妖怪・カイザー好き好き黄金裔 作:カイザーの椅子
「好きです。結婚してください」
「……死刑だ。剣旗卿」
諦めずにまたもや、告白をしてくるエラポスに対して、ケリュドラは返事の代わりにセイレンスに刑を執行させる。
いつものことである。
いつものことなのに、言い表せられない感情に苛立ちを覚える。
原因がエラポスにあるのはわかっている。
彼に対して、あれこれ考えてしまい、寝付きすら悪くなっている始末で、このままではどうにもよくない。
相談する相手に悩んだが、専門家と話をするに限る。
そうして、ケリュドラは昏光の庭の相談室に訪れた。
「ええと……カイザー様。今日はどういったご用件でしょうか?」
相談室に突如として訪れたケリュドラにヒアンシーは若干ビビっていた。
ヒアンシーも黄金裔ではあるものの、暴君としてのイメージが強いケリュドラが昏光の庭に訪れる理由が読めず、とりあえず訳を聞くところから始める。
「最近の寝付きが悪くてな……原因はわかっている。だから、微光卿に相談しに来たのだが……」
ヒアンシーはあまりケリュドラと顔を合わせないため、基本的にはエラポスから話を聞く限りでは、物事をハッキリという人物。
という印象だったのだが、どうにもケリュドラの歯切れが悪い。
それほど言いにくいことなのだろうか。
「寝不足ですか……大抵の場合はストレスが原因です。何か思い当たる節があるのなら、それを解決することをおすすめします」
原因の正体は聞かずとも察しのついているヒアンシーだったが、相手が相手だけに迂闊に口にすると、死刑待ったなし即打ち首が恐ろしくて口にできなかった。
「ストレスか……ないとは言わんが……」
「ご公務はもちろん日々普通に生きていくだけでも人はストレスというものを溜め込んでしまうものです。苦手でなければですが、リラックスできるお香などを焚いて睡眠していただくのが、おすすめです」
「ふむ……」
香を焚くことによるリラックス効果で睡眠の質を改善できたという事例は少なくない。
メンタルから来る問題であるなら、まずやること自体が改善の第一歩でもあるため、悪くはないとケリュドラは顎に手を当てる。
「念のため聞いておきたいのですが、エラポス先ぱ──」
「関係ないな」
念のための答え合わせをしておこうと、ヒアンシーが問おうとすると、ケリュドラはその問いを真顔で切り捨てた。
エラポスからのアプローチがストレスであるならとっくに追放なり収監なりで一切会わないようにすることだってできるだろう。
これは相当な重傷である予感がしてきた。
ケリュドラはストレスの原因がエラポスであるなどと、一言も口にしていないが、彼は見ていて不安になるほどに自分の命を軽く見積もっているとヒアンシーですら思う。
なんなら、彼女はそれを心配する側の人間である。
それが直接全面的に命を預けられているケリュドラ本人の心境を考えると、自分なら折れてしまっている可能性もあると考えると、途端に彼女のことも心配になってくる。
決して、ケリュドラはエラポスのことなどと、一言も口にはしていないので、あくまでもヒアンシーの妄想の類いであると、偉大なカイザーの名誉のためにそういうことにしておく。
「そ、そうですか! なら、効果がありそうなお香をいくつかご用意しておくのでお試しいただければと思います」
冷や汗をかきながらヒアンシーはリラックス効果のある香をいくつか提示し、気に入ったものをケリュドラに選んでもらい、改善されなければまた後日診断という形で、その日は帰ってもらった。
(これは……どうしましょう)
相談室で一人になったヒアンシーは眉間に皺を寄せながら、今回の問題の面倒臭さと同居しているコイバナの予感に興味が止まらない。
エラポスからの一方的なケリュドラへの感情は正直どうでもいいのだが、どんなにアプローチされても振り向きもしなかったケリュドラが彼に振り向こうとしているというのであれば話は変わってくる。
