あれから定期的に小競り合いを繰り返す魏軍を叩き潰していると、摎サマの使者がやってきた。
どうやら魏国に攻め込むから合流するようにってことらしい。
というわけで、早速部下達を招集して、部隊の行軍を始める。
ここ三ヶ月ほど小競り合いをしているせいで、私の部隊は少し消耗しているけど、ちょくちょく徴収兵が補充されるし、何よりも三ヶ月もあったから紙屑同然な徴収兵を、ある程度鍛えることもできた。
これなら肉壁程度の働きは期待できる、かな?
さて、今回攻略するのは陰晋……ではなく、雲原の攻略らしい。
この雲原という土地は、鉄鉱石が大量とはいかないものの、それなりの数を産出する資源地帯だから、魏国もそこそこ大規模の軍を送り込んでくることが簡単に予測できる。
尤も、魏国には雲原以外にも多くの資源地帯を保有しているため、取られたところでさほど痛いわけでもない。
とはいえ、だからと言って私たち秦国に取られるのを黙って見ているほど、魏国はお人よしではないしね。
そしてここから重要だけど、なんと今回の雲原攻略は摎サマが主体となって行う、らしい。
主体といっても摎サマが他の軍も率いるというわけではなくて、摎サマ以外の軍は派遣されないってだけなんだけどね。
その理由は摎サマの軍の大きさにある。
摎軍の総数は二万八千。
比較として、将軍は基本的に最低八千、多くても一万五千程度であることを考えると、一万もオーバーしている。
まあこれはポニテおじさん、あと似非軍師が五千人将に昇格したからだね。
豪雷は元々五千人将だったしね。
これによって摎サマの軍一万に、豪雷、ポニテおじさん、似非軍師の五千ずつが加わって、合計二万五千の軍に成長した。
そしてさらに私が三千人将でしょ?
これで二万八千。
そりゃ中央も摎軍単体で良くね? って感じになるわな。
さてそんなこんなでみんなと戦争をするのは実に一年以上久しぶりな私、珍しくドキドキしてます。
何せ、いつもと違って中央から与えられた軍を率いているからね。
気分はいつもと違う服を着ていることに、気がついて欲しい乙女な感じ。
率いている軍をファッション扱いするのは、だいぶ気狂いなのではなんて言葉は言わないでね。
「おォクソガキ。今回はえらく遅いじゃねェか」
「小娘。貴様は時間厳守という言葉すら知らんのか」
おーおー。
まず豪雷はうるさいから黙ってて。
あと似非軍師!
あなたは参謀ちゃん以下のくせにつべこべ言うな!
「まーまー。よくきたね、風鈴」
「ん」
「オィクソガキ。お嬢に対する口の利き方気をつけろって、前も言ったよな?」
「うるさいハゲ」
「アア゛? 殺すぞ」
「ブハハハ。前も見たなーこう言う光景をよー!」
相変わらずここは賑やかだね。
あと私も既視感を感じてるよポニテおじさん。
さて、戯れ付きあいすぎると摎サマが怒るしこのくらいにしようかな。
なんとなく空気を察した他の三人も、摎サマの方に視線を向ける。
うんうん。
ここには問題児しかいないわけだけど、全員摎サマ大好きだから、摎サマが関わる時はみんな空気を読めるのだ。
「さて、今回の雲原の戦場はただの平野じゃない。周囲には山岳があって、裏取をしやすい地形になってる」
「ええ、この地形は面倒なことに周囲に騎兵が通れるほどの細道がある岩場が多いです。もちろんこちらが回り込まれる危険性もありますが、逆に言えばこちらが回り込むこともできます」
すごい関係ないことなんだけど、
いやもちろん戦略をギリギリ理解できる程度の頭しかないわけだけど、なんて言うのかな。
豪雷みたいに直感でなんとなく、こうだなって言うのを理解するタイプなんだよね。
ああ言うのを本能型って言うんだっけ?
ちなみに私も多分本能型だと思う。
まあ考えることができないから、消去法で本能型って言うだけなんだけどね。(笑)
同じ本能型なんだし、多分豪雷と気が合いそうだから、今度豪雷に
「そう言うわけで、軍の配置はこれで決めるけど……風鈴の部隊っていつもと違うよね」
「ん!」
「て言うことは、いつもと同じ働きは期待できないかぁ……」
「!?」
いつもと違うことに気づいてくれて嬉しい反面、なんか期待が外れて残念そうにしている摎サマ。
やばい、ここでアピールしなくちゃ私は使えない子認定されちゃう!
