妖怪・カイザー好き好き黄金裔   作:カイザーの椅子

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第14話

「……ここも寂しくなったな」

 

 廃墟同然とかしたオクヘイマの玉座の前でエラポスは黄金の血を流しながら跪いていた。

 戦争、内紛、事故。理由は様々だが、一般人も黄金裔も皆等しく、例外なく死んでいった。

 それなのに、自分はまだ死んでいない。守る君主すら守ることもできずに空白の玉座に縛られている。

 

「はぁ、もう殺し尽くしただろう」

「……ああ、だが、まだ君が居る」

 

 空白の玉座を守るエラポスの前に、ファイノンが幽鬼のような希薄さを持ちながらも確固たる殺意を持って現れた。

 

 まだ死ねない。

 一人になっても彼女の征服を完遂しなければ死にきれない。

 黄金裔の命を、タイタンの火種を奪ったのは、全ての火種が揃おうとした時に反旗を翻したファイノンだった。

 

「ファイノン……いや、本名はカスライナだっけ。俺は、お前のことを友達だと思っていた。お前とモーディスと……バカやって、怒られてさ。今まで楽しかったよ。だけど、それがお前のやりたいことなんだな?」

 

 今更、何を守ったとしても意味はないのだろうが、エラポスにも意地がある。

 懐に忍ばせていたおすわりカイザーぬいぐるみを玉座に座らせてから、武器を抜いてファイノンと対峙する。

 

 正直のところ、エラポスはまだカスライナとしてではなく「友のファイノン」としてしか見れない。とはいえ、多くの人達を殺したことは許せないし、許す気もない。

 

「エラポス、その玉座がある限り君は死なない。そして君はいつか火種を全て揃えてしまう。そうはさせない」

「しぃ……!」

 

 ほぼ全ての火種を取り込んだカスライナの力は凄まじく、文字通り目に見えない速度でエラポスに肉薄し、剣の斬撃が彼の首を分断しようとする。

 それに寸でのところで反応できたエラポスはナイフの刃で受け流して、カスライナの脇腹を蹴飛ばして壁面に叩きつける。

 

 蹴りに手応えを感じなかったことから、衝撃を逃がし大したダメージではないことはわかっている。速度に対応できたとしても攻められ続けるわけにもいかないと判断したエラポスはそのまま煙の中にいるであろうカスライナに銃を向けて数発撃ちこむ。

 それもカスライナが剣を振るうと弾丸が全て切り伏せられる。

 

「ちっ……半神ってのはどうしてこうも規格外なやつらばかり」

「君も大概だ」

 

 煙が晴れるとカスライナが自分の間合いではないのに剣を振りかぶる。その姿を見たエラポスは銃弾を放ちながら、距離を詰めて彼の剣の間合いに自分から入り込んで剣が振り下ろされないように零距離まで詰める。

 

「が、はっ……!」

 

 が、カスライナ本人は動いていないはずなのに、正面以外の四方向から斬撃を受けて足と腕の筋を切られエラポスはその場で崩れ落ちてしまう。

 無様に地に這いつくばりながらも、何とか見上げるとカスライナの分身のような影にエラポスの血が滴っている。その能力は火を追う旅の中で何度か現れた火種を奪おうと、妨害に現れた者と同じだった。

 

 かつてエリュシオンを滅ぼした者として聞いていたが、その正体がそうであるなら、ロクでも無い話であると、エラポスはカスライナに背負わされたモノに吐き気がしてくる。

 

「き、汚ったねぇ……ってのはただの負け惜しみか……早く殺せ」

「……玉座が崩れる所を君には見せたくはない。だけど、そうしたら蘇生した君はアレを守ろうとするだろう?」

「カイザーの死に際すら見れなかった俺から、アレすら奪うだなんて冷たいやつだよ……」

 

 再創世の達成の阻止、それがカスライナの目的であり、今まで気が遠くなるほど続けてきたことだった。

 だけど、エラポスという存在は確認できなかった。未知の存在に喜びはしたが結局、結末を変えるほどのことではなかった。

 

