妖怪・カイザー好き好き黄金裔 作:カイザーの椅子
そのせいか前二話より千文字くらい少ないですが。
死んだ後は毎回同じ夢を見る。
争いもなく、死ぬ必要もない。戦死する兵も出ない。
故郷を取り戻した者、愛する者を抱けるようになった者、嘘をつかなくても生きていける者。
町を歩けば見渡す限りの平和が、眼に、耳に、届く。
だけど、一人だけ足りない。
愛した少女一人だけ。その光景の中に存在しない。
だから、何度でも──。
■■
「それで、結局死んで治した。と?」
またしても死んでいたエラポスはわざわざヒアンシーの元へ向かい、怪我が治ったことを伝えていた。
死ぬことによって快復することは肉体以上に、一度死を経験することによる精神に掛かる負荷は、いつか重大な問題を引き起こしかねない。
医療に関わるものとして、怪我をしても頼られないということは、信頼されていないことと同義である。
故に怪我を診せに来ないエラポスに怒りを示している。
「いや、ほら、俺が来ないならその分の時間を他のまだ助かるやつに回せるでしょ」
「そういう問題じゃありません! 優先順位はあったとしても、蔑ろにして良い命なんてないのですから、大体──」
ヒアンシーからの説教は約一時間も続き、最終的にエラポスが平謝りすることと、次回からはきちんと治療を受けることで納得してもらった。
(しばらくは助手ちゃんの世話になるようなことは起きてほしくないけど……それはさておき、久しぶりの休暇だ)
投獄されていた百年を除けば約三百年は働き続けていた。その間に死なない日は無いと言っても過言ではない。
趣味と言っても、ある意味で趣味はケリュドラと言える生態をしていたエラポスに何もない一日を過ごすのは難しいことだった。
メーレの飲み歩き、プライベートルトロでの長風呂、在り来たりなことは思い付く。
「あ、ゾンビだ!」
「ゴミで回復するゾンビ初めて見た!」
「ゴミゾンビ!」
二人組の子供にすれ違いざまにとんでもない暴言を吐かれた気がしたエラポスは思わず足を止めて振り返ってしまう。
「ちょっと待った」
二人の前に回って屈んで、目線を合わせて話を聞く姿勢に入る。
上から見下ろすよりは、そうした方が素直に言うことを聞いてくれやすいということをエラポスは知っていた。
余談であるが、ケリュドラに同じことをしたら死刑になった。
「ゴミゾンビって何の話かな?」
「お魚のお姉ちゃんが『切られてもゴミで甦るカニ』の歌を歌って教えてくれた!」
「カニっていうかゾンビだよね」
間違いない。セイレンスの仕業だ。
元々、毎秒失恋おじさんとして名前が広まってしまっているため、今さら気にしても手遅れ感は否めない。
「そっかー……ありがとう。これで何か買って食べな」
「え、いいの!?」
「ありがとう!」
無邪気に教えてくれた二人に言葉と物理的な礼をすると、喜んで受け取ってどこかへ去っていった。
セイレンスへの抗議はまた休暇明けにするとして、喉が乾いた。
先日は満足に飲めなかった分消化不良気味であるため、酒場の方へと足を向ける。
(あの時は死んでて片付けまで参加できなかったな。まぁ、断っていても大変なことになってただろうからどっちにしろ……)
酒場に着いたエラポスはつまみとメーレを注文して早速ぐびぐびと胃をアルコールで満たしていく。
今はあの夢と同じくらい平和である。どこもかしこも戦勝ムードで嫌いじゃない。
でも、その平和もじきに終わるだろう。
理由は簡単な話で、ケリュドラが乱世を作る者だからである。
もし、オンパロス全土を征服しても平和にはならない。
何故なら、オンパロスだけが世界ではないから。天外には数えきれないほどの星が存在して、ケリュドラはその全てを征服しようとするだろう。
どれだけの血が流れようと、止まることはしない。
ケリュドラはそういう支配者だ。
(火を追う旅も、まだ終わっちゃいない。これでまだ準備段階で……いや、よそう。滅茶苦茶ポジティブなこと考えよう)
どうしても夢を見た後に、こうも平和だとセンチメンタリズムになってしまう。
追加のメーレを注文して、まだもう少し平和を味わっておこうと平穏な休暇に浸る。
■■
(……ふむ、退屈なものだな)
同時刻、ケリュドラは暇を持て余していた。
この平和という戦争のクールタイムはどうにも肌に合わない。
しかし、この時間もまた必要であることを認識しているケリュドラはこの暇を打開できない。
(いや……呼び出すほど、ではないな)
一瞬、エラポスの顔が過ったが、殺した後にちゃんと蘇生されているか心配しているわけではない。殺しても自分のため以外のために死ぬ男ではないと信頼しているが、雑な告白を毎日欠かさないくせに、一度も本当の名前で呼んだことがない軽薄な男のことなど、ケリュドラは心配などしていないったら、いないのである。
ケリュドラが悶々としていると、伝言の石板にセイレンスからのメッセージが届く。
ちょうど良い暇つぶしになることを期待して内容を確認する。
『以前に発案したカイザーサラダだが、それを百皿頼んでメーレで流し込んでいる者がいるらしい』
至極どうでも良い世間話だった。
意外と茶目っ気のある性格なのは知っているが、ここまで心底どうでもいい話題を振ってくるのは初めてだった。
何故だか理解できないが、ケリュドラは落胆の溜息を漏らしながら返信のメッセージを書き込み送信する。
(何故僕は今溜息を漏らした……? いかんな、僕ももう休むべきだな)
結局その日のモヤモヤとした気分は解消できないまま、ケリュドラはその日を終えた。