「けど、堅くなった」
「う、うん?」
「援護も、バッチリ」
「そ、そっか。……あ、なら私の後ろで治癒をお願いね」
「ん!」
おー!
治癒を任された!
おっけ任せて!
……まって治癒ってなに?
〈治癒、と言えば傷の修復という意味ですね〉
(うんそれはわかるよ。けど私そんな摩訶不思議な力使えないよ?)
〈この場合の治癒というのは、摎サマの後方が傷ついた際に、マスターがカバーをするということですね〉
あーなるほど。
つまりはこういうことらしい。
まず摎サマが敵軍の陣地に突撃した時、摎サマの部隊は縦に細長くなってしまう。
そうなった場合後続が挟み込まれて潰れてしまわないように、当然随伴する部隊がいるわけだけど、その部隊が崩れないように支えるのが私の役割ってことらしい。
ほへー。
まあ私多分参謀ちゃんに全部任せっきりになると思うから、気にしなくていいや。
それよりも、摎サマの後ろを任せられたことの方がより嬉しいよね。
「私が右、
「ん。戦線の維持だけ、意識してくれれば、いいよ」
「かしこまりました」
「御意!」
うんうん。
なんとなくだけど、初めの頃よりは抵抗なく私の命令に従ってくれそうな雰囲気だね。
最初なんて特に
けどガイン族の戦士を吹き飛ばしたあたりから、なんかすごい従順になって扱いやすくなった。
対して
参謀ちゃん曰く、中央から私の動きを監視するために派遣されたらしいから、ちょっと動向は注意しなきゃね。
さて、私がいろいろ配置決めをしている間にも、両軍共に開戦する準備が整ったみたい。
秦軍中央は摎軍の基幹軍たる摎サマの軍一万。それに弓騎馬隊を率いるポニテおじさんに私の八千が加わって一万八千。
秦軍右翼は豪雷の五千、秦軍左翼は似非軍師の五千。
秦軍合計二万八千。
対する魏軍中央は魏火龍の馬雲将軍の二万八千。
魏軍左翼は八千、魏軍右翼も八千。
魏軍合計四万四千。
兵力差は二倍弱ですねありがとうございました!
というかなんでこんなところに魏火龍さんがいるんですかね?
あなた達の敵は内部の同族でしょうが!
まあ別にいいけど。
レイオーさんみたく何かに秀でている情報はないって参謀ちゃんが言ってたし、今の摎サマの実力なら多分勝てるんじゃないかな?
「我は魏火龍の馬雲であるッ! 魏国の勇士共よッ! ノコノコと奥地にまでやってきた秦の犬どもを叩き潰せ! 正義はこちらにあるぞッ!」
おーすっごい猛ってらっしゃる。
別に戦う前に兵士の士気をあげるのは当然のことだからいいんだけど、正義はこちらにあるって……あなた達もこっちに攻め込んでたのによく言えるよね。
まあそういうことをとやかく言い始めたらキリがないし、どうでもいいけどね。
「第一陣、ン突撃ィ!」
「オオオォォ!」
「第一陣突撃! 魏軍を粉砕せよッ!」
「オオオォォオォォ!」
おーすごい雄叫びを上げながら突撃をする数千の兵士達。
私が立っている地面にまで響くような雄叫びを上げながら突撃する彼らの衝突部は、うん。すごいことになっている。
互いに士気をマックスにしながらの突撃だから、最前列は文字通り串刺し状態。
一部、あまりの衝撃に吹き飛ばされた兵士までいる。
せめぎ合いは五分と言ったところ。
互いに怯まず殺し合いをしているけど、次第に勢いは落ち始める。
まあ第一陣なんて初っ端からフルスロットで戦うわけだし、普通の兵士ならすぐにスタミナが切れてしまうのも仕方がない。
ちなみに参考程度に、私の私兵達はフルスロットを五日は維持できるように訓練中。
平地の人間からは十数人、ガイン族は百人強くらい限界を超えることができてるし、時間をかけて順調に人数を増やしていくしかないかな。
「全軍出るぞッ! 前進!」
