とりあえず火の巨人、お前は許さん。
〈マスター、韓軍が大きく動き始めました〉
参謀ちゃんからそんな報告が来たのは、太陽が沈みかけたその時だった。
あと数十分もすれば、きっとあたり一面は真っ暗になるであろうその時に、どうやら韓軍は動き始めたらしい。
うんうん。今まで動揺と悲鳴しかあげることのできなかった韓軍が、ようやくまともに動き始めたことに私はとっても感動している。
とはいえあまりにも遅すぎるとは思うけれど。
普通もう少し早めに決断を下すくない? 動きが鈍すぎてお茶会でも開いているのかと勘違いしそうになったよ。
それにしても、やっぱり脆いなぁ韓軍。まあ六大将軍の一人である白起さんにまともな将官をぶち殺されたのが原因だろうけど。
白起大将軍パないねやっぱり!
んで、ようやく思考停止状態から立ち直った韓軍は、どうやら右側に重点を置いて攻勢をするつもりらしい。
さっきまで生娘のように震えることしかできてなかった韓軍が、なんともまぁ勇ましいことで。
ただ、少しだけまずいのがこのままだと右側に走らせた蛮兒が死ぬかもしれないと言うこと。
どうやら韓軍は中央付近を突き進んでいる私たちを無視し、余剰の軍全てを右へと集中させているらしい。
なんでそんなことするんだろうって思ったんだけど、まあ敵なりの最後の意地って参謀ちゃんが言ってた。興味ねぇ。
ところで、これって蛮兒助けた方がいい感じ?
〈そうですね。流石に蛮兒も疲労が溜まっていると思われますので、一万以上の軍と正面衝突してしまえば半々かと〉
(ふーん。……蛮兒って死なすには惜しい?)
〈そうですね。簡潔に言うと惜しいでしょう〉
惜しいんだ。けどうーん。目の前に敵軍の司令部があるわけだし、どうせならここを叩き潰したいよね!
だって、そこさえ潰して仕舞えば韓軍なんて烏合の衆になってしまうしね。
あの大斧を振り回してる蛮兒が死ぬ瞬間はあまり想像できないしね。あんなのどうやって殺せばいいんだろ。
「……蛮兒に救援は送らない。このまま突っ込む」
「ハハッ!」
「速度上げろォォ!」
「こいつら、まだ来るぞッ!?」
「ここを抜かれるともう持たん! 死守せよッ!」
何やら目の前の韓軍がわちゃわちゃと言っているけど、遅いんだよね行動が。
そんな揺らいだ覚悟で私に勝てると思ってるのかなー。なんだかむかつく。
じゃあアクセル全開にして突撃しよっかな。
周囲に群がっていた韓軍兵士達を曲剣であしらい、私は前方で突撃をしているガイン率いる青鈴隊に追いつく。
「ガイン、獲物は目の前。行くよ」
「ハハッ! 突撃ダァァァァ!」
「オオオォォォオオォ!」
「く、来るぞッ! 槍構えろッ!」
チラリとガインたちの様子を見てみれば、かなり疲弊をしているみたい。
まあ開戦初っ端から最前線で突破口を切り開いていたから、そりゃ疲弊は積み重なるよね。
けど疲弊はしているけどまだまだ余力はあるみたい。
現在進行形で韓兵を吹き飛ばしながら前進してる彼らを見てほしい。元気一杯すぎて軽くドン引きだよね。
最前列の連中とか、片腕ないのになんで兵士の上半身を吹き飛ばせているんだろうか。
頭とかに矢が突き刺さってる人もいるし、多分彼らは人間辞めてるね間違いない。
叫んでいる言葉ももはや言葉っていうか、何かの呪詛かと思ってしまうくらい禍々しいことを呟きながら突撃してる。怖い。
まあそんな彼らの最後の献身のおかげで数千強いた最後の韓
そして殲滅しようとしたところで、何やら本営から出てきた将校が停戦を持ちかけていた。
停戦って、なに……?
「待ってほしい! 今左翼にいる貴殿の部下は我が軍に包囲されている。そこで提案なのだが、ここで停戦とし、互いにこの地から引き上げるというのはどうだろうかッ!」
……?