ヒアンシーも年頃の少女である以上はそういう話は好物である。
しかし、口外する訳にはいかず、本人が否定している以上は手の出しようは限られている。
今日の予約はもうないことを確認したヒアンシーは伝言の石板を使ってエラポスを呼び出した。
『定期検診お忘れではないですか?』
『えっ、今までそんなのあったっけ?』
『何でも良いので早く来てください』
数分後。呼び出しに応じて相談室にやってきたエラポスは怪訝そうな表情をしていた。
「定期検診って何か嘘ついてない?」
「いえ、嘘などではありません。ええ」
「……なら、いいけど」
急に今までなかった筈の定期検診をでっち上げたにしては、ヒアンシーはあまりにも堂々としていたせいで、エラポスは一応納得することにした。
普段から迷惑を掛けているせいで、強く出れないこともあるが、こういう時のヒアンシーに逆らうと後が怖い。
「早速本題ですが、身の回りのことで何か変わったことはありますか?」
「変わったことというか、変なことなら一つだけ……その時のことは俺は一切覚えてないんだけども」
「どんなことです!? 詳しく!」
しっぽを出すのが早い。
声は荒げてもあくまで冷静に、エラポスから話を聞く。
妙にテンションの高いヒアンシーに困惑しつつもエラポスは先日の記憶喪失の話を思い出す。
「何か頭に棘が刺さってたせいで、一時的な記憶喪失になってたってだけ、かな?」
後日、セイレンスに前の方がまともだったかもしれないとぼそりと呟かれて自棄メーレしたことは、比較的思い出したくない部類に入る。
「え、そんなことになってたんですか? ちょっと頭の方診ますね?」
脳に影響が出るような刺さり方をしていたというのは普通に大事であるため、ヒアンシーはコイバナどころではなく、医療従事者として軽い触診を行い、異常がないことを確かめた。
「まぁ、最後はいつものごとく死刑になったからあんまり身体に影響はないと思う」
「あっ! またそうやって無理矢理治したんですね!? 前も言いましたが、ちゃんと治せるものは治療してくださいと何度も言ってますよね?」
死んでも治らないのだろうと思いつつも、誰かが言わざるを得ないと思っているため、ヒアンシーはエラポスの悪癖を指摘する。
「ごめんって。でも、今回は仕方ない。だって、気付いたらカイザーが居たんだから。可愛すぎて告白するしかなかった」
「まったく、それで死ぬのもどうなんですか?」
エラポスの一途なところは美徳ではあるが、それ以外は割とどうしようもない人だとヒアンシーは再認識した。
「カイザーに殺されるなら本望だ」
本当にどうしようもない人である。
「それはどうでもいいんですが、もっと他にないんですか?」
「……そうだなぁ。昨日より今日の方がカイザーが可愛いとか」
「却下で」
「却下!?」
エラポスもわかっていることがあるが、それをヒアンシーに言う訳にもいかず、いつもの調子ではぐらかす。
それはそれとして、今日も今日とて、いつも通りケリュドラに脳を焼かれていた。が、不満そうに顔を膨らませてヒアンシーは他の話題を要求した。
「いや、本当にないんだよなぁ……なんか思い出したらまた来るから、それでいいか?」
「……なら、仕方ありませんね。思い出したら絶対連絡してくださいね」
相談室を出て町に戻ったエラポスはうっかり拾ってしまった物を手に取る。
(……間違いない。カイザーの髪の毛だよな)
たった一本の空色の長い髪の毛を、天と地が入れ替えわったとしても見間違うはずもない。
ヒアンシーがエラポスを呼び出す前に、ケリュドラが相談室に行ったであろうことは、確かだろうがその理由も真意はわからない。一旦大事に服のポケットにしまって、何事もなかったかのように歩き始める。
(身体的に悪そうな調子じゃなかったし、そもそもそういう弱みを人にはもう見せない子だし……はぁ。もうちょっと待つか)
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