海底紀行~Pocket Knot Divers   作:お茶会おじさん

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 子供のころ。カンボジアのとある島に行ったときに浅瀬で穴を掘っていたら蛤を見つけた。そこから十個ほど掘って屋台で焼いてもらったのだが、当時は腹痛で一つしか食べられなかった。ポン酢と胡椒をつけただけのあの味がいまだに忘れられない。

 今回は貝回。


2.赤貝と蛤の潮干狩り

 海に来て何をするだろうか? スイカ割りに水泳、魚釣りなどその娯楽は多岐にわたる。特に子供から人気なのはスイカ割りだろうか。目隠しをして周りの声に従って棒を振り下ろすというのはスリリングであり、幼心を震わせるものだ。

 そんななか、海に来て潮干狩りしかしたことのない男がいた。その名も、高砂恭也(27)。彼はただ食費を浮かすためだけに海に来ているのである。魚釣りもするにはするが、潮干狩りのほうが子供に戻ったようで楽しいのだという。非効率だと分かってはいるが、どうしても止められない性のようなものだ。

 

 晶たちが海底に向かおうとしたとき、高砂は車に戻って小さな熊手を持ってきていた。サングラスは外さずに麦わら帽子をかぶり、海の家でも経営していそうな出で立ちである。また、腰には青いプラスチック製の小さなバケツも持っており、本格的に採集したいのか、子供の様に遊びたいのか、いまいち判断しかねる服装だ。

 

 

 それでも高砂は今からの採集が楽しみで仕方がないのか、鼻歌なんかも歌いだし上機嫌であった。そんな高砂を呆れるようにしてみる晶と雫。

 

「それじゃあ俺は潮干狩りを始めるから、お前らは先に行っててくれよな!」

 

「なんていうかさ、その、熱量と道具が見合っていないと思うんだけど。ああ、いい意味でね?」

「うーん、そのなんていうか、ちょっとびっくりみたいな気持ちだよ。」

 

「あ? なにが悪いんだよ。お前たちも知っての通り、俺が入ってる組織ってのはな『安月給・長期労働・社会保障を期待するな』ってのがモットーなんだぜ? 日々の食料も自分で手に入れなくちゃなんねぇんだよ。」

 

「サイアクな組織だな。ブラックを通り越してもはやダークじゃないか!」

 

「ごちゃごちゃうるせえな。こんなに海底が広がってるんだからさ、これはまさに、天からのチャンス、ってやつだろう? いやー、最近いいことなかったからな。これでチャラになるってもんだぜ。」

 

 そう言うと高砂は長靴に履き替えて、怪訝な目を向ける二人を無視して斜面を下っていく。元々あった海岸線から10mほど下ったあたりで、土を耕すように穴を掘り始める。一定の範囲を掘り終えたあたりで、熊手を自身の棍に持ち変える。

 

 

「ふふ、ちょっとしたズルってやつさ……。ほらよっと!」

 

 高砂が棍を地面に垂直に突き刺したと同時に、高砂が荒く掘った地面の中から大量の貝が、ポンッと飛び出てくる。その中には比較的大きなものから、細長いものまでさまざまな貝が含まれていた。

 再び潜ろうとする貝たちを選別してポケットとバケツに入れていく。手慣れた手つきだ。

 

「謎に手際が良いのは何なんだよ。というか、あの棒って、この間のやつか?」

 

「ああ、この棍か。棒じゃねぇよ。そうそう、この間お前と飽咋をぶちのめした時に使ったやつだよ。地面に突き刺す or 空中で一定方向を向かせることで、半径10mくらいの重力方向を反対方向に変えれるんだよ。さっきは方向を上に変えて潜ってた貝だけを上に落下させたってわけさ。使うのにも結構力いるんだぜ。」

 

 高砂は得意になって話す。まるでカブトムシを自慢している小学生のようだ。雫はそう思った。

 

「でも、便利そうだね。本来の使い方とちょっと違うのは置いといて。」

 

