妖怪・カイザー好き好き黄金裔   作:カイザーの椅子

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第2話

 ある戦いが終わり、帰還したエラポスは傷も癒えぬまま、戦勝祝いの宴の準備に奔走していた。

 広間で椅子に座っているケリュドラを見つけて足を止める。

 問題はその椅子は、椅子というにはあまりにも大きすぎた。彼女の身長の倍はあろうかという大きさだった。

 

「なぁ、あのバカ高い椅子はなんだ?」

「カイザーの新しい玉座だ。今日試作品が届いたらしい」  

 

 近くで見守っているセイレンスに声を掛け、同じ位置からケリュドラを見上げる。

 火種を継承した代償として子供の姿のままでいるケリュドラは見下ろされることを嫌う。

 口にすることなど言語道断である。エラポスもそれで三回以上は処刑された経験がある。

 

 チャームポイントを褒め称えただけだというのに。理不尽な話だとエラポスはその時のことを覚えている。

 

「……あれ、どうやって降りるんだ?」

 

 無駄に職人の腕が良いのか、梯子もないのに建て付けは良く、多少揺られてもびくともする気配はなく、ケリュドラは満足そうにふんぞり返っている。

 そういう姿も可愛らしくあるのだが、それを口にしたらまた首を切られてしまうだろう。まだやることが残っているため、今日はまだ死ぬわけにはいかず、エラポスは言葉を飲み込んだ。

 

「飛び降りるんじゃないか? どうせワタシが受け止めることになるだろうがな……いつものことだが、良いのか?」

 

 セイレンスはエラポスのひしゃげている腕を見て、心配はしていないが、言葉を掛けておく。

 

「ん? ああ、腕? 今日はまだ死なないでおく」

 

 まさかいつも自分を殺している彼女にそんな言葉を掛けられるとは思ってはいなかったせいか、内心驚きながらも丁重にお断りする。

 戦いで負った傷も死ねば治るが、エラポスは極力その日には治さないと決めている。

 

「そうか。死にたくなったら言ってくれ。楽にしてやろう」

「死にたくなったことなんて一度もないけどな」

 

 ドヤ顔でセイレンスはそう言うが、死んでも死にはしないが、死ぬほど痛いことに変わりはない。

 エラポスとしても出来れば死にたくはないのである。

 

「……やっぱり降りられないだろ」

「そうだな」

 

 結局、降りられず内心困ったケリュドラをセイレンスが受け止める形になり、それを見届けたエラポスは宴の準備に戻った。

 

 

 ■■

 

 

(軽く一杯やったら一気に疲労が出た……)

 

 その日の夜。ケリュドラの演説もそこそこに宴が始まり、メーレの入ったグラスを片手にエラポスは疲れ果てていた。

 戦では前線に立ち。それが終われば事後処理をこなしつつ宴の準備をし、宴が始まってようやくひしゃげた腕の痛みが出て脂汗が滲む。

 

 この宴を楽しみしていたのに、帰ってこれなかった兵士も居る。今回だけではなく、その前の戦でも何人も死んでいった。

 そんな中で生き残ったのであれば、宴に参加することこそが弔いになるという理由でエラポスは宴の準備から後始末まで参加すると決めている。

 

「メーレが足りていないようだな。永死卿」

 

 何とかグラスを開けて立ちながらぐったりしているエラポスを見つけたケリュドラが近寄ってグラスにメーレをなみなみと注ぎ始める。

 彼女の顔が若干赤らんで見えるあたり、どうやらほろ酔い状態らしい。

 そもそもケリュドラの肉体は子供のまま停滞しているというのに酒を入れて大丈夫なのか。慣れはしたが未だに気になるところではある。

 

「普段アレだけのことを言っているんだ。これくらい飲み干してみるくらい造作もあるまい。なぁ?」

「で、できらぁ!!」

 

 明らかなアルハラではあるが、珍しく酒に酔っているケリュドラの気分に水を差すことをエラポスができるわけもなく、自棄糞気味にメーレを一気飲みする。

 

「……っ、ふぅ」

 

 流石に疲労している身体に一気飲みは厳しいものがあり、視界がぐらつき酔いが回るのを感じて立っていられずエラポスは適当なところに座り込む。

 その様を見たケリュドラは満足したのか、セイレンスの居る方に向かっていった。

 

「きっつ……」

「エラポス先輩、見つけました! 何でそんな大怪我してるのに宴に居るんですか!」

「げっ、助手ちゃん」

 

 しばらく座って項垂れていると、ぷんぷんと擬音を出していそうなヒアンシーに見つかってしまう。

 彼女は看護師をしているため、怪我人を見ると放ってはおけないのだが、怪我をしても診せないエラポスには比較的容赦がない。

 

