アンキングダム   作:ラクらる

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唐突な第三者目線


003:「なぜお前がここに!?」

 豪雷は風鈴(クソガキ)が嫌いだ。

 理由を問われたとしても豪雷は知らんとしか答えられないが、豪雷は風鈴のことが嫌いである。

 別に殺したいほど嫌いなのかというとそうじゃない。というより殺したいというそっち方面の嫌いではない。ではなんなのか。それは単純である。風鈴のことを認めたくないからである。

 

 他の人が聞けばお前の方がクソガキじゃねぇかと石を投げつけられるだろう。

 

 豪雷が風鈴を初めて見たのが今から三年前。豪雷がお嬢と言って慕っている摎が、将軍へとなった頃だった。将軍になる前ですでに一万弱ほどにまで成長していた摎の軍は、さらに数千もの兵員を獲得。そのせいで軍の再編成に一月を要したが、手に入れた力は絶大だった。

 

 もちろん軍量が一万六千と増えたことももちろんだが、何より大きかったのは摎一人で戦争を行えるほどの数になったことである。

 

 今までどこかの軍に所属する形で戦争をしていた摎だったが、将軍となった摎はついに軍を率いる総大将を担うこともあるということだ。そして、それによって戦場における摎の立ち位置はより重要なものとなったし、豪雷も今一度お嬢のために気を引き締めなければ! と一人盛り上がっていた。

 

 そんな時だった。風鈴という少女のことを知ったのは。初め豪雷は摎軍に幼い少女の百人将がいるという情報を聞き、どんな冗談だと思った。確かに豪雷の慕う摎も幼い頃から戦場に出てはいた。しかしそれは摎が王騎の使用人であり、さらに常人のそれとは圧倒的にかけ離れた才能があったからである。つまり摎はレアケース中のレアケース。そんな超レアケースの二人目がいるとは到底思えなかったからである。

 

 だから豪雷はその目で確かめてみようと、多分女に見える男であろうと予想を立てながら、その噂の少女がいる場所にまで足を運んだ。そしてすぐに踵を返した。

 

 豪雷は見た瞬間、あの少女もまた本物だとわかったからだ。だが、豪雷がすぐに引き返した理由はそれだけではない。豪雷が引き返した理由。それはあのままだとあの少女を殺すだろう、と豪雷の直感が告げていたからだ。

 

 まず少女の部下に、あの味方殺しで有名な蛮兒がいたことに驚いた。

 

 蛮兒は大柄な男であり、体を鍛え抜くことで巨体を手に入れた豪雷に負けず劣らずの巨体を持っている。噂では一振りで十人余を切り捨てた、その巨腕で人間を引きちぎった、矢を十本その身に受けても翌日には復活した、などである。誇張を含んでいるところはあるだろうが、豪雷はこのほとんどを事実であると感じている。

 

 ここまで聞けばツワモノな男であるだけなのだが、この男意図的に味方を殺している。しかも二桁。そのせいで恨みを買い、仇討ちにあい殺された、という噂を聞いていた。しかし何故か今、少女の部下としておとなしくしているではないか。

 

 一体どれほどなのだ、その少女は。と、豪雷は期待を胸に少女を探す。やはり軍内で少女は目立つのか、豪雷はすぐに少女を見つけることができた。身長は154センチほど。豪雷より数十センチ低いその背は、庇護欲を誘われるほど弱々しく見える。

 

 だが、野生の勘とでもいうべきだろうか。常に闘争の渦中に身を置く豪雷にはそうではないことがすぐに理解できた。だからこそ、すぐに豪雷はすぐに踵を返したのだ。

 

 あれは確かに天才なのだろう。年端も行かぬ少女の身でありながら、放つ雰囲気は豪雷ですら身構えてしまうほどである。よくそこまで鍛えたものだと感心したかった。そこで終わらせてしまいたかった。

 

 だが、豪雷は見たのだ。見てしまったのだ。あの少女の瞳の暗さを。冷たさを。狂いを。そして豪雷はなぜそれほどの狂気を宿しているというのに、人としての形を保っている少女を恐ろしいモノに感じた。

 

