「風鈴? 私が昨日言ったこと、忘れたのかな?」
「……」
「なんで目を逸らすの? こっち見て?」
「……」
はい、絶賛摎サマに詰められてます!
なんか全然許してくれる気配がない!
摎サマの雰囲気が怖すぎて顔を直視することができないんだけど!
ねぇ参謀ちゃん、助けて!
〈……〉
(参謀ちゃん!?)
だめだ! この気迫には流石の参謀ちゃんも敵わないらしい!
いやだって仕方がないじゃないですか摎サマ!
目の前に魏火龍の首が餌としてぶら下がってるんですよ!?
そりゃ喰らいつかなきゃ、だめでしょ。たとえ罠だとしてもね!
ということで、許してくれたりしま……せんよね了解です。
「はぁ、なんで風鈴はそんなに死にいそぐかなぁ……」
「……別にそういうわけじゃ」
「そういうわけじゃない!?」
あ、これは火に油注いでしまった感がすっごいする!
待って、違うじゃん。言葉のあやですやん。
とか言い訳しようとしたけど、全然動いてくれないんだよね、私の口。
おいー!
私の口、動けー! 働けー!
「昨日は左翼軍の大将討ち取って中央軍まで出張って戦車隊と歩兵団を潰して、今日は魏火龍の本陣にまで突撃って……しかもたった数百で!」
「……それくらい」
「それくらい、何かな? 何か言おうとした?」
「イエナニモ」
確かに側から聞けば、えげつないことしているようにも見える。
うーん、けどぶっちゃけその程度ならなんてことなくない?
前世でも、ギリシアの国家スパルタが三百人で十万の軍勢に突撃したってお話もあるし。
あとは桶狭間とかも超有名だよね。あれも数千で数万に突撃してるし。
だから私がしてることって、倫理観がゆるゆるの紀元前では、問題ないように思えるけど。
まあ摎サマは紀元前の人間にしては比較的まともな人間……でもないか。
この人もこの人でだいぶヤバい人だからなぁ。
ヤバい人じゃないと、19歳で将軍になんてなれないからね。
一体何が摎サマを戦争へと駆り立てるんだろうか。
まあなんとなく察しはついてるけど。
察しがついてるからこそ、摎サマやべぇってなる。
「小娘。摎様のおっしゃられる通りだ。それに独断専行がすぎるのも大きな問題だ」
「うるさい似非軍し……俊哲」
「お前が心中で俺のことをどのような蔑称で呼んでもかまわんが、せめて階級が上の私には敬称をつけろよ小娘ェ!」
おっとつい俊哲のことを似非軍師だなんて、本当のことを言っちゃった。
というか最後の方でもうピッキリ青筋浮かばせながら口調荒げてますね。
冷静でいられないあなたは軍師失格ですので、即その地位を参謀ちゃんに明け渡しなさい!
「ククク。クソガキいつもに増して火力たけェな! んで噂の似非軍師さんヨォ、そうカッカすんなって!」
「ハゲもうるさい」
「アア゛? 今完全にクソガキの援護したよな俺ェ? なんで俺にまで火の粉飛んでんだよ!」
「ブハハ! 嬢ちゃん相変わらずすぎておもれーな!」
ワイワイガヤガヤ。
一気に賑やかになった天幕だけど、ぶっちゃけ摎サマと私の空間に、なぜこれほどまでに雄々しい野郎どもがいるのか、全くわからない。
即刻この場から立ち去って、摎サマと私のツーショットを見れたことに咽び泣きながら眠るといい!
まあ摎サマの機嫌は悪いままなんだけどね!
というかなんで解散してないのかな?
なんかとってもいやな予感がするんだけど。
〈マスター、その勘は正しいですよ。ビックなお方のご到着です〉
(え)
「ンフフ。失礼しますよォ」
王騎大将軍きちゃったよ。
絶対私への忠告的なアレだよ!
だって私ってば、王騎大将軍のこと半ば見捨ててレイオーさんのところに突っ込んじゃったもんね!
あとは勝手に持ち場放棄したし、命令違反だってしてる私は、もう役満すぎてヤバい!
あーもしかして私の首切られる的な感じなのかな?
この手に持ってるお肉が最後の晩餐的な?
