012:「まずは私に全てを捧げなさい!」
咸陽で論功行賞が行われました。
言われたことといえば、「よく足止めできたね後一歩だったね惜しかったね」というのと、「だけどなんで討ち取ることできなかったの?」と言ったもの。
いや知らんがな。っていえたらいいけど、まあ摎サマと王騎大将軍二人がかりでレイオーさんと互角な状況になったっていうのは、よろしくないかもしれない。
まあ私にだけは、「将軍討ち取ったり戦車隊を壊滅させたり本陣にまで凸って秦軍の立て直す時間を与えたりとかすごいじゃん」って言われました!
えへへ。
しっかり評価してくれる昭王様好きだよ!
報酬は陞爵と槐村周辺の領土と二千人将に昇格と金一千だった。
金一千って、すごい大金だよ!
現代の価値観ではどのくらいだろこれ。
二億くらいあるんじゃないかな? いや一億くらいかな?
数十兆もの国家予算のうち一、二億って考えると大したことないかもだけど、一市民の私目線では大金だ。
これがあれば武器とかもたくさん買えるし、領地の発展のための投資もできる!
迷っちゃうなー!
まあそんな感じで終えた論功行賞だけど、その後がめんどくさかった。
権力者、つまり貴族たちが近づいてきたんだよね。
いや、別に下心ありなのは構わないよ?
後ろ盾になって欲しいとか、どこどこ陣営に引き込もうと接触してくるのは構わないよ?
けどさ、残念なことに、彼らってほんと欲望深くてさ。
どうやって私を性的に喰おうか、下見に来てるだけだったんだよね。
いや思春期の中学生かよ!
クソが、下世話な方の下心ばっかりだったよ!
最悪だよ!
帰れよ豚ども!
って感じでした。
ということで咸陽に残るらしい摎サマと王騎大将軍とは別れて一路
場所は秦国北西部に位置する村である。
ええそうです。ちょっと西に行けば山民族がいるくらい辺鄙な場所ですね。
おっかしいなぁ、ここら辺秦国の原点的な地域のはずなんだけど、超廃れてる。
そんな場所を私はせっせと開発しているわけですね。
まあ私には参謀ちゃんがいるし、着々と発展していってるから問題ないんだけどね!
人口も五千超えてるし、もはや都市と言ってもいい。
一体どこからこれほどの人を集めたのかはまったくもって不明だけど、なんか参謀ちゃんがすごい頑張りましたって言ってたから、すごいって褒めておいた。
というか五千って、もう村じゃなくて都市じゃね?
城壁作るべきだと思うんだよね。
けど許可取るためには非常に高い社会的地位と、たくさんのお金(裏金)が必要。
そして城壁を作るのにも莫大な資材とお金が必要だから、しばらくはこのままでいいや。
「あ、風鈴様! お帰りなさいませ!」
「おお、風鈴様! お戻りになられましたか!」
「風鈴様! よくぞお戻りに!」
「風鈴様、次の戦はいつですか!」
おお、すごい歓迎。
あと最後のひと、どんだけ戦いが好きなんですか。少しは休みなさい。
ということで熱烈な歓迎と共に私は槐村に足を踏み入れた。
うーん五千もの住民がいるだけあって、すごい建物の数だね。
しばらく歩けば、立派なお屋敷が目の前に現れる。
いやー立派ですね!
一体どこの誰のお屋敷なんでしょう。
……流石に白々しいか。
ええ、私のお家ですよ。
どのくらい広いかというと、敷地面積は学校の体育館くらいある。
いやどんだけ大きいんだよ。
ていうかどこからそんだけのお金が出てきたんだよって思うかもだけど、それは私が行なっている事業が関係している。
いや私はひとかけらも理解できてないんだけど、参謀ちゃんの指示に従ってたら、気がつけばすごいお金が私のもとに集まってきたんだよね。
今では一ヶ月の収益が一千万円を超えている。
すごいよね。ほんと。参謀ちゃん様様だよ。
まあそのせいで、中央からすっごい熱烈なアプローチ(具体的には、私を支配下におけば全部手に入るじゃんみたいな)ことをする人が多いけどね!
一年位前、私が咸陽に長期滞在してた時には、暗殺者きたからね?
暗殺者の首を依頼者の家に飾ったら、一時的にそういうのは止まったけど、いつまたやってくるかわからないし、うん。
ということで千人将なのに全員私兵で構成できているのは、私がお金持ちだからでしたー!
質の悪い、意識の低い人を指揮しても面白くないしね!
