妖怪・カイザー好き好き黄金裔   作:カイザーの椅子

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第12話

(頼まれごとで来たけど、あの人のこと苦手なんだよなぁ)

 

 エラポスはある人物から呼び出しを受け、神悟の樹庭にやってきていた。

 学術都市であるそこは学問における聖地とされており、黄金裔の母校でもあり、七つの学派とその代表とも言え賢者である黄金裔のことを、エラポスは苦手としていた。

 

「ここか……」

 

 目的の部屋の前に着いたエラポスは、厳めしい表情になってしまっている顔を叩いて、自身に喝を入れてから扉をノックする。

 どうぞご勝手に。と、来客が誰かなど興味も無さそうな声が部屋の中から聞こえてきて、エラポスは部屋の中に入る。

 

「アナクサ教授。言われてた物を取りに来ましたよ」

「件のモノはそこに置いてある袋の中にあります。誰に頼まれたか知りませんが、用が無いのならさっさと帰ってください。あと、私の名は略さないように」

 

 部屋の中に入ると部屋の主、アナイクスはエラポスのことを気にせずに、学生が提出したレポートに目を通していた。

 エラポスとアナイクスは特別仲が悪いというわけではない。むしろ、錬金術のスペシャリストでもある彼からは、死んだとしても同じ魂を肉体に宿したまま蘇生するエラポスは興味深い研究対象として興味を持っていた。

 ケリュドラのため以外に死ぬ気のないエラポスにとって実験と称して不必要に自分を殺そうとしてくるアナイクスのことは学者としては尊敬していても、個人としては好きになれそうにはない。

 

「じゃあここにカイザーちびぬいぐるみ置いていくんで失礼しますね」

「失礼しないで持ち帰ってください。不要です」

 

 間が悪く手の空いていた自分ではなく、アナイクスの助手をやっているヒアンシーに頼めば良かったのに、と内心で愚痴を吐きながら、家で余っていたカイザーちびぐるみをアナイクスの研究室に置いてエラポスは神悟の樹庭から出ていき、オクヘイマへと急いで帰った。

 

(で、これが頼まれ物だけど、何なんだろうな)

 

 人に頼まれて適当に頷いてしまったせいで、荷物を受け取って渡すことだけしか把握していないエラポスは中に入っているモノの詳細を一切知らない。

 そんなことは荷物を届けた後に頼み事をしてきた本人に聞けばいいと、その時は思っていた。

 

 それがまさか、あんなことになるとは、エラポスも予想できなかった。

 

 

 ■■

 

 

 前略、エラポスとケリュドラがケミカルな色の煙の近くで頭上にたんこぶを作って倒れていた。

 どうしてそうなったか気になるものの、セイレンスが現場を発見した時にはそうなっていたのだから、事実だけをとりあえず飲み込むしかなかった。

 

「ててて……なんか視界が低い。というか声がなんか変? カイザーみたいな声がする」

「カイザー? 何かあったのか?」

 

 先に意識が戻ったケリュドラが頭を抑えながら起き上がったが、普段と口調が砕けていて違和感が凄まじい。

 そもそも自分自身にみたいな。という表現を使うこともおかしな話である。

 セイレンスは未だ起き上がらないエラポスを雑に退かしてケリュドラを心配する。

 

「アレ、セイレンスってこんなデカかったっけ? いや、トリビー達に頼まれたものを渡そうとしたらカイザーとぶつかって──」

「それはカニが頼まれていたことではないか……? カイザーも神悟の樹庭についていったのか?」

「うん? いや、何でカイザーが?」

「何で。と言われてもな……カイザーが言っているからだが……?」

 

 どうにも話が噛み合わない。まるで、自分がエラポスのような振舞いをするケリュドラに得体の知れない不気味さを感じながら、セイレンスは呻き声を上げているエラポスの方に顔を向ける。

 

「剣旗卿。そっちは僕であって僕ではない……僕はこっちだ。僕も身体は僕ではないがな」

「カイザー、これは一体どういうことだ」

「アレ、なんで俺がカイザーみたいな口調で……?」

 