最後の晩餐なら、せめてキリストさんよりも豪勢なご馳走が食べたいです。
と思ってたら、なんか摎サマと和気藹々と話し始めた。
うー摎サマ乙女な表情してる!
このおかま口調な男のどこがいいんですか!
まあ摎サマ、この人のために戦争してるぐらいだし、乙女な表情になるのも仕方ないか。
……いや仕方なくないんだけど!
というかちょっと気まずい!
見捨てたっていうのもあるんだけど、姉の彼氏(しかも歳増し)と同じ空間にいるのが気まずいんだよね。
わかるかな?
現代人の人ならわかるはず!
「さて、それでアナタが風鈴ですかァ?」
「……そう、です」
あぶねー!
流石に摎サマに嫌われたくはないからね!
敬語をなんとか発声できた私の喉、よくやった!
「……」
「……」
あれ、なんか私と目を合わせたまま黙っちゃった。
なんやねん。喧嘩か? いやもしや一目惚れ!?
この人摎サマの前で浮気しようとしてる!?
「……先ほど天幕の外で話は聞いていましたしィ、よくアナタのことは摎から聞きますけどねェ」
「……」
「ンフフ、そう緊張しないでいいのですよォ。昨日の件のお礼をしていませんでしたしねェ」
あれ、どうやら昨日のお礼をしにきたみたい。
え、お金この場でくれるの? まじで!?
いやー王騎大将軍と私の仲じゃないですかー!
こんな、もらいすぎですよー。
えへへ。まあこういうのはなんぼ貰ってもいいものですから、ありがたく頂きますけどねー!
〈マスター、ちょろい〉
(うるさい! 野蛮な世界でもお金の輝きは偉大だからね!)
〈あと、褒美があるということは、何かしらのよくないお話が後である、というのが鉄板ですよ〉
(え)
「摎、風鈴を借りますよォ」
「あ、はい! どうぞ!」
摎サマ!?
え、なんでそんな元気よく私を売り払えるんですか!?
うう、摎サマも私の敵だったんだ……!
なんか掴みどころのない雰囲気を出す王騎大将軍の後に、トコトコとついていくこと三十分ほど。
長いよ!
三十分もの間まさかの無言。
無言ですよ無言。
気まずいどころじゃない。処刑場に連れて行かれてるんじゃないかとヒヤヒヤしてる。
もしかしてさっきの報奨金、冥土の土産的なものなのだろうか。
そう思うと、なんだか胸元にしまったお金が途端に重く感じる。
「さて、別にあそこで話しても良かったのですけどォ、私が夜風に当たりたかったのでごめんなさいねェ」
「……いえ」
ならあそこでよかったじゃん!
無言で三十分も歩く必要なかったじゃん!
というか聞かれても聞かれなくてもどっちでもいい話をするために、三十分も歩いたの?
ふざけんな殺すぞ。
「ンフフ。では、単刀直入に。アナタは戦争をどう思いますかァ」
え、何それ。
わざわざそんなことを聞きにきたの?
どういう心境なのだろうか。
〈多分、王騎大将軍はマスターが摎サマの元においておくべき人間かどうか、見定めにきたのではないでしょうか〉
(あーなるほど。お見合い的な感じなのか)
じゃあ真面目に考えようかな。
戦争。
現代の戦争とは違って、紀元前の世界は金のためだとかそういうものばかりだ。
というかこの世界、なんか異様に国民の思想が過激だから、まじで国を守るためとかほざいてる人もいる。
対して私は……うーん。
気がつけばここにいた、って感じだしなぁ。
多分ずっと戦い続けて、血を浴びて、殺して、奪って、そして気がつけば部下が百人いた。
そんな感じ。
まあ正気に戻っても結局は戦いを続けたわけだけどね。
そんな私が思う戦争というのは、まあ私のような普通では生きることのできない、どうしようもない人種が足掻いている場所、って感じかな。
村では弾き物にされ、街へ出たとしてもまともに生活することができない。
働こうにも周囲との違いに絶望し、自分の生きる意味を見出せずに、心を削りながら生きていた人種。
そんな人達が唯一、意味を見出せる場所。
自分が生きていていいのだと、このために生まれてきたのだと思える場所。
これが、これこそが自分なのだと示せる場所。
そんな場所が戦場であり、戦争だ。
実際私の部下筆頭格の
絶対現代で生まれてたら、シリアルキラーとして即刻首チョンパされてる系の人だからね。
……そんな人が私の部下筆頭格って、ヤバい気もしなくもないけど、仕方ないじゃん!
