公衆の面前でこれはまずいだろう、これは」

 先ほど、ナルトが抱きついてきた拍子に、そのまま、押し倒された体勢になっていた。加えて、周りには忍たちがいる。彼らは開いた口が塞がらないというふうに、首を揃えてこちらをまじまじと見ていた。

「えっ、えっ、マジかよー⁉︎」

 赤面しても、いまさら遅いわ。

 やはり貴様は馬鹿のようだな、兄者以上の。先ほどは笑い顔が似合うと思ったが、その間抜けな顔もよく似合う。

「そう焦るなら、早くそこを退け」

「わ、分かったってばよ……」

 のそのそとしつつ、ナルトはワシの上から退いた。

 

 

「── 貴様の家は無事だったな」

「……そうっぽい」

「もしや、ここに来るまで失念していたのか?」

「あー、うん。完全に忘れてたってばよ……」

「……はぁ」

 マダラの術のせいで、あちこち土地は荒れてしまっている。屋内にいた人間もあの幻術にかかっていたゆえに、建物をあの枝が突き抜けていた。ナルトの家が無傷なのは奇跡的か。人々を縛っていたツタの除去をはじめ、外では忍たちがさっそく復興に取りかかり始めている。

 マダラ── まったく、いつも余計なことしかしない男だ。まあ、奴が狂ってしまったのにはワシにも原因が一応あるし、もういなくなったのだから、これ以上とやかく何も言うまい。 

「こっからしばらくは里の復興だろうな……」

「……」

「そういや、ここにいる間は、扉間はなにすんだ?」

「愚問だな。ワシは二代目火影だ、復興の手伝いをするに決まっている」

「たしかに、言われてみればそうだった!」

 考えれば分かるもののような気がするが、手を打って肯定するナルトの笑みはどこか眩しい。つい、触れたくなってしまう。

「……ナルト」

「なに?」

 ベッドに腰掛けていたナルトに、手招く。ただただ従順に素直に、此奴はワシの言うことを聞く。いいぞ、何の疑問も持たないで、そのままこちらに来い。口元がにやけそうになるのを必死に堪えながら、そのときを待つ。

「うぉっ⁉︎」

「……」

 穢土転生ゆえに、叶うことはないと思っていた。あの戦が終わればワシはあの世へ還る、それが定めだった。それがあの想定外の出来事で覆された以上、これからしばらく好き放題やらせてもらう。

 ナルトの体をきつく抱きしめ、肩口に顔を埋める。さらにそれだけでは事足りず、唇に口づけた。むしろ、こちらがワシにとっては本命で、本当にやりたいことだ。

「……う、動きに迷いがねぇ」

「口づけされて、第一声がそれか」

 お前はワシを何歳だと思っておる、ワシはお前よりも何十歳も歳上だ。こういったことの知識は、お前よりも多少はある。それに、お前を好きなことだけは、どんなことがあろうと明白だ。

「両思いで、互いに認め合っているのに許可もくそもあるか、必要ない。なに、必要だったか?」

「い、いや……おっちゃんってば、意外と強引なんだなぁって」

「貴様のせいだぞ、貴様の」

「えっ、オレ⁉︎」

「ワシが昇天しそうになると甘えてくるわ、人前だというのにびーびー泣き喚いて押し倒すわ、ワシを煽り立てた罪だ」

「ええ、なんだってばよ、それ!」

「正当な理由だ。ただ、気がかりなのは……」

「……?」

「この体では、満足にお前を味わえないということだ。なにせ、感覚を感じないからな。たとえタバスコが十倍でも百倍でも入ったスパゲッティを食べようが、味はせん。ゾンビだからな」

「なんで、いきなりタバスコとスパゲッティの話になったんだってばよ……」

「いま、食いたくなった」

「ええ、そんだけ?」

 とはいえ、いまのワシがスパゲッティを喰らったところで、味覚がするわけでもない。

「そうだな……いまや研究する時間も膨大にあるわけだからな、味覚だけでも戻せないか研究して、俺の穢土転生体を改良してみるか」

「……感覚はないけど、食欲はあるんだな」

「あの大戦ではすっかり戦いのことしか考えていなかったことと、基本的に、穢土転生で甦らされた人間は戦場にしかいないからな。それが、まさか一応平時の生活空間にいることになって、忘れていたものが込み上げてくるのだ」

 ナルトを一旦ワシの腕から離して、家の中を見廻す。生きている人間が、生きるために生活する空間というのは、死者からすればこれほどまでに懐かしく、どこか羨ましい。

 寝るための寝台と寝具、飯を食うための皿や箸やら、体を清潔にするための風呂場。死んでいるワシらにはもうないものばかりだ。

 ピシッ、と後方から音がする。振り返れば、ナルトが自らの頰を両手で叩いていた音だった。

「……感覚をある程度戻す研究、だっけ? オレでいいなら、気軽に付き合うけど」

 ニッとナルトが笑う。気軽に研究に付き合うなどと、よくも引け目もなしにぬけぬけと言ってくれるわ。まあ、ワシが此奴を好きなのも、こういうところに惹かれるからだろうな。

「─── 扉間」

 その名前を呼ぶ者は、父上も兄者も、この世にはいない。呼ぶのは、お前だけだ。

「ん、なんだ」

「……その、これからよろしくな!」

 これからよろしくとは何のことだ、と思いかけて、何のことかはっきり分かった。ああ、そういうことか。

「……ワシも忘れておったわ。これから人の家に居候するも同然だというのに、肝心な挨拶を忘れるとはな」

 ナルトの目を見るが、相変わらず、曇りの一切ない綺麗な眼をしておる。それに髪も、金髪で、周りを照らす太陽のような眩しさを感じる。やはりあの、四代目によく似ておるわ。……いや、そんなことを思っているときではない。

「─── これからよろしく頼む、ナルト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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