おっと、どうやら摎サマは右翼、左翼、中央の軍全てを動かすつもりらしい。
そうなると当然魏軍も呼応しなければならない。
もし呼応しなかったら、魏軍の第一陣は摎サマに轢き殺されちゃうからね。
「蛮兒、ガイン。行くよ」
「「ハッ!」」
「黒剛隊、前進ン!」
「角栄隊も出るぞ!」
「「オォォ!」」
私が動き始めると、周囲の部下達も声かけを行い一斉に前進を開始する。
いつもは陣頭で突撃をするから、内部から見る突撃の光景はなかなかに新鮮である。
私の隊よりも少し先を行く摎サマが、魏軍中央にぶつかる。
ガインや蛮兒のように魏兵だったものが宙に撒き散らされることはなかったが、それでも突撃時の衝突は凄まじいものだったみたいで、一瞬で血霧が衝突部に蔓延している。
うーん。忘れがちかもだけど、摎サマって攻めの将だから、すごい武力を持ってるんだよね。
あの美少女の体のどこに、馬鹿力を出せるほどの筋肉があるのか今度聞いてみようかな。
さて、だいぶ魏軍中央に深く入り込み始めたし、私のお仕事をしなくちゃね。
「黒剛は少し出過ぎ。左に旋回しながら、戻るように伝えて」
「ハッ!」
「角栄のところには、予備隊の歩兵二百を」
「ハッ!」
「……ガイン。戦士五十を率いてあそこ一帯を吹き飛ばしてきて」
「承ッタ」
「蛮兒、ちょっとあそこで喚いてる敵将を討ち取ってきて」
「ハッ……」
ふぅ。怒涛の指示ばかりで疲れちゃうね。
今の所右側の黒剛と左の角栄は斜めに部隊を配置している。
まあそのせいで真横からの襲撃にちょっと弱くなってしまっているんだよね。
黒剛はなんか一人暴れているから問題はなさそうなんだけど、問題は角栄。
彼は基本に忠実で結構冴える部分もあるんだけど、頑固だからね。
どうにも動きが鈍いというか、堅実な立ち回りをするせいで、守りは硬いんだけど相手を潰し切れていないって感じ。
まあそのせいで相手のヘイトを買ってしまっているんだって。
だから予備隊の歩兵を送ったけど……あれで十分なのかな?
まあ参謀ちゃんが十分っていうならそれでいいんだけどね。
さて、チラリと前の方を見てみれば、左右それぞれに派遣した私の部下達が、魏兵を吹き飛ばしている光景が目に入る。
わぁお。
蛮兒も当然凄まじいが、やっぱり一番はガイン族の戦士達だ。
一振りで複数人も吹き飛ばしている彼らは、止まることなく魏軍の陣地を爆走中。
もう目的の一段は吹き飛ばし終わったから、そろそろ戻ってきてほしいところではあるんだけど、ヒャッハーしちゃってるからこれは当分の間は戻ってくることはなさそう。
彼らをぶつけたら、魏軍の正規兵も民兵も変わらず吹き飛ばされる塵芥になっちゃうから、魏軍の評価がしづらいけど、参謀ちゃん曰く、あそこら辺にそこそこ戦える正規兵がいたらしい。
目的は黒剛隊を集中的に削って、摎サマの推進力を少しでも落そうとしたんだって。
ほへー。
まあガイン族の戦士にあっけなく食い殺されているし、本当に強かったのかは謎だ。
「と、止めろぉ! あ、アイツらを止めろッ!」
「だ、だめだ! 止まらぬッ!」
「ほぶァ!」
「ぺヒャッ!」
「ひ、ひぃィィ」
あーなんか奇声みたいなのが聞こえるけど、そっとしておいてあげよう。
一応彼らガイン族も私の配下なわけだしね。
見らぬが仏ってやつだよ。
知らぬが仏だっけ? まあいいや。
「風鈴様。ただいま戻りました」
「ん」
お、どうやら蛮兒が喚いていた敵将の首を取ってきたらしい。
多分千人将とかそこらへんだと思うけど、結構色々指示を出してた人だし、有能な将だと思うからここで討ち取ることが出来てよかった。
さて、周囲の魏軍はだいぶ脆くなってきたことだし、私もそろそろ動こうかな。