アンキングダム   作:ラクらる

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 左右どっちがどっちか分かりづらくてごめんなさい


007:「ふん、所詮は残党一万! 気にするまでもないわ!」

 一晩経過して、おはようございます陰晋攻略戦二日目です。

 あのあと摎サマの胸元でぐっすりと眠ってしまった私は、摎サマの天幕で朝チュンを迎えることができました!

 やっぱり目が覚めた時に誰かいるっていうのは、心にとっても健康的だってことが、しっかりとわかったよ。

 

 そして今日の予定なんだけど、中央軍は前進。左翼軍はそのまま交戦し、右翼軍は脆弱となった魏左翼軍を突破し魏中央軍を強襲することみたい。

 つまり昨日と同じように左翼軍をぶち破って、中央の戦場にお邪魔をすればいいってこと。

 

 まあ私の部隊の戦闘力は二割くらい削れているから、昨日と同じ戦果はちょっとだけ厳しいかもしれない。

 

 ただ、魏軍は兵士というか指揮官を大きく消耗している。まず軒峰とその側近を討ち取ったし、中央の戦車隊と一万の歩兵団の指揮官もあらかた討ち取った。

 さらに摎サマもその他の指揮官を討ち取っているし、中央でも左右の丘から退却中大いに敵を削ったという報告もある。

 

 だから魏軍はある程度動きが鈍るだろうし、戦闘力が若干落ちている私の部隊でも十分戦果を上げることはできると思う。多分きっと。

 

 ただ、昨日摎サマに部下はここぞという時のために大事にしなさいって注意されたし、大人しくしてようかな。

 

 〈確かに私たちだけが大きな戦果を上げると、軋轢は生じますが、それは私たちが有能なだけなので気にしなくても良いかと〉

(んー、正直私も不完全燃焼だけど、そもそも相手は知将なんでしょ? 力技でなんとかなる相手じゃないし、今日は観察だけにとどめようかな)

 〈そうですか……〉

 

 なんか参謀ちゃんがしんみりとした雰囲気を出してる!

 もしかして成長しましたね……みたいなこと言いたいのかな?

 いや私ももう16だからね!

 とりあえず困ったら突撃してた小さい頃と一緒にはしないでくれるかな。

 

「風鈴様、第一陣が出ました」

「ん」

 

 ぼーっとしてたら第一陣が出陣していた。

 第一陣。この第一陣が序盤で一番重要である。相手の第一陣とこちらの第一陣が衝突する時、当然最前列では両軍の熱量がそのまま乗るので、爆発的なエネルギーを暴発させる。具体的に言えば、兵士が吹き飛ぶのだ。そのため最前列は互いに死ぬことが多い。

 

 そしてここからが重要なのだが、どちらが優勢となるかである。衝突後、どちらがより早く持ち直し、攻勢することができるかで、軍全体の士気が上がるかどうかが決まる。

 

 第二陣の兵士達的には、押されている状態で投入されるよりも当然こっちが押せ押せの状態で投入された方が気が楽であるし、逆に戦果を求めてより過激な攻めを生み出す布石となる。

 

 以上のことから第一陣は序盤で一番重要であると言えるんです。……って参謀ちゃんが言ってました。うん。私がこんなの自分で理解できるはずないじゃん。

 だって、押せ押せの状態でも、押されている状態でも、関係ないじゃん? 結局は敵を殺せばいいだけなんでしょ?

 

 って感じで私には軍全体の士気が上がる理由が今ひとつ理解できなかったからね。けど一応なんとなくはわかったし、今後私が軍を率いることがあったら第一陣の差配はそこそこ強い人を割り当てよっと。

 

 さて、戻って秦右翼軍と魏左翼軍双方の第一陣が衝突した。

 こっちは騎馬を含めた正規軍だけど、相手はどうやら軽装歩兵を投入しているらしい。そのせいで初手吹き飛んだのはあっち側であり、その後も魏兵の残骸が宙を舞う様子が遠目でも確認できる。

 

 さっきの士気の話が本当か気になって、チラリと私の部下達を見たけど、スン……としてました。

 あれ? って思って隣の部隊の人たちを見たら、こっちはオォ! ってなってたから士気は普通上がるものらしい。私の部下はしっかり私の部下だった。似たもの同士だね!

