妖怪・カイザー好き好き黄金裔   作:カイザーの椅子

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メインシナリオやってからレストランイベで風邪引きました(体温38.6度)


第1話

(今世は行ける気がする。頑張れ俺)

 

 謁見の間の扉の前で深呼吸をしている男の名前は『エラポス』。

 偉大にして恐れるべきオクヘイマのカイザー。ケリュドラの臣下の一人である。

 その日も定常業務をこなした後、空き時間で敬愛する彼女の顔を見に来たのだが、ほんの少しだけ立ち止まって心の準備をして、扉を開ける。

 

「誰の許しを得てここに来た?」

 

 エラポスを出迎えたのはケリュドラとその臣下の一人、剣旗卿。セイレンスの二人だった。

 彼の姿が見えた瞬間ケリュドラは既に嫌そうなしかめ面を浮かべて、頼りになる剣旗卿に目配せをした。

 何せ、死体が一つ増えるという面倒もある。そんなことを彼女に任せるのも慣れたものとはいえ忍びないのである。

 

「好きです。結婚してください」

「貴様もめげないな。剣旗卿。奴の首を切れ」

「悪く思うな」

 

 ケリュドラが鬱陶しそうに手を挙げて指示を出した直後。音もなく、断末魔をあげる暇さえなくエラポスの首がセイレンスによって切られた。

 そのまま謁見の間を血で汚しながら床に落ちた彼の眼はケリュドラを視界に納めていた。

 

 威光を示すかのように輝く空色の髪。エメラルドでさえ霞んで見える碧眼。少女のままの身体でも威厳を際立たせる服装。それら全てが美しい。

 

 最期に見る光景が一滴の血にも穢されていない彼女の姿で良かったと、満足した表情のままエラポスは逝った。

 

「死体はいつもの場所に捨て置け」

 

 セイレンスが髪を捕み、ぶらんと垂れ下がる生首と乱雑に担いだ胴体のまま分かたれたエラポスを見たケリュドラは忌々しげな表情で見送る。

 

(そろそろ諦めてくれればいいものを……)

 

 ケリュドラはエラポスの血が着いたところを避け、一人で謁見の間を後にする。

 趣味のチェスもセイレンスに付き合ってもらっても面白くないため、この後の退屈を思うとあくびが漏れる。

 

 

 ■■

 

 

 遥か離れた位置にあるゴミ処理場にセイレンスがエラポスの死体を投げつける。

 すると、彼の首が胴と繋がりたちまち回復し、眼に光が灯る。

 

「ふぅ、死ぬかと思った」

 

 確実に肉体は一度死を迎えているはずなのに、驚いた様子もなく安堵の息を漏らすエラポスは服に着いた汚れを払って立ち上がる。

 

「飽きないものだな」

 

 いくら黄金裔と言えどエラポスが再生していく姿は不気味ではあるが、セイレンス本人としては特段彼を嫌う理由もなかった。

 ただ、ほぼ毎日彼の死から蘇生の流れを見ていると、呆れた気持ちにはさせられる。

 

「仕方ないことだ。カイザーへの愛はご尊顔を見てしまっては止められない。これくらい必要経費だ」

「毎日貴様を殺すワタシや謁見の間を掃除するものの負担はどうしてくれる?」

 

 風呂上がり以上に気持ち良さそうにしているエラポスを見ると、若干腹立たしい。

 

「じゃあ、また明日」

「おい、無視をするな」

 

 エラポスが軽く手を振りながらゴミ処理場から歩いて何処かに行く様は、前後のことを考えなければそれなりに様になっているのだが、振られた後ということを踏まえると何も格好よくはない。

 

(まぁ、どうせまた明日も殺すことになる)

 

 この苛立ちのぶつけどころは明日のエラポスの首にぶつければ良いと切り替えて、セイレンスはプライベートルトロへ向かう。

 

 そして、翌日。

 

「好きです。結婚を前提にお付き合いしてください」

「ドア・イン・ザ・フェイスをしても無駄だ。剣旗卿」

 

 冷静に却下され、またしてもエラポスの首と胴はセイレンスによって別たれた。

 

 翌日。

 

「好きです。一緒に老いて子孫に囲まれながら死んでください」

「大きければいいというものでもない。禁固刑百年」

 

 今度は最終地点を提示したものの、お気に召さなかったらしい。

 殺しても無駄であれば、いっそのことしばらく投獄しておくことにした。

 

 百年後。

 

「男子、百年会わざれば刮目して見よ。ということで、好きです。お友達からどうでしょうか?」

「死刑」

 

