脳内に別の超有能キャラがいるのって、いいよね
001:「こんにちは紀元前」
この世界に生まれたときは、すごく大変だった。何せ元々、平和というぬるま湯に浸かっていた日本人だったのだ。それが気がつけば修羅の世界に生まれていました。しかもイエスキリストすら生まれていない紀元前の世界でしたとか、絶望でしかない。
倫理観が欠如した世界に絶望した私は、酷い目にあった。具体的な内容は言いたくないけど、なんか殴られ蹴られの虐待が優しい抱擁に感じるといえば、なんとなく分かってくれるだろうか。
正直過去のことなんて思い出したくもないし、あんなことがあったなんて認めたくもない。というかあの時の私は心がだいぶ疲れていたから、ほとんど記憶なんてないんだけどね。まあそのせいで変な力に目覚めたりもしたし、ほんとにあの頃の私はなにしてたんだろうね。
そして気がつけば、戦場で戦ってました。うん、私もびっくりだよ。気がつけば百人くらいの部下がいるし。いや本当になんでなの。
だけど、戦っているうちになんとなく分かってきた。戦争は、とても楽しいのだ。
別に殺人の快楽に取り憑かれたとか、そういうわけではないし、虐殺することで優越感を感じるとかそういうわけでもない。ただ私が感じたのは絶対的な安心感である。
今まで糞みたいな文化のせいで糞みたいな思いをしてきた私にとって、勝者こそ全てという戦争は、とても安心できるものなのだ。自分を見下す敵を殺せば褒められる。力を示せば従ってくれる。ああ、なんて単純なのだろう。そしてこの単純さが愛おしいとすらも思える。私にとって、戦争は生きていく希望だ。力があれば全て叶えることができる。名誉も金も、そして何より安寧も。
そうして私は死に物狂いで戦い、手柄を挙げて、いつの間にか千人もの部下を持つようになった。
いや、多すぎな。
「風鈴様、摎将軍から伝令です!」
「ん。なに」
千人将になった初戦。今までの倍にまで増えた部下をどうしようかと思い悩んでいると、なんと上司から伝令が来た。
摎将軍。見た目とっても可愛い美少女なのに、戦場ではえげつないほど攻めに攻めて攻めまくる将軍。見た目どおりお淑やかなら女の身で将軍にまで上り詰めることはできないだろけど、それでもやんわりとした戦法を使うのかと思っていた時の衝撃は今でも忘れることはできない。あんな攻め、私は受けたくないけどね。
「はい。今回の陰晋攻略の件で話すことがあるから来るように、とのことです」
「ん。ありがと」
んー何かあるのかな。
もしかして魏火龍でも出張ってきたのかな。
そうなったら超ビックニュースだよね。
ワクワクしちゃうよ。
〈魏火龍が出てきたら、キツくなりますね〉
(ナチュラルに心読むのやめてください)
〈仕方がないじゃないですか。私たちは一心同体。読みたくなくても読めちゃうんですよ〉
と、心の中にいる参謀ちゃんが呟く。実は私は彼女がなんなのかはわからない。だけど、いつの間にか私の頭の中に住みついてて、いろいろな助言をしてくれるから参謀ちゃんと便宜上呼んでいる。もちろん参謀ちゃんが何者か気になった私は君は誰なの、と問い掛ければ、私は貴女そして貴女は私とかいう哲学的なこと言われてから理解するのはあきらめた。
私に哲学的なこと言われても、その、困る。私は参謀ちゃんほど頭は良くないしね。けど、使用している頭は同じなわけだよね? なんで差が出るんだろ。不思議だね。
〈マスター、人には得意不得意があります。そしてこれは先天性なことがほとんどです。後天性として身体的な不自由が挙げられますが、こと軍略に至っては〉
(おけおけ。とりあえず分かったから。落ち着いて参謀ちゃん)
うん。参謀ちゃんの言ってることはなんとなくわかるけど、私にそんな概念的なこと言われても困るって。私は戦うことしか能のない人間なんだから。少しは加減をしてほしいよ全く。
さてと。今回の戦争相手はなんと魏です。みんなは魏って知ってるかな? 三国志の曹操が作った国じゃない。そっちは数百年後の国。
こっちの魏は春秋戦国時代、つまり紀元前四百年とか三百年とかのお話に出てくる国家だ。元々は晋という巨大な国家だったんだけど、色々あって三カ国に分裂。そのうちの一つが魏という国だよ。前までは最強の国家として名高かったけど、今では楚と秦に追い越されちゃった感じかな。
とはいえ元超大国。軍の質は中華でもトップクラスであり、数多くの名将を産み落としてきた化け物国家だ。そんな国に今回、私の祖国である秦が喧嘩を売る。まあ楽な戦争には絶対ならない。嫌だなー。
それに今回は陰晋攻略戦なわけなんだけど、ここって魏の対秦防衛の要所である。具体的には、陰晋を中心に防衛する様々な城塞の補給拠点兼司令本部だ。だからこそ私の祖国である秦は、ここを攻め落としたいってわけだね。
けどまあ普通はそう上手くいくことはない。何せ魏にとって陰晋は、秦方面の司令本部なわけだ。そう易々と落とされるわけにはいかないので、彼らは文字通り死に物狂いで防衛してくる。
それに長期戦になれば不利なのは私たち秦軍の方である。陰晋は敵地のど真ん中と言ってもいい。
補給隊はどうせ敵に襲われて、終了だ。つまり短期的に敵の要所である陰晋を、攻め落とさなければならないわけだ。いやキッツ。
「摎サマ、用事はなに?」
さて、やって参りました上司のお部屋に! まあお部屋といってもモンゴルのゲルみたいな、簡易的な天幕なわけだけどね。これ昼だからいいけど、周囲が真っ暗になる夜に中で明かりつけたら、外から自分が何やってるのか丸見えじゃね?