 そしてそれと同時に怒りが、言いようのない怒りが豪雷の中で沸々と湧き上がる。何故そこまでして溜め込むのだ。なぜそこまでの境遇を。なぜこのような場所にまでやってきてしまった。そんな怒りが。彼女に対する怒りではなく、この世の理不尽さを。

 

 そこからことあるごとに豪雷は風鈴に突っかかっては止められる、そんな喧嘩をするようになった。別に本気で嫌いというわけではない。豪雷はただ、気に食わないのだ。そう、ただそれだけである。

 

 そんな豪雷はその日、死を感じた。本当に一瞬の油断だったのだ。いつものように罠の気配を感じて体を立て直そうとした頃には、すでに敵の将がすぐそばにまでやってきていた。相手にするべきではない。そう頭ではわかっていても、敵左翼の将が目の前にいるのだ。ここで引けば絶好の機会を失う。だからこそ豪雷は残った。一騎打ちに勝機を見出したのだ。

 

 しかし敵将は一騎打ちを軽く拒否。自身の率いる直下兵と共に豪雷を圧殺しようとした。もちろん豪雷は並の将ではないため、近づく軒峰の直下兵を金棒で吹き飛ばすが、その隙を見逃す軒峰ではない。軒峰の矛術は豪雷の棒術と比べると多少劣る。いくら体格は同格のように見えても、その身に宿る技はどうしても豪雷に上がるだろう。

 

 そして軒峰もまた、しっかりとそのことを理解していた。理解していたからこそ、中央からも精兵を引き抜いて、数で豪雷を落としにかかっているのだ。数で責められる豪雷は次第に傷を増やしていく。その傷一つ一つは大したことはないが、僅かな差で成り立っている戦いの均衡を崩すものとしては、十分であった。

 

 軒峰が二十も豪雷と矛を交える頃には、豪雷は手酷い傷をその身に受けていた。初めの頃は小さな傷によって僅かに俊敏さを落としていた豪雷だが、今はもう満足に全力すら出せぬ状況だろう。それでもなお、豪雷は戦意を落とさず、いやむしろより戦意を、闘志を燃えたぎらせている。

 

 そんな豪雷に軒峰は思わず感嘆してしまう。いくら敵将である軒峰とて、豪雷と同じく武の道を通る修練者である。豪雷の衰えぬ折れぬ意志を見て揺らがぬ同志はいないだろう。だからこそ軒峰は申し訳なく思う。せめて自分がより修練を積んでいれば、一騎打ちはなっていたやも知れぬ。すまぬな豪雷よ。決して口には出さぬが、軒峰は少しばかりの罪悪感を抱え、豪雷に最後の一撃を加えようとしたところで、豪雷が唐突に動いた。

 

 軒峰は一瞬豪雷が仕掛けてきたかと思ったが、そうではないとすぐにわかった。

 なぜなら豪雷が軒峰の近くから身を引いたからだ。それも誘いではなく避けるように。軒峰もすぐに嫌な予感を察知し体を引けば、すぐ目の前を轟音と共に槍が突き抜けていく。

 

 なんなのだ。それが軒峰の感想だ。どこの誰がこのようなことを。軒峰が被害を見れば、自軍の兵士たち何人かが吹き飛ばされている。一体どれほどの豪傑が投げればこのようなことになるのか。というよりそれほどの豪傑がこの場にいるという情報はないはずである。軒峰は急いで視線を豪雷のそばにまで駆けてきた、騎馬へと目をむける。

 

 驚いたことにやってきた騎馬は少女だった。豪雷も軒峰も驚きに目を見開く。豪雷はなぜ風鈴(クソガキ)がこんなところにいるんだという驚愕。軒峰はなぜ少女が戦場にいるのか、そしてこのような少女のくせして自身が認めた豪雷よりも濃い雰囲気を纏っていることに驚愕。

 

 呆気に囚われている間にも軒峰の直下兵は新たに乱入してきた少女の兵士に苦戦をし始める。

 元々軒峰の直下兵はここまでくるために、陣地を突破してきており、それに豪雷らの相手をし続けていたせいで疲労が溜まっている。そのツケが今ここに出始めていた。

 