「ま、この棍に本来の使い方なんてねぇよ。どこから来たのか、銘は何だとか全く知らねぇからな。使えればいいんだよ。使えれば。」

 

 そういうものかもな、と晶は思う。この間の梅雨の終わりに手に入れた『終焉』とやらの力も、理論が分かってなくても使えればいい。高砂の言う通りだ。

 

「そうそう。『本物』が一番大切だなんて考えてるうちは『本物』なんて手に入らねえよ。まずは偽物からでも手に入れなきゃな。」

 

 ふぅん。こいつにしてはいいことを言うじゃないか。少し、見直したぞ。少しな。

 

 

 ***

 

 そのまま高砂は最終を続け、五分くらいであらかた取った。立ち上がって首を回し、体を伸ばす。そして振り返って言う。

 

「じゃあ帰るか。」

「まだ、何もしてないのに? 高砂さんしか目的果たしてないじゃん。」

「けっ、ちびっこの口は達者だな。俺は疲れたから行かねえよ」

 

「本当にただ潮干狩りに来ただけになってる……。アキラはどうする? もう帰る?」

「いや、このまま一番底まで行こうかな。せっかく親父から変な道具ももらったし。」

「そう。じゃあ行きましょうか。」

 

 お互いにくるっと背を向けて歩き出そうとするとそれを遮って声が飛んできた。

 

「おい、お前!! このまま帰らせるわけないだろーっ!!」

「そうよそうよ!! 無残にもこの一帯の貝ちゃんたちをいじめた上に食べるために持って帰るだなんて!! 野蛮にもほどがあるわ!!」

 

 

「なんだ? 新手のヴィーガン団体か?」

 

 高砂は首だけ振り返ってポツリ。晶たちは身体ごと振り返った。

 

「ヴィーガン? なにそれ?」

「姉さま、そんなことはどうだっていいのよ。それよりもあの不届き物を倒さないと。」

「あ、そうだった。えい、おりゃー!!」

 

 突如として現れたちいさな二人組は執拗に高砂の足を蹴る。まったくダメージはないみたいだが、いささか煩わしい。高砂の気もだんだん苛立ってきている。そして

 

「おい」

 

 なかなかにどすの聞いた声で脅す。その筋の人だと思われるかもしれない程だ。実際に神とかそういう側からすればその筋に見えるのだが。

 

「「ひっ」」

 

「俺もな、生活に困窮してるんだよ。そんなときに自然から資源をもらって生きていくのは当然の摂理だろうが。お前らはそんな自然のサイクルを止めるっていうのかい? 見たところ二人とも神々のようだが、俺の敵じゃあねぇな。精霊程度の力しか持ってねぇ。」

 

「ぐっ!昔はもっとすごかったんだよ! 『浜辺のキサ』と言えば浜辺の誰もが震えたものさ! お前なんか指一本で事足りただろうね!」

「そ、そうよ。私たち二人は大国主さまにだって会ったことがあるんだからね!」

 

「あーあ、これだから神は嫌いなんだ。昔のことを持ち出して威張ろうとする。」

 

「昔のことを持ち出して何が悪いんだよ! 過去の話っていうのは実績のことなんだぞ!」

 

「そんな弱っちい姿で言われてもな。俺は現世至上主義なんだよ。貝を取って食べるのだってそう。あんたらの時間間隔には付き合ってられねぇよ。」

 

 貝の入った網を左肩にかついで背を向ける。地団太を踏む姉妹を放ってこのまま帰るつもりだ。それを見かねた妹らしきほうが高砂に貝殻を投げつける。

 

「ねえ!いまから私たち二人とあなたで戦って、負けたほうが勝ったほうの言うこと一つ聞くってのはどう? もちろん私たちは貝ちゃんたちの返還を要求するわ。それでいいかしら姉さま?」

「うん! さすが私の妹、『薬師のウムカ』ちゃんだ!」

 

 

