魏兵が吹き飛ぶ。正確に言えば魏兵だったナニカが吹き飛ぶ。あたり一帯がバージンロードのように飾り付けられていく。ちなみにその光景を秦兵は歓声を上げながら追随してくるけど、魏兵は揃って不細工な顔を晒しながら聞き取れない叫び声をあげている。
というかその垂れ流してる鼻水はデフォルトなのだろうか。ちょっと聞きたいところではあるけど、目につく奴らは全部部下達がミンチへと変えていくし聞くことができないや。悲しいね。
〈彼らも自身が帰れぬ身であることが理解できてしまったから、という理由かと〉
(ん。まあ
〈いいんですよ。マスターはそれでいいんです〉
全然良くないよ。これで勝ったとしても、私部下の後ろについて行っただけの将になっちゃうんだけど。パッと見渡してみると、あと少しで魏の左翼軍をぶち破れそうな感じだ。
それにしても左翼軍の後辺りまで進んでから、途端に進撃速度が上がったよね。パッと周囲を見渡してみる。すると結構胴回りと頭しか鎧を身につけていない兵士や、なんならヘルメットしか被っていない兵士すらいる。なるほど。後方に軽装歩兵が配置されていたのか。
参謀ちゃん曰く、軒峰さんは摎サマ対策で前部に重装歩兵を固めて、傷を素早く補修できる軽装歩兵を中部から後部にかけて配置していたらしい。おー、完全に守りな感じの陣形だね。まあ摎サマは、そんなの知るかって感じで重装歩兵を突破しちゃってるけど。可哀想な軒峰さん。
そんな軒峰さんの涙ぐましい配置によって、今私たちが吹き飛ばしている魏兵は軽装歩兵がとても多い。おかげで私の部下達が爆発的な速度を生み出しているし、何より簡単に体が吹き飛ばされるせいで、遠くから見たら動く噴水にでも見えるんじゃないかな。まあそのせいで私の剣を振るう機会はなくなり、部下達の後ろでパッカパッカと馬を走らせるだけになっちゃったんだけどね。
暇すぎるし、私にも戦わせろー! って思ったけど、参謀ちゃん曰くこういう雑魚のつゆ払いは貴女に似合いませんとかなんとか、照れちゃうこと言われちゃって、おとなしく部下達の背中を追いかけてるんだけど、流石にそろそろ私自身も戦いたくなってきちゃった。
〈それなら、魏の中央軍強襲して見ますか? 多分今中央軍の矛先は王騎将軍の軍に向いているので、横はほぼガラ空きですよ。多分〉
(え、けど相手魏火龍でしょ? 最低限何かしら用意しているんじゃない?)
〈まあ今とさほど変わらない力量で、突破できるとは思いますけどね。それにまだ開戦初日です。初日から横をガチガチに固める将はほとんどいませんよ〉
え、そんな程度なの? なら行っちゃおうかな?
まあ確かに、敵もまさか左翼軍を突破してその日中に挟撃してくるとは思わないでしょう。きっと。けど、相手は大軍師とか言われてる魏火龍なんでしょ? 万が一を考えて防御してると思うんだけど。
〈ええ。中央軍を強襲するとはいえ、敵の本陣はそれなりに程度は兵がいるでしょうから、魏火龍の首は取れないかと。流石にそれをなすにはマスターの力量が足りません〉
(……ぐすん)
〈とはいえ、大いに揺さぶることはできるでしょう〉
あーなるほど。つまり王騎大将軍がレイオーとかいう魏火龍に付け入るための隙を作れっとことね? 確かに開戦初日に敵の本陣が急襲受けるだなんてびっくりするわな。色々乱れが生じるだろうし、知略によって戦を進めるレイオーにとって、それは致命的な隙となるわけだ!
〈はい。まあそれが普通はできないため、戦は長引くわけですが、今回予想外にも左翼の大将が出しゃばってきたので、奇跡的に実行が可能です〉
(ほんと、運が良かったよね! というか軒峰さんは一体何がしたかったんだろうね?)
