こんにちは魏兵さん。なんだかこういう光景を一年前に見た気がするんだけど、あなた達って本当に学ばないんだね。
周辺の魏兵達は私を化け物みたいな目で見てるけど、私から言わせて貰えば、槍だけ構えて突っ立ってるあなた達の方が、異質に見えるよ。
なんで戦場で棒立ちしているの!
戦えよ! どっかの壁内人類は心臓捧げてだんだよ!?
ほら、勝ちたいなら戦わなきゃ!
「止めろッ! あの女を止めろッ!」
「む、無理だッ!」
「死にたくなウベッ!」
あまりにも弱すぎる。
って思ったらこの魏兵達全員胴当てと兜しか装備していない民兵じゃん。
なんか参謀ちゃんが精鋭は他のところに行ってますので今なら大将首獲れますって言ってたから突撃してみれば、まさか本当に民兵しかいないとは思わないじゃん。
一体精鋭達はどこに行っちゃったのー。
「馬雲様ッ! 退避をッ!」
「ここで逃げれるわけなかろうがッ! 弓構えろッ!」
「ハ、ハハァッ!」
なんか毎回大物の首を獲る直前、必ずと言っていいほど逃げることを勧める人がいる。
彼らって一体なんなんだろうね?
いや確かに逃がしたいのはわかるけどさ。
ここで大将が逃げちゃったら戦争無理だよ?
まず間違いなく魏軍は瓦解して雲原は私たちが占領することになる。
まあここで戦死したら確定で魏軍は崩壊するだろうし、逃す選択肢っていうのはあながち間違っていないのかもしれない。
とはいえ、逃げた場合は恥辱に塗れた生活を送ること間違いなし!
どっちとっても地獄だね!
まあ弱い自分を恨んでちょうだいな!
弓を構えていた弓兵は、すでに殲滅済みである。
左右から蛮兒とガインが回り込んでおり、正面にしか向いていなかった弓兵達はあっけなく惨殺されていた。
「女風情が……我自ら手を下して見せようッ!」
蛮兒とガインに退路を絶たれた敵将が大きく矛を振りかぶりながら突撃してくる。
うーん。最近ちょっと暇だし、少し遊んであげてもいい気分。
一撃で殺すのは勿体無いと思った私は、適度に力を抜きながら振り下ろされた矛を受け止める。
「ば、バカなッ! 馬雲様の矛を、しかも片手でッ!」
「ば、化け物がッ!」
えー、私まだピチピチの少女なんだけど。
そんな私に向かって化け物って酷くない?
まあいいや。
なんか一合目が想像してたよりも軽かったし、このまま続けてても面白みはないだろうしね。
それに、ここに連れてきたのは一千とちょっとだ。
あまり長いをしすぎると、せっかくの私兵が削られていっちゃう。
だからさよなら大将首さん。
馬鹿の一つ覚えのように再び大きく矛を振りかぶる敵将に、一気に近づいて腕を切り落とし、その勢いのまま首を切断する。
瞬間首が吹き飛ぶけど、剣先に突き刺してキャッチし、そのまま馬首の向きを大きく変える。
「馬雲様ァァ!?」
「ん。離脱するよ」
「ハッ!」
「に、逃すなァ! あの化け物を逃すグハッ!」
「邪魔ダ敗北者」
部下達が道を切り開いていくから、常時血の雨が後ろで馬を走らせている私に降り注ぐ。
普段なら、甲冑が無駄に汚れるから嫌だけど、今日は久しぶりに大軍相手に突撃したし気分がいい!
それに卒業式の花吹雪に似てて、なんだかロマンチック。
ということで魏兵さん達、また明日ー!
まあ多分今日で戦争は終わっちゃうけどね!
♢
「アァ? 馬雲を討ち取っちまっただァ?」
「ん。これ首」
「いや首求めてねェよ! 捨ててこいやッ!」
「ブハハ。風鈴ちゃんってば、すげーなほんとによー。ククク」
「また無茶なことして……」
うーむ。
せっかく首を持って帰ってきたというのに、みんなの感想はイマイチだね。
まあ確かに首だけ持って帰るってどんな蛮族だよって、私も思うけどさ。
けどこう、取ったどー! っていう達成感はすごいんだよねこれ。
信長が頭蓋骨並べながら月見酒する気持ちが少しわかっちゃう。
私はサイコパスではないんだけど、なんか私が彼の命を貰ったんだっていう、命に感謝的な気持ちが湧き上がる。
〈それを世間では犯罪者と言います〉
(いや今は戦国の世の中だからセーフ!)