 晶たちは全員、「二人とも二つ名が弱いな~」と思う。

 高砂はサングラスの奥をうげぇ、というな目つきに変えて二人に振り返る。

 

「めんどくせぇな……。まぁ古風な神らしく正々堂々ってとこは気に入ったよ。仕方ない、乗ってやるよ。」

 

「よし来た!」

 

 二人はハイタッチをして臨戦体制に入る。どうやらキサのほうが攻撃担当、ウムカのほうが援護担当らしい。キサは手の中に大量の貝殻を構え、ウムカは貝殻を宙に浮かべて壁を作っていた。

 

 今更だが二人の容姿を簡単に書いておくと、姉さまと呼ばれていたキサ、つまり口調が荒いほうは低い身長を補うかのように頭に赤い貝殻で出来た髪飾りをつけており、大きな真珠がついていた。

 ウムカのほう、つまり口調が柔らかいほうは、白のヘッドドレスを頭につけていた。髪飾りのおかげでトータルとしての二人の身長は同じになっていた。また、どちらも砂浜のような髪色だった。……擬態用だろうか?

 

 

「さて、準備はいいかな!」

「ああ。いつでも。」

「とりあえずお前は殺す!」

 

 キサは感情のままに叫び、大量の貝殻を高砂に投げつける。それぞれに口がついていて、今にも嚙みつかんとしていた。それを高砂は棍で振り払い、そのまま斬撃を二人に飛ばした。それに対しウムカのほうが壁で威力を殺す。しかし完全に抑えきれるものではなく、二人は衝撃に押されて砂浜を転がっていく。

 

「ぐへっ!」「わぷっ!」

 

 絡まって団子の様になった二人に棍を向けて、高砂は尋ねる。

 

「まだやるかい? 正直、今のあんたらじゃ俺には勝てないと思うぜ。」

 

「うぅぅ……。それでも貝ちゃんたちを勝手に持ち去られるわけには……。大事な私たちの友達だから……。」

 

「……じゃあ帰してやるよ。ただし、お前らの何か大事なものを俺に渡せ。できるだけ金になりそうなやつをな。」

 

「珍しいな。高砂が誰かの言うことを聞いてるとこなんて初めて見たよ。それもよりよって、自分に負けた相手の言うことなんて。」

 

「そうね。あなたのことはまだあんまり知らないけれど、そういうのが珍しいってのは分かるわ。どういう風の吹き回し?」

 

「高砂さん、さっきの貝殻に頭でもぶつけちゃった?」

 

「お前ら、俺のことを何だと思ってるんだよ……。そりゃおれだって誰かに情けをかけたくなる時くらいあるさ。」

 

 なるほど。粗野な人間に見えて、案外こいつは感傷的で友達を大切にするタイプなのか。……似合わねー。

 

 

 そうして高砂は本当に貝の入った袋の封を開け、海にひっくり返した。どさどさどさどさと落とし、入っていた袋についていた砂を落とす。

 ふと、砂浜を見てみると結構な量の貝が再び砂に潜ろうとしていた。確かにこれだけの量を持っていかれるとなったらそれは取り過ぎだと言いたくなる。友達でなくても、ヴィーガン団体でなくても誰だってそうする。オレ(晶)だってそうする。

 

 キサとウムカの二人は、ぱぁっと顔を輝かせて高砂を見る。そのまま足にくっつき、

 

「いやー、やっぱり人間も捨てたもんじゃないね! 最近の人間はどこか苦手だけどあんたのことは大好きだよ!」

「ふふ。私も大好きです。私たちの友達のためにありがとうございます。」

 

「ちっ、鬱陶しい神々だ。さっさとブツを渡して砂に帰れよ。」

 

「ああ、そうそう。何がいいかな? とりあえずこの真珠を五個くらいあげるよ。あとは……」

 

「姉さま、私たちが作っている薬はどうでしょうか? 見たところこの高砂さんはいろいろとケガをする機会がありそうですし。今のところ一つは余っています。」

 

「ああ、良いね! 完璧だ!」

 