やっぱり率いるのは私兵が一番よ。
まあ一千くらいいた私兵の半分が、死んじゃったんだけどね!
ってなわけで私がするべきなのは一つ。
人材探しですね。
二千人将になったし、新たに千五百人くらい集めなくちゃいけなくなっちゃった。
つらたん。
(ねーどうしようか)
〈まあ特に難しいことではありませんけどね〉
(え、ほんと? 私の練兵に耐えることができる兵士を見つけるの、すごい大変だよ?)
〈いえ、そこらの人間でも十分強くすることができるのでいいのですが〉
(いや、そう言って前回揃えたら、今回の戦いで結構簡単に摩耗していったじゃん)
〈それはマスターの扱い方が雑なだけでは……?〉
う、そこを突かれると、ちょーっと私的に困っちゃうっていうかー?
図星なのでなんもいえなくなっちゃうから、勘弁してください。
まあ確かにそこらに一般人捕まえて、兵士にしたけどそこそこ強くはなってた。
だけど付け焼き刃的は良くないっていうのが、今回の一番の反省ポイントだったじゃん!
だから元からそこそこ殺れる人を探すべきだと私は思うのです!
〈そうですか。まあだとしても難しくありませんよ〉
(え、ウッソだー)
〈嘘じゃありません。すぐにでも千人くらいは集まりますよ〉
え、千人も?
一般人はダメなんだよ?
一般人はどうしても消耗が激しいって話だったよね?
それなのにすぐに千人も集まるものなの?
〈ほら、いるじゃないですか。数百人単位で生活してて、尚且つ全員が戦闘に長けている〉
(そんな場所あるの?)
〈ありますよ。ここから西に〉
西……?
ここから西には山民族が住んでいる世界が広がっているのですが。
え、もしかして、もしかしなくてもさ。
山民族を徴収しようとしてる?
〈? はいそうですが? 〉
……マジで?
山民族。秦よりさらに西にある深い山々に住む民族の総称であり、彼らは各々の部族で特徴的な装いをしている。
例えば不気味な仮面をつけたり、狼の皮を身につけたりとかね!
そんな彼らだけど、数百年前は秦国と交流があったらしい。
当然、今ではほとんど交流がない。
というか交流を始めた王が死んだ瞬間、差別が激しくなって、生活ができずに姿を消していったらしい。
そんな可哀想な彼らは、よく秦国内では蛮族と評されるくらい野蛮な人種なのだと。
そもそも秦国内の連中は全員紀元前の人間だし、私目線どっちも蛮族なのは変わりないけどね!
そんな山民族の彼らだけど、突出した戦闘能力を持っていることでも有名である。
何せかつて中華の中心であった晋という巨大国家は、西から現れた犬戒族という強大な騎馬民族に滅ぼされている。
えげつねぇ。
そんな犬戒族の子孫が未だ西には数多く存在している。
今回はそんな子孫たちをゲットしようぜ、という感じらしい。
うん。理屈は完璧だ。
確かに素の戦闘能力はピカイチだし、体も丈夫。
遺伝的なものだから、長期的な観点から見ても、是非とも吸収したい民族ではある。
けどさ、そもそも言葉通じるの?
それに私たち秦国が差別したっていう歴史があるんだよね?
流石に同じ轍を踏むとは思わないんだけど。
〈私が翻訳しますので、言語については大丈夫です。あと彼らは力ある人間に従います。ですので大丈夫ですよ〉
(いや、そんな単純な連中じゃないでしょ)
やばい、不安しかない。
まあ参謀ちゃんが大丈夫って言ってるし、なんとかなるか!
ということで騎馬を百ほど引き連れてやってきました、北西の草原地帯!
いや山じゃないのかい! って思うかもだけど、秦国内では蛮族=山民族だから、草原にいる蛮族も山民族なんですわ。
まだ夏の終わりだというのに、肌寒い風が吹き抜く大地。
土は冷え切ってて、馬を歩かせれば、気持ちのいいヒズメの音がなる。
一言で言えば、不毛の大地ですね!
草はところどころ生えてはいるけど、基本的に作物は育たなさそう。
もし農場作ろうとするなら、水を引いてきて、あとは重機とかで畑を耕して、化学肥料もぶちまけなきゃ、とてもじゃないけど農業はできないだろうね。
こんなところに人が住んでるんですかね。
と思って馬を走らせること一週間。
なんか遠に村を見つけました!
村といっても数百のゲルだけどね。
数百って、どんな大部族だよ。
多分あそこ三千は超えるくらいの住民いるよ?