何を言っているんだろうかこいつは。
私たちは今、戦争をしている。それをわかっているのかな。
戦争というのは、命を賭ける場所。
誰もが家族や愛する人、名誉、正義、金、野望、矜持、宿命のために命を賭ける場所だ。
死んで人生全てが無に帰すかもしれない。そんなリスクを背負ってみんな戦場にいるのだ。
意味のある死と生を求めてお前たち韓軍の兵士たちも、私の大切な部下達も死んだのだ。
つまり
今蛮兒から救援要請が来ないのも、私が
「どうか頼むッ! 戦場では負傷者の回収すら行われておらん。まだ助かる命があるのだッ!」
そして、戦場で倒れている
だというのに、肝心の
ああ、イラつく。
そりゃそうだ。一部腕の立つ韓軍兵士がいたのに、上がこんな愚鈍だったからあんなに動きが鈍かったのね。
なんだかムカついてきた。
よし、殺そう。
「ガイン、戦いに水を差したアイツは、絶対に殺せ。ここにいる腰抜け共も、殺せ。全部殺せッ! 戦いに勝者以外はいらんッ!」
「ハハッ! フフ、バカナ将ダ。主ガココマデ怒ルノハ珍シイゾ。皆殺シダッ!」
「殺セェェェ!」
「オオォォオォォ!」
「な、部下を見捨てるのかッ!」
いや、見捨てるじゃなくて私に期待してるんだよ蛮兒は。
それに死にゆく兵士の期待を裏切った
絶対その首切り落とす。
どうやら私が提案を飲むと思っていたのか、あっさりと韓軍本営は陥落。
バカをほざいてた総大将とその取り巻きたちはしっかりと晒し首。
王都軍の大旗を燃やしてやれば、蛮兒を包囲していた韓軍左翼の軍はすぐにその包囲の陣形を崩して後退し始めた。
最初から後退することを考えていたのかってくらい早いんだけど。
〈マスター……大丈夫ですか?〉
(ん。大丈夫。ありがとね)
〈いえ。……それにしてもまさか一日で撃破できるとは。想定以下もいいところです〉
(ねー! これ下手したら王都軍よりも地方軍の方が強いまであるよ)
〈否定できませんね。では、後退を。追撃なんて考えないでくださいね? 普通にもう軍として限界です〉
(えー。わかった。引き上げる)
私的にはもう少しやりたかったけど、周囲でどんどん力尽きていってる青鈴隊の兵士たちを見て仕方なく後退を決断する。
流石にこれ以上戦えば全員死ぬってのはわかるしね。
「ガイン! 引き上げる」
「ハハッ! 引クゾ! 気ヲ緩メテ死ヌナヨ!」
こうして、王都軍五万VS私たち五千の戦いはたった一日で終結した。
王都軍の被害はたった一日で一万が死亡。その後重症を負ったものから次々に息を引き取ってゆき、最終的にその数は三万から四万にまで膨れ上がったらしい。
対して私たちはその場で千人強が死亡。そして摎サマと合流する間に千人くらい死んじゃったから、合計二千五百人くらい死んじゃった。大体半分だね!
キルレシオは凄まじいことになってるけど、せっかく育ってきた精鋭の半分を失った私にとって、そのキルレシオは正直素直に喜べないかな。育成に数年かかった精鋭がぁ!
あ、ちなみに蛮兒はしっかりと生きてたし、黒剛や角栄も生きてた。黒剛は片目がない状態でよくあれだけ死闘をすることができたよね。風鈴ちゃん感心しちゃった!
ていうかぶっちゃけ蛮兒は生きていても、あやっぱり? って感じだけど黒剛や角栄はよく生きてたね。ちょっと風鈴ちゃん見直したかも!
「黒剛、角栄。お疲れ。よく頑張ったね」
「風鈴様! うう、なんと勿体ないお言葉ッ!」
「この角栄、不覚にも涙を禁じ得ません。御前だというのに、申し訳ありません……!」
え、なに。
黒剛はなんかうん。前からこんな感じだったけど、角栄キミまでどうしたの。
確かキミ、中央から送られてきた監視要員だよね?
なんで蛮兒や黒剛と同じ雰囲気醸し出し始めてるの。まあいいけど。
だって、私に黒剛や蛮兒は私に全幅の信頼を置いてるし、その人数が増えるのは私としては嬉しい。
……私についてきてくれるんだ。少しくらい労わってあげよう!
「ん。本当によく頑張った。今後も、期待してるね」
「御意ッ! どこへなりともお供いたしますッ!」
「御意。この角栄の奮戦、どうかご期待ください!」
肩ポンしてあげたらすごいお目目キラキラし始めた二人。
かわいいね!
まあ側から見たら少女相手に笑顔でお目目ギラギラさせてるおっさん二人とかいう、犯罪臭しかしない絵面だけどいいや。
さて、部下のメンタルケアをしながら摎サマの元へ戻った私。
そんな私の目の前には、煙が燻っている陽城が。
え、なに。
私摎サマと別れてから一週間くらいしか経ってないと思ってたけど。なんでもう陽城落ちてるの?
ていうかよく見たら火はだいぶ消えてるから、これ陽城占領してから日数経過してる。つまり実際に陥落させたのは二日か三日前ってことか。
私だけでも攻城戦に参加して、摎サマの見えるところで活躍しようとしたのに。
なんで私に連絡来なかったんだろうって思ったけど、そういえば私その時、洋呈平原に移動中だったし仕方ないのかもしれない。
まあ終わったのならしょうがないよね。
ということで未だところどころで火が立ち込める陽城に入場。
と思ったら、何やらすごい勢いでこっちに向かってくる集団が。
あ、摎サマだ!
「鈴!? なんでここにいるの!?」
「ん?」
あれ、確か伝令を送ったはずなんだけど。
どういうことだろ? もしかして伝令兵が韓軍の網に引っかかって殺されたかな?