〈とりあえずその首どうするんですか。おすすめは焚き火の中に放り込むことです。ファイヤーしちゃいましょう〉
いや流石にそんなことしたら焼肉の匂いが充満してお腹が空いちゃうでしょ。
だからここは我らが摎サマにあげよう!
心なしか落ち込んでるし、敵将の首をあげればきっと機嫌も良くなるでしょ!
「ん。摎サマこれあげる」
「え、あー……うん。ありがとう」
なんか微妙そうな顔をされたけど、しっかりと受け取ってくれる摎サマ大好き。
「こうなると、明日で戦争は終わりそうだね」
「お嬢、そう簡単に魏軍はひきますかね?」
「まーそこは問題ねーだろ」
うん。参謀ちゃんも問題なく魏軍は退却するって言ってたし、そこ自体は疑わない。
ただ、なんというか消化不良って感じが否めない。
だって馬雲は腐っても魏火龍だったのだ。
そんな馬雲はあっけなく私が討ち取れてしまったし、本当に魏火龍なのかなーあれ。
〈魏火龍は秦国の大将軍に対抗する形で作られた役職です。そんな彼らは内輪揉めで忙しいようですし、実力未満の輩が出てきてしまうのも仕方のないことかと〉
(ふーん。まあ動き自体は良かったし、あれは実践経験が圧倒的に足りていないって感じだったから、本当に内輪揉めしているんだろうね)
今日、私が馬雲の首をとれた原因は二つ。
一つは精鋭のほとんどを摎サマに向かわせていたから。
もう一つは馬雲自身の武力が弱かった。
逆を言えば、それ以外は結構いい線を行っていると思う。
まあ摎サマの敵じゃなかったけどね!
「うん。じゃあこれで雲原での戦いはひとまず終わりかな」
「ん? お嬢、その口振りだとまだあるみてェじゃねェか」
「うん。あるよ。今から雲原周辺の城邑を攻め落とすよ」
「え、マジかー」
「まあ歯応えがあんま無かったし、攻城戦もありかァ」
どうやら周辺のお城を攻め落とすらしい。
まあ確かにこの平原を攻略しても、周辺に魏国の城があったら邪魔でしかないからね。
その後、基本的な方針を色々と話して解散になった。
もちろん摎サマと一緒に寝るために、しっかりと寝巻きを用意していた私だけど、どうやら今日は一人で寝るらしい。
つらい。
寂しくて死んじゃうよって思ったけど、そう言えば私には参謀ちゃんがいるわけだし、一人ではないのか。
ついで扱いされた参謀ちゃんからの小言を返している間にも、夜はどんどんと過ぎ去っていく。
ちなみに珍しく参謀ちゃんが饒舌だったから、全く眠ることができませんでしたと追記しておく。
つらい。
一晩経過して雲原の戦い二日目。
報告では、魏火龍馬雲の副将である
へー、軍を維持することができたんだ。
それはすごいね。
とはいえ、たった一日で魏火龍を失ってしまった魏軍の士気はかなり低いみたい。
昨日と同じように第一陣から始まるかと思ったけど、初手から摎サマは全軍を突撃させた。
初めの頃は結構粘るなと思っていたけど、摎サマが中腹に差し掛かったところで、大きな歓声と共に魏軍が一気に崩壊し始めた。
(一体何があったの?)
〈きっと摎サマが敵将を討ち取ったのでしょう〉
(へー。摎サマやるぅ!)
あまりにもあっけなく崩壊していく数万の魏軍。
ぶっちゃけ彼らががむしゃらに摎サマだけを狙えば、ワンチャンあったかもなのにね。
ずっと突撃をしていた摎サマはそれなりに疲労を抱えているだろうし。
まあ彼らは指揮官あっての軍だから、指揮官が死んでしまった魏軍はまさに首のない死体。
あとは痙攣して勝手に死に絶えていくだろう。
(なんかさ、魏火龍だから楽しみにしていたのに、あまりにも呆気なかったね)
〈初日、私たちが補助に回ったおかげで序盤に疲労せずに、終盤でキメに行けたのが大きかったですね〉
(んね!)
まあとは言え。
魏火龍は選ばれたものがなると思ってたから、こんなに弱いのは正直ショックだよね!