 何も変わらなかった。百年振りにエラポスを切る感触は変わらず、セイレンスは謎の安心感を得ていた。

 

「何時になったら貴様は……」

 

 百年振りのエラポス処刑に感慨もクソもないのだが、何か思うところがあったのか、ケリュドラはいつもより五分程長く居座ってから謁見の間を出た。

 

 

 ■■

 

 

(死んだ後の食事はたまらんね)

 

 蘇生した後、エラポスは食堂で一人で食事をしていると、黄金裔の一人のファイノンが声をかけてきた。

 

「久しぶりだね、エラポス。ご一緒してもいいかい?」

「良いよ。百年振りだけど元気してたか?」

「ありがとう。僕の方は変わらずだけど、君も変わらなさそうだ」

 

 エラポスの対面にファイノンが座って料理の注文を店員に伝える。

 この百年、変わったことも特に無いが、食堂の料理の味だけが少しだけ変化していて、好みの味がなくなってしまった彼はそれだけが残念でならなかった。

 

「ところで、何で百年も投獄されてたんだ?」

「愛って難しいもんなんだよ」

 

 エラポスがほぼ毎日死んでいることは有名な話で、そこら辺の子供でも知っていることだった。

 数百年以上、殺されていたとしても、めげないしょげないこと、それと仕事自体はきちんとやる有能な方であるからケリュドラから存在は認められている。

 

「あ、また振られたんだね」

「やめろよ……これでも結構傷つくんだぞ」

 

 ファイノンにとっては至極どうでも良いことで、事実だとしても冷静にそれを突き付けられると、ちょっぴりとだけエラポスの心が痛む。

 何度経験しても失恋は辛いのだ。

 

「ずっと気になっていたんだけど、エラポスはあの方の何処が好きなんだ?」

「全部。というのは語るまでもないんだけど……そうだな。まず、ケリュドラはちっこくて可愛いのに偉そうにしてふんぞり返ってるところとか」

「エラポス。それ以上は止めといた方が──」

 

 長くなりそうな語りが始まった途端にケリュドラが何時にも増して鋭い目付きでエラポスの背後に立っていたのを視認したファイノンは一応忠告を述べる。

 決して、ケリュドラが小さかったせいで接近に気付かなかった訳ではない。

 

「ほう、続きを聞かせてもらおうか」

「昔はアレでミルクを毎朝欠かさず飲んでたところとか──」

「遺言はそれで構わんな? どうせ殺してもしなんのだろうがな」

「あ、ちょっ!? 居たなら言えよ! ファイノン! 今度奢るから支払いは任せたぁー!

 

 気付いていないエラポスはそのまま語り続けた結果、ケリュドラに首根っこを掴まれて引き摺られて行く彼の姿を見て、哀れな生き物を見る眼を向けた。

 

(いや、僕は止めたぞ……)

 

 それから、ケリュドラに引き摺られるままに彼女の自室に連れてこられて雑にポイ捨てのように転がされたエラポスは受け身を取ってから腰を上げる。

 

「さて、カイザーから会いにいらっしゃるなんて珍しいですが……何かご用で?」

「たまにはチェスに付き合いたまえ。嬉しいだろう?」

 

 普段からアレだけ言っているのだから無条件で暇潰しに付き合えと言われれば、エラポスが断る理由もない。

 テーブルの上にチェス盤が広げられているが、当然のように椅子は用意してもらえなかったため、立ってチェスを指す。

 

 対局を初めて数分、エラポスも下手ではないがそれ以上にカイザーの方が上手く、 三十五手程で追い詰められてしまった。

 

「……チェックだ」

「お見事」

 

 ケリュドラが駒を置いて気持ちのいい音が響くと同時に終局が決まる。

 思いの外は時間が潰れたため、エラポス相手に悪くはないとケリュドラは思ってしまい、微妙な気分にさせられる。

 

「百年……いや、それより前から変わらぬな貴様は……」

「愛は不変と言いますので……」

「そういうところもだが……」

 

 平たく言えば、モヤモヤする。 

 ケリュドラがわざわざ部屋に入れてやったというのに、飛んで喜ぶ様すら見せずに至極冷静なままでいるエラポスにモヤモヤする。

 その後は特になく、彼を部屋から追い出した後にケリュドラは天を見上げて物思いに耽る。

 

「いっそのこと、あの時に手元から離れてくれれば、愛着など持たなかったのにな」

 

 無意識に溢したその言葉は誰にも届くことはなく、その根底にあるものの名前をケリュドラは知らない。 




二人がどうなろうとどっち道ループの1回なんでまぁ。はい。滅び……ですかねぇ。
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