 セイレンスがエラポスに肩を貸して立ち上がらせている姿を見たケリュドラはようやく異変に気付いたようで自分の頬をべたべたと触ってハッとする。

 

「もしかして! 俺達、入れ替わってるー!?」

 

 ケリュドラの、いや、エラポスの絶叫が響く。

 

「……さて、原因に処罰を下すのは後にするとして、永死卿は僕の部屋に戻って事態が収まるまで待機していろ」

「んー! ふごっふごごご、ごご……!!」

 

 玉座に座ったエラポス、もといケリュドラが冷静にことを処理しようとしている横で、ケリュドラ、もといエラポスは目隠しと猿轡と縄代わりに布で拘束された状態で自分の扱いに抗議しているが、セイレンスからは上手く喋れずふごふご言っているだけにしか見えない。

 

「体格差のあり過ぎる貴様を自由にして僕の身体で怪我でもされたらたまらん。それに……」

 

 何となく、エラポスに自分の身体をこういう形で触られることは避けたかった。

 彼を信じていない。とかそういうことではなく、そう、怪我に対する価値観が狂っている彼に身体を預けるのは、この後入れ替わりが元に戻った時の自身の身を案じたまでの話だ。

 

「それに?」

「何でもない。このまま僕は永死卿として振る舞う。そっちの方は任せる」

 

 ケリュドラも体格差に苦戦しながらもセイレンスに自身の身体を任せて街に出る。

 じきに慣れてきて自然に歩けるようになり、余裕ができた彼女は少しだけ散歩をしてみることにした。

 

(僕の姿では民も怖気づいて正しい反応を見れないからな。ちょうどいい機会だ)

 

 普段から民の声を無視しているとは言わないが、自分が征服している国で民が不満を溜めれば内部から寝首を掻かれかねない。

 あくまでも市政調査の一環である。

 

 歩いていると、身体はエラポスであるためすれ違う人々は老若男女問わずにこやかに挨拶をしてくる。

 彼の人柄故だろうか、普段から馬鹿なことをしていても、根っこの善良さから周囲から変人だとしても良く思われていることがよくわかる。

 

「あ、エラポス先輩! アナイクス先生のところに行ったと聞きましたが、今日は大丈夫でしたか?」

 

 食堂の前を通りがかると、中から出てきたヒアンシーと目が合い、手を振ってとことこと近寄ってきた。

 

「ああ、問題な……かったぞ」

「なら、良かったです。あ、そういえば、アレから何かあったらいつでもお伝えくださいね。では、わたしはこれで!」

 

 エラポスが普段からヒアンシーに怒られがちだという話は聞いていたため、純粋に心配しているのだろうということはわかったが、ケリュドラは何か別の意図を感じてならない。

 ケリュドラは何とも言えない気持ちになっていると、伝言の石板が振動して着信を知らせる。

 

(む、そういえば端末の交換をし忘れていたな……)

 

 伝言の石板を取り出して、メッセージをチェックしようとすると、手癖でロック解除をしようとするものの、自分の物ではないことに気付いた。

 が、エラポスは指紋での生体認証を設定していたせいか、軽く石板に触れただけでメッセージが表示されてしまう。

 

『エラポス様、また今度お茶でもどうでしょうか。良いお菓子をいただいたので、それと一緒にまたお話を聞かせください』

 

 キャストリスからのメッセージを見てケリュドラは眉をしかめる。

 既読を付けてしまった以上、返答しない訳にもいかず、エラポスの言葉選びを真似て了承の返事を送っておく。

 ほぼ毎日ケリュドラに愛してるだの好きだのと言う割には、ヒアンシーには心配されていて、キャストリスにはお茶に誘われ、セイレンスとは側近同士共に行動していることも多いと思うと、なんだかムカムカしてきた。

 

(……なんで僕が、永死卿のことで。くだらない。早く元に戻ってほしいものだな)

 

 不機嫌になったケリュドラは目に付いた甘味処に寄って、ほんの少しの八つ当たりとして高めのパンケーキに無遠慮にトッピングを追加することで、彼の財布と胃袋にダメージを与えることで鬱憤を発散した。

 




落ち着かなかったので多分明日も続きます。

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