妖怪・カイザー好き好き黄金裔   作:カイザーの椅子

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第5話

 オクヘイマの墓地には、数多の人間が土の下に眠っている。

 エラポスも蘇生されてなければ、その一人になっていただろう。

 

 その日のエラポスは管理人に一報を入れてから墓地に足を踏み入れる。

 

「お待ちしておりました。エラポス様」

「キャストリス。わざわざ出迎えご苦労様」

 

 この墓地で納棺師として管理を担当しているキャストリスがエラポスを出迎える。

 彼女は生物に触れると対象に死を与えてしまう力を持っている。そのせいで人と距離を取りがちで元来の物静かな性格で人を寄せ付けない。その反面それが寂しいとも思っているため、理解のある人物が墓地に訪れるとこうして自ら対応することがある。

 

「いえ……わたくしがしたくてしていることですのでお気になさらないでください」

 

 今日エラポスが用のある墓まで、少しだけ距離がある。二人が歩いていると最近増えた墓石が並んでいる。

 

 先の戦争での戦死者は少なくない。

 キャストリスが唯一人に触れられる機会だとしても、それに喜びなど見い出せることはなく、その多さに気分が沈んでいたところだった。

 

 そのタイミングでエラポスが墓参りに来てくれるのはありがたいことである。

 

「さて、軽く掃除するかね」

 

 キャストリスに案内された先にはエラポス自身の名前が刻まれた墓があった。

 同姓同名の誰かではなく、正真正銘エラポス本人の墓である。

 

 エラポスは今もこうして生きているが、死んだという事実には変わりはない。自分の死を忘れないために墓石に名前を刻んで、たまに自分自身の墓参りをしている。

 

「花束……誰か来たのか。珍しい」

 

 墓には誰かが訪れた痕跡があり、墓石の汚れ具合からして一週間以内ということは間違いなさそうだった。

 そして供えられていた花は白いスノードロップ。花言葉は『あなたの死を望む』という意味がある。

 

(これは……なるほど、他言するなと言われる理由が少しだけ理解できた気がします)

 

 数日前に墓地を訪れた人物のことを思い出す。

 その人物はキャストリスが出迎えた後は案内の必要はないと断り、訪れたことは誰にも言うなと言い付けられていた。

 その時に持っていた花束とエラポスの墓に供えられていた花束は一致していた。

 

「前回来てから今日まで死んだ回数が大体百……一桁単位で花の数が合致してるってなると……まぁ、そういうことだな」

 

 なるべく忘れないように死の回数をカウントしていて、ここ数日は死んではいないため、最後に死んだ日から考えてると日付は特定できる。

 そして、その回数を知っている人物の心当たりは一人しかいない。

 そう考えると、スノードロップの花を選んだことにも納得がいき、素直に言ってくれれば良いのにとエラポスは微笑みを浮かべる。

 

「そんなに死んでらっしゃるのですね……辛くはないのですか?」

「辛いよ。死ぬほど痛いし苦しいし、起きる度に最悪な気分にもなる」

 

 それでも誰かが死ぬよりかは、自分が死ねば実質の死者の数は減り、悲しむ人間も少ない。

 エラポスのその精神構造を危惧して心配する者が居て、恵まれていることも自覚している。

 

「そういう風に生まれちゃったなら仕方ない」

 

 何とも哀れな男だと言いたげな声音なのに嬉しそうにエラポスは黙祷を始める。

 目蓋を閉じた瞬間に真剣な表情になったせいかキャストリスは声を掛けられなかった。

 

(独特な関係。ですが、お互いに信頼のようなモノはあっても……お互いに素直ではなさそうといいますか……)

 

 数日前にここに来た人物が何を思ったかなど、キャストリスには理解できるはずもないが、自分自身のために何度でも死を受け入れてくれる相手に何も思わない筈もないということだけは確信できる。

 

「この後はどうされるのですか?」

「特にはないけど、何か用でも?」

 

 エラポスが黙祷を終えたのを見計らい、キャストリスが今後の予定を訊ねる。

 

「いえ、そういう訳ではないのですが……一緒にお茶でもどうでしょうか?」

 

 趣味で読書に耽ることもあるキャストリスからすれば、エラポスと件の人物の関係には興味があり、話を聞きたくなってしまった。

 

 

 ■■

 

 

 時は少しだけ遡ること四日前。

 

(……わざわざ、こうして来てやったのだ。感謝するがいい)

 

 ふいに初めてエラポスと出会った時のことを思い出したケリュドラは本人に直接会いに行くのではなく、墓参りをしていた。

 

 エラポスが今まで死んだ回数は厳密には九万九千八百二十二回なのだが、その数だけ花を束ねたとしても収まりきらないため、前回ケリュドラがこの場にやってきた時から今日までの間に彼が死んだ回数分だけの花を束ねることにした。

 

 初めてエラポスを殺した時の感覚は未だに手の中に残っている。否、正確には残していた。

 彼が死ぬことに慣れることはまだしも忘れてはならない気がして、ずっとその感触が手の中にある。

 

 この手の采配で()を殺し、(味方)が死ぬことに、慣れるためには時間が掛かり、初めの頃は随分と細い神経だった自分のことをあの頃は青かったと回想する。

 

(モノとして見ていたのだがな……どうしてこうも……)

 

 最近感じているモノ向き合うという目的もあり、必然的にその原因であるエラポスのことを考えてしまう。

 

 道具、忠実な消耗品、使い勝手の良い駒。

 そういう風に考えていたのだが、結局は人間である。それに愛着を持ってしまうということは、悪からず思っていたのは間違いない。

 

 問題はそれだけならセイレンスとあまり変わらない筈なのに、何かが違うことだった。

 

(……何故、僕はあの時、ヤツの眼を潰した?)

 

 次に、例の白い部屋での自身の行動を思い出す。

 ケリュドラは躊躇なくコラテラルダメージを受け入れる性格である。

 あの場から脱出するためならば、口付けどころか行為に及ぶことにも躊躇いはなかった。

 

 そう。眼を潰す必要など、どこにもない。

 なのに、何故エラポスに口を付けたという事実を認識させないまま毒殺したことに対する理由が言語化できずにいる。

 

 結局答えは出せそうになかったため、ケリュドラは墓石の掃除だけして帰ることにした。

 

「青かった頃ならば……答えも出たか……いや、今となっては関係ない話だ」

 

 あの頃に戻る術があったとしても、どうにもならない今がある故の今なのである。 

 最後にエラポスの墓の前にケリュドラは百八本のスノードロップの花束を献花していた。




✕✕Xしないと出れない部屋に閉じ込めてもケリュドラは迷いなくするタイプだよね。と思ったけど話にならないのでああなったという書いてる側のお話。
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