そりゃそばに置いちゃうよね。仕方ないよね。
んで、私にとっての戦争は何かって質問だよね。
それはまあ上記に述べた私が私らしく生きるため、っていうのもあるけど。
もう一つはやっぱり摎サマの存在が大きい。
摎サマとっても優しいし、可愛いし!
あと、抱きしめてくれるからね!
だから摎サマが戦争を続ける間は私は摎サマに従うし、王騎大将軍は安心して摎サマを私に任せて欲しい!
「……私の帰る場所は、摎サマの元。ただそれだけ」
おい私の口。
もっと前!
そこだけじゃないって!
確かに摎サマのためだけど、それ以外にほら、私らしく〜って部分も言ってよ!?
「……」
「そうですかァ……」
どうやら私の口は私のものじゃないみたいです。
ぴえん。
ちなみにこの後、特に話すこともなく私は天幕に返されました。
返答がそうですか……だけって、ちょっと信じられないよね。
控えめに地獄の空気でしたと、言っておく。
さて、あれから
戦況は一進一退。
こっちが火力不足すぎて攻めるに攻めきれない、というのが現状。
なぜ火力不足なのかという話なのだけど、二日目の魏軍攻勢のせいで主力がかなり消耗してしまったらしく、徴収兵を前面に立たせる事態になってしまったから、らしい。
私もちょっと無理させすぎちゃったのか、戦死者は三割超えちゃったし、重症者も二百ほどいる。
それに、残りの五百もほとんどがそこそこの負傷者であり、万全以上の力を出せるのは全体の一割にも満たない。
丘を守る魏軍は三万ほど。
三万五千ほどいる秦軍は、数では五千ほど優勢だけど、三万もの軍が守りに徹している丘は下手な橋上線よりも複雑な防御網を構築している。
まあ徴収兵を前面に立たせて攻勢しているのに、一進一退の状況だから、かなり秦軍の各指揮官は優秀なんだろうけど。
それでも、序盤の火力と比べると、どうしても見劣りが激しく感じちゃう。
〈それにしても、まさか南部侵攻軍が敗退するとは。驚きましたね〉
(いや、本当にそれな)
そしてなんと! 南部で戦争をしていた秦軍が敗退したらしい。
いやあっちは確か十万以上の軍を動かしてたはずだよね?
なんで敗退してるんじゃボケ!
こちとら数的劣勢の中でも必死に殺りあってるだけど。
え、ちょっと南部侵攻軍の指揮官の首を刎ねてきてもいい?
まあさすがに刎ねちゃったら私の首も刎ねられちゃうから、しないけど。
さてそんなわけで私たちはここで戦う意味はなくなってしまった。
クソが!
つまり私たちの負けってことでしょ?
もー最悪。
乱美迫の主人を殺して乱美迫を貰っちゃおうとか思ってたのに、まさかのここで撤退命令はちょっと世間は許してくれませんよ。
ていうかこの六日間、王騎大将軍は何をしてたの!
うぐぐ、私の部下が万全であればと悔やまれる!
もしここで私の部下が万全だったら、あんな防衛陣地なんかぶち破れるのに!
〈いえ、多分無理ですよ〉
(いけるもん!)
〈無理です。あと二千ほど部下が必要ですよ〉
うぐぐ。
あーもう!
本当に南部侵攻軍の将をぶち殺したくなってきた。
くそ! 乱美迫、絶対いつか手に入れるから待ってなさいよ!
ということで背後を魏軍に追撃されながら、私たちはすごすごと秦国内に撤退していきましたとさ。
はぁ……。
参謀ちゃん「南部侵攻軍、ナイスです。これでやっとクソみたいな消耗線が終わりますね」
風鈴ちゃん「南部侵攻軍、ぶち○す」
蛮兒「風鈴様のご機嫌を害す輩がいるのか……ぶち○す」