 

「第二陣ン、出ろォ!」

「オオォッ!」

 

 第一陣がぶつかってから少しして第二陣も出陣。この第二陣には摎サマや俊力(ポニテおじさん)、あと豪雷(金棒のおじさん)も出陣する。というかこの第二陣にほとんど全兵力が詰まってる。第一陣が三千だったのに、第二陣は一万二千。

 

 残されたのは私含めた二千の兵士のみ。いや摎サマ持っていきすぎな!

 まあ多分摎サマはここでキメに来ているんだと思う。三千を突っ込ませて相手がやっぱり柔らかくなっていることを確認できたんだろうね。

 

 そして第二陣が到着してからは、魏左翼軍は悲惨だった。摎サマの近衛騎馬隊は強力だし、何より俊力(ポニテおじさん)率いる弓騎馬隊が強すぎる。この弓騎馬、昨日戦った戦車と同じく高機動な遠距離攻撃ユニットなわけだけど、戦車とは違い弱点が圧倒的に少ない。

 

 戦車の弱点は車輪だ。ここを壊せば戦車は吹き飛んでしまうし、何より機動力が大幅に低下してしまう。それに戦車は図体が大きく、昨日私たちがやったように槍投で簡単に命中できてしまう。その点弓騎馬は高機動かつ戦車の弱点を全て克服している。

 

 とはいえ戦車にもメリットはある。それは少し訓練すれば誰でも戦車兵になれるということ。だって荷台があるわけだし、そこに乗って弓を射ればいいだけだ。

 

 だが弓騎馬はそうではない。弓騎馬は戦車と違い一人で馬の操作と弓の操作を行わなければならない。この技術を習得するためには数年の時間を要し、そこからさらに精鋭とするにはより長い時間が必要である。詰まるところ替えの効かない戦力というわけだ。

 

 とは言え戦闘力は絶大である。何せ言ってしまえば弓騎馬が一騎いるというのは、現代でいう装甲戦闘車両が一台いるということである。

 

 考えてみてほしい。弓騎馬を潰したいということで襲おうにも、相手は逃げるし、何より相手は逃げながら追っ手を殺すことができるのだ。

 

 基本的に弓騎馬隊には摎サマからいい馬を与えられているため、追いかけっこには相当な自信がある。つまり弓騎馬隊は相手を()()()()()()()()()()()ということだ。強力すぎる。

 

 そんな弓騎馬隊を率いる俊力(ポニテおじさん)が魏左翼軍の右側面をゴリゴリと削り取っている。右側……私たちから見れば左側は昨日私が突撃したことも相まって指揮官級の人間はほとんどが死滅。そのおかげで非常に鈍足である。

 

 よって弓騎馬隊にとって格好の獲物となるわけだ。俊力(ポニテおじさん)やることえげつないよね。次第に左は俊力(ポニテおじさん)の弓騎馬隊に釘付けになり、そちらへ軍の矛先を向け始める。

 

 そうなると中央を進撃中の摎サマは、魏左翼軍の右……つまり左側が予定通り薄くなっていることを確認し、当然進路を左にずらす。そうすると、あーこれは良くない。摎サマがさらに加速し始める。

 

 〈こうなると、止められませんね。先日と同じように魏左翼軍の右が崩れ始めていますし、魏左翼軍中央と右の魏兵の戦意はボロボロでしょうね〉

(想像以上に魏の左翼軍は脆いね。これはもう今日中に敵の本陣を王騎大将軍と挟撃できるんじゃない?)

 〈ええ、できると思います。とはいえ魏中央軍は戦力を一極集中しているため、そう簡単に抜くことはできないかと〉

 

 なるほどね。どうやら参謀ちゃん曰く魏中央軍は戦力を固めて強固な防衛陣地を築いているとのこと。やっぱり指揮官を削られたのが大きかったみたい。このまま広域に軍を広げたところで、柔軟な動きができない鈍足の部隊がたくさん生まれるだけである。

 

 王騎大将軍にとってそんな鈍足部隊は格好の餌であるし、それは魏火龍であるレイオーさんもわかっている。だからこそ戦力を集中させることで、レイオーさんが直接指揮をすることができる。これにより部隊の鈍足化が若干和らぎ、より長期的に戦うことができるというわけである。

 

(まあとは言え魏兵の多くは緊急で集められた兵士なわけでしょ? ずっと戦場に身を置いていた王騎軍ならそのままぶち破れそうだけどね)

 〈まあそうならないために魏の司令部は魏火龍を派遣しているわけです〉

 