「げっ、とはなんですか、げっとは。こうやって噂を聞いて診に来たというのに。この腕つついちゃいますよ」

「あいたたたたた!?」

 

 つついちゃいますよ。といいつつエラポスのひしゃげた腕に触れる。

 その瞬間に今まで以上の激痛が走って酔いと合わせて頭がおかしくなりそうになる。

 

「ほら、痛いんじゃないですか。今は軽く処置しておくので、明日また来てくださいね!」

「いや今助手ちゃんが触ったんじゃん!」

「あっ、ちょっと痛みますよ?」

「────っ!!!!」

 

 エラポスがヒアンシーに抗議の声をあげた瞬間、彼女が腕に包帯をきつめに巻いたせいで、声にならない叫びに変えられてしまった。

 最早痛みで涙すら溢れてきて、酔いも醒めてしまいそうだった。

 

「では、お大事に」

 

 きちんと処理だけはしてくれたお陰で痛みは和らいだが、痛いものは痛いし、翌日以降のヒアンシーからの説教が怖い。

 どうにも怪我人を治す立場にいる彼女と怪我をしても死ねば良いと思っているエラポスの相性は良くない。

 

「カニよ。終わったか?」

「相変わらず一瞬誰のこと言ってるかわからない呼び方をする……」

 

 ヒアンシーとのやり取りを見ていたセイレンスが酔いが回ったせいか船を漕いでいるケリュドラを連れて、エラポスに声を掛ける。

 世間話をしに来たわけでもないが、火急の用というわけでも無さそうな雰囲気を感じとり、セイレンスの人の呼び方にツッコミを入れる。

 

 セイレンスは人を呼ぶ時、海産物に例えて呼ぶのだが、それを瞬時に理解できる人間は数少ない。

 

「それよりも、だ。カイザーは酔いが回って今にも眠ってしまいそうだ。貴様が部屋に連れて行け。ワタシはもう少しここに居る」

「いや、俺怪我人だぞ」

「だからだ。ではな」

 

 片腕が使えないエラポスを肩を掴んで立ち上がらせたセイレンスはそのまま彼の背中にケリュドラを乗せ、その場を立ち去る。

 立ちすくんでいても仕方ないため、ケリュドラを背中に乗せたままエラポスは彼女を部屋まで運んだ。

 

(理性との戦いだったな……もう二度とやるか)

 

 腕の激痛とケリュドラの寝息と身体の感触、全てがエラポスの敵だった。

 どうにかそれらに抗って彼女をベッドの上に放り投げて、この戦いに勝利した。

 

 正直、今回の戦より辛い戦いだった。

 

「……ん、待て」

「目覚めておいででしたか、カイザー」

 

 ベッドの端に座り、一呼吸を置いてから部屋を出ようと腰を上げようとすると、その間に目覚めたケリュドラに服の裾を摘ままれて止められた。

 

「今回の褒美だ。少しくらい話に付き合え」

「ありがたく頂戴します」

 

 愛しのカイザーに褒美と言われれば逆らえない。上げかけた腰をベッドの端に降ろしなおす。

 

「……貴様はまだあの誓いを覚えているか?」

「まさか……逆にカイザーこそ、いえ、愚問でしたね」

 

 エラポスが帰還した時からずっとケリュドラは彼の腕を気にしていた。

 別に、心配などしていないのだが、そう、どうしても片腕が使えなければ、色々な物の効率が落ちるというものだ。

 

「そうか……ならば、僕のために死んでくれるな?」

「もちろん……その前に一つだけ我が儘を言っても?」

「言ってみろ。遺言くらいは聞いてやろう」

 

 エラポスの言葉を聞いたケリュドラは彼が服に忍ばせているナイフを奪い取り、刃を背中に添える。

 その行為にエラポスは恐怖を感じない。むしろ、安心さえ与えられている。

 惜しむらくはケリュドラの顔が見えないということだろうか。

 

「好きです。結婚してください」

「そうか、なら……死ね」

「ぐっ……!」

 

 背中からナイフの刃がエラポスの心臓に届く。ケリュドラが非力だろうが、これでどう足掻いても死は免れない。

 

「安心して逝け。看取るくらいはしてやろう」

 

 ナイフを抜かずにケリュドラがエラポスの正面に回り、彼の顎を指に乗せる。

 窓から入る月の光を吸ってケリュドラの髪が煌めき、見下す碧色の瞳は冷たい視線で身体を貫く。

 

(これも役得かねぇ。んなわけないか)

 

 その姿を目に焼き付けてエラポスは死んだ。




※死体はセイレンスがきちんと処理しました。
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