 動揺を立て直す暇もなく、軒峰の直下兵は次々と地面に叩き落とされてゆく。軒峰はタラリと冷や汗を流す。豪雷を討ち取るために奇襲をしたというのに、いつの間にかこちらが奇襲されそして危機的な状況に陥っている。

 

 もしや豪雷はわざとここまで追い詰められた風を装ったのかと軒峰は考えたが、豪雷の驚きようにその考えをすぐに否定した。で、あるならばこの少女は豪雷が奇襲されることはわかっており、あえて豪雷が危機に陥るまでタイミングを見計らっていたということになる。

 

 とにかく今は軒峰に時間がない。なぜならここに留まれば留まるほど、軒峰の直下兵は地面と熱烈な接吻をかますことになる。彼らは軒峰が大事に育ててきた大事な部下達だ。いつか自分のために死ぬにしても、今ではないと軒峰は思っていた。

 

 ならば、在すべきことは一つ。さっさと退却することであるが、将軍という立場が軒峰にそうさせてくれない。

 

 もしここで退却をすれば、まず間違いなく魏左翼軍の右は強く押し込まれるだろう。そして現在進行形で中央が大きく削り取られている。そうなれば見えてくる未来は魏の左翼軍は一気に厳しい立場となる。ではそれを防ぐためにはどうすればいいか。それは一つ。豪雷かこの少女の首のどちらかを手に入れるべきである。

 

 見たところこの少女は未だ若い。それに率いてきた兵数を見てもせいぜいが二千人将だろう。つまりまだ若い芽である。軒峰は考える。ここで豪雷を討つのと、成長すれば今後明らかに魏にとって不利益となる有能な将を殺すかを。思考に要した時間は僅かだった。というよりも考えるまでもない。

 

 今豪雷は深傷を負っている現状とどめを刺したいのは山々である。だがそれよりも、だ。今確実に若い目を摘み取っておくべきだと軒峰は脳内で決断を下した。

 

 そして軒峰の雰囲気の変化を豪雷はしっかりと感じとっていた。チラリと風鈴(クソガキ)を見ればこちらもまたいつものように無表情で剣を抜いている。息はとても整っており、多分万全の状態だろう。だが、豪雷が一番気になるのは、なぜ風鈴(クソガキ)ここ()にいるのかということだった。

 

「クソガキ、持ち場ァどうした」

「ん。そんなものない」

「あるわボケェ」

 

 息をある程度整えた豪雷は、視線を軒峰に向けたまま直球で尋ねる。すると風鈴は独断専行でここにやってきたというではないか。確かに風鈴はなんやかんや摎に甘やかされている節がある。これは豪雷だけではなく他のもの達もなんとなく感じていることであり、このせいで風鈴が若干軍内で浮いている原因でもある。まあ一番の原因は風鈴の配下達だろうが。

 

 とはいえ摎から贔屓されているというのも原因の一つであることは間違いない。そんな風鈴はよく独断専行をするが、今回は摎が右翼の将ということもあってか、皆ピリピリとした空気を纏っている。かくいう豪雷も柄にもなく緊張していた。自分の失敗が右翼の将である摎の評価にそのまま響くのだ。今までももちろんそうだったが、今回は右翼軍全体の成果が摎の成果である。つまり質は雑多なくせして軍の根幹となった新兵を用いるのは、苛烈であり電撃的な戦術を得意とする摎軍にとって、かなり致命的になりかねない。

 

 そういった理由で緊張していた豪雷だった。実際想定外にあい、豪雷は討ち死にしそうであったし、緊張していたのは間違いではないし正しかった感覚と言える。

 

 だがこの風鈴はそんなこと知らんとばかりに独断専行を行なった。そして豪雷の命を救うという成果もあげている。そして何より風鈴の表情はいつもと全く変わらず無表情である。いつもと変わらず独断専行をし、いつもと変わらず豪雷に軽口で言葉を返す。

 

 イラっとする反面、どこか安心感すら覚える豪雷はすぐにハッとし首を振る。と、その時軒峰から話しかけてくる。豪雷から見ても表情から焦りの色が出ているのがはっきりとわかる。