〈じゃあ、あそこを吸収いたしましょう〉
「(ガチで? まあいいけど)蛮兒、法螺貝」
「ハッ! ブォォォォォォ」
うっるさ!
もうちょっと離れてからやって欲しいです。
ん、なんか集落から騎馬がこっちに向けて駆けてきたんだけど。
これってぶち殺すべき? それとも普通に殺すべき?
〈いえ、馬上から叩き落とす程度でよろしいかと。こういう先鋒は圧倒的な武力で潰すほうが良いのです。ただ、殺さないようにだけお願いします〉
(オッケー。ならこっちも蛮兒を出そうかな)
「蛮兒。殺さないように叩き潰してね」
「ハッ!」
おーなんか元気よく駆け出していった。
後ろに尻尾でも生えてるのかってくらい、元気よく駆け出していったよ!
と思ったら、しっかりと一合で馬上から相手を叩き落とした蛮兒。
だけど、相手も一合で叩き落とされたことを認めれないのか、すぐに立ち上がって剣を振るうけど、間合いの差も相まって、蛮兒に吹き飛ばされる。
すげー。けど、飛ばし過ぎじゃない? あれ受け身ミスったら死ぬけど。
あ、しっかりと受け身とった。
へー、聞いていた通り身体能力は高そう。
なら鍛えがいがありそうだね!
お、なんか地面に両手をついて何か叫んでる。
あれかな?
くそー負けたー的な?
(参謀ちゃん、あれってなんていってるの?)
〈『バカな、バカなァァァァァ』といってますね〉
「ふっ」
思った以上に定番な叫びで笑った。
完全な噛ませじゃん。
まあ嘆いているところ悪いんだけど、私とお話しをしましょうねー。
『そこの嘆いてるの』
『なんだ、女……』
『ん。集落まで案内して』
『だ、誰が貴様のような小娘の命令をォォォ!』
なんか私に斬りかかってきたので、サクッと剣を片手で止めて見せる。
これには噛ませ青年もびっくりした様子。
二本指で真剣白刃取りもどきされたら、誰でもびっくりしちゃうよね!
そのまま剣を没収すると、噛ませ青年はヘナヘナと地面へ座り込んでしまった。
あれ、君たち異民族って、誇りだけは失わない的な感じじゃないの?
なんか完全に戦意喪失しちゃった。
けど安心して! 私の部下になれば鋼の心を取り戻させてあげるから!
『……案内、できるよね?』
『は、はいぃ……』
そんなこんなで噛ませ青年の案内により、無事に族長的な人とお話をすることができました。
『我はガイン。ガイン族の族長である。よく来た、強き客人』
『私は風鈴。どうもガインさん』
『……では直球に聞くが、要件はなんだ? 風鈴殿』
目の前には、ふわふわの獣の皮で作られたソファーにどっしりと腰を下ろす大男。
その傍には、すっごい可愛い女の子が複数人いる。
あ、愛人かな?
なんか体を絡めているし、すっごい雰囲気エッチだ!
そんなエッチ大魔王な大男だけど、眼光はガチだ。
ガチでこっちを見定めようとしている。
周囲をチラリと見てみれば、一部の人間は私を侮ったように見ているけど、殆どが顔を引き攣らせている。
さて、要件なんだけど、なんて言おう?
こういう交渉ごとは全部参謀ちゃんに任せていた私だけど、今回はマスターがやってくださいって、言われているんだよね。
まあ彼らは異民族だし、直球で伝える方がいいよね!
『要件は一つ。私の物になって?』
『……その言の重みを、分からぬ貴殿ではあるまい。取り消すならば今だぞ?』
『御託はいらない。降れ』
『よろしい。久しぶりの挑戦者だ。我も本気で行くぞッ!』
唐突に始まっちゃったよ、エッチ大魔王との戦闘。
いや、急すぎやしませんかね。
いくら蛮族とはいえ、短絡的すぎじゃね?
まあ闘争が蔓延る世界って噂されてたし、こういうのが日常なのかも。
いつの間に手に持ったのか、大きな戦鎚を振りかざすエッチ大魔王。
すかさず、私は腰に刺していた曲刀を引き抜き、
『!? 我の一撃を受け止めるどころか、なんだその剣はッ!』
『……喋る暇、あるの?』
『ーッ!』
初めは不意打ちを喰らったから受け止めるしかなかった。
けど、ここからは違うよ?
曲刀を右手で構え、すぐに首元を狙う斬撃を放つ。
が、すぐにエッチ大魔王は反応し、防ぐ構えをとる。
なるほど。さすがはエッチ大魔王。
反応速度は乱美迫と同程度。
威力も戦鎚ということもあってか、絶大である。
が、だからどうしたって感じだ。
速度では反応される?
