妖怪・カイザー好き好き黄金裔   作:カイザーの椅子

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第13話

 エラポスとケリュドラの中身が入れ替わってしまい、ケリュドラからエラポスを部屋に運べと命じられたセイレンスは彼をケリュドラの部屋に運びベッドの上に優しく降ろしてベッドの端に腰掛ける。

 中身はエラポスであるが、身体はケリュドラのものである以上は怪我をさせるわけにはいかなかった。

 

 エラポス本人は扱いが納得いかないのか、封じられた口で文句を言いたそうにしていたので、ここでなら問題ないと判断したセイレンスが彼の口枷を解く。

 

「くはぁ……! 酷い目にあった……」

 

 口元だけ解放されたものの、拘束された状態でベッドの上に転がされているケリュドラというのも如何わしい光景でしかなかった。

 セイレンスとしては面白いことこの上ないため、映写ストーンで写真を撮ることも考えたが、武士の情けとして撮らないでおくことにした。

 

「全く……こんなことしなくても大人しくしてるんだけどな」

「カイザーとして振る舞う必要が出たとき、どうするつもりだ?」

「……剣旗卿、それは杞憂だ。僕が僕の真似をできないとでも思ったか?」

 

 セイレンスの問いにエラポスはこほんと咳払いをした後に口を開くとケリュドラその物と言える声も(目隠しはあるが)表情も、何も知らなければ本人と言っても過言ではなかった。

 自作でグッズを作るほど、ケリュドラに対する造詣が深いエラポスであれば、本人と遜色ない振る舞いをすることは造作もない。

 

「とにかく、この身体で何かするつもりはない。嘘、普段着ないような服とか着させてみたい。でも、手すら繋いだことないのに肌を見るのはちょっとな」

「……忙しいやつだな」

 

 そこそこ気持ち悪い願望を口にしているエラポスを見ると、ケリュドラの指示は間違っていなかったとセイレンスは感心していた。

 

「しっかし、まぁ、どうするかな……多分アナクサ教授のあの薬を吸った後に頭をぶつけたらああなったから作った本人に聞くのが早そうだけど……」

「それもいいが……ちょうど良い機会だ。少し話を聞かせてくれないか?」

 

 この件は解決するのなら早いに越したことはないが、セイレンスは前々から聞こう聞こうと思っていても、機会に恵まれなかった話を聞く機会だと思った。

 

「話?」

「そう、貴様がカイザーと出会った頃の話だ。カイザーは話してくれないのでな」

 

 セイレンスとケリュドラの付き合いは長い。

 しかし、それよりもエラポスとケリュドラの付き合いは長い。

 二人が同郷であるという話は聞いたことはあっても、セイレンスが出会う前の話は全く聞いたことがない。

 

 雑談としてケリュドラにその頃のことを聞いても、はぐらかすだけで何も教えてくれないため、エラポスに聞いてみることにした。

 

「あー……あの頃ねぇ」

「話したくない事情があるのなら、それでいい。これは単なるワタシの興味の話だからな」

「そうだなぁ……」

 

 真顔ではあるが、興味津々ですという視線をセイレンスから向けられる。

 隠しておくことのほどのことでもないが、かといってベラベラと話すことでもない。

 そんな話だったが、こうして聞かれたのなら話しても良いだろうと出会った頃のことを思い出して、思わず頬が緩む。

 

「そういう顔もできるのだな」

「中身は俺だからな」

 

 身体はケリュドラであるせいで、普段の彼女ならしないような表情を見て珍しいものを見れたセイレンスは得をした気分になった。

 

「貴様はカイザーのそういう表情を見たことはないのか?」

「無くはない。それより、俺がカイザーと出会ったのはヒュペルボレイオスの眺めの良い場所だった……そう、あの頃から俺は彼女に一目惚れをしていたな。まだ征服者ではなかったが、既にそういう威厳があった。可愛さと凛々しさと偉大さのマリアージュ……そう。俺はそういうモノに惹かれて気がつけば……告白していた」

 

 語り口で目隠し越しでも瞳を輝かせていることがわかるくらいに、エラポスはイキイキとしていた。

 セイレンスはそれを聞かされてやっぱりちょっと聞かない方が良かったとすら思えてきた。

 

「ま、振られたんだけどな……まぁ、でも、あの頃から俺はカイザーのためなら何度だって死んでやっても良いくらい。彼女に惚れ込んでるよ。

 それだけは自信持って言える。というか、俺にはそれしかないしな」

 

 それしか。というには色々手先が器用だったりするとも思うのだが、いつもの調子ではなくほんの少しだけ自嘲気味な声音に感じる。

 

「今度は貴様もそういうとこがあるのだな。少しだけ安心した」

「……っ、なんてね。こういう話はちょっとしんみりしてる方がぽいと思った?」

 

 ケリュドラの身体と入れ替わっているということで、緊張しているのだろう。普段は見せない弱音を吐いてしまったような気がして、口にしてからエラポスは取り繕うが、セイレンスはもう見てしまった以上はもう遅い。

 

「そう言うのであれば、そういうことにしておこう」

「そりゃ、どうも……」

 

 エラポスの目が隠されている今、セイレンスも油断しているのか微笑みながら、彼の乱れた前髪を触って整える。

 

「僕だ。入るぞ」

 

 まだ少ししかエラポスの話を聞けていなかったが、何かを掴んだらしいケリュドラが戻ってきたせいで、話はお開きとなってしまった。

 残念な気もするが、機会はまだまだあるだろう。それに、いずれケリュドラから聞ける機会もあるかもしれないと思うと楽しみが増えたと、セイレンスは前向きに捉える。

 

「……僕が指示したことだが、これはこれで酷い構図だな」

 

 ベッドの上に転がされているエラポスを見るとやはりアレな構図だと思ってしまい、自分の身体であることもあってかケリュドラは何とも言えない気持ちにさせられる。

 

「カイザー。戻った、ということは元に戻す方法がわかったのか?」

「ああ、あの学者に聞いたら随分と簡単なことだったがな」

 

 アナイクスからエラポスの伝言の石板に連絡が入ったらしく、その流れで薬の効能と入れ替わった際の対処方法を聞き出したらしい。

 ちなみに、そもそも持っていったモノが間違っていたため、エラポスが置いていったカイザーちびぐるみの引き取りも兼ねてもう一度神悟の樹庭に取りに来いとも伝えられた。

 

「それで、方法は? この身体では死ねないけど何だってしますが……」

「……少しだけ痛むぞ」

 

 想い人の身体中にいるというのもある意味気が狂いそうで早く戻りたいエラポスがケリュドラに元に戻る方法を問うと、顎を指で持ち上げられる。

 

「えっ、これ今どういう状態? もしかして──」

 

 目隠しのせいで状況が見えないエラポスが動揺していると、頭部に硬い何かが当たって激痛が走る。

 

「いったぁ……!? あ、戻ってる!」

「剣旗卿。こちらを」

 

 その瞬間、自分から発せられた声がケリュドラではなく、拘束もされていないことに気づいたエラポスは頬をつねって確認する。

 ケリュドラも意識が自分の身体に戻ったのを確認すると、セイレンスに拘束を解かせる。

 

「……全く、とんだくだらないことに巻き込まれたな」

「いやぁ、俺としては嬉しいような、ある意味苦しかったような……心残りはコスプレか……ミニスカイザーメイド……」

「今この場で死刑にされたいようだな……」

 

 欲望が漏れ出ているエラポスにゴミを見るような視線で刺すと、それに気づいた彼がちょっとそういうのも良いなとでも言いたそうな表情になったため、妄想の餌を与えたことに後悔する。




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