四万もの兵がいたのに、なんでもう少し流動的に動かせなかったのかな。
まあ参謀ちゃんよりも弱いんだし、当然の結果ではあるか。
「呆気ないですな!」
「とは言え、我々の隊全体の被害はそれなりですが」
「角栄、貴様は後ろで指示しか出さぬから分からぬのだ! 活路は必ず死地にこそあるのだぞ!」
「黙れ黒剛。貴様こそ風鈴様のように、先頭に立ちながら指示を出せるようになってから物申せ」
うーん。
君たちもう少し仲良くできないのかな?
私の部下って、なんでこうも仲が悪いのかな。
蛮兒とガインも仲が悪いし、黒剛と角栄も仲が悪い。
うーん、みんな仲良くすればいいのにね?
まあ紀元前の人たちにそういうことを求めるのも、無理難題なのかな。
みんな私よりも頭が回るんだから、仲良くすることでのメリットがたくさんあることくらい、わかると思うんだけどね。
まあいいや。そこは各個人の自由だしね!
仲良くしすぎて誰かが死んだ時に、後を追って自殺なんてされたら困っちゃうしね。
さて、とりあえず逃げる魏軍の背をバンバンと突き刺しながら、やってきましたは小さなお城です!
小さいと言っても、多分これ数千人レベルのお城だろうし、内部に配置されている兵士は二千人から三千人はいそうだ。
通常攻城戦というものは、攻め手が守り手の三倍の兵数を確保しなければならない。
つまりこの城邑を攻め落とす場合、七千人くらい必要だってことだね!
チラリと後ろを見てみれば、うーんどっからどう見ても三千人を全く超えない人数しかいませんねありがとうございました!
摎サマはどうしたのかって?
摎サマはもっと大きな城を攻め落としに行っちゃったよ!
そのため私は別行動だね。悲しい。
ついて行けばいいじゃんって思うかもだけど、私が別行動をすることに意味があるんだよね。
まず、私の部隊は強い。
ちょっと前までは、私ありきの部隊だったけど、今ではガイン族も加わったことで一人一人の練度もそこそこに高い。
このおかげで、個別に行動させても問題のない部隊であると、認識されちゃったわけだね。
それに、騎兵の比率が他の部隊と比べるとそこそこに高い。それはつまり部隊の移動の速度にも影響してくる。
例えば、摎サマが敵の増援軍と交戦状態に陥った場合、私の部隊がその戦場に急行して背後を襲うし、私のところに増援軍がやってきても、足の速い私の部隊は即座に撤退することができる。
うーん、別働隊の条件である、強さと速さのどちらも満たしちゃってるね!
ということで一人寂しく、目の前の城邑を攻め落とそうとしています。
摎サマと一緒に戦えない恨み、お前たちで晴らしてやるからなー!
「じゃあ、盾構え。前進」
「はっ! 全隊前進ッ!」
角栄の号令の元、歩兵部隊が盾を構えながら、ゆっくりと前進を開始する。
弓矢がたくさん降ってくるからね! しっかりと構えておかないと死んじゃうしね。
ちなみに、私達は二千人程度だから、南側の壁からしか攻めてなかったりする。
だって、他のところをに兵を回す余裕なんてなかったしね!
そのせいで、盾を構えきれなかった部下が、あり得ないくらいの矢に串刺しにされてる。
どうやら力尽きた兵士が盾を落として、そのまま串刺しにされたみたい。
うーんこれはきつい戦いだね。
でも大丈夫!
盾兵の中に私の私兵たちを混ぜ込んでおいたからね!
しかもその指揮官はあの蛮兒だ!
みんなのドラ○もんこと蛮兒だよ!
きっと彼ならなんかすごいことして、戦況を打破してくれることでしょう!
と思ったら、盾兵の間から、すごい勢いで何かが投擲された。
あれは……槍だ!
すっごい勢いで投擲された槍が、壁上にいる魏兵を吹き飛ばしているのが、遠目でもわかる。
けど、よく壁上にまで届くよね。
数は百を超えてるから、きっと私兵全員が投げているんだろうけど、全員きっとオリンピク狙える。
よし、盾兵が壁の近くにまでたどり着いたし、私も行ってこよっと!
きっと壁上には数千の敵兵がいるだろうし、囲まれてしまうだろうけど、多数戦は野盗の殲滅イベントで踏襲済みなんだよね!
つまり問題なし。
「じゃあ、行ってくる」
「はっ! 御武運を!」
本陣にいる兵士たちが一斉に拱手をしてくる。
その整った動きに、私は満足しながら目の前の城を見つめる。
あそこには、いい人材いるかなー?