いや本当に。軒峰さんは一体何をしたかったんだろうか。確かに最序盤で奇襲的に
豪雷が逃げないようにする餌って側面でもあったのかな? だとしてもリスキーすぎると思うけど。
〈まあ我らの将である摎サマも、前線で剣をぶん回していますけどね〉
(あー、まあ摎サマは例外だし、ダイジョウブ)
だって、摎サマは前線に立ってナンボなもんでしょきっと。というか摎サマって、陣頭に立っているのに、全体の指示とか色々出しているし、何気に化け物だよねあの人も。
さて、パッと前を見れば絶望的な顔をした魏兵たちの層も薄くなってきたし、多分あと少しで突破できそうな感じではあるんだけど、これって連戦行けるの?
だって私たちの部下達、いくらうまくいったとはいえ四万の軍勢と突破したんだよ?
まあ実際ぶち当たったのはそのうち一万くらいではあるけど、それでも一万だ。桁で言うと五桁。こんだけの数を突破して、さらに隣の戦場にまで馬を走らせて、本陣を急襲?
そんな体力部下達にあるの?
〈一応彼らは調教済みですので問題ありません〉
(え、調教?)
〈ほら、マスターに訓練方法を私が教えたじゃないですか〉
(あー、え、あれが調教だったの?)
〈ええ、そうですよ? とはいえ、流石に半数以上が中央軍急襲の時に死にそうですけどね〉
あー流石に半分くらい死んじゃうんだ。チラリと後ろを見れば、私の部下達がざっくり一千ほど。すごいね。ほとんどが脱落せずについてきてる。こんなにも優秀な子達ですら、中央軍に突撃したら半分くらいしか生き残れないんだ。
……うーん。けどここで中央軍急襲した方が、結果的に多くの秦兵を失わなくて済むわけだし、やって損はなさそう。と言うことでごめん部下達! 死に物狂いでついてきてね!
〈まあ事前に死ぬかもしれないと言うことは伝えていましたし、彼らも死場所を求めてマスターの元にまで集まったわけですし、いいと思いますよ〉
(え、私の部下達そんな暗い人ばっかなの? もっとホワイトな感じだと思ってた)
なんか今サラッとびっくり情報言われたけど、まあいっか。正直周囲に蔓延している血霧のせいで私の脳みそは化学物質でハッピーな状態だからね! 詳しいことなんて考えれない! とりあえず方向を左にある魏の中央軍方面へと変えよう!
成功するかはわからない。王騎大将軍が敵の動揺に気づくことができなければ、この急襲は本当に無駄になってしまうし、持ち場を離れて隣の戦場に行った私は後で摎サマからとっても叱られるなっちゃう。だから私のできることは一つだけ。王騎大将軍! 頼んだよ! 気づかなかったら戦争終わった後すごい恨むからね!
と言うことでやってきました魏の中央軍。見た感じは王騎大将軍が結構押してる感じ。だけど要所要所で魏がカウンターを仕掛けているらしく、戦局自体は若干魏優勢、と参謀ちゃんが言ってた。ほへーって感じだよねまじで。そんなんパッと見ただけでわかるわけないじゃん。
そんな冗談はいいとして。どーこに突撃しようかなー。
〈おすすめは鱗坊のところですね〉
(鱗坊って、誰だっけ)
〈王騎将軍の配下ですよ。ほら、あそこで魏の一団とぶつかってる軍の指揮官ですね〉
んーあーあの今まさに魏の歩兵団が引き下がり始めてるところか。魏の戦車隊が向かってるし、轢き殺そうとしているのかな。なら私はそこを助ければいい感じ?