なら反応される速度よりも早く、曲刀を操ればいいだけである。
『ば、馬鹿なッ!』
『あれは人間なのか!?』
『あのガイン様が、押されている!?』
さぁ、どんどんいくよ!
エッチ大魔王は、押されている状況を打破するためか、間合いを取ろうとする。
いいよ。キミの間合いでやってみな。
ということで私は一旦攻撃の手を止めて、あえて隙を作る。
するとエッチ大魔王は侮られたと思ったのか、すごい形相をしながら、攻撃を繰り出してくる。
戦鎚のちょうど良い間合いからの攻撃は、確かに鋭いが、どれも乱美迫より少し優れている程度だ。
今の私は乱美迫を超えているんだよ!
ということで連続して繰り出される攻撃を、曲刀の先端で軽く受け流し、そのままの流れで腕に切り込みを入れる。
ちょっと痛そうな表情をしてるけど、さすがはエッチ大魔王。
すぐに乱れた矛術を修正し、さらに苛烈な猛攻を仕掛けてくる。
それを私は曲刀で受け流しながら、次節反撃を繰り出す。
反撃は大抵が受け止められていたが、先程の腕の傷のせいでやはり動くは鈍く、しばらくすると辺りに血を撒き散らし、肩で息をするエッチ大魔王。
私はまだまだ全然戦えるけど、エッチ大魔王はかなりきつそうだ。
正直これだけ血を流しても、まだ立っているのが驚きなんだよね。
よく立っていられるね?
もう休みたいんじゃないの?
倒れてもいいんだよ?
『ハァ、ハァ……まさかこれほどとはなッ!』
『ん。キミも強いよ』
『ふふ、嬉しいことを言ってくれるッ!』
ッ!?
まだ攻撃できるだけの、体力が残ってたの!?
これは私も驚きだよ。それ以上動いたら死に関わるというのに、それでもなお、動くというんだね。
いいね、嫌いじゃない。
なら私も本気で受け止めてあげよう!
衝突する戦鎚と曲刀。
普通ならありえない状況に、周囲は息を飲む。
閃光が周囲に飛び散り、破壊と死がぶつかり合う。
最後の一撃だからかな。
一瞬吹き飛ばされそうになったけど、なんとか持ち直し、逆に戦鎚を吹き飛ばす。
中を舞う戦鎚が、地面へ激突するのと同時に、膝をつくエッチ大魔王。
多分限界を超えた一撃を出したせいで、もう文字通り力尽きたのだろう。
けど、その目だけは全く萎えることなく、私を睨みつけている。
ああ、ほんといい目をするなぁ!
『さぁ、とどめを刺せ。貴殿が勝者だ……』
『……とどめは刺さないよ』
『情けは要らぬわッ!』
うーん、なんかすごい潔いけどさ、キミの目は諦めきれないって目をしてるよ?
そんな目をしてるのに、とどめを刺せって、できるわけないじゃん?
私はそんなことできないよ。
そのくらいキミのことを気に入ったんだから。
『そんなに殺して欲しいの?』
『敗者には死というのが慣わしだッ!』
『けど、キミの目は受け入れきれないって、言ってる』
『ッ!』
うんうん。
やっぱり気づいてるじゃんか。
ここでキミはまだ死にたくないんだよね?
死を恐れてはいなさそう。だって恐れていたら、最後のあの一撃は出せない。
だから、私は両手でしっかりと顔を固定して、顔を近づける。
互いの息が顔にかかるほどの距離。
しっかりと目と目を合わせながら、言葉を、きっとキミにとって抗えない誘惑の言葉を吐く。
『それにね。私はキミが欲しい。キミを含めた全てが欲しい。初めに言ったでしょ?』
『確かに言った。だがッ!』
『それに、こんなところで死ぬなんて勿体無い。最高の死場所を用意してあげる。キミにぴったりの、誰もが絶句するほどの、羨むほどの、キミの死場所を』
『……』
さあ、どうかな?
私としては、是非とも仲間になって欲しいけど、それでも死にたいというなら、しっかりと殺してあげるつもりではある。
『……分かった。全てを貴殿に、いや、我が主に捧げよう』
『ふふ。よろしくね! ガイン!』
『ああ、楽しみにしている』
ああ、よかった!
ということでエッチ大魔王ことガイン、ゲットだぜ!
ついでにガイン族の人たちも私に従うらしい。
参謀ちゃんの言った通り、すごい単純な人たちでした!