「オィ! テメェなんだその口の聞き方は?」
なんかハゲのおじさんがキレてる。別に何? だけでもいいじゃん! 私コミュニケーション苦手なんだよ! そんな私が頑張って紡いだ言葉にキレなくてもいいじゃん。だけど相手は同僚。しかも千人将の私よりも偉い三千人将。ここは穏便に丁寧に言い訳をしよう。私はできた人間だからね!
「うるさいハゲ」
「ああ゛? テメェ殺す」
ギャー!? 殺すぞとかいう脅しじゃなくて、殺すっていう宣言になっちゃってる。
というか私の口は一体どうなってる!? なんで穏便なこと言おうとしたら暴言が出てくるの?
あれか? 逆に暴言言おうとしたら穏便なことでも言えるのかな?
「頭、弱い」
「……」
〈さすがマスターです。火にガソリンぶち込みましたよこれ〉
ギャ──!
全然そんなことなかった! しっかりと暴言出ちゃったよ!
というか無言で金棒を手に持たないでくれませんか? そんな金棒、桃太郎でしか見たことないんだけど。それ絶対当たったら体の原型なくなるよね? というか無言で金棒持つとか結構キレてる? マジギレ? 流石に短慮すぎだと思うんだけどね?
「はい、二人ともそれまで。というか風鈴が悪いよ」
「……チッ。お嬢に感謝しとけよクソガキィ」
「うん。……ごめん」
金棒のおじさんごめんじゃん。
それと摎サマ、ナイスタイミング!
やっぱり持つべきは優秀な上司だよね!
「さて、風鈴が来たから話をするよ」
うん、と一つ頷いた摎サマはそのままの雰囲気で口を再び開く。どうやら本当に魏火龍が出てきたみたい。魏火龍。別にドラゴンみたいな幻の生き物というわけではない。この魏火龍は特別な称号だ。位は将軍よりも上。つまり秦の大将軍みたいな立ち位置にいる人間のことを魏火龍という。
大将軍、魏火龍のえげつないことは、そいつが攻めてくるというだけで降伏する軍がいたりするほどの影響力だ。ちなみに大将軍になるためには、百個くらいの城を落とせばいいのだという。
〈魏火龍もそれと同レベルの実力を有していると思われます〉
(つまり敵は超強いってことだね。じゃあ適当に突撃するだけじゃダメってことじゃん)
〈そもそもマスターは千人将なのですから、そろそろ用兵というものを覚えたほうがいいと思いますが〉
(参謀ちゃんがいるから、いいかなって)
〈はぁ……〉
なんかすごい呆れたため息をつかれた。不本意である。しかし、これには私にも言い訳というか理由がある。
戦場はゲームとは全く違うものなのだ。当然だろとか思う人は、全く分かっていない。
ゲームは常に上から見下ろす視点なため、状況判断はしやすい。
けど現実は全く違う。パッと周囲を見ただけでは、何がどうなっているのかわかるはずない。なぜなら私より背が高い人が周りで戦っているせいで、何がどうなっているのか全くわからないからだ。
そりゃそうだよ。
私はまだ十六歳。身長は165はあるけど、私の部下たちはみんな体が筋骨隆々すぎて190は超えてる。デカすぎるでしょ。その体をどうやって作ってるんですかね。まだ紀元前二百年とか三百年だよ? プロテインはどこから手に入れてるねん。
まあそんなわけで用兵を学んだとしても、私はそもそも周囲を確認する術自体がないため、用兵を学んだところで無駄だと思うんだよね。
(というか今気になったんだけど、参謀ちゃんってどうやって周囲の戦況を把握してるの?)