 

「貴様、何者だ……!」

「……」

「チッ、話す気がないとは、舐められたものよ!」

「あ、おいクソガキ!」

 

 軒峰はすぐに矛を構えると、風鈴へと馬を向かわせる。

 

 それに呼応するように風鈴も馬を走らせる。咄嗟に豪雷は風鈴へと声をかけたが、なぜ自分が声をかけたのか豪雷でもわからなかった。だが、声をかけずにはいられなかった。理由は参謀ちゃんですら明確な答えを出すことはできないだろう。

 

 そして軒峰と風鈴が矛と剣を交える。少し離れた場所にいる豪雷も飛び散る火花を確認できた。周囲の兵士たちも唐突に始まった一騎打ちに意識を向ける。

 

 火花が飛び散った様から、これからさらに激しい撃ち合いが起こるのだろうと思っていると、いつの間にか風鈴は軒峰の後ろで馬を止める。

 

 豪雷は思わず叫ぼうと口を開ける。そこで馬を止めてしまえば軒峰の格好の的だ。すぐに体勢を立て直して馬を走らせるべきなのに、風鈴はまるで試合が終わったかのように剣を鞘へと納剣する。それと同時に軒峰の首元から血が吹き出す。

 

「将軍ンンンンン!?」

「軒峰様ァ!」

「おのれ! 軒峰様の仇を取れェい!」

「させるかよ」

 

 あまりの唐突な出来事に軒峰の直下兵達は泣き叫ぶ。かなり慕われていたのか、仇を討とうと風鈴に突撃する者もいたが、ことごとく風鈴の部下達によって切り捨てられていく。ほとんどの魏兵は自分たちの将が一合で斬り殺されたことが信じられないようで、戦場だというのに呆然と誰も騎乗していない軒峰の軍馬を眺める。

 

 それはそうだ。いくら豪雷と撃ち合いをしていたといっても、相手はその武によって成り上がってきた将軍だ。そんな将軍が敵の千人将という低い地位、何より体格差が圧倒的にある少女に負けたなど、誰が信じることができるだろうか。

 

「ん。じゃあ殲滅で」

「ハッ! 殺せェ!」

「オォォ!」

「死ねィ!」

「こっちのセリフだボケェ!」

 

 しかしいつまでも時が止まっているわけではない。特に風鈴の配下達は風鈴が一騎討ちを始めた時も、風鈴には視線を向けず敵の殲滅に前意識を向けていた。なぜならそれが風鈴からの命令であるがために。そして今、魏軍の兵士たちは棒立ち状態であり、格好の獲物と成り下がっている。であるが故に風鈴は命令を下す。殲滅せよと。

 

 すぐに我に返った魏兵達だが、彼らの将はすでに討たれ、精鋭兵もそのほとんどが地面へと倒れ伏している。

 

 いくら勤勉な魏兵とてこの現状を変える力は残されておらず、あっという間にその命を終わらせてゆく。一部の兵士たちは叫びながら槍を振るうが、安い発破は自己暗示にすらならず、容赦のない刃のサビとなる。

 

 気がつけば豪雷の周囲に魏兵は存在せず、気がつけば左の魏軍は半ば崩壊しかかっていた。本当にあっという間の出来事だ。現在秦右翼軍は中央が押しており、左の魏は崩壊しかかっている。これからこちらが攻勢をかければ容易く後ろまでぶち抜けるだろう。

 

 そして待っているのは魏の左翼軍の右と中央の壊滅。こうなってしまっては軍の崩壊は秒読みである。それを保たせるのが将軍というものだが、将軍は今し方風鈴に討ち取られたため、保つものが存在しない。つまり、魏の左翼軍の崩壊は、一人の少女の行動のもと、今ここに決定されたのである。これが開戦から数時間の戦況であると誰が信じることができるだろうか。否、信じる者などいないだろうし、左翼軍で何が起こったのか理解できるものもいないだろう。

 

 豪雷は先程まで自分が死にかけていたところであり、今その状況が逆転し、圧倒的優勢であることに、現実感がなかった。しかし、腹の痛みはしっかりと現実であることを伝えている。