 よくやるよね。私なら……無理かなあ。

 だってあの王騎軍だよ? 秦国でも最強と名高い大将軍とその隷下の軍は中華でも一位二位を争う精強さだと、私は思っている。そんな相手に数は多いとはいえ弱兵で相手取ろうとするレイオーさんぱねぇ。

 

 チラリと戦場に目を移せば、摎サマが魏左翼軍で生き残っている将軍二人のうち一人を討ち取ったらしい。第二陣突撃から二時間しか経っていないのを考えると、とてもスピーディーだ。まあ魏の左翼軍自体がほとんど崩壊していると言っても過言ではないし、魏も摎サマの突撃を受け止める余力がなかったのだろう。

 

 ただ、ちょっと気になるのが魏左翼軍の左側。あそこの部隊はなんやかんや一万弱はいる。そして何より戦意が高く、新しく入った豪雷さんが中央にズルズルと流されてしまうくらいには、頑強な抵抗を続けている。

 

 多分左側には基本的に弱兵が配置されるから、あそこには弱兵が多いはずなんだけど……見た感じ全身に甲冑を着込んでいる。

 ……もしかしてあれって正規兵? いや正規兵なら普通右の崩壊を止めるために配置するでしょ。

 

 〈どうせ崩れるならばと、あえて正規兵を配置しなかったのだと思います。そして理由はそれだけではないかと〉

(うん。だってわざわざ正規兵の消耗を避けるってことは、()()()()()()()使()()()()()()()から、だよね)

 〈はい。まさしくその通りです。つまり私たちの仕事は〉

(あの残ってる正規兵一万弱を潰せばいいんだね)

 〈はい。それだけでかなり大きいでしょう〉

 

 うーんそれはわかったけど、ここにいる戦力は二千のみだ。そのうちの三割くらいが私の部下達だけど、他は俊哲(似非軍師さん)の直下兵と本営守備兵だ。

 本営守備兵が三百くらいしかいないのは、摎サマがほとんどを持っていっちゃったからだね。

 

 俊哲(似非軍師さん)の直下兵は俊哲(似非軍師さん)を守る兵士だし、本営守備兵はその名の通り本営を守る兵士だ。どっちも私の一存で動かせるものでもないし、もし一存で動かせる状況だとしても動かしてはいけない兵士だ。

 

 何せ双方共に守りのための兵士だからね。攻撃には向かない。それにもっと言うなら私自身もここ本営を守るためにいるわけだ。そんな私が離れるわけにもいかない。もし離れるとしても、あの魏左翼軍左の塊が何かしら行動を起こした時に対処するくらいだ。

 

 〈まあ彼らの目的はなんとなくわかっていますけどね〉

(うん。私もわかる。ここ(秦右翼軍本営)を襲う予定なんでしょ?)

(いえ、それよりももっと大きな標的を狙うものかと)

 

 それよりももっと大きな標的?

 ここ(秦右翼軍本営)よりも大きな標的って……兵糧とか?

 兵糧は別の部隊が警備についているけど、流石に一万もの敵を防ぐ術はないしね。

 けど二日程度で私たちが巧妙に隠した兵糧庫を見つけることって、できるものかな?

 

 〈確かに補給路を遮断された私達にとって、兵糧を失うのは痛手ではあります。しかし今の戦況はこちらが有利であり、敵はより重要な戦術目標を狙ってきます〉

 

()()()()()

 そんなの総大将である王騎大将軍の首くらいしかないけど。

 たかが一万突っ込んだところであの人の首を獲れるとは思わないけどね。

 何せ多分あの人は今の私よりも、悔しいけど強い。

 

 もちろん私が持っている武器が剣であり王騎大将軍の持つ武器が矛であるため、リーチや威力の差が出るのは当然ではあるが、それ以前に力量が違う。あの人は……本当に強い。秦国最強とも噂される大将軍の能力は、噂以上なことも私はしっかりと理解している。

 

 だからこそ、たかが一万程度であの人の首を取ることは不可能だと思う。

 あの人の直下兵も頭おかしいくらい強いからね。正規兵とはいえ、常に戦場で血を流し続けた王騎軍は、魏兵程度じゃ崩せないと思う。

 

 〈とは言え、もし王騎大将軍の軍のほとんどが魏の本陣攻めのために出払っていたとしたら、一万とはいえ致命的となりえます〉

(わぁ……とは言え私達じゃどうにもできないけどね)

 〈ええ。ですからタイミングがとても重要です〉

 

 タイミング?

 まあ私にはわからないから、参謀ちゃんに全部お任せしよう!

 

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