〈それは周囲の状況からです〉
(え、けど参謀ちゃんと私は同じ体使ってるんだし、無理じゃない?)
〈いえ、開戦前に敵味方の”流れ”を数千万通りほど予測し、周囲の動きでどの”流れ”なのかを絞り、その中の最悪に備えながらお伝えしているだけです〉
(え、コワ。本当に私の頭使ってそれやってるの?)
〈逆にマスターの頭以外のどこ使えというんですか〉
えぇ……。ちょっとドン引き。つまり私が相手している敵によって、ああ左押されてるんだなとか、目の前にこの敵兵が来るならこういう”流れ”になっているんだな、ってことを予測しているってこと? 参謀ちゃん化け物では? ちょっと体の主導権いる?
〈いえ、私は武術の方はからっきしですので〉
いや、なんか参謀ちゃんなら卒なくこなしてる未来しか見えないけどね。うん。私が自分の価値が肉体労働にしかないことを再確認している間にも、摎サマは淡々と今回の戦争の説明をしてくれる。
どうやら今回の戦争は私の上司である摎サマのまたさらに上司の人が来るらしい。将軍である摎サマの上司ってことはええ、はい、そうですね。大将軍閣下ですよ。しかもあの秦の怪鳥と言われている王騎大将軍が来るとのこと。あの人が来るならこの戦争勝ちじゃね?
〈いえ、魏火龍の誰が出てくるかで話は変わってくると思います。例えば大軍師と噂され、知略に長けている霊凰などがくれば、王騎といえど厳しい戦いになるでしょう〉
(そうなの? ならもしそのレイオーさんが出てきたら罠だらけの戦場になるってこと? それ嫌だなー)
「そして、今回出張ってきた魏火龍の大軍師がくる」
「アン? 誰だそれ」
「いやなんで知らねーんだよ」
「豪雷さん、あんたマジですか」
大軍師がくるらしい。いや本当にお疲れ様でした逃げ口はどこでしょう。あと金棒のおじさん、あなたさっき自分自身で摎サマに対する口の聞き方を注意してきたよね。なんで注意してきたあなたがそんな口の聞き方なんだろうね。うん。これはイラっときた。他の同僚たちも
「やっぱり、頭弱い」
「ああ? 糞ガキテメェにだけは言われたくねぇよ。オメェも知らねぇだろが」
「レイホーくらい知ってる」
「(
「いや風鈴、言うならレイオーな」
ふん。レイホーさん知らないとか頭弱い証拠じゃん。情報弱者男性じゃん。てかレイオーじゃなくてレイホーね。さっき参謀ちゃんに教えてもらったんだ。流石にさっきの今で間違える私じゃない。
〈マスター、
(……)
〈なので言うならレイオーと言っていた
(……なんで俊力のことを、内心ポニテおじさんって呼んでたのを知ってるの)
〈まあ、私ですし〉
(……ぐすん)
辛い。これじゃあ私がただただ恥晒しただけ見たいじゃん。うう。ナチュラルに私の心を読んでくる参謀ちゃんなんて嫌いだー!