 

「豪雷、下がってて」

「……余計な気遣いしてんじゃねーよクソガキ」

 

 目の前からはゆっくりと馬を進めながらこちらに近づいてくる風鈴。言っている意味はわかっている。だからこそ豪雷は驚いたのだ。まさか俺のことを心配しているのか、と。いつものような無表情だというのに、どこか憂慮するような瞳を浮かべていた。

 

 なんでだ。いつもお前に突っかかる奴になんで気遣ってんだ。豪雷は自分が少し情けなくなり、咄嗟に強気の返事をする。ここで正直になるのは、敗北であるかのように感じたからだ。少し風鈴は悲しそうな瞳を浮かべるが、すぐに馬を前に向けて突撃を開始する。

 

 豪雷は思わず手を伸ばそうとするが、すぐに諦め、どこか悔しそうに拳を握るのだった。

 

 

 

 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 魏軍本営は全戦場で同時の突撃を受け、火をついたような騒がしさに包まれていた。

 霊凰の読み通りではあるため予期されていたことではあるが、各所からの報告を受け、戦線の細かい指令を出すことで将校達のリソースは割かれていた。

 

 そんな時だった。悪夢であってほしい報告が来たのは。

 

「急報! 軒峰将軍が討ち死に! 左翼軍は崩壊しかかっているとのこと!」

「なんだと!」

「まだ始まったばかりだぞ!?」

「軒峰将軍は何をしていたんだ!」

「……」

 

 全くもって正しい感想だ。むしろこんな異常な報告を受けたというのに沈黙し、考えを巡らせる霊凰がおかしいのだ。さすが魏火龍というべきなのか、やはり魏火龍なのだなというべきか迷うところだ。だが、顔色は悪いため、決して落ち着いた心で考えているわけではないだろう。

 

 それもそうだ。軒峰が死ぬことは霊凰にとっては想定外もいいところである。秦右翼の将、あの王騎が可愛がっていると噂の摎という将軍のことは霊凰も知っていた。知も武も一級品であり、一武将では収まらない存在であろうこともわかっていた。そして軒峰がそう長くは持たないことも霊凰はしっかりとわかっていた。

 

 あくまで軒峰は摎の足止めである。三日程度持てば上々と考えていた霊凰だったが、見積もりが甘かったと後悔していた。まあ誰が予想できるだろうか。まさか開戦から数時間程度で討ち取られる軍の将軍がいるだなんて。これが予想できていたものがいるとするならば、風鈴の参謀ちゃんだけだろう。

 

「ええい、軒峰将軍め! あれほど摎とまともに相手をするなと霊凰様に言われておったのに!」

「いえ、それが……討ったのは女の将であったと……」

「何ィ!? それこそ妖の類だろうが! 戦場に将軍を討ち取る女がいてたまるか!」

「いるかもしれんだろうが!」

「いるかいないかなどどうでもいいわ! とにかく今は、左翼に援軍を送らねばならんだろうが!」

「いや、今更送っても無駄では?」

「送って持たせねば、本陣が挟撃されるのだぞ!?」

「……今王騎相手に隙を見せるわけにもいかない。それに左翼軍の兵士が死に絶えたわけでもないだろう。……まずは陣形を変えるぞ」

「ハハッ!」

「かしこまりました霊凰様!」

 

 霊凰は落ち着いて指示を出す。それもそうだ。たかが左翼軍の将軍が死んだだけであり、軍の根幹たる兵士たちはまだ残っている。であるならば最低限足止めはできるだろう。と霊凰は考える。そしてこれは正しい。魏の左翼軍は四万をこえる大軍である。中央軍と数千しか違わないその数は、存在しているだけで脅威となるだろう。

 

 だが、忘れてはいけない。軒峰を討ち取った風鈴は一千騎の騎馬兵で四万の将を討ち取ったのだ。同じく四万五千ほどの魏中央軍の将を、討ち取らない道理があるだろうか。風鈴の目的は戦場である。決して左翼軍(殲滅戦)などではない……とだけ追記しておこう。

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