「まぁ、貰えるもんは貰っておこうかな。真珠だけでもかなり金になりそうだしな。」

 

 

 そうしてウムカは砂に潜っていったかと思うと、ひょこっと顔を出して、二枚柄に包まれた乳液状の塗り薬を取り出した。キサは自身の髪飾りについていた真珠を取り外して高砂の手の平に乗せた。大粒真珠なだけに見ているだけで迫力がある。

 

「なんとこの薬、体に不調があるときに、体のどこかに塗るだけですべての傷と不調を一度だけ癒すことが出来るんです! 病気は治せませんが、十分使えると思います。」

 

「へぇ、良いね。こんな薬があるなんて知らなかったぜ。」

 

「それってさ、なんだろう、こう、チートってやつじゃないのか? この現実世界に存在していてもいいのか?」

 

「まぁまぁお兄ちゃん、深いことは考えないの。使えればいいじゃん。」

 

 

 突如として聞かされた薬の効能に晶は動揺を隠せない。そんなものがあるだなんて。中学生の時にスマホを買ってもらった時くらいの衝撃だった。その様子を察したのかシアが晶に話しかける。

 

「アキラ、わたしがこの旅を始める前、つまりわたしがまだまだ子供だった時に錬金術のブームがあってね。そのときに親戚のおじさんも研究していたんだけど、不死の薬の存在が信じられてたの。今思えば馬鹿げた話なのだけれど、そのおじさんがあるとき『銀色の液体』を発見したのよ。」

 

「はぁ、それで?」

 

「その『銀色の液体』を王様に献上したらね、その王様は不死の薬だー、って喜んで飲んじゃったのよ。」

 

「シアさん、まさかだと思うけれどそれって水銀?」

 

「正解。それで王様が死んじゃってね、おじさんは反逆者として処刑されちゃったのよ。」

 

「……オチは?」

 

「え、これでおしまいだけど。面白くなかった?」

 

「何を言いたいかよく分からなかったよ。もうちょっとこう、現状に落とし込んでさ。」

 

「んん、じゃあその王様を高砂だと思って見て? 面白くない?」

 

「いや、全然。」

 

「がーん」

 

 シアは真剣にショックを受けたようだった。自分では面白いと思っていたネタを他人に話して躓くのはよくある話。だけれど、今回はあまりにも面白くなさすぎだ。理解が出来なかった。残念だが100点満点中3点くらいだろう。

 

 

 ***

 

 いつの間にか貝の姉妹と高砂のじゃれあいは終わっていたらしく、高砂は一度浜辺に帰ることにした。真珠と薬を車に置いてきたいのだという。

 

 

「あ、そうだ。これ貸してやるよ。」

 

 

 高砂は背中の鞄の中から、一本の金属バットのようなものを取り出す。正確に言えばバットのようなゴム製グリップはついておらず、すこしばかりの丈夫な布でテーピングをしていた。

 

「なんていうんだろうね、貰っても嬉しくない品物ランキングの一位が変動するくらいの価値はありそうだね。」

 

「最近の子供は贅沢を覚えちまったのか。なんてつまらない世の中になってしまったんだろうな! じゃあ、晶に。」

 

「いらないけど、一応借りておくよ。なんかあったとき用に。」

「必ず返すんだぞ。それも一応、幾らか変な力があるからな。」

「どんな?」

「斬撃を飛ばせる」

「「欲しい!」」

「へっ」

 

 そうして高砂は駐車場に、三人は海底に、キサとウムカは砂の中に潜っていった。

 

「じゃあ行きましょうか。二人とも?」

「うん、そうだな。行こうか、シア。」

「れっつごー!」

 

 三人は再び海底を目指す。今回の事件の真実など知らずに。

 

 




 今回のシアさんの話に近い話を作者は学校でしてしまう癖があります。自分に起こった出来事だからこんな風に楽に書けるんですね。

 端的に言えば、私は話すのがへったくそという訳です。
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