放った伝令兵少なかったし、もしかしたら届いてなかったのかも。
「ていうか、鈴ちょっと怪我してない!? 脇腹とか足とか! 大丈夫?」
「お嬢落ち着けって。……とはいえ俺も気になるな。韓の王都軍はどうしたんだよ」
「ん。勝った!」
「あ? それはどういう」
伝令が届いていなかったのなら今伝えればいいや。
というかむしろ今伝えることでサプライズ感増すし、結果的には良かったかも!
よし黒剛! あれ持ってきて!
私の視線で何か察したのか、黒剛は手に持っている桶を渡そうとしてくるが、少し困った顔をしている。
まあ困った顔をしつつもすぐに私に馬を寄せて手渡してくるあたり、彼も考えるよりも先に行動するようになったんだなって少し感じた。
ってそんなことよりコレコレ!
これを手渡するために、本隊を置いて少し飛ばしながら陽城の中で馬を走らせたからね!
こうやって手渡せて嬉しい!
「これ! 摎サマに!」
「え……っと、これは何?」
「首!」
「首……? え、っと。これは、え、首?」
ニコニコとしてた摎サマの顔が何やらピシリと固まる。
あれ、もしかして、嬉しくない……?
確かにそいつクソみたいなやつだったけど、一応韓王都軍の総大将の首だし、そこそこいいプレゼントだと思ったんだけど……。
ちょっと不安な表情を浮かべていた私をフォローするためか、黒剛が恐る恐るといった風に説明をしてくれる。
「摎大将軍。横から失礼します。それは風鈴様自ら討ち取られた、韓王都軍の総大将の首です」
「え」
「は? おいクソガキお前もしかして、いや、なんとなく察してるが、ふぅ。……どんくらい勝ったんだ?」
「? 半分くらい?」
「正確には確実に討ち取ったのは一万ほどであり、与えた被害を概算すると三万は超えるかと」
「なるほどなァ。おいお前。軍の出立は一時中止だ。再編は続けとけ」
「はっ!」
何やら深いため息を吐いたかと思うと、背後に控えていた兵士に指示を出す豪雷さん。
けどそんなのは私の耳には入ってこない。
摎サマの表情が見えないのが不安。
そう思っていたら、摎サマは私の体を引き寄せてぎゅっと抱きしめてくれた。
「よかった。無事で」
「……ん!」
嬉しみ!
プレゼント喜んでくれないかと思ってたけど、そんなことなくてよかった!
えへへ、ただいま、摎サマ!
とまあそんなこんなで摎サマと合流した私は、部下たちには陽城で休むようにだけ指示をして、摎サマについていく。
どうやら摎サマは私に援軍を送る準備を整えていたらしい。まあ私はこうして帰ってきたわけだから、出撃する必要がなくなったわけだけど。
ただ、摎サマからは結構怒られたし心配もされた。だって部下の半数も失う被害を被ったし、何よりいつも無傷で帰ってくる私がかすり傷とはいえ怪我を負って帰ってきた。
心配するのも仕方ないかもだけど、本当にかすり傷だし、問題ないんだけどね。
そこから少しして韓国と停戦交渉が行われた。
陽城は秦の領土として割譲されるらしいけど、私がせっかく陥落させた明城は韓に返還されることになったのは残念だった。
まあ明城は韓の内部にポツンと存在する城だし、わざわざ飛地を秦が獲得しても旨味が少ない。
そもそも明城を私が陥落させたのは韓王都圏からやってくる王都軍を奇襲的に潰す際に、一時的に駐屯地として使うためだ。だからまあ別にいいんだけどさ。
秦のものとなった陽城には中央から送られた文官達と有力貴族の所領となった。
合わせて減った人口を増やすために内地から民草も輸送されるとのこと。
私たちはその間治安を維持しつつ、中央からやってきた正規軍の到着を確認次第、そのまま休養を取るため本国に戻されることになった。
せっかく摎サマが陥落させた大きな城なのに、中央で何もしてない貴族達がいい顔をするのは気に入らなけど、摎サマは文句を言ってないし、ここは一つ我慢をしよう。
不満を抱えつつ王都である咸陽に戻った私たちはそのまま大王様に謁見。
摎サマは新しい領土と爵位、沢山のお金をもらってた。
そして十倍の敵を見事撃退した私には、槐村の周辺領地を正式に私の所領として、名称も天水っていう名称を大王様からもらった。まあいつまでも槐村じゃダメだしね。天水、結構響きは好きかも。
あと五千人将から正式に将軍になった。まだ二十歳になってないのに将軍になっちゃったよ!
摎サマも二十歳になる前に将軍になってたから、お揃だ!
まあそのせいで中央の貴族達がハイエナのように近づいてきた。正直めんどくさい予感しかしなかったけど、槐村改め天水がある北西部の貴族達とは仲良くするべきっって参謀ちゃんが言ってたから、最低限ニコニコと話しておいた。偉すぎる私。
ちなみにそのせいで一ヶ月くらい王都に拘束された。クソが。