 ただの乱数。たったそれだけの存在でも殺した者のことは忘れてはならない。忘れる訳にはいかない。

 こんなものは何度だって繰り返してきた。胸に刻んで忘れない。

 そんなことくらいしかカスライナにはできることがないのだが、確かにエラポスの友の一人だったファイノンは最後の死くらいは静かに与えてやりたかった。

 

「これも友として、最後に与えてやれる慈悲だ」

 

 動くことすらできないエラポスを一瞥するでもなく、カスライナは玉座に置かれたモノの中に隠された「法」のタイタンの火種をできるだけ丁寧に取り出してから剣で玉座を崩壊させる。

 

 もうこれで、オクヘイマの偉大なカイザー・ケリュドラという存在が崩れた。

 

 エラポスの不死性はあくまでも、ケリュドラに立てた誓いであり、その原動力から来るものだった。

 しかし、誓った相手も居なければ、その者が座していたモノすらなくなったエラポスの不死性は消滅した。

 

「もう、君に死を乞うモノはなくなった。本当にこれで最後だ。何か言い遺すことはあるか?」

「……言い遺すこと、か」

 

 最後にケリュドラと顔を合わせたのは、いつのことだろうか。

 入れ替わり薬の件の後の記憶は曖昧で、そこからとなるとすぐに彼女は暗殺されてしまったような気がする。

 最初に忘れると言われている声も、次に忘れると言われている顔も不敵で尊大な笑みという輝きとして忘れる訳がなかった。

 

 何百年経った今でも交わした誓いを忘れるはずもない。

 

 何もできない。

 誰かの代わりに死ぬことくらいか、その結果として自分を殺そうとした誰かを殺すくらいで、愛も夢も叶えられない自分が情けなく思えてくる。

 

「……ずっと、平和で……誰も悲しくならない世界っていうのを夢に見た」

 

 カスライナに見下ろされながら、これだけは誰かに知っておいてほしいなと思えたことを、失血で死が近づいてくるのを感じながら口を動かす。

 

「毎日皆でバカ騒ぎして……悲しい別れとか……そんなのもなくて……」

 

 視界が霞む。黙って聴いてくれているカスライナに申し訳ないと思いながらも、途切れ途切れになりながらも必死に喉を震わせる。

 

 きっとこれは自分が叶えられなかった夢で、きっと彼女では作れなかった夢のような場所の話だった。

 最期まで誰にも話すことができなかったけれど、誰かに知ってほしかったそんな話である。

 

「……で、も……カイ、ザー……ケリュ……ラが居なくて……」

「……っ。もう良い。もうその後の言葉は友として、言わせるわけにはいかない」

 

 これから死ぬというのに、ようやく心の内に秘めたことを言えたような解放されたような表情をしているエラポスの言葉をファイノンとして遮った。

 

「なら、ほんと、うに……一つだけ……」

「ああ。聞いてやる……」

「……負けんなよ──」

 

 エラポスの最期の言葉は聞きなれた愛の告白でも、恨み節でもなく、ただのエールの言葉だった。

 もう自分はここで終わることを何となく、わかっていたからこそ、次の自分のためでもなく、ファイノンにたった一言でも託したくなってしまったのだから仕方ない。

 今、目の前に居るのはケリュドラではなく、ファイノンなのだから尚のことである。

 

「僕がいつ負けると言った……勝つさ」

 

 ファイノンの言葉を聞いて本人には見えないであろう顔を見たエラポスは、満足そうに微かに口角を上げて事切れる。

 いっそのこと、怒りを宿した呪詛を吐いてほしかった。ケリュドラへの言葉でも構わなかった。だけど、彼が遺したかったのは夢の話でもなく、今目の前にいる自分への言葉だった。

 

 そういう男であると知っていた。彼との日々は心地良かったのに、何も変わらないことに対する怒りが湧いてくる。

 

 この誓いを嘘にしないためにも、カスライナは全ての火種と共に次の輪廻を迎えた。




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