妖怪・カイザー好き好き黄金裔 作:カイザーの椅子
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「カイザー様のぬいぐるみを作った人。ですか?」
ヒアンシーは内心何故呼ばれたのかわからないまま、ケリュドラの呼び出しに応じた。
「ああ、知っていることがあれば、どんなことでも構わない。僕はこのぬいぐるみを作った者の足跡を追っている」
玉座に座っているだけなのに、その身体にそぐわないほどの圧さえ感じさせるケリュドラの口から自分のぬいぐるみを作ったやつを探せ。という話が出るとは思わなかった。
呼び出された時は何事かとかなり身構えていたヒアンシーにとっては気の抜ける話だった。
「お話はわかりましたが……わたしも居たような気がしても、実際は居ない。という方に心当たりは無いです」
「心当たりがあればで構わない。無いのならそれはそれで問題ないということだからな」
実際に居ないのだから、それが居ると思ってしまうのはかなりおかしな話である。
ただ、そういうモノを感じているからこそ、ケリュドラは行動を起こしている以上は自身の周りにもそういう話があっても不思議ではないのだろう。
わかったことがあれば共有するいうことにして、ヒアンシーはどうしていいかわからないまま昏光の庭に戻った。
(珍しくカイザーちゃんに頼られた。というのはいいのですが、困りました)
帰って来るなり直近の患者のカルテや予約を入れている者のリストに目を通しても、しっかり顔と名前が一致する人間しかいない。
定期検診に来ている人間にもそのような人物に覚えはない。
一体どうしようかと頭を悩ませていると、うっすらと頭の中にナニか響いてくる。
『ご■■■、だって■■■■治っちゃうし、どうしてもね』
何か唐突にカチンと来た気がした。
怪我があっさり治るからと言ってそれを放置するタイプかつ、何度言っても治らないタイプな気がして医療従事者としては一番嫌という矢鱈と輪郭のハッキリした人物像が浮かんできた。
おかげでケリュドラの言っていたことがわかった気がする。
それだけ思うことがあった人物がケリュドラの言うぬいぐるみを作った人物と同一人物だとするならば、最初にこの違和感を感じた彼女には同情を禁じ得ない。
(アレですね。アナイクス先生なら論文にも残せないような罵倒を十分ほど捲くし立てた上で、反省文をレポート用紙十枚以上は要求しそうなくらい、ちょっとムカっと来たかもしれないですね)
自分の命を大事にしない者自体はどうでもいい。だが、誰かの命を優先するために自分の命を軽く扱う人間だったような気がしていきたせいか、どうしてもケリュドラに早くその人物を見つけてもらう必要が出てきた。
報告用の文章を頭の中で考えながらヒアンシーはキャストリスに連絡を入れて、今回の話を彼女にも聞いてもらおうともう一度昏光の庭を出た。
「というわけなんですけど、キャスたんには何か覚えはありませんか?」
「カイザーからお話は聞いていますが、わたくしも把握できていなかったことですので……」
ケリュドラのぬいぐるみは墓地にあったという話を思い出し、それならば管理人のキャストリスなら何か知っているかもしれないと考えて彼女の元を訪れた。
急な来客で簡単なもてなししか出来ていないことに若干恥らいを覚えながら焼き菓子と紅茶でヒアンシーを出迎えたキャストリスは、事前にケリュドラからぬいぐるみの話は聞いていて、来園者の記録を見ても誰も彼女のぬいぐるみを作成しそうな人物の名前は無かった。
そもそもいつ供えられたかすらもわからない物の持ち主を探そうというのも、難しい話である。
「確かにカイザー様のぬいぐるみを手作りして、自分の命だけを軽んじてそうな人なんて早々居ないと思いますが、キャスたんもこの話を聞いてから何か感じるものとかはありませんか?」
「そうですね……」
ヒアンシーの言うような人物など、居たとしても既に死んでいるかオンパロスから追放されてそうなものである。
それと同時にこの話題が出てから沸々と小さな違和感が生じてきているのも確かである。
「定期的に髪の毛どころか着ていた服の一欠けらすら残らない方もいることもあり、そういう方の物だと認識していましたが、カイザーからお話を聞くまで彼女のぬいぐるみが置かれていることがおかしいことだということに、全く違和感を持てずにいました……」
死者が増えることは、人が生きていく上では無くならないことである。
戦争も絶えず、遠征で暗黒の潮に飲まれる者も居る現在のオンパロスでは珍しくもない。
キャストリスが無銘の墓を建てることを断らないこともあって、無銘の墓が建てられることはあっても一切把握していなかったものはないと記憶していた。
「ですが……」
何となくの輪郭がキャストリスの頭に過る。
周囲に余計な不安を感じさせまいと、自分の命に頓着していないように振る舞い。それが逆に元から心配しているヒアンシーには逆効果になっているため、もう少しやり方があると変なところで不器用というか、自分の心の内は誰にも曝け出そうとしないような。とにかくそんな人物が居たような気がする。
しかし、それも居たと言われれば居た気はするし、居なかったと言われれば居なかった気もする。程度のものである。
「何故でしょうか。そんな方だからこそ、その方が居て喜ぶ死者の魂もあったと、わたくしは思いたいのです。ヒアンシーさんはどう思われましたか?」
「そうですね……こういってはアレですが、きっと面白い人で良い人だったんだとわたしは思います」
自分の死は軽いからこそ、自分の死に思うことがあり、他人の死を悼むような人間がケリュドラのぬいぐるみを矢鱈とクオリティの高く仕上げているということを考えるとかなりの面白人間だったのではないかと、ヒアンシーは勝手に想像している。
「……そういう方を探し出したいとカイザーが思っているのであれば、わたくしはその方と彼女が再会するのを願っています」
「……やっぱり、そういう関係だったりしたんでしょうか?」
神妙な表情をしながらヒアンシーが生唾を飲み込む。
黄金裔と言えど、この二人は比較的に一般の少女の価値観に近いため、そういう話が嫌いなわけがなかった。
サフェルもこの場に居たらきっと、夜更けまでケリュドラを話のタネにしたガールズトークが続いていただろう。
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