〈ええ、それでいいと思います〉
なるほどなるほど。了解任せて。私じゃあの戦車は相性が悪いけど、きっと
魏の戦車隊は中華の中でも最強と恐れられている部隊だ。もちろんディーゼルエンジンによって動く走行車両のことではない。それが生まれるのは後二千年先のことだ。魏の戦車隊は言ってしまえば屋根なしの馬車だ。搭乗している兵士たちが矢などを打ち込む、高機動な遠隔ユニット。さらに車軸には刃が装着されており、側を通るものをミンチへと変えてしまう。左右にでかいミキサーがついてるイカした馬車ってことだね。
超物騒すぎる。
そんな戦車を私の剣では、ちょっと物理的にリーチが足りない。だからここで
「
「ハッ!」
と言うことでいざ実践するためにレッツゴー。
あれ、今更だけど、魏中央軍の本陣を攻撃しなくていいの? 元々はそういう予定だったよね?
〈本当に今更ですね。まあ本陣の場所はわかるのですが、敵の癖が未だ把握できてないため、迂闊なことができないんです〉
(うわ、じゃあ敵は本当にキレ者なんだね)
〈そのようです。……申し訳ありません〉
(大丈夫。探りを入れるためにも鱗坊を襲おうとしている戦車隊を攻撃するってことでしょ? なら任せて)
多分参謀ちゃんは敵の本陣がどこにあるのかはわかっているようだけど敵の癖、つまり敵が今何を重要視しているのかを見定めたいのだと思う。そのためにも敵の重要な一手を潰してどんな反応をするのか確認する必要がある。なら私ができることはただ一つ。魏の戦車隊を叩き潰すまでだ。
「!? 隊長! 左後方より敵の騎馬隊です!」
「バカな! なぜ我々がきた方角から敵の騎馬隊が来るのだ!?」
「数は千ほど! 転進しますか?」
「今戦車隊を転進させれば立て直しが難しい! 左の小隊を足止めに向かわせろ! 本体は鱗坊を轢くぞ!」
「オォ!」
何かを言っているのだろうということはわかる。けど何を言っているのかはわからない。だって結構離れているからね。
この距離で聞き取ることができたら、二千年後に潜水艦に乗るといい。きっといい乗組員になれると思う。
さて、なんか私たちに距離を近づけてくる戦車が数台。いやこっちは千いるんだよ? その程度で足止めになるとでも?
「
「ハッ! 槍投!」
「オオ!」
空気を突き破るかのような音と共に、私の後ろから十本ほどの槍が接近してくる数台の戦車隊に放たれる。戦車隊の人間はくると思っていた投槍に回避軌道を取ろうとするが、判断があまりにも遅かった。手綱を引っ張り方向転換をしようとしたその時にはもう、槍はすぐそこにまで到達しており、轟音を立てながら戦車を兵士ごと粉々に吹き飛ばす。
うん。私の部下達軽く人間を辞め過ぎなのではないだろうか。普通投槍程度であそこまでの破壊力を生めるわけがないじゃん。チラリと
いや君たちちょっと常識なさすぎるのでは。まあ別にいいんだけどね!
常識がどんなに無くても、私的にはとっても嬉しいことではある。何せ部下がとても強いということは、その分戦場で背中を安心して任せることができるということである。
ほとんどの武将に言えることだが、武術というのは基本的に正面戦闘を前提として練られているものが多い。例外として暗殺者どもは全方向に対して気を配っているが、例外はそのくらいだ。他は基本的に背中を預ける人間がいなければ、十全の力を発揮することはできないだろう。
だからこそ、私は部下達がしっかりと私についてこれるくらい強くなっていることに、結構嬉しかったりする。なぜなら、背中をより預けれる=より過激な戦場に身を置くことができる=最高という方程式が私にはあるからである!
みんなも楽しく戦争をするときは、連れて行く部下はしっかりと選びましょうね。
さて、とりあえず足止めの戦車隊は物理的に吹き飛ばしたわけだし、さっさと魏の戦車隊本隊を叩いて鱗坊さんを救うとしますかね。