「はい話戻すよー」
ポンポンと摎サマが手を叩けば、さっきまでガヤガヤしていた雰囲気が一気に静かになる。なんかね、摎サマの声って心に響くっていうか、なんか凛とした声っていうのかな? ざわつく心が澄んだ水みたいに落ち着くんだよね。まあ戦争では苛烈すぎるんだけど。さすが私の摎サマ。
「本当は私たちが奇襲的に攻め落とす予定だった陰晋は、魏火龍が出てきたことによって多分無理になった」
「確かそうならねーように、他んとこで魏を攻めてたんだよな?」
「うんそうだね。本来ならそっちに魏の目を向かせて、その隙に薄くなった防衛戦を突破する予定だった」
「だが、魏が思いの外早々に勘付いて、魏火龍という虎の子を引っ張り出してきた、と」
戦略レベルのお話を引き継いだのは、我が軍でも結構頭が働く
「だから今回の目的である陰晋攻略は中止……とはならない」
「んでだお嬢? そのギカリューってやつが、しかも頭のキレる奴が来てんだろ? ならちーとばかしキツいんじゃねぇの?」
確かに。そもそもの作戦自体が奇襲攻撃を前提としたものでしかない。つまり短期的な戦闘を想定されていた。それがいきなり敵の最高戦力が出てきてしまっては、短期決戦はかなり厳しくなったと言わざるえないだろう。
もし相手が武にものを言わせる将であれば、何かしらの対策は可能だったろうし、柔軟な戦術をとる王騎将軍の敵ではないだろう。しかし相手は王騎将軍と対等に渡り合える存在かも、と参謀ちゃんが言っていた人間だ。まず間違いなくこちらが短期決戦を望んでいることはわかっているだろうし、絶対にこちらを泥沼の戦争に引きづり込んでくるだろう。
そうなればもし勝ったとしても、秦軍には陰晋までの余力は残されていないだろう。
つまり実質こちらの敗北となる。
(予測されるのは、助攻と主攻の入れ替えかと)
「助攻と主攻の、入れ替え?」
「風鈴よくわかったね。その通りだよ」
思わず心の声が漏れてしまった。摎サマは目を見開いて驚いている様子。
「どう言うことだ、お嬢?」
「簡単にいえば、私たちは陰晋の攻略のため軍を進めるけど、陰晋の攻略は狙わない」
「……なるほど。つまり我々の囮として魏の南部を攻めている軍を囮として使わず、逆に我々が魏南部に進む軍のためにわざわざ魏北部に出張ってきた魏火龍を足止めする、と言うことですか?」
(え、そう言うことなの?)
〈……はい。この
(それ絶対本人の前で言わないようにね)
まあなんとなくわかったよ。つまり今回の私たちの戦争は敵の足止めではあるんだけど、顕著に足止めの動きをすると敵が南部に援軍を送るかもしれないから、主目的はあくまで陰晋攻略であり、そのつもりで戦争を進める、と。
ふ、複雑すぎる。誰がそんな高度なお話を数秒ですんなりと理解できんだろうね。
「詳しい方針は王騎様がやってきてから練るから、今はこのくらいかな。と言うことで各自野営陣地の構築を始ること」
「りょーかい」
「ういーっす」
「ん」
あと
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
特に詳しい話をせずに、戦争が始まりました。
(なんか摎サマにハブられて悲しい)
〈まあ陰晋攻略戦が囮となった、なんて情報自体がかなり機密度の高い情報なので、これ以上の情報流出をストップさせた形でしょうね〉
(けど、だからと言って戦争の方針を大まかにしか伝えないって、元も子もないと思うんだけど)
そう。結局あの会議の後数日遅れて王騎将軍の軍がやってきた。早すぎ。そうして摎サマと王騎将軍が会議を開いて、その会議で決まった内容を摎サマが伝えるのかと思っていたら、なんと右翼の将として摎サマが配置されるという情報くらい。
正直色々な方針だったりを聞かされると思っていた私はすごく驚いた。まあ知ったところで私はそんなに理解できないだろうし、別にいいんだけれど。
〈大まかにしか伝えていない、という情報で相手を極度に警戒させる情報戦が始まっている、というだけですので気にしなくても良いかと〉
(うーん。確かにそうかも。知ったところで私がどうこうできる訳でもないしね)
〈それに王騎の軍と摎の軍は比較的顔馴染みが多いですからね。詳しく共有をしなくても連携程度はできる、と判断したというだけのことだと思いますよ〉
(いや私そこまで顔馴染みってわけじゃないけど)
だって私が摎サマの軍に所属したのが……あれ、もうあれから三年も経つんだ。あの頃は本当に気がつけば摎サマの軍に所属してた。まあ記憶が曖昧になる程、死に物狂いで戦っていた私が百パーセント悪いんだけどね。
〈マスター、そろそろ出番です。今の所私たちの右翼軍は敵左翼軍に対して効果的に戦えていますが、そろそろ仕掛けてくるかと〉
(オッケー。ありがと)
戦争が始まってから二時間が経過。
陰晋攻略軍の右翼軍二万は、魏の左翼軍四万を相手取りながらも、優勢である。だからこのまま放置しておけばいいんじゃないかと思うけど、どうやら参謀ちゃんは動くべきと判断したらしい。なら私に異存はない。頭脳担当の参謀ちゃんが動くべきと判断したのなら、体担当の私はただひたすらに突撃をするだけである。
「
「ハッ……いつでもいけます」
私と同じく、隣で騎乗していた
(参謀ちゃん、どこに突撃すればいい?)
〈そうですね……多分敵は左に配置されている
(その心は?)
〈目に見えてこちらの士気を挫こうとした時、あの巨体は目立ちますからね〉
(あー、確かに
えー